41 / 79
41
しおりを挟む
次の日。私は町に出ていた。せっかく王都に来たのに、難しい話ばかり聞かされて、まだ全然観光できてないのだ。
「すごい人! 」
「王都だからな、それなりには賑わうぞ」
朝イチにレングさんと手合わせをしてきて、少しお腹が空いている。あの人、まだ目覚めきってない頭で食堂で朝ごはん食べてたら、すかさず隣に座って「昨日の約束、まだ覚えてますか? 」だよ。一瞬で目ぇ覚めたわ。
「む、ここは食べ物通りだな」
「ここを抜けた先にあるらしいよ」
本日の付き添いは黎月。常夜は寝たいと言って朝ごはんだけ食べて部屋に戻っていき、最近物理的に思いっきり羽を伸ばせていない紅羽は、ストレス発散を兼ねた運動で狩りに行っている。白氷はいつの間にか団舎で飼われている馬たちと仲良くなっていて、たった三日の間に何があったのかは知らないが、兄貴ポジションに収まっている。今日はそっちに構いに行ってて不在なのだ。
結果、特にやることもなく暇な黎月が着いてくることになった。
そこら辺に神獣が歩いていたらダメなんじゃ・・・? とは思ったけど、貴族街でなければ直接黎月を見たことがある人もいないはずだから、大きくなりすぎなければ従魔という話で通せるとのこと。今は大きめの大型犬と同じくらいのサイズになってもらっている。
「あ、焼き鳥! 」
「あれはミルバーチだな。通称ミル串だ」
ズラッと視界を侵食する食べ物屋台の中でも、特に目を引かれた一店。
じゅーっと金網の上で焼ける串焼き。コンビニの二倍以上の長さで、お肉一つ一つが大きい。実質四倍以上のボリューム感だ。
「おっちゃん!ミル串二本! 」
「おうよ! お嬢ちゃん、うちのミル串を選ぶなんて目が高いな。一本五ベルで合計十ベルだ! どの味付けで? 」
味付けは塩、レモン胡椒、ガーリック、ホットチリペッパーの四つ。どれも迷うラインナップだ。がっつり食べた気分になれるガーリックにするとしよう! 黎月はどうなんだろう。犬は辛いの食べちゃだめって言うしなあ。
「我はホットチリペッパーじゃなきゃなんでもいいぞ」
「やっぱり犬は辛いの苦手か~」
「む。おい、我は犬ではないぞ」
「はいはい。じゃあ塩とガーリックで! 」
「塩ひとつとガーリックひとつだな。お嬢ちゃん、そのオオカミ喋れるのか? 」
店主は迷いのない手つきで肉を裏返して、パッパッパッと調味料をかけながらきいてきた。
「あ、うん。ちょっとだけ・・・」
やばい、ボロが・・・。
「へえ、そりゃあ珍しいな! 最近従魔狩りが流行っているようだしな、気をつけるんだぞ」
「わかった、ありがとう」
よかった、店主があまり詳しくない人で。
「ほれ、塩とガーリックだ! 」
「ありがとう! 」
熱々の焼き立ては、見てるだけで涎が出てきて、漂ってくるこのガーリックの匂いがもうたまらない。一口齧ればジュワッと溢れる肉汁と共に広がるニンニクの香り。ガーリックと鶏肉というこの組み合わせがもう素晴らしい!
「やはり久々に食べると美味いな」
黎月は自分で串を持てないため、私が片手に持っているのに齧り付いている。まあまあ量はあるはずなのに、どんどんいける。黎月は三、四口ぐらいでペロリと平らげてしまい、器用に足で口元の汚れを拭っている。
「なあ、もう一本ずつ買わないか? 」
「もう一本? ちょっと待ってね、お金は・・・全然足りるね、もう二本買うか! 」
もらったお小遣いを確認してから、もう一度同じ店の前に行く。
「おっちゃん、もう二本もらっていい? 」
「お! まだ買うのか? 」
「うん、うちのオオカミが気に入ったみたい」
「そりゃあ嬉しいな! 今後もご贔屓に、なんちゃってな。味はどうするんだ? 」
「レモン胡椒とホットチリペッパーで! 」
「あい承知! 十ベルだ」
「はい」
ちなみにこのお小遣いは、朝町に行くと聞きつけたクラックさんからもらったもの。てっきりアルシュさんやクラックさんのポケットマネーから出ているもんだと思って使うのに遠慮があったけど、今日聞いたら貴賓接待費っていう国の予算から出ていたらしい。エウロスで買った服や靴の分の値段も、アルシュさんがそこからしっかり引き落とさせたらしく、まだまだ有り余っているらしいから、これからはバンバン使っていくつもりです!
「オオカミに辛いのは大丈夫なのか? 犬に辛いものは与えちゃダメっていうだろ? 」
さっき私が考えてたことそのままそっくりの発言に思わず笑ってしまった。
「ぷふっ。いや、やっぱりダメみたいだから、ホットチリは私の分だよ」
「へえ、お嬢ちゃん辛いもんもいけるのか。すごいな! 」
ふろ背中に視線を感じた。
誰か見てる? ・・・ああ。
目を向けた先に、何人かの男がいた。決して不審者ではなくて、私の護衛だ。
王宮から派遣されてきた人たちで、お願いして目立たないようにしてもらっている。私自身それなりに強いし、黎月もいるから大丈夫だとはいっても、王宮側にも何かあった時の責任というものがあるらしく、護衛なしはダメだと言われた。お互い渋りまくった挙句、分散して尾行するぐらいならと双方妥協したのだ。
ぞろぞろ護衛を引き連れての町観光なんてたまったもんじゃない。
「ほら、レモン胡椒とホットチリペッパーだ! ありがとな! 」
「ありがとう! 」
黎月はすでに鼻をクンクンさせながら、期待した目で待っていて、わかってるのわかってないのか尻尾がブンブン振られている。そんなんだから犬とか言われちゃうんだって・・・。
「すごい人! 」
「王都だからな、それなりには賑わうぞ」
朝イチにレングさんと手合わせをしてきて、少しお腹が空いている。あの人、まだ目覚めきってない頭で食堂で朝ごはん食べてたら、すかさず隣に座って「昨日の約束、まだ覚えてますか? 」だよ。一瞬で目ぇ覚めたわ。
「む、ここは食べ物通りだな」
「ここを抜けた先にあるらしいよ」
本日の付き添いは黎月。常夜は寝たいと言って朝ごはんだけ食べて部屋に戻っていき、最近物理的に思いっきり羽を伸ばせていない紅羽は、ストレス発散を兼ねた運動で狩りに行っている。白氷はいつの間にか団舎で飼われている馬たちと仲良くなっていて、たった三日の間に何があったのかは知らないが、兄貴ポジションに収まっている。今日はそっちに構いに行ってて不在なのだ。
結果、特にやることもなく暇な黎月が着いてくることになった。
そこら辺に神獣が歩いていたらダメなんじゃ・・・? とは思ったけど、貴族街でなければ直接黎月を見たことがある人もいないはずだから、大きくなりすぎなければ従魔という話で通せるとのこと。今は大きめの大型犬と同じくらいのサイズになってもらっている。
「あ、焼き鳥! 」
「あれはミルバーチだな。通称ミル串だ」
ズラッと視界を侵食する食べ物屋台の中でも、特に目を引かれた一店。
じゅーっと金網の上で焼ける串焼き。コンビニの二倍以上の長さで、お肉一つ一つが大きい。実質四倍以上のボリューム感だ。
「おっちゃん!ミル串二本! 」
「おうよ! お嬢ちゃん、うちのミル串を選ぶなんて目が高いな。一本五ベルで合計十ベルだ! どの味付けで? 」
味付けは塩、レモン胡椒、ガーリック、ホットチリペッパーの四つ。どれも迷うラインナップだ。がっつり食べた気分になれるガーリックにするとしよう! 黎月はどうなんだろう。犬は辛いの食べちゃだめって言うしなあ。
「我はホットチリペッパーじゃなきゃなんでもいいぞ」
「やっぱり犬は辛いの苦手か~」
「む。おい、我は犬ではないぞ」
「はいはい。じゃあ塩とガーリックで! 」
「塩ひとつとガーリックひとつだな。お嬢ちゃん、そのオオカミ喋れるのか? 」
店主は迷いのない手つきで肉を裏返して、パッパッパッと調味料をかけながらきいてきた。
「あ、うん。ちょっとだけ・・・」
やばい、ボロが・・・。
「へえ、そりゃあ珍しいな! 最近従魔狩りが流行っているようだしな、気をつけるんだぞ」
「わかった、ありがとう」
よかった、店主があまり詳しくない人で。
「ほれ、塩とガーリックだ! 」
「ありがとう! 」
熱々の焼き立ては、見てるだけで涎が出てきて、漂ってくるこのガーリックの匂いがもうたまらない。一口齧ればジュワッと溢れる肉汁と共に広がるニンニクの香り。ガーリックと鶏肉というこの組み合わせがもう素晴らしい!
「やはり久々に食べると美味いな」
黎月は自分で串を持てないため、私が片手に持っているのに齧り付いている。まあまあ量はあるはずなのに、どんどんいける。黎月は三、四口ぐらいでペロリと平らげてしまい、器用に足で口元の汚れを拭っている。
「なあ、もう一本ずつ買わないか? 」
「もう一本? ちょっと待ってね、お金は・・・全然足りるね、もう二本買うか! 」
もらったお小遣いを確認してから、もう一度同じ店の前に行く。
「おっちゃん、もう二本もらっていい? 」
「お! まだ買うのか? 」
「うん、うちのオオカミが気に入ったみたい」
「そりゃあ嬉しいな! 今後もご贔屓に、なんちゃってな。味はどうするんだ? 」
「レモン胡椒とホットチリペッパーで! 」
「あい承知! 十ベルだ」
「はい」
ちなみにこのお小遣いは、朝町に行くと聞きつけたクラックさんからもらったもの。てっきりアルシュさんやクラックさんのポケットマネーから出ているもんだと思って使うのに遠慮があったけど、今日聞いたら貴賓接待費っていう国の予算から出ていたらしい。エウロスで買った服や靴の分の値段も、アルシュさんがそこからしっかり引き落とさせたらしく、まだまだ有り余っているらしいから、これからはバンバン使っていくつもりです!
「オオカミに辛いのは大丈夫なのか? 犬に辛いものは与えちゃダメっていうだろ? 」
さっき私が考えてたことそのままそっくりの発言に思わず笑ってしまった。
「ぷふっ。いや、やっぱりダメみたいだから、ホットチリは私の分だよ」
「へえ、お嬢ちゃん辛いもんもいけるのか。すごいな! 」
ふろ背中に視線を感じた。
誰か見てる? ・・・ああ。
目を向けた先に、何人かの男がいた。決して不審者ではなくて、私の護衛だ。
王宮から派遣されてきた人たちで、お願いして目立たないようにしてもらっている。私自身それなりに強いし、黎月もいるから大丈夫だとはいっても、王宮側にも何かあった時の責任というものがあるらしく、護衛なしはダメだと言われた。お互い渋りまくった挙句、分散して尾行するぐらいならと双方妥協したのだ。
ぞろぞろ護衛を引き連れての町観光なんてたまったもんじゃない。
「ほら、レモン胡椒とホットチリペッパーだ! ありがとな! 」
「ありがとう! 」
黎月はすでに鼻をクンクンさせながら、期待した目で待っていて、わかってるのわかってないのか尻尾がブンブン振られている。そんなんだから犬とか言われちゃうんだって・・・。
304
お気に入りに追加
634
あなたにおすすめの小説

転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる