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「どういうこと? 」
彼女はあからさまに動揺し、慌てて口元を扇子で隠した。そしてチラチラと周りを見渡してから、ずいっと顔を近づけてきた。
「ちょっと、誰かに聞かれてたらどうするのよ!? 」
「大丈夫大丈夫、音を遮断する結界を張ってあるから」
「結界って、あなたいつの間に・・・」
流石にこれぐらいの配慮はできるよ。まあ黎月たちは気づいているだろうけど。
「で、本心は? 本当になりたいの? 王様に」
「・・・はあ。なんでそう思ったの? 」
結界があるってわかった瞬間に大きなため息。取り繕うのはやめたようだ。
「そうだなー。一回も話したことがないから、決めつけるのは良くないんだろうけど、動機が分からなかった」
ルーフェウス殿下からは第一王子としてのプライドを、セシオン・ルシオン殿下からは、自分たちの方が上手くやれるという自信を感じたけど、メティーナ殿下、目の前の彼女からはそういった強い気持ちを感じられない。権力争いに参戦する覚悟はあるけど、その先を見据えていない。その権力争いに勝つ想定をしていない。そんな気がするんだよね。
「そう・・・、そうかもしれないわね」
ふっと微笑んで、彼女は続ける。
「こんなめんどくさい駆け引きなんて気にせずに、好きな研究、お母様の言う土いじりを続けるのもいいかもしれないわね。上手く行けば学会に出れて、大々的に研究を認めて、あの有名なジ・ヴェンツ教授に弟子入りできるかもしれない。王女としてではなく、一研究者として有名になれるかもしれないわ」
「じゃあ国王になったあとは? 」
「そうね・・・。わからないわ。たぶん結局兄様達の手を借りる事になるんでしょうね。そして国王らしく貴族をまとめて、たまに他国の方とお話をする。それぐらいね」
研究者としての人生を、個人を絞るほど細かく想像できるのに、国王になった人生で想像できるのは、二つ三つ。
「思いの違いがそこまで明らかなのに、なんで参戦し続けるの? 」
「お母様の願いだからよ」
お母様、あの第二側妃か・・・。
「お母様の何がそんなにいいのかわからない。夢もわかってくれない、娘に理想の人生を押し付けようとしているお母様だよ」
「それはそうかもしれないけど・・・」
賢い彼女のことだから、気付いていないわけがない。なんでそれでも母親の願いを追いかけようとするのか。
眉を下げて、困ったように彼女は笑う。
「でもね、幼い頃に病に倒れた時も、馬に振り落とされて怪我をしたときも、一番側で、一番心配してくれたのはお母様だったの。そして五年前、どこぞのバカな貴族が雇った刺客に襲われた時に真っ先に駆けつけてくれて、侍女や女官たちが恐怖で動けなかったのに、体を張って私を守ってくれたの。そのせいでお母様の体には傷が残ったわ」
「傷が・・・」
私から見たあのお妃様は、そんな良い人には見えなかったけど、そんなことがあったのか。
「その時に思ったのよ。ああ、やっぱりこの人は私の母親なんだなって」
お母様じゃなくて、母親。
どこまでも優しい目をしながら、彼女はその視線を虚空に投げていた。それからくるっとこっちを振り返る。
「だからね。あともうしばらくはお母様に付き合おうと思うわ」
「・・・まあ、そこまで言うならもう口は出さないよ」
・・・よくわからない。
けど、彼女たちの間には私の理解できない何かがあるのだろう。
彼女はあからさまに動揺し、慌てて口元を扇子で隠した。そしてチラチラと周りを見渡してから、ずいっと顔を近づけてきた。
「ちょっと、誰かに聞かれてたらどうするのよ!? 」
「大丈夫大丈夫、音を遮断する結界を張ってあるから」
「結界って、あなたいつの間に・・・」
流石にこれぐらいの配慮はできるよ。まあ黎月たちは気づいているだろうけど。
「で、本心は? 本当になりたいの? 王様に」
「・・・はあ。なんでそう思ったの? 」
結界があるってわかった瞬間に大きなため息。取り繕うのはやめたようだ。
「そうだなー。一回も話したことがないから、決めつけるのは良くないんだろうけど、動機が分からなかった」
ルーフェウス殿下からは第一王子としてのプライドを、セシオン・ルシオン殿下からは、自分たちの方が上手くやれるという自信を感じたけど、メティーナ殿下、目の前の彼女からはそういった強い気持ちを感じられない。権力争いに参戦する覚悟はあるけど、その先を見据えていない。その権力争いに勝つ想定をしていない。そんな気がするんだよね。
「そう・・・、そうかもしれないわね」
ふっと微笑んで、彼女は続ける。
「こんなめんどくさい駆け引きなんて気にせずに、好きな研究、お母様の言う土いじりを続けるのもいいかもしれないわね。上手く行けば学会に出れて、大々的に研究を認めて、あの有名なジ・ヴェンツ教授に弟子入りできるかもしれない。王女としてではなく、一研究者として有名になれるかもしれないわ」
「じゃあ国王になったあとは? 」
「そうね・・・。わからないわ。たぶん結局兄様達の手を借りる事になるんでしょうね。そして国王らしく貴族をまとめて、たまに他国の方とお話をする。それぐらいね」
研究者としての人生を、個人を絞るほど細かく想像できるのに、国王になった人生で想像できるのは、二つ三つ。
「思いの違いがそこまで明らかなのに、なんで参戦し続けるの? 」
「お母様の願いだからよ」
お母様、あの第二側妃か・・・。
「お母様の何がそんなにいいのかわからない。夢もわかってくれない、娘に理想の人生を押し付けようとしているお母様だよ」
「それはそうかもしれないけど・・・」
賢い彼女のことだから、気付いていないわけがない。なんでそれでも母親の願いを追いかけようとするのか。
眉を下げて、困ったように彼女は笑う。
「でもね、幼い頃に病に倒れた時も、馬に振り落とされて怪我をしたときも、一番側で、一番心配してくれたのはお母様だったの。そして五年前、どこぞのバカな貴族が雇った刺客に襲われた時に真っ先に駆けつけてくれて、侍女や女官たちが恐怖で動けなかったのに、体を張って私を守ってくれたの。そのせいでお母様の体には傷が残ったわ」
「傷が・・・」
私から見たあのお妃様は、そんな良い人には見えなかったけど、そんなことがあったのか。
「その時に思ったのよ。ああ、やっぱりこの人は私の母親なんだなって」
お母様じゃなくて、母親。
どこまでも優しい目をしながら、彼女はその視線を虚空に投げていた。それからくるっとこっちを振り返る。
「だからね。あともうしばらくはお母様に付き合おうと思うわ」
「・・・まあ、そこまで言うならもう口は出さないよ」
・・・よくわからない。
けど、彼女たちの間には私の理解できない何かがあるのだろう。
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