僕とあなたの地獄-しあわせ-

第2章 社燕秋鴻

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｢弥桜｣

いきなり手元が暗くなったかと思ったら、真上から聞こえてきた声にびくっと大袈裟に反応してしまう。
今の状況で話しかけてくる人にいい内容の人はいない。
でも一呼吸置いてその声が誰のものなのか理解出来ると、ふわりと頬が熱くなるのを感じた。
｢静先輩･･････｣

｢今日はお前の話をやたら耳にするなと思ったから来てみたが、やっと大学来れるようになったか。どうだ、体調の方は｣
｢あっ･･････｣
彼が会いに来てくれた喜びに震える心臓の鼓動が、彼の言葉一つで一気に意味を変えた。

これだけ皆が話しているんだ、当然彼の耳にも入っているに決まってる。
あの時Ωだって分かってたのに大事だって言ってくれたから、静先輩が僕に対してΩだという理由で何かしてくることはないと分かっている。
だけど、Ωだということを今まで隠してきたことについてはどうだろう。
事の重大さは今まで生きてきた中で重々感じていた。
だからこそ、自分がどれだけ社会から外れた生き方をしてきたか、卑怯で卑劣なことをしてきたか、そのプレッシャーに押しつぶされそうな日も幾度もあった。

Ωだということを抜きにしても、こんな僕のことを知られたんだ。
今度こそあの言葉なんか意味を持たず、他の‪α‬と同じように散々な扱いをされるんだろう。

自覚してしまった恋心を、捨てようとして捨てきるどころか、この数時間でどんどん募っていることに気づいている。
早く捨てなきゃと忘れなきゃと思うから、ここで散々に罵ってくれた方がいいのだと思う。
Ωらしくない、と。
その言葉がどれだけ自分に重く響くかなんて、計り知れないけれど、確実に静先輩への気持ちなんて消えてなくなるんだ。
きっとその方がいいに決まってる。

｢おい、大丈夫か? 顔真っ青だぞ｣
どうしても彼の顔を見るのが怖くて押し黙って携帯に視線を落としたまま動くことが出来ずにいたら、顎をグイッと引かれて無理矢理視線を合わせられた。