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第2章 社燕秋鴻
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しおりを挟む1週間ぶりの大学は以前とはまるで違うものだった。
いや、正確に言えば僕の周りだけが変わっていたのだ。
みんな会えば挨拶程度はしてくれる。
それでも以前のように話してくれる人が居なくなった。
その代わり、僕をちらちら見ながらあの日の噂話をしているのが聞こえてくる。
桐生くん、Ωだったんだって。
おい、あいつΩなの隠してやがったのか。
Ωなのに今まで普通に過ごしてきたってこと?
俺たちがこんなに苦労してきたのに、卑怯だ。
大学に通っているΩはそもそもそんなに多くない。
Ωに学歴なんて必要はないからだ。
それでも通ってきているのはみんな僕と同じ、親のため。
親の身分が高いから、それに見合うようにと、通わされている。
そしてΩは元々の能力がそんなに高くないから、もちろん学力もそれなりだ。
だからほとんどのΩは金を払えば入学出来るようなところに通っている。
全部が全部学力の低いところという訳では無いが、そういう所にいるαやβはほとんどが同じ金持ちの息子、娘なのだ。
もちろんそれなりの環境で生きてきて、Ωの扱いもかなり下に下に見るような世界で育ってきた人達だ。
そんな所に放り込まれたΩたちの苦労は並大抵のものじゃない。
それを今まで隠してきて、受けずにいたのだ。
Ωとして苦労してきた人達から見れば卑怯だし、αやβは本来のΩへの扱いをする。
普通ならΩ同士傷を舐めあってなんとかやっていくところだが、僕にはそんなΩの味方すらいない。
全員が敵。
別にそれ自体はいいんだ。
元から味方なんて望んじゃいない。
この現状は家族のために、家族に従って生きてきた結果なのだ。
それでも自分から言えばよかったのかもしれない。
だから兄さんのために、家族のためにって言わなかった自分が悪いんだと思う。
それでもやっぱり気分の良い話じゃない。
Ωだから、ではなく、Ωなのに、と言われることは僕が何よりも恐れてきたことだ。
今はまだ周りに隠していたことがバレただけだからこの程度で済んでるけど、これが家族に大事にされてきたことがバレたら。
こんなの比じゃないことぐらい僕だって知っている。
今でさえ怖くて怖くて堪らないのに、そんなこと考えるだけでどうにかなってしまいそうだ。
でも大丈夫、僕だって別にずっと守られてただけじゃない。
大学に入ってからはそれなりに先輩たちにだって、財布にされたり殴られたり無理矢理抱かれて玩具のように回されたことだってある。
いい思いばかりしてきたわけじゃないんだ。
僕だって仮にもΩだ。
それなりの苦労は少なからず背負ってきているはずだ。
そう自分に言い聞かせて落ち着こうとするけれど、本格的に辛くなってきて少しでも聞こえないようにするため、イヤホンをして音楽でも流そうかと携帯に意識がいっていて、彼が室内に入ってきたことで空気の変わった周りに気づかなかった。
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