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第3章 火宅之境
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しおりを挟む「どうやら弥桜くんは俺たちのこと知らないみたいで静のこと、助けてくれて面倒まで見てくれたかっこいい人、って思ってるみたい」
「なっ!!」
僕も静先輩もどういう事なのかよくわかってないから、どうやらこの場で唯一現状を理解しているらしい朝夜先輩が説明担当になってくれたんだけど。
まさか、本人の前でそんなことを暴露されるとは思ってなくて、不意打ちすぎて言葉が出ず金魚みたいに口をぱくぱくさせることしか出来ない。
一緒にいたくないって言ってる相手をそんな風に思ってる、と真っ青になればいいのか。
それとも本人の前でそんな恥ずかしいこと言われて、と真っ赤になればいいのか。
ぐちゃぐちゃな感情が一気に押し寄せてくる。
「で、そんな素晴らしい人がみんなから避けられる理由なんてないでしょ、ならいつも一緒にいる俺が嫌われてて静はとばっちりを受けてるだけなんだ。弥桜くんの中ではそうなってるらしい」
朝夜先輩は笑いを堪えられないって感じで若干声が漏れてるし、静先輩はぽかんとしながらも視線だけは僕からそらさずずっと見つめてくるから、すごく居た堪れなくなって顔を逸らしてしまう。
「俺の扱い酷くね、とも思ったんだけど、それよりあんなにやだやだ言ってたのに結局静のこと大好きじゃん、て思ったなぁ、くくっ」
更に追い討ちのように放たれる言葉に完全に羞恥が勝って真っ赤になる。
二人の顔を見ていられなくて反対側に逸らすと、そっちはそっちで周りの人にも見られているわけで。
もうどこも見られないと、結局は下を向くしかなくなってしまった。
と、丁度そのタイミングで朝夜先輩の車に辿り着いて乗っけてもらうと、持っていたカバンに顔を埋めるようにして抱き抱える。
「えっと、弥桜?」
恥ずかしくて真っ赤な顔を見られたくなくて、静先輩の声に顔を埋めたまま必死に首を振る。
「・・・・・・ありがとう」
顔を上げられない僕に、静先輩はそれだけ言うとわしゃわしゃと頭を撫でるだけでそれ以上は何も言わなかった。
その後誰もこの話をすることはなく、肝心なことは何一つ語られることはなかった。
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