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第2章 社燕秋鴻
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しおりを挟む「・・・・・・んっ。・・・・・・ようやく目を覚ましたか」
目が覚めてから随分ガタゴトと動いたから、それに気づいて彼も目を覚ましたようだ。
彼が動いたことで一段と強くなった匂いや流した涙を見られたくなくて、また布団の中に逃げ込んだ。
それでも彼が一歩一歩近づいてくることは匂いの濃さですぐにわかる。
ベッド脇に腰かけたであろう彼に布団の上から頭をなでられる。
「身体は辛くないか?」
掛けられた言葉に、目元をぐしぐしと拭って布団からちらりと出ると、彼を見上げてこくこくと頷いた。
そう言われてみれば、まだまだぼーっとするし、身体はじくじくと熱を持て余してはいるが、あの時みたいに理性がなくなることもなければ、意識もちゃんとある。
これだけ近づいて触れられて、この程度で済んでいるのだから、初めてのヒートではっきりとはわからないが、かなり時間が経ったのではないだろうか。
「でもまだ顔赤いな」
そう言って目元に触れてくる彼の手の感覚にすごく安心して猫のように頭を擦りつける。
どうしようもなく彼に惹かれはじめている自分に気づいていないわけがなかった。
ようやくちゃんと見れた顔ははち切れそうなぐらい心臓をドキドキさせるほどカッコいいし、何より颯爽と助けてくれた彼の行動に既に胸を打たれてしまっている。
本能が求める以前に、一目惚れだった。
触れてくれる手のひら一つに安心して、この先彼が隣にいてくれたらどんなに自分は幸せだろう。
でも、それだけは望んではいけない。
僕がΩである以上、幸せを望むことだけはしてはいけない。
世の中、Ωは番制があるにもかかわらず番を持たず水商売だけで一生を終える者もいるし、αは一人で何人ものΩと番えるから、番えたとしても何人もの玩具の中の一人。
それがΩの在り方として当たり前なんだ。
そこに幸せなんて、まして愛なんて存在しない。
Ωの中にはそれでも主人を愛する者もいるようだが、そんなのはただ虚しいだけだ。
叶わないものなんて抱えているだけ辛い。
そう思っていたはずなのに。
いや、今でもそう思っているのに。
水商売にしろ番にしろ、この現実を受け入れられる自分に、愛や恋なんて関係ないと思ってた。
一生理解できないものとして遠くからαやβを見ているだけだと思っていたのに。
こんな感情、知りたくもなかった。
このまま彼と一緒にいたら、確実に抜け出せなくなることなんか目に見えている。
彼だってほかのαと同じできっと沢山のΩの番がいるのだ。
僕なんかが望んだって手に入るわけがないし、そもそもがこんな気持ちΩには許されない。
だったら、そうなる前に離れるしかない。
今ならまだきっと間に合う。
助けてもらったことにはお礼をしなければいけないけれど、そうしたらすぐまた元の生活に戻るんだ。
まだ何とかなると、この気持ちがただの一目惚れだと信じて疑わなかった僕は、彼に惹かれる本当の理由に気づかず、自分の考えがいかに甘かったのかをこの先知ることになる。
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