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第51話
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「……うんまぁ!」
4人が無言で見守る中、数秒後。
そのあまりの美味しさに感動した英里子は大きなショートケーキをもりもり食べ始める。
「……いただきます!」
英里子の毒見で安全を確信し、猜疑心のあまりお預け状態だった茜と美香も迷うことなくフォークを手に取る。
「……美味しい!」「美味しいわあ!!」
「雲隠さん、俺らも食おうぜ?」
「ああ、そうだな…… うん、美味しい!!」
その場の勢いとは言え不慣れなパワーアタックで疲れ切った全身と脳に染み渡るケーキの糖分と温かい紅茶……探は皆の笑顔と共にそれを堪能する。
「楽しめていただけたようだな」
5人が食べ終えたタイミングで口を開いた五武神チノミヤは満足気に頷く。
「はいっ、すごく美味しかったです!」
「こんなうんめぇケーキをちちんぷいぷいと作れるとは流石は神様だぜ!」
美香のお礼に合わせて須田丸はチノミヤをヨイショする。
「ふむ、そこまで言ってもらえるとは……主に喜んでいただくために人間界に出向いて修行したかいがあったと言うものだ!」
「修行……と言う事は誰かに教わったのですか?」
須田丸合め神の力的なサムシングで無からケーキを作り出したと思い込んでいた5人は思いもよらぬ発言に聞き返してしまう。
「うむ、そなたらの言わんとすることは分かる。だが私はこのマヨイガの試練に特化した武神……故に無から食べ物を作り出せるような奇跡は使えぬのだよ」
「すみません……早とちりをしてしまい」
「それは構わぬ、そのような誤解を受けることなど八百万の神々には日常茶飯事だ。
せっかくだ、茶会のネタに我ら五武神と主の事を話しておこうか」
チノミヤは紅茶を優雅に啜りつつ語り始める。
「我ら六柱はかつて人間だった」
「人間? じゃあ……タメシヤノミコト様の伝承にあった関東地方の豪族のような存在だったのかしら?」
「関東地方の豪族と言うのは少し違うな。我らが生きていた正確な年代や今の地名は知らぬがそなたらが日本史で言う所の農耕定住が始まった時代あたりであろう。あの時代は水や土地と言った生活資源争いに略奪者による襲撃や近隣諸村との戦争が絶えず、我らの村も常にそれらの脅威にさらされていた。
生前の我ら5人は村長の娘にして天地の理を司る霊験あらたかな巫女様に生涯武人としてお仕えしたのだ」
「……そうなんだな」
「だが我らが亡き後もその勇猛果敢さと巫女様の偉大な力は時代を超えた伝承として後世に伝わっていたらしく、それが誇張され続けた結果……我ら5人は奇跡の力を持つ大いなる女神の生まれ変わりたる巫女をお守りする五武将神にして猛火を吐き、大水を起こし、雷を喚び、大地を割って大風を呼ぶ者であると言う事になっていたのだ」
「ふぅん、歴史に名を遺した偉人は避けられないよくある話やねぇ」
「英里子ちゃん!」
神をも恐れぬ英里子の失礼発言を美香は止める。
「この話を聞いた八百万の神の1人となっていた我らの主たる巫女様は大いなる慈愛の心をもってこの信仰を受け入れるのみならず、我ら五人に伝承通りの新たな力を与えてマヨイガ五武神を結成。自らもタメシヤノミコトと名を改めその加護を求める者達を試練の異世界に呼びよせる事とした……」
「それがマヨイガの儀、と言う事なんだな」
「そうだ。そして人間界と我らを繋ぐ中継担当として主が指名し、儀式の形式策定と管理を担わせたのが雲隠殿と御鐡院殿の先祖だったのだよ」
「そうだったんですね……」
当事者たる探と茜のみならずその他3人も壮大な歴史神話に思いをはせる。
「だからこそ我はそなたらに倒されてでもに主様に挑んでもらいたい! のだが……この数百年間、日々欠かさず体を鍛え、多くの古今東西の神々と手合わせしすぎたせいで今の我は人のもののふを一撃で即死させ、そのダメージすら通らない程に頑強になりすぎてしまったらしい。
仮に今から筋力を意図的に落としてぎりぎりそなたらのダメージが通る水準に戻すにしても数十年はかかる、一体どうしたものか……」
五武神チノミヤは岩の如く頑丈で巨大な手をじっとみつつ考えこむ。
「だったらジャンケン3本しょう……むぐうっ!!」
「それは私としましょうねぇ、英里子ちゃぁん? せ―の、じゃん、けん……ぼんっ! あいこでしょっ!」
あろうことか地乃宮の試練をジャンケン3本勝負で終わらせようと提案しかけた英里子にヘッドロックをかけた茜は低い声で耳元に囁く。
「チノミヤ様、お気遣いいただき本当にありがとうございます。
僕達も考えますが何かこう……貴方との直接物理戦闘以外でフェアな勝敗が付く戦いが出来る方法があればいいんですよね? それはマヨイガエレメントの使用も含めますか?」
「うむ、それが良かろう。だが私もすぐに名案が浮かぶとは限らん。そなたらは先に他の宮を回って来た方が良いかもしれぬな」
チノミヤは探リーダーの提案に答える。
【第52話に続く】
4人が無言で見守る中、数秒後。
そのあまりの美味しさに感動した英里子は大きなショートケーキをもりもり食べ始める。
「……いただきます!」
英里子の毒見で安全を確信し、猜疑心のあまりお預け状態だった茜と美香も迷うことなくフォークを手に取る。
「……美味しい!」「美味しいわあ!!」
「雲隠さん、俺らも食おうぜ?」
「ああ、そうだな…… うん、美味しい!!」
その場の勢いとは言え不慣れなパワーアタックで疲れ切った全身と脳に染み渡るケーキの糖分と温かい紅茶……探は皆の笑顔と共にそれを堪能する。
「楽しめていただけたようだな」
5人が食べ終えたタイミングで口を開いた五武神チノミヤは満足気に頷く。
「はいっ、すごく美味しかったです!」
「こんなうんめぇケーキをちちんぷいぷいと作れるとは流石は神様だぜ!」
美香のお礼に合わせて須田丸はチノミヤをヨイショする。
「ふむ、そこまで言ってもらえるとは……主に喜んでいただくために人間界に出向いて修行したかいがあったと言うものだ!」
「修行……と言う事は誰かに教わったのですか?」
須田丸合め神の力的なサムシングで無からケーキを作り出したと思い込んでいた5人は思いもよらぬ発言に聞き返してしまう。
「うむ、そなたらの言わんとすることは分かる。だが私はこのマヨイガの試練に特化した武神……故に無から食べ物を作り出せるような奇跡は使えぬのだよ」
「すみません……早とちりをしてしまい」
「それは構わぬ、そのような誤解を受けることなど八百万の神々には日常茶飯事だ。
せっかくだ、茶会のネタに我ら五武神と主の事を話しておこうか」
チノミヤは紅茶を優雅に啜りつつ語り始める。
「我ら六柱はかつて人間だった」
「人間? じゃあ……タメシヤノミコト様の伝承にあった関東地方の豪族のような存在だったのかしら?」
「関東地方の豪族と言うのは少し違うな。我らが生きていた正確な年代や今の地名は知らぬがそなたらが日本史で言う所の農耕定住が始まった時代あたりであろう。あの時代は水や土地と言った生活資源争いに略奪者による襲撃や近隣諸村との戦争が絶えず、我らの村も常にそれらの脅威にさらされていた。
生前の我ら5人は村長の娘にして天地の理を司る霊験あらたかな巫女様に生涯武人としてお仕えしたのだ」
「……そうなんだな」
「だが我らが亡き後もその勇猛果敢さと巫女様の偉大な力は時代を超えた伝承として後世に伝わっていたらしく、それが誇張され続けた結果……我ら5人は奇跡の力を持つ大いなる女神の生まれ変わりたる巫女をお守りする五武将神にして猛火を吐き、大水を起こし、雷を喚び、大地を割って大風を呼ぶ者であると言う事になっていたのだ」
「ふぅん、歴史に名を遺した偉人は避けられないよくある話やねぇ」
「英里子ちゃん!」
神をも恐れぬ英里子の失礼発言を美香は止める。
「この話を聞いた八百万の神の1人となっていた我らの主たる巫女様は大いなる慈愛の心をもってこの信仰を受け入れるのみならず、我ら五人に伝承通りの新たな力を与えてマヨイガ五武神を結成。自らもタメシヤノミコトと名を改めその加護を求める者達を試練の異世界に呼びよせる事とした……」
「それがマヨイガの儀、と言う事なんだな」
「そうだ。そして人間界と我らを繋ぐ中継担当として主が指名し、儀式の形式策定と管理を担わせたのが雲隠殿と御鐡院殿の先祖だったのだよ」
「そうだったんですね……」
当事者たる探と茜のみならずその他3人も壮大な歴史神話に思いをはせる。
「だからこそ我はそなたらに倒されてでもに主様に挑んでもらいたい! のだが……この数百年間、日々欠かさず体を鍛え、多くの古今東西の神々と手合わせしすぎたせいで今の我は人のもののふを一撃で即死させ、そのダメージすら通らない程に頑強になりすぎてしまったらしい。
仮に今から筋力を意図的に落としてぎりぎりそなたらのダメージが通る水準に戻すにしても数十年はかかる、一体どうしたものか……」
五武神チノミヤは岩の如く頑丈で巨大な手をじっとみつつ考えこむ。
「だったらジャンケン3本しょう……むぐうっ!!」
「それは私としましょうねぇ、英里子ちゃぁん? せ―の、じゃん、けん……ぼんっ! あいこでしょっ!」
あろうことか地乃宮の試練をジャンケン3本勝負で終わらせようと提案しかけた英里子にヘッドロックをかけた茜は低い声で耳元に囁く。
「チノミヤ様、お気遣いいただき本当にありがとうございます。
僕達も考えますが何かこう……貴方との直接物理戦闘以外でフェアな勝敗が付く戦いが出来る方法があればいいんですよね? それはマヨイガエレメントの使用も含めますか?」
「うむ、それが良かろう。だが私もすぐに名案が浮かぶとは限らん。そなたらは先に他の宮を回って来た方が良いかもしれぬな」
チノミヤは探リーダーの提案に答える。
【第52話に続く】
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