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「我は貴様を許さぬ」
「や、やめろ! 私はエスモグー伯爵令息だぞ! 」
ああ、そうだ。エスキモーじゃなかった。エスモグーか。
そのエスモグー伯爵令息は、黎月はもう何もしていないのにも関わらず騒ぎ続けている。たぶん黎月がピンポイントで威圧しているのだろうけど、それ以上逆鱗に触れる前に逃げたらいいのに。
「私を襲うとどうなるかわかってるのか!? 父上が黙ってないぞ! 」
「それがどうかしたのか? 」
「そいつもろともただじゃ置かないぞ!? 」
やばい! また黎月の地雷踏む!
「そっちこそ、神獣であるフェンリルの方があなたのお父様よりも遥かに偉いのわかってる? 」
ピクッと黎月の耳が動き、毛が逆立ち始めたのに気づいて慌てて口を挟んだ。
「それは・・・」
「あなたのお父様が偉いというのならまだわかる。だってちゃんと貴族として地位を授かって仕事してるんだもん。でもあなたが偉いというのはわからない。今私が見たあなたはなんの仕事もしてないくせに、伯爵子息なのをいいことに横暴を振り翳している姿だけ。そんなやつの何が偉いのか私にはわからない」
「なっ・・・」
せっかくだから言いたいことを全て言わせてもらおう。
「堂々と自分は偉いんだと言いたいのなら、まずはやることやってからにして。今周りの人たちがあなたを甘やかすのも、そこの二人があなたに従うのも、あなたに対する将来投資なんだよ。その投資価値がなくなれば、誰もあなたを気にしなくなる。人間なんてそんなもんなんだよ。黎月に手を出そうとしたんだから今にでもボッコボコにしてやりたい気分だけど、もし次あったときにボコボコにせずに残しておくだけの投資価値があるってことを見せてくれたら、見逃してあげる。どう? 」
ふぅ~・・・。
また口挟まれて邪魔されたら嫌だったから、一息に言い切ってやった。
さて、これを聞いてこいつは一体どんな反応をするのか・・・。もし問答無用で拒否するようだったら、もう期待はできない。
「な、なんなのだおまえは!? もういい! 帰るぞ! おい、おまえら! 」
そう言って振り向いた先の二人はまだ倒れている。
「ちっ! 」
案外優しいところがあるのか、二人を置いていったりはせず、引きずって馬車の中に放り込んでから去っていった。
ふーん、なるほどねえ。
完全に拒否したわけではなさそうだから、余地はあるってことかな。これで少しは改心してくれるといいけど。
うまく行けば将来のコネとして引き入れられる。
「はあ~・・・。やっと行った・・・」
「災難だったな」
「ほんと! あーあ、クッキーもう焼けてるかなあ」
*****
食堂に戻るとちょうどオーブンから出していたところで、少し焼き色の付いたクッキーが天板に並べられていた。
白氷も降りてきていて、足で小さく床を小突きながら、今か今かと待っている。
「まだ熱いので少し待ってくださいね。あ、そっちはもう盛り付けていいですよ」
私たちはひたすらクッキーを天板から剥がしてお皿に置いていく仕事だ。
あ、気の所為どころじゃなく形が歪なのが何個かある。あれ自分のだ・・・。
かなり量があり、大皿四皿分はある。
聞けば、量が少ないと文句を言った白氷のために、追加で作ったらしい。白氷さんや・・・。
「・・・よし! これで全部! 」
全部机に並べて、バタークッキーに合うからとミルクまで入れてもらって、私たちは席についた。
クッキーを一枚取って齧ると、サクッとした食感と共に甘みが広がり、ミルクと合わせるとより一層甘みが引き立てられて美味しく感じる。
「うむ、実に美味いな! 」
「これはいいな」
白氷と常夜が上品なのに恐ろしい速度で消費していく。見ろ、黎月が少し引いてるぞ。
「おや、美味しそうな匂いがするじゃないですか」
「なんだなんだ? またクレーリーか? 」
「あ、シエルさんもいるぞ! 」
入口の方から声が聞こえたと思うと、そこにはクラックさん筆頭に第二騎士団のメンバーがゾロゾロといた。
「クッキーじゃねえか! 一つもらうぞ! 」
そう言って、許可を聞くだけ聞いてクラックさんがクッキーを口へ放り込んだのを皮切りに、他の面々も次々と雪崩込んできて、プチパーティーの状態になった。
「おいなあ、ミルクってまだあったか? 」
「ここにあるぞ」
「くれ! 」
「相変わらずの旨さだな、クレーリー! 」
「シエルさん、神獣のみなさんも。ここでの暮らしはどうですか? 」
「すごく楽しいよ」
「なかなか手厚いしな」
「なら良かったです。本当はもっとしっかりとしたところに案内するべきだったのですが・・・」
「今ので十分足りてるよ。強いて言うならこの子たちが寝るようのベッドが欲しいかな」
「確かに」
「あ、ベッドだったら俺いい家具屋さん知ってるぜ」
そうやってワイワイと騒ぎながら、夜は更けていった。
「や、やめろ! 私はエスモグー伯爵令息だぞ! 」
ああ、そうだ。エスキモーじゃなかった。エスモグーか。
そのエスモグー伯爵令息は、黎月はもう何もしていないのにも関わらず騒ぎ続けている。たぶん黎月がピンポイントで威圧しているのだろうけど、それ以上逆鱗に触れる前に逃げたらいいのに。
「私を襲うとどうなるかわかってるのか!? 父上が黙ってないぞ! 」
「それがどうかしたのか? 」
「そいつもろともただじゃ置かないぞ!? 」
やばい! また黎月の地雷踏む!
「そっちこそ、神獣であるフェンリルの方があなたのお父様よりも遥かに偉いのわかってる? 」
ピクッと黎月の耳が動き、毛が逆立ち始めたのに気づいて慌てて口を挟んだ。
「それは・・・」
「あなたのお父様が偉いというのならまだわかる。だってちゃんと貴族として地位を授かって仕事してるんだもん。でもあなたが偉いというのはわからない。今私が見たあなたはなんの仕事もしてないくせに、伯爵子息なのをいいことに横暴を振り翳している姿だけ。そんなやつの何が偉いのか私にはわからない」
「なっ・・・」
せっかくだから言いたいことを全て言わせてもらおう。
「堂々と自分は偉いんだと言いたいのなら、まずはやることやってからにして。今周りの人たちがあなたを甘やかすのも、そこの二人があなたに従うのも、あなたに対する将来投資なんだよ。その投資価値がなくなれば、誰もあなたを気にしなくなる。人間なんてそんなもんなんだよ。黎月に手を出そうとしたんだから今にでもボッコボコにしてやりたい気分だけど、もし次あったときにボコボコにせずに残しておくだけの投資価値があるってことを見せてくれたら、見逃してあげる。どう? 」
ふぅ~・・・。
また口挟まれて邪魔されたら嫌だったから、一息に言い切ってやった。
さて、これを聞いてこいつは一体どんな反応をするのか・・・。もし問答無用で拒否するようだったら、もう期待はできない。
「な、なんなのだおまえは!? もういい! 帰るぞ! おい、おまえら! 」
そう言って振り向いた先の二人はまだ倒れている。
「ちっ! 」
案外優しいところがあるのか、二人を置いていったりはせず、引きずって馬車の中に放り込んでから去っていった。
ふーん、なるほどねえ。
完全に拒否したわけではなさそうだから、余地はあるってことかな。これで少しは改心してくれるといいけど。
うまく行けば将来のコネとして引き入れられる。
「はあ~・・・。やっと行った・・・」
「災難だったな」
「ほんと! あーあ、クッキーもう焼けてるかなあ」
*****
食堂に戻るとちょうどオーブンから出していたところで、少し焼き色の付いたクッキーが天板に並べられていた。
白氷も降りてきていて、足で小さく床を小突きながら、今か今かと待っている。
「まだ熱いので少し待ってくださいね。あ、そっちはもう盛り付けていいですよ」
私たちはひたすらクッキーを天板から剥がしてお皿に置いていく仕事だ。
あ、気の所為どころじゃなく形が歪なのが何個かある。あれ自分のだ・・・。
かなり量があり、大皿四皿分はある。
聞けば、量が少ないと文句を言った白氷のために、追加で作ったらしい。白氷さんや・・・。
「・・・よし! これで全部! 」
全部机に並べて、バタークッキーに合うからとミルクまで入れてもらって、私たちは席についた。
クッキーを一枚取って齧ると、サクッとした食感と共に甘みが広がり、ミルクと合わせるとより一層甘みが引き立てられて美味しく感じる。
「うむ、実に美味いな! 」
「これはいいな」
白氷と常夜が上品なのに恐ろしい速度で消費していく。見ろ、黎月が少し引いてるぞ。
「おや、美味しそうな匂いがするじゃないですか」
「なんだなんだ? またクレーリーか? 」
「あ、シエルさんもいるぞ! 」
入口の方から声が聞こえたと思うと、そこにはクラックさん筆頭に第二騎士団のメンバーがゾロゾロといた。
「クッキーじゃねえか! 一つもらうぞ! 」
そう言って、許可を聞くだけ聞いてクラックさんがクッキーを口へ放り込んだのを皮切りに、他の面々も次々と雪崩込んできて、プチパーティーの状態になった。
「おいなあ、ミルクってまだあったか? 」
「ここにあるぞ」
「くれ! 」
「相変わらずの旨さだな、クレーリー! 」
「シエルさん、神獣のみなさんも。ここでの暮らしはどうですか? 」
「すごく楽しいよ」
「なかなか手厚いしな」
「なら良かったです。本当はもっとしっかりとしたところに案内するべきだったのですが・・・」
「今ので十分足りてるよ。強いて言うならこの子たちが寝るようのベッドが欲しいかな」
「確かに」
「あ、ベッドだったら俺いい家具屋さん知ってるぜ」
そうやってワイワイと騒ぎながら、夜は更けていった。
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