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第2章 社燕秋鴻
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しおりを挟む連れてこられたのは西日に照らされた雰囲気のある喫茶店だった。
場所としてはいつも連れ込まれるデッドスペースがあるのが北門側で、さっきまで講義を受けていた講堂があって家に帰ろうとして向かっていたのが南門いわゆる正門側だとしたら、ここは西日が綺麗に当たる大きな駐車場がある西側の出入り口方面だ。
この大学、お金だけは有り余っているのかかなりキャンパスが広くて東西南北全部に出入り口がある。
だから移動するにも大学にしてはそこそこの距離があって、自分が行かない場所は本当に何があるのか知らなかった。
「初めて来た・・・・・・」
「俺たちは基本ここにいるからな、あんま新鮮な感じはしないけど」
大学内の喫茶店だけあって規模もそんなに大きくはなく、静先輩たちはマスターの綺麗な女性に会釈だけすると当たり前のようにスタスタと奥の席に向かっていく。
「弥桜、おいで」
静先輩に奥に座るように促されるけど本当にいいのか迷っていたら、朝夜先輩が目の前の席にさっさと座ってしまった。
「いいのいいの。俺たちここのマスターと仲良いから」
「えっと、じゃあ・・・・・・」
僕が座るとその隣に静先輩が座って前も後ろも完全に逃げ場がなくなってしまった。
一瞬重くなった空気にこれから根ほり葉ほり色んなことを訊かれるんだろうなと、絶対に答えられないこともあるんだと思うと今すぐ逃げ出したくなる。
それでもここまでついてきたのは他でもない自分だし、だったらいっその事全部話して軽蔑されて捨てられた方がむしろ願ったり叶ったりじゃないか。
このまま一緒にいたら絶対にもっと好きになっちゃうことなんかわかりきっているんだから。
あとは勢いに任せて全部吐き出してしまおうと、自分がどうなるかなんて後のことなんか考えずに口を開きかけた時、マスターがお冷を手にあいさつに来た。
「いらっしゃい。久しぶりね、一週間も来なかったのは初めてじゃない?」
「マスター、どうも。まぁ、いろいろあってね。助かるよ、いつもここは人がいなくて居心地が良い」
「なに、嫌味かい。誰のせいでこうなってんだか。ってか、それより何その子。初めてじゃない、あんたたちが友達なんか連れてくるの」
僕がここに来たのがよっぽど珍しいのかマスターがすごく驚いて興味津々って感じで覗き込んでくる。
静先輩に友達がいないのは朝夜先輩なんかと一緒にいるからだけどね。
「そそ、かわいいだろ? 俺の後輩。弥桜って言うの、これからはこいつも世話になるからよろしく」
静先輩が僕を抱きしめて頭をぐりぐり撫でながらマスターに紹介してくれる。
静先輩に触られるのはすごく気持ちよくてまたついぽぉっとしそうになったけど、先輩の言葉に流されてはいけない。
「って、僕はもうここには来ません!! もうお世話にはなりたくないって話をしに来たんです」
「・・・・・・弥桜」
「なになに、訳ありな感じ?」
僕の言葉で一気に重くなった空気に、マスターが朝夜先輩に視線を向けた。
朝夜先輩もやれやれといった風に肩を竦めるだけで言葉にはしない。
「えっと、じゃあ、あたしは奥にいるからね。なんかあったら言って」
何かを察してくれたのか、マスターは人いないし好きにしていいからねと言ってカウンターの向こうに戻っていった。
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