強面男子だって恋をする。

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第2話

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【第2話 Bouquet of Rose】


それから__俺は前世と同じく高校二年生にまで成長した。

前世と同じ名前に、見た目。

つまり、前世散々厄介になった強面も引き連れている。

だが、今回は幸いなことに両親が俺の顔を気に入ってくれた。

個性が強い、さすが君の息子!

やだ、貴方の逞しい顔がこの子にも引き継がれたのよ!

とか、凄まじいラブラブっぷりだ。

そんな二人は世界を飛び回って仕事をしているそうで、中々家にいる時がない。

そのため現在は姉と俺の二人暮らしで生活している。


そんな俺は、とある高校に入学した。


『私立薔薇学院』


名前の通り庭には薔薇が植えてあるような綺麗な学校だ。

どうして俺がこの学校に通うことになったのかは、俺が中学三年生のとき__



「…はぁ。」

俺はスマホと睨めっこをして受験する高校を探していた。

前世と同じくほとんど友達ができなかった俺は、また同じつまらない高校生活を過ごさなくてはならないのかと辟易していた。

そのため高校選びが捗っていなかったのだ。

そんな俺に姉が

「…大樹、高校まだ決まってないの?」

「…あ、ああ…」

「なら…私の頼み事、聞いてみない?」

「…頼み事?」

「大樹に、行って欲しい高校があるの!!」

「俺に行って欲しいところ?」

そして渡されたのが、私立薔薇学院のチラシである。

「これ…ウチの近くだよな…私立じゃねぇか。そんで男子校?なんでまた…」

「引かれることを覚悟で言うけど…私たち、転生してきたじゃん。」

「そうだな…?」

「で、この転生してきた世界って何なんだろうって思ったわけ。私は前世のちょっと未来のことだと思ってたんだけど…違ったの!」

「え、そうなのか?」

「うん、このチラシを見て確信した…」

「私立薔薇学院?」

「私が前世、『BoR』にハマってたの覚えてる?」

「ああ、姉さんがやり込んでたBLゲームだよな。」

『Bouquet of Rose』

通称、BoR。

姉さんが属している界隈の人なら誰でも知っている有名なゲームだそうだ。

「この学校、そのゲームの舞台である学校と同じ名前なの。」

「…は!?」

「しかも見た目も一緒なの!だからここはBoRの世界線…」

「…まじかよ。」

「そこで…大樹にこの学校に入ってもらって、男子同士の絡みを、教えて、欲しくて……」

姉さんが話すにつれて、声が小さくなっていく。

気まずいのだろう。

「……わかった。」

「やっぱ、そうだよね!だめだよね………え!?」

「あ?…姉さんが頼んできたんだろ。」

「そ、そうだけど…ほんとに!?」

「ああ。どうせ、普通の高校に通ったって前世と同じだしな。」

「や、やった…!!ありがとう大樹!!」

「姉さんは俺のために家事とかやってくれてるし…少しでも姉さんの力になりたい。」

「我が弟ならできる男…!」

「つっても、普通に男と男の絡みを伝えればいいのか?」

「うん!このメモ帳にメモってくればいいから!」

「お、おお…」

「できれば依織くんとの絡みがいいけど。」

「………は?依織?依織って…上主依織?」

上主 依織カミヌシ イオリ、前世、今世合わせて初めてできた友達である。

家が近く、幼馴染ってやつだ。

「え、あれ?前世で言わなかったっけ…依織くんってBoRの主人公なんだよ?」

「…はああ!?」

柄にもなく大声を上げた俺を気にする様子もなく姉さんは話を進める。

「他人の空似、って言葉もあるし、人違いかも…とは思ったんだけど、バラ学まで出てきて…偶然が二度重なることなんて滅多にない!だからここがBoRの世界だって確信したの!」

「い、依織が…主人公…?」

確かに…依織は綺麗な見た目をしている。

金色の髪に水色の瞳。

同性である俺でも惚れてしまいそうになる。

実際小学校、中学校と変な大人や同級生が絡んでくるのを俺が庇っていたくらいだ。

「あ、まぁ、大樹がBoRの主人公になってくれてもいいけど。」

「え?」

「今まで恋愛諦めてたけど、言わば二次元の世界だし…それにBLゲームの世界だし…大樹の性格なら相性いい人見つかるかもよ?」

「……いや、無理だろ。」

別に俺は、女の人だから、男の人だからという思考はない。

本当にただ、俺を好きになる人なんていない、そんで俺なんかが誰かを好きになっちまったらその人に迷惑がかかってしまう。

「あー、またよくないこと考えてるでしょ!アンタのいいところは私がよーく知ってるんだから!」

「……」

そのとき、家のチャイムが鳴った。

「あ?………!!やべぇ、今日依織と図書館で勉強する約束してたの忘れてた。」

「あら。ちゃちゃっと準備して行っておいで!」

急いで教材を鞄に詰め込み、玄関の扉に手をかける。

「…行ってきます。」

「行ってらっしゃい、そうだ、大樹。」

ドアノブを引き、扉を開ける。

「強面男子だって__


恋をしたっていいんだから!」

そんな言葉を後ろに俺は外へ出た。


「…割と、本気であると思うんだけどなぁ。大樹ってば…男前なのに自分のことになるとネガティブなんだよねぇ?…私が依織くんとほかの男子の絡みを教えてとか頼んでおいてなんだけど、多分依織くんはきっと__」


「悪ぃ、待たせた。」

「!大樹、おはよう。そんなに待ってないから大丈夫だよ、行こっか。」

つい先程あんな話をした後だから、俺はじっと依織を見つめる。

依織は美人だ。初めて依織と出会ったのは幼稚園の頃。

当時から顔立ちが良くて、先生たちからチヤホヤされていた。

俺たちが本格的に仲良くなったのは小学生からだが、その時には毎日のように女の子が依織を人目見ようとクラスに押し入ってきていた。

そんな依織と俺が仲良くしていいのか、と一度聞いたときは初めて本気で依織に怒られた。

あの温厚な依織が怒るなんて、とその場にいた依織の母親も感心していた。

俺もこんな顔じゃなければ依織に恋することもあったのかもな。

俺に恋をされる方が可哀想、昔からそう思ってきた。

これも一度依織に言ったことがあったが、有無を言わさぬ笑顔を向けられてあれ以降口に出さないようにしている。

「…大樹、その、そんなに見つめられると照れるんだけど…」

「っえ…わ、わりぃ…!」

「なにかついてた?」

「や、そういう訳じゃねぇ。…やっぱ依織って、綺麗だよな。」

「へ!?え!?お、俺が…?」

「おう。」

「あ、ありがとう…?だ、大樹っていっつも唐突だよね。」

「そうか?」

「だいぶね…そういえば、高校決まった?凄い悩んでたよね。」

「あ、おう。姉さんに頼まれ…っ、あー…姉さんに勧められたんだけど…この、私立薔薇学院ってとこ。」

ひらひら、と姉さんに貰ったチラシを降ってみる。

「…!?ほ、本当に!?」

「あ、ああ。割と家から近いから、楽だなって。」

「…なら、俺もそこにしようかな。」

「え?そんな簡単に決めていいのか?」

「元々ここともう一個で悩んでたんだ。大樹がここにするなら俺もここにするよ。…まさか大樹がバラ学を選ぶとは思ってなかったから…高校でも大樹と一緒なんて嬉しいな。」

依織はにっこりと俺に笑いかけた。

「そんなに言うほどか?家近いからいつでも会えんだろ。………まぁ、でも…高校も依織が居てくれるんだったら、俺も安心する。」

俺も依織に習うように笑って言った。

「…!…それだけで大樹が笑ってくれるならいつでも一緒にいるよ。」

「ほんとか…!…依織は俺の唯一の友達だからな、依織が居なくなったら俺は…」

「あ、またネガティブモード。大樹の悪いところだよ?」

「うぐ…」

「大樹のいいところは俺がいちばんよく知ってるから。……あ、いちばん、は言い過ぎかも。智大さんには勝てないなぁ…」

「…お、図書館ついたな。」

「そうだね、分からないところは言ってくれたら教えるから。」

「ほんとお前、なんでも出来るよな…」

文武両道な上、眉目秀麗。

モテないわけがない。

ふとそこで俺は疑問に思った。

コイツ、なんで今彼女とかいないんだ?

「…なぁ、お前って付き合ってる人とかいるのか?」

「へ!?な、なんで急に…いないよ、居たら大樹には伝える。」

「…そ、そう、だよな。悪ぃ、変なこと聞いて。」

「ふふ、まぁいいけど。……それに、俺は……」

「あ?なんだ?」

「なんでもない。…なんでこうも鈍いのかなぁ…」

依織はボソボソと呟きながら図書館へ入っていった。

「…私立薔薇学院、か。」

図書館の周りに植えてあった薔薇を見ながら、これから始まる新生活に思いを馳せた。


それから一年以上が経ち、俺たちは高校二年生になった。

一年の間、依織を観察してみたけど、これといって姉さんが期待するような男同士の絡みはなかったような気がする。

その旨を伝えてみると、姉さんは

「まぁ依織くんがモテ始めるのは高校二年生からだからね、やっとこの時期がやって来た!」

と、とても盛り上がっていた。


「…大樹とクラス、離れちゃったね。」

「だな、依織はA組、俺はB組か。」

「絶対、登下校とお昼は一緒にしようね。」

「おう、そうだな。…あー、依織、これから頑張れよ。」

「…?う、うん、頑張る…」

そうして、クラスが別れてしまった俺たち。

依織はA組、俺はB組の教室へと入っていった。


これから、俺の学校生活は一変することになる。

そんな事など露知らず、俺は新たなメモ帳のページを捲った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

第2話ありがとうございました!

とりあえず現時点で出てきたキャラクターの名前を載せます。

・宮脇 大樹 ミヤワキ ダイキ (主人公)

・上主 依織 カミヌシ イオリ (本来の主人公)

・宮脇 智大 ミヤワキ チヒロ (主人公の姉)

です!

次回もよろしくお願いします。
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