ダンジョンマスター先輩!!(冒険に)付き合ってあげるからオカルト研究会の存続に協力してください!

千両文士

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第65話

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「ヒッヒッフゥーッ、ヒッヒッフゥーッ……」
「どうやら、弾切れのようだね……」
 部屋全体をまんべんなく蜂の巣にし終え、硝煙を吐くばかりのデストロイバルカンと反動ダメージで息も荒く立ち尽くす須田丸。
「まあ僕も程よく体があったまったし……そろそろ行かせてもらおうかなぁ?」
 ノーダメージでリング上に降りて来たナルカミノミヤはファッションショーの花道を歩くモデルのように優雅な動きで須田丸に向かって行く。
「ぬぉう!!」
 先手必勝、ヤンキー喧嘩感覚でそう察した須田丸の右ストレートがナルカミノミヤの顔面に叩きこまれる。
「ほいっ!」
 足を曲げて背を低くし、それをかわしたナルカミノミヤはその野太い腕を両腕で掴む。
『ヴォルテツクスロウ!』
 腰の柔軟なバネと体幹を利用した全身筋肉力でぶん投げられた須田丸は転がってロープに激突。その衝撃でデストロイメイルの砕けた破片がリング上に飛び散る。
「…… ぐっ、このっ……」
 全身にダメージを受けつつも須田丸は気合と根性で立ち上がる。
「へえ結構本気で叩きつけたんだけど、これを食らって立ち上がれるとは……さすがだなぁ。それでこそ嬲り甲斐があるってもんだね。ククク……」
 サディスティックに顔を歪めるナルカミノミヤは拳と首をゴキゴキしつつ須田丸に迫る。

「……先輩! 私達も須田丸を助けないと!」
 眼下で繰り広げられるナルカミノミヤによる一方的暴力と言う名の公開処刑。
 なすすべもなく立ち向かっては投げられ、殴られて装備を壊され、凄惨なダメージを受けるだけの須田丸を遠くから見る事しか出来ない美香は魔導杖を握りしめる。
「華咲、仮に私達がマヨイガエレメントを使えたところでそれは無理だ」
「御鐵院さん!」
「私は個人的趣味も兼ねて世界中にある数多の体術を習ってきたが……あそこまで確実に人体急所を狙って戦力を削ぎ、甚大なダメージを与える事に特化した禍々しい物は初めて見た。まだ憶測の域を出ないがあれは本来ならばあのように徒手空拳ではなく小刀や短刀のような武器を用いて敵を一瞬で絶命させる事に特化した戦闘技術なのではないか?」
「ええと、御鐵院さん……つまりはどういう事で?」
 茜の冷静な分析が理解できなかった美香は要約を求める。
「要するにあのチビはその気になれば一瞬でウチら5人を瞬殺させる事も出来るアサシンって事やね」
 英里子は青いフーセンガムを膨らませつつ要約する。
「呉井! こんな状況でお前は何をやっているんだ!?」
「何って……フーセンガム噛んどったんやけど。膨らませ方教えるで?」
 ポケットからサイダー味の青い板ガムを取り出した英里子は茜に1枚差し出す。

「御鐵院さん!」「落ち着くんだ、茜さん!」
 その行為に激昂して英里子の頬が真っ赤になるほどの力で引っ叩いた茜。
 怒りと情けなさのあまり目を真っ赤にして涙をぼろぼろこぼしながら息を荒げる茜とは対極的に英里子は無表情なままだ。
「……色々言いたい事があるのは分かるけどなぁ、お前が言うとる事なんてもう須田丸君は十も百も承知じゃ。
 だからこそそれに関係なく須田丸君は確実に勝てる方法を選んだんよ。まだ味あったのにもったいないのう……」
 英里子は口から出て地面に落ちて汚れてしまったガムを銀紙で包む。
「ウチは須田丸君の勝利を信じとるし、頭でっかちなアンタの色んなもんで曇った眼では見えないブルドーザーに漬される事無く生還出来る未来がくっきりと見えとる。
 だから悠々とガムを味わいつつ噛んでおられるんよ。まさかとは思うけど……アンタの方こそ須田丸君の勝利を疑っておったんか?」
「そっ、そんなわけないだろう! 須田丸が負けるなどありえん!」
「ならええやん。改めて…… 1枚分けたるわ。美香ちゃんと雲隠さんもどや?」
「部長、いただくよ」「ありがとう、英里子ちゃん」
「ちっ……」
 茜はもぎりとるように英里子のガムを奪うと、銀紙を剥いで口に放り込む。

「なるほどねぇ……実に信頼しあった素晴らしい仲間なんだなぁ。ヘドが出るね!」
 鎧を完全破壊され下に着ていた黒ランニングシャツにハーフパンツ、武装は右腕のデストロイアームのみが残された半死半生の須田丸を前にナルカミノミヤはツバを吐く。
「……やっばりな。お前、そういうクチだったのか」
「何だとっ!?」
 立ち上がった須田丸を前にナルカミノミヤは再び身構える。
「俺、親父が死んでから色々ありすぎて殴り合いの喧嘩だけでも数え切れねぇ程やってきたけどさぁ……強えヤツも弱ええヤツも、とにかく色んなタイプの奴がいたのよ」
 飲み終えた体力・魔力全回復薬の瓶をリング外に投げ捨てつつ須田丸は語る。
「もちろん俺が最強だなんて思い上がった事はミジンも思っちゃいねぇ。
 ただ、でら強えヤツが往々にして持っていたのは何であれ『守りてぇ物』だったんだ」
「何を言い出すかと思えば……ロマンチストお花畑論理を神に説きだす程に頭を殴られすぎたようだな。そんな物があろうとなかろうと強者は強者、弱者は弱者。それだけの話だ」
「まあな、それは事実だから否定しないぜ。ただそれで測れない強者ってのもたまにいたのよ。言うなれば『大切な物を守れなかった哀しみを知ってる』純粋で粋なヤツだったんだ」
「……」
「やっばりな……アンタの過去に何があったかは知らねえけどそう言う哀しみを持ち続けているんだな。そしてそれは仲間とか友情とか……もしくは愛した人とかだったのか?」

「黙れ」
 過去のトラウマと古傷に土足で踏み込まれたナルカミノミヤは激昂のままに電撃拳で須田丸の腹に一撃をお見舞い。そのまま脇を閉めて腕を引きつつ一気に息を吸い込む。
「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!!」
 人の分際で武神を愚弄した者に天罰にして最低の屈辱的敗北と死を与えるべくナルカミノミヤは雷撃を帯びたまま須田丸から盗んだ十八番喧嘩技の乱撃ラッシュを至近距離で一気に叩きこむ。

【第66話に続く】
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