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第2章 社燕秋鴻
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しおりを挟む「僕はその性はその性らしく扱われるべきだと思っています。αにもβにもそれぞれの役目があって、その性に生まれたならその役目を全うする義務があると思います。もちろんΩにもその役目は存在します。そのために発情期があって出来るだけたくさんの子を産んで人口を増やす。それがΩの役目です。そのための機能のせいで人を闇雲に誑かすのも風紀を乱すだとか無能になるだとか色々言われるのも、そういうものだと思っています。だからこそ役目を放棄するのは違うと思う。それはその性に生まれたことへの侮辱です」
長年抱えてきた思いを初めて他人に話す。
言葉にするとぐっと現実味が増してきて余計に重くのしかかってくる。
Ωだとわかった日から家族に大事にされる度に友達に隠し続ける度に、どんどん大きくなっていくこの気持ちに目を逸らすことが出来なくなっていった。
今まではまだ未成年だし家族は大事だからと我慢してきたが、大学生になってもうすぐ成人もするいい大人になるんだからもう十分だ。
真っ当にΩとしての人生を送らなければいけない。
「今までその役目を放棄してきた僕は、これからはちゃんと役目を果たさなきゃいけない。今まで何の苦労もなく生きてきた僕に幸せなんて感じてる暇はないんです。そんなこと許される立場じゃない。だって今まで背負うはずだったみんなが背負ってきた苦労を、何一つ背負ってこなかったんです。性を隠して役目から逃れるなんてそんな非人道的なことをしてきたんだから当然のことです」
本気で今までそう思っててそれが当たり前だったのに。
静先輩と出会って恋を知ってしまったから、急に心が拒絶し始めた。
この考え方がおかしいなんて思ったこともなかったのに、今じゃなんでこんな考え方しか出来ないのかと悲鳴を上げてる自分がいる。
かといって今までずっと持ち続けてきた考え方はそう簡単に変えられるものじゃない。
今あるのはきっと一時的な感情で、たかが一目惚れ程度でどうこう出来るほど簡単な話じゃない。
この気持ちを手放す方が何倍も楽なのだ。
この気持ちを手放せば辛いのは今だけ。
こんな自分勝手なことに巻き込んで、静先輩たちには申し訳ないと思ってる。
静先輩も僕じゃなくてもっと素直で純粋な人と出会っていれば、こんなめんどくさいことにはならなかっただろうと思う。
出来るだけ心配かけないようにと精一杯の笑顔を向けたつもりが、ほほ笑んだはずの瞳からは堪えきれなかった涙が止めどなく零れていた。
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