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第38話
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7月中盤、本格的な夏が訪れた迷処町。6月の天候不順な梅雨に学生の義務たる期末テストから解放された壇条学院生達が目と鼻の先にある夏休みに浮足立つ季節が訪れた。
「先輩、久しぶりの部活動ですね!」
1学期の定期テスト期間とテスト休みによる部活動停止期間を終え、探と共に新生オカルト研究会部室に向かっていた美香。半袖Yシャツとミニスカートに夏服チェンジし、長い髪を後ろで2本のお下げにした美香はお下げの先端を結わえた爽やかなブルーのシュシュ留めをピコピコさせる。
「その髪型、可愛いね。今の時期にぴったりだと思うよ」
「……えへへ、ありがとうございます! 先輩」
「あっ、ああ……うん」
嬉しそうに腕を組んで来た美香に探は思わずはにかむ。
「おい、バカップル共! 風紀委員会に通報されたいのか?」
「御鐵院さん!」「生徒会長!」
期末テスト直前にオカルト研究会入部届を出し、今日が部活動開始初日となる茜は苛立った口調で2人を睨む。
「見つけたのが私で良かった……あの女に撮られて人生終了してもいいのか?」
茜はどこかに隠れているであろう英里子を警戒して辺りを見回す。
「生徒会長、それは大丈夫です! 私と探先輩にそんな事をしようものなら……親友でもタダで済ませる事は出来ないかもしれませんねぇ……?」
口元だけ笑った真顔で恐ろしい事をのたまう美香に探と茜は背筋が寒くなる。
「と言うわけで、行きましょ! 先輩!」
そのまま探の腕に手を回した美香はご機嫌で施設棟の階段を昇りだす。
「英里子ちゃん、お待た……せ?」
「おお、美香ちゃん! もうちょいでええもん出来るからな! 水着に着替えて待っててくれや!」
施設棟501号室、オカルト研究会部室。
そこの引き戸を開けた美香は学校指定スタール水着姿で、ビニールプールを黄色い足踏みポンプで膨らませている英里子に言葉を失う。
「呉井、一応聞いてやるが……何をやっているのかな?」
「見ての通りや、新入り。今日は暑いからみんなで涼しめるように部長サービスで家ビニールプールを持って来て準備しておるんや。雲隠さんはウチら女子が着替えとる間にそこのバケツで水汲んできてくれん?」
「ああ、分かった……ではなくて! 呉井さん、今日は夏休みの活動計画と今後のマヨイガ探索の事で会議ですよ!」
「先輩! コレをすぐに撤去しましょう! 英里子ちゃん、着替えるよ!」
「きゃあぁぁ助けてぇぇぇ! ヘンタイ女共に手籠めにされるぅぅ! お嫁に行けなくなるううう!」
探が廊下に運び出したビニールプールの空気を抜いている間、茜と美香は間答無用で英里子の水着を剥ぎ取り、鞄に放り込まれた下着と制服を取り出して着替えさせる。
「さて、今日の部活動会議では今後のマヨイガ探索の方針について私から提案したい事がある」
(……久しぶりの部活動だと言うのに、皆どうしてボロボロなんだろう?)
教員会議を終えて後からやって来た高等部歴史クラス担当のオカルト研究会顧問・五武神 鳳一は女の子3人がキャットファイトでもしたのかと言うぐらい満身創痍でヨレヨレの汗だくな事実には敢えて触れずにミーティングを見守る。
「方針? そんなもん1個ずつ潰してきゃぁええんちゃうの?」
『そうだぜ、 ミテツインさん。それの何が問題なんだ?』
オカルト研究会の外部協力者として自身のスマホにインストールしてもらったビデオ会議アプリ経由で参加する須田丸も趣旨が理解できずに聞き返す。
「……お前たちは1年生だが、私と探は2年生なんだぞ? この壇条学院は卒業後の進路が決まっているか否かに関係なく高等部3年生は2学期で部活動を引退しなくてはならない。つまり私達オカルト研究会マヨイガ探索隊の5人が揃って行動できるのはあと約10数ヶ月。残り3人のマヨイガ五武神を倒し、タメシヤ様に挑むには時間が足りなすぎる。そう思わないか?」
『……そういゃぁそぅっすね。まあ俺は今の親父の方針としておそらく地元でガテン系就職するだろうけど皆はどうするとか決めてるんスか?』
「……私はこの壇条学院卒業後、御鐵院グループの将来を背負う日に備えて海外の大学に行くことが決まっている。
雲隠は……ご両親の医院を継ぐために医大を目指すのか?」
「ああ、雲隠医院を継ぐかはわからないけど医大受験は目指すつもりだ」
「ウチは……何も決め取らんかった。絵え描くのが好きやけどアーティストで左団扇なんてのは無理やろなあ。美大受験も金かかるやろしなあ……」
「私も特に……看護師とかって資格を取ればなれるのかなぁ?」
オカルト研究会部室は『将来の不安』と言うどんよりとした思春期ムードに包みこまれる。
「ええと、まあそれはそれとして……私なりに色々考えてみたんだ。話していいか?」
茜は鞄から紙が入ったクリアーファイルを取り出し、ホテキス止めされた中身を3人に配る。
「須田丸、そのアプリは資料ダウンロードも出来るからお前はそれで見てくれ」
『おう、分かったぜ! ええと……こうだな、何々『迷処心得十条』なんだこりゃぁ?』
「これは……!?」
「ああ、これはかつて雲隠家が所持していたマヨイガの儀に挑まんとする者に課されたルールブック。それをゴブガミ殿に頼んで現代語訳復元してもらった物だ。カラーペンでマークされた七条四項と二条十項とを見てほしい」
「ふむふむ、七条四項:マヨイガ紋無き者は宮に入れない。 二条十項:対応する紋を持つ者がいれば同行人数問わず……つまり、どういう事だ?」
「ああ、そのレギュレーションを読んで考えてみたんだが……二手に分かれて並行探索すると言うのはどうだろうか?」
探や美香はおろか、英里子でも絶対に思い至らなかったであろう茜の奇策に4人は言あっと息を呑む。
【第39話に続く】
「先輩、久しぶりの部活動ですね!」
1学期の定期テスト期間とテスト休みによる部活動停止期間を終え、探と共に新生オカルト研究会部室に向かっていた美香。半袖Yシャツとミニスカートに夏服チェンジし、長い髪を後ろで2本のお下げにした美香はお下げの先端を結わえた爽やかなブルーのシュシュ留めをピコピコさせる。
「その髪型、可愛いね。今の時期にぴったりだと思うよ」
「……えへへ、ありがとうございます! 先輩」
「あっ、ああ……うん」
嬉しそうに腕を組んで来た美香に探は思わずはにかむ。
「おい、バカップル共! 風紀委員会に通報されたいのか?」
「御鐵院さん!」「生徒会長!」
期末テスト直前にオカルト研究会入部届を出し、今日が部活動開始初日となる茜は苛立った口調で2人を睨む。
「見つけたのが私で良かった……あの女に撮られて人生終了してもいいのか?」
茜はどこかに隠れているであろう英里子を警戒して辺りを見回す。
「生徒会長、それは大丈夫です! 私と探先輩にそんな事をしようものなら……親友でもタダで済ませる事は出来ないかもしれませんねぇ……?」
口元だけ笑った真顔で恐ろしい事をのたまう美香に探と茜は背筋が寒くなる。
「と言うわけで、行きましょ! 先輩!」
そのまま探の腕に手を回した美香はご機嫌で施設棟の階段を昇りだす。
「英里子ちゃん、お待た……せ?」
「おお、美香ちゃん! もうちょいでええもん出来るからな! 水着に着替えて待っててくれや!」
施設棟501号室、オカルト研究会部室。
そこの引き戸を開けた美香は学校指定スタール水着姿で、ビニールプールを黄色い足踏みポンプで膨らませている英里子に言葉を失う。
「呉井、一応聞いてやるが……何をやっているのかな?」
「見ての通りや、新入り。今日は暑いからみんなで涼しめるように部長サービスで家ビニールプールを持って来て準備しておるんや。雲隠さんはウチら女子が着替えとる間にそこのバケツで水汲んできてくれん?」
「ああ、分かった……ではなくて! 呉井さん、今日は夏休みの活動計画と今後のマヨイガ探索の事で会議ですよ!」
「先輩! コレをすぐに撤去しましょう! 英里子ちゃん、着替えるよ!」
「きゃあぁぁ助けてぇぇぇ! ヘンタイ女共に手籠めにされるぅぅ! お嫁に行けなくなるううう!」
探が廊下に運び出したビニールプールの空気を抜いている間、茜と美香は間答無用で英里子の水着を剥ぎ取り、鞄に放り込まれた下着と制服を取り出して着替えさせる。
「さて、今日の部活動会議では今後のマヨイガ探索の方針について私から提案したい事がある」
(……久しぶりの部活動だと言うのに、皆どうしてボロボロなんだろう?)
教員会議を終えて後からやって来た高等部歴史クラス担当のオカルト研究会顧問・五武神 鳳一は女の子3人がキャットファイトでもしたのかと言うぐらい満身創痍でヨレヨレの汗だくな事実には敢えて触れずにミーティングを見守る。
「方針? そんなもん1個ずつ潰してきゃぁええんちゃうの?」
『そうだぜ、 ミテツインさん。それの何が問題なんだ?』
オカルト研究会の外部協力者として自身のスマホにインストールしてもらったビデオ会議アプリ経由で参加する須田丸も趣旨が理解できずに聞き返す。
「……お前たちは1年生だが、私と探は2年生なんだぞ? この壇条学院は卒業後の進路が決まっているか否かに関係なく高等部3年生は2学期で部活動を引退しなくてはならない。つまり私達オカルト研究会マヨイガ探索隊の5人が揃って行動できるのはあと約10数ヶ月。残り3人のマヨイガ五武神を倒し、タメシヤ様に挑むには時間が足りなすぎる。そう思わないか?」
『……そういゃぁそぅっすね。まあ俺は今の親父の方針としておそらく地元でガテン系就職するだろうけど皆はどうするとか決めてるんスか?』
「……私はこの壇条学院卒業後、御鐵院グループの将来を背負う日に備えて海外の大学に行くことが決まっている。
雲隠は……ご両親の医院を継ぐために医大を目指すのか?」
「ああ、雲隠医院を継ぐかはわからないけど医大受験は目指すつもりだ」
「ウチは……何も決め取らんかった。絵え描くのが好きやけどアーティストで左団扇なんてのは無理やろなあ。美大受験も金かかるやろしなあ……」
「私も特に……看護師とかって資格を取ればなれるのかなぁ?」
オカルト研究会部室は『将来の不安』と言うどんよりとした思春期ムードに包みこまれる。
「ええと、まあそれはそれとして……私なりに色々考えてみたんだ。話していいか?」
茜は鞄から紙が入ったクリアーファイルを取り出し、ホテキス止めされた中身を3人に配る。
「須田丸、そのアプリは資料ダウンロードも出来るからお前はそれで見てくれ」
『おう、分かったぜ! ええと……こうだな、何々『迷処心得十条』なんだこりゃぁ?』
「これは……!?」
「ああ、これはかつて雲隠家が所持していたマヨイガの儀に挑まんとする者に課されたルールブック。それをゴブガミ殿に頼んで現代語訳復元してもらった物だ。カラーペンでマークされた七条四項と二条十項とを見てほしい」
「ふむふむ、七条四項:マヨイガ紋無き者は宮に入れない。 二条十項:対応する紋を持つ者がいれば同行人数問わず……つまり、どういう事だ?」
「ああ、そのレギュレーションを読んで考えてみたんだが……二手に分かれて並行探索すると言うのはどうだろうか?」
探や美香はおろか、英里子でも絶対に思い至らなかったであろう茜の奇策に4人は言あっと息を呑む。
【第39話に続く】
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