69 / 79
68
しおりを挟む
きた、常夜の先生モード。
「こやつから」ということは、外見ではないな・・・。「感じる」ってことは性格でもない。だとしたら、体内か。
「ちょっと手を握っていい? 」
「あ、はい、どうぞ」
「魔力流すから、ちょっと変な感じがするかも」
私よりも少し大きめなその手を握って、自分の感覚と繋げた魔力を、その握った手を通してちょっとずつ流し込む。
全身に浸透させるように、ゆっくりと一本線にして流し込んだ魔力を拡げていく。ピクッと小さく手が反応するが、ここは我慢してもらうしかない。
「・・・・・・、? 」
これは・・・? なにか、ある。
「!」
そういうことか!
「なるほどね」
そう言いながら手を離すと、彼は心配そうに、
「もしかして、なにか問題が? 」
と聞いてきた。
「いえ、なんでもないですよ。問題はありません」
問題はない。
「よかったです。そろそろ時間ですので、このあたりで失礼します」
「で、また後ほど」
安堵した様子を見せて去っていく彼の背中を見ながら、常夜と小声で話す。
「気づいたか? 」
「うん、でもなにあれ」
「そうだな、簡単に言えば・・・ーー」
ふむふむ。
「へー、そうなんだ。それってどうにかなるの? 」
「ああ、もちろん。だが修行が必要だ。もし一歩間違えれば命が危うくなるであろうな」
「諸刃の剣ってことか」
どうしよか・・・。このまま放っといてもいいんだけど、知っちゃったしなあ。だけど、もし間違えれば、最悪命を落とさせてしまうかもしれない。それだけのリスクを背負わせる責任を自分は持てるだろうか。
それにあの子の将来にも大きく影響するだろう。それこそ人生を180度回すようなものだ。果たしてそこに私が介入していいのだろうか。
「ねえ、常夜だったら教えられるんだよね? 」
「修行自体はな。だが、耐えられるかは本人の素質だ」
「・・・わかった。じゃあ・・・――」
「わかった」
あらかた話が一段落したところで、タイミングよく別の所にいたアルシュさんが戻ってきた。
「シエルさん、そろそろ夜会の準備を始めないといけないので、帰りましょう」
「ん、了解。このケーキだけ食べていってもいい? 」
「それぐらい構いませんよ」
「ありがとう」
にしてもこんな時間から夜会の準備って、いったい何するんだろう。まだまだ太陽は元気に照っていて、夕方になる気配すらない。
ガタゴトと馬車に揺られながら、軽く予定を確認する。
「夜会って何時からなの? こんな早くから準備って」
「シエルさんは午後八時の入場ですね。皆さんこれぐらいですよ。入場の早い子爵家や男爵家のご令嬢方はもっと早く帰ってますね」
道理でさっきからちょくちょく人が減ってると思った。
「アルシュさんも一緒だよね? 」
「いえ、私はオラン伯爵家として入場しますよ」
え、まじで?
「え、じゃあ誰か他の人がついてくれるの? 」
てっきりアルシュさんかクラックさんが付いてくれるものかと、思ってたんだけど・・・。
「いえ、シエルさんは一人での入場になります」
「え、うそぉ」
「私や隊長のように実家が爵位持ちの場合は貴族として参加しますし、平民上がりの騎士は緊急時以外夜会には出入りできないので、会場外警備に駆り出されたりしてます。まあ本日の主役ですし、同伴者がいないからって変な目で見られることもないでしょう。むしろ同伴者がいた方が騒ぎになりますよ」
まじか~。
「ちなみにこの子たちは? 」
「神獣様方はもちろんご自由にしていただいて構いません」
「当然であろう」
白氷。神獣が自由にするのは当然って、至極真当なことを言ってるのはわかるけど、どうにも人を苛立たせかねない、尊大な言い方だな。
すでに慣れたのか、アルシュさんも特に気にした様子はなかったが、少し苦い笑いになっていた。
「こやつから」ということは、外見ではないな・・・。「感じる」ってことは性格でもない。だとしたら、体内か。
「ちょっと手を握っていい? 」
「あ、はい、どうぞ」
「魔力流すから、ちょっと変な感じがするかも」
私よりも少し大きめなその手を握って、自分の感覚と繋げた魔力を、その握った手を通してちょっとずつ流し込む。
全身に浸透させるように、ゆっくりと一本線にして流し込んだ魔力を拡げていく。ピクッと小さく手が反応するが、ここは我慢してもらうしかない。
「・・・・・・、? 」
これは・・・? なにか、ある。
「!」
そういうことか!
「なるほどね」
そう言いながら手を離すと、彼は心配そうに、
「もしかして、なにか問題が? 」
と聞いてきた。
「いえ、なんでもないですよ。問題はありません」
問題はない。
「よかったです。そろそろ時間ですので、このあたりで失礼します」
「で、また後ほど」
安堵した様子を見せて去っていく彼の背中を見ながら、常夜と小声で話す。
「気づいたか? 」
「うん、でもなにあれ」
「そうだな、簡単に言えば・・・ーー」
ふむふむ。
「へー、そうなんだ。それってどうにかなるの? 」
「ああ、もちろん。だが修行が必要だ。もし一歩間違えれば命が危うくなるであろうな」
「諸刃の剣ってことか」
どうしよか・・・。このまま放っといてもいいんだけど、知っちゃったしなあ。だけど、もし間違えれば、最悪命を落とさせてしまうかもしれない。それだけのリスクを背負わせる責任を自分は持てるだろうか。
それにあの子の将来にも大きく影響するだろう。それこそ人生を180度回すようなものだ。果たしてそこに私が介入していいのだろうか。
「ねえ、常夜だったら教えられるんだよね? 」
「修行自体はな。だが、耐えられるかは本人の素質だ」
「・・・わかった。じゃあ・・・――」
「わかった」
あらかた話が一段落したところで、タイミングよく別の所にいたアルシュさんが戻ってきた。
「シエルさん、そろそろ夜会の準備を始めないといけないので、帰りましょう」
「ん、了解。このケーキだけ食べていってもいい? 」
「それぐらい構いませんよ」
「ありがとう」
にしてもこんな時間から夜会の準備って、いったい何するんだろう。まだまだ太陽は元気に照っていて、夕方になる気配すらない。
ガタゴトと馬車に揺られながら、軽く予定を確認する。
「夜会って何時からなの? こんな早くから準備って」
「シエルさんは午後八時の入場ですね。皆さんこれぐらいですよ。入場の早い子爵家や男爵家のご令嬢方はもっと早く帰ってますね」
道理でさっきからちょくちょく人が減ってると思った。
「アルシュさんも一緒だよね? 」
「いえ、私はオラン伯爵家として入場しますよ」
え、まじで?
「え、じゃあ誰か他の人がついてくれるの? 」
てっきりアルシュさんかクラックさんが付いてくれるものかと、思ってたんだけど・・・。
「いえ、シエルさんは一人での入場になります」
「え、うそぉ」
「私や隊長のように実家が爵位持ちの場合は貴族として参加しますし、平民上がりの騎士は緊急時以外夜会には出入りできないので、会場外警備に駆り出されたりしてます。まあ本日の主役ですし、同伴者がいないからって変な目で見られることもないでしょう。むしろ同伴者がいた方が騒ぎになりますよ」
まじか~。
「ちなみにこの子たちは? 」
「神獣様方はもちろんご自由にしていただいて構いません」
「当然であろう」
白氷。神獣が自由にするのは当然って、至極真当なことを言ってるのはわかるけど、どうにも人を苛立たせかねない、尊大な言い方だな。
すでに慣れたのか、アルシュさんも特に気にした様子はなかったが、少し苦い笑いになっていた。
188
お気に入りに追加
634
あなたにおすすめの小説

転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物
ゆうぎり
ファンタジー
私リディアーヌの不幸は双子の姉として生まれてしまった事だろう。
妹のマリアーヌは王太子の婚約者。
我が公爵家は妹を中心に回る。
何をするにも妹優先。
勿論淑女教育も勉強も魔術もだ。
そして、面倒事は全て私に回ってくる。
勉強も魔術も課題の提出は全て代わりに私が片付けた。
両親に訴えても、将来公爵家を継ぎ妹を支える立場だと聞き入れて貰えない。
気がつけば私は勉強に関してだけは、王太子妃教育も次期公爵家教育も修了していた。
そう勉強だけは……
魔術の実技に関しては無能扱い。
この魔術に頼っている国では私は何をしても無能扱いだった。
だから突然罪を着せられ国を追放された時には喜んで従った。
さあ、どこに行こうか。
※ゆるゆる設定です。
※2021.9.9 HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる