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第2章 社燕秋鴻
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しおりを挟む次に目覚めた時には発情期も過ぎて、すっかり元の状態に戻っていた。
けれど、決してなかったことになっている訳では無い。
静先輩との出会いは衝撃的で、今でも彼が欲しいという欲望は身体の中で燻っている。
そしてそれを感じる度に胸が締め付けられるような悲鳴をあげる。
あの時は欲しい、安心する、という思いの方が強かったが、頭の片隅ではわかっていたはずだ。
そんなこと望んではいけないということを。
Ωの僕が、誰かを欲する気持ちなんて、幸せになろうとする気持ちなんて、持ってはいけないんだ。
だからこそ、お礼をしたら早々に離れて元の生活に戻ろうって決めた。
そうだ、ちゃんと決めたんだ。
それに初恋とはいえ、たかが一目惚れだ。
離れてしまえば、いつかはこんな気持ちだって忘れられる。
そう信じて悲鳴を上げる心に蓋をすることを決めてベッドから起き上がると、大学のため準備を開始しようとした。
・・・が、起き上がろうとした時、首の重さにびっくりして、起き上がることが出来なかった。
そこで初めて自分の首に起きた異変に気づいた。
「えっ、何これ・・・・・・」
急いで洗面所に向かい鏡に映った自分の姿を見て、思わず声が漏れてしまった。
今まで何も無かったはずのそこには、無骨で立派な番避けが存在感たっぷりに鎮座していたのだ。
少し前まではΩに人権なんてなくて、やれ水商売だαの玩具だなんてのは当たり前で、番を選ぶなんて考えはなかった。
それが最近になって少しずつではあるがΩ保護の声が上がりはじめたのだ。
元々、αの番になるのだけは絶対に嫌だ、水商売で生きていくという人や、うちの商品勝手に番われて持っていかれたら困るという人のために、番避けは存在していたが、それ以外の理由で商品以外のΩが番避けを付けることは一切なかったし、社会がそれを許してはいなかった。
それで何かがあって番にされたとしても、それがそのΩの宿命だっただけなのだ。
しかし、Ω保護の声が上がりはじめてからは、まだまだ多くはないものの、自分のために少なくとも番になる人ぐらい自分で選びたい、という人が出てきて、商品以外の特に学生は若干数ではあるものの、番避けを付けるようになった。
それでもまだまだ社会に差別意識は根強く残っているし、Ω自身にも劣等感は残っている。
どちらも相まってなかなか番避けを付けられないという人は、大勢いるのだ。
特に僕なんか、Ωのこの宿命を納得して受け入れているのだ。
番避けなんて存在こそ知ってはいたものの、一生縁のないものだと思っていた。
だからこそ、自分の首に付いていることに驚きや違和感があるし、こんな自分の姿に酷い嫌悪感すらある。
Ωに幸せなんて許されるはずがないという考えを持ってきた僕にとって、番を選ぶということは幸せの第一歩であり、それを現実的にさせる番避けは決して自分には必要ないものだった。
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