ダンジョンマスター先輩!!(冒険に)付き合ってあげるからオカルト研究会の存続に協力してください!

千両文士

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第35話

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「はあ、はあ……あと少しだ」
「先輩、頑張ってください! 私も……まだいけます!」
 茜の全身を覆う幾重もの層となった蜘蛛の糸。気道確保のため口の辺りの糸層をほぼ剥がし終えた探が人工呼吸を再開しようとしたその時、緑色の光がミイラ巻き内から漏れ出す。
「えっ、これって……」
『ウィンドチヤージ』
 茜を拘束するそれは緑の光を放ちながら車のエアバッグのように膨れ始め、中からバリバリ音が聞こえだす。
『ウィンドリッパー』
「茜さん!」「生徒会長!」
 一瞬で中から引き裂かれてバラバラになったエアバッグから出て来た無傷の茜。
 衰弱してはいるが目立った外傷もなく、自力で呼吸する様に2人は安堵の息を吐く。
「探さん……」
「御鐵院さん、無事で何よりだよ……」
「うわぁぁぁん、ありがとう! 本当にありがとう! 怖かったよぉぉ!」
 安堵のあまり探にしがみついて大声で泣く茜。
「先輩ぃ、私も頑張りましたよぉぉ!! 褒めてくださぁい!」
 そしてどさくさに紛れて探にしがみつく美香。探はそんな2人の背中を優しく叩く。

「雲隠さん……なにハーレムごっこやっとるんや?」
「えっ英里子ちゃん!?」
 須田丸君にお姫様抱っこされたままスマホカメラを構えている英里子。
「フルヌードのお姉さん……? 露出狂お姉さん…… ? 裸族のお姉さん…… ??」
 英里子を抱えたままヴォルトアクセラートで2人を助けに来た須田丸は雲隠さんが華咲さんと素っ裸のセクシー美女を左右にはべらせていると言う衝撃光景に英里子を抱きかかえたまま心身共にフリーズしている。
「なっ、あなた、まさか……まさか……」
 蜘蛛女に身ぐるみ剥がれて丸裸にされていた事を今更のように思い出した茜は慌てて体を隠す。
「おう、ばっちりやで!」
 英里子はサムズアップする。
「今すぐそれを消しなさい! さもないと廃部どころか退……が…… く」
 英里子のスマホを奪おうと立ち上がった茜は膝をついてしまう。
「須田丸君、僕と美香さんはこの人を連れて緊急脱出する。君も英里子部長とそのまま緊急脱出してくれ」
「雲隠さん、その全裸デカボインのせいで純朴な須田丸君は気絶しとる。ウチが巻き込み緊急脱出するわ」
 美香のマントを素肌上に羽織った茜が睨むのも気にせず、英里子はステータス画面を開いて緊急脱出スキルを使う。

「あれっ……ここはどこだ?」
「部室ではないですね? どこなんでしょうか?」
 緊急脱出で迷処山頂の大桜の下に出るはずだったが、天井から大きなシャンデリアが下がって豪華な内装の白く美しい見知らぬ部屋に出てしまった5人は戸惑う。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
 そんな5人に恭しく一礼するのはスーツ上下に身なりの整った白髪の老人男性だ。
「爺や!? じゃあここは……」
「はい、そうでございます。ここはマヨイガタワーの最上階でございます」
「良かった、帰れたの……ね」
 迷処町内唯一の超高級マンション、マヨイガタワー最上階の自宅に戻り、緊張の糸が切れた茜はおぼつかない足取りで立派なソファーに向かい、制服姿のまま倒れこんで寝息を立て始める。

「改めまして壇条学院オカルト研究会マヨイガ探索隊の皆様。私は御鐵院家に仕えるお嬢様の世話係、宮守(みやもり)でございます」
 茜の無事を確かめた宮守はお茶を用意する。
「はじめまして、華咲 美香です」
「オカルト研究会部長・呉井 英里子や、よろしゅうな」
「俺は隣町の県立工業高校2年生の蓑田 須田丸です」
「お久しぶりです、宮守さん。雲隠 探です」
 見たこともない美しい白大理石のテーブルに座り、いい香りの紅茶を出された4人は丁寧に挨拶する。
「雲隠殿、お久しぶりです……ご立派になられましたな。この度はマヨイガ異世界に迷い込んだお嬢様をお助けていただき誠にありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ……って何でそこまでご存知なんですか?」
「ええ、皆様がいらっしゃる前にこれまでの事を全てこの人ならぬ方にお聞きしました」
 そう言いつつ宮守が取り出したスマホに表示されていたアドレス帳。
 電話番号、名前と共にその画面に表示されていた上目遣いで両手をピースにして舌を出した白狩衣に烏帽子の若い男のプロフィール写真。
「宮守さん、とりあえずごめんなさい…… うちの顧間が大変な失礼をいたしました」
 仮の姿とは言え色々やらかしたであろうアヘ顔ダブルピース顧間の非礼を探は詫びる。
「いえ、お嬢様の危機をお知らせに参った神様がどうせ登録するなら変顔写真でアドレス帳登録して欲しいと言うので……最近ネットで見た若者に大流行だと言う面白ポーズを私が提案したのでございます」
(あんたかよ!) 4人は心の中で叫ぶ。
「そしてゴブガミ殿が言うには結果良ければすべてよしとは言わない……だが、茜お嬢様を命の危機に晒したマヨイガ入り体質の件で雲隠さんを責めないでくれとの事でした」
「マヨイガ入り体質?」
 初めて聞く新用語に須田丸は聞き返してしまう。
「ああ、そうか。須田丸君には話していなかったか。個人的な長い話になってしまうんだが……」
 探は幼少期のから壇条学院オカルト研究会・マヨイガ探索隊結成に至るこれまでを話す。

「雲隠さん、あんたすごいんだな……まさに漢の中の漢だぜ」
 戻れるとは言え、時と場所を問わずに危険な異世界迷宮に放り込まれる……同年代とは思えない程物静かで落ち着いた心優しきクールイケメンの孤独で壮絶な過去を知った須田丸はそのサバイバル力とメンタルタフネスっぷりにただただ感嘆する。
「ありがとう、須田丸君。宮守さん、ここまで聞いたならお分かりだと思いますが僕はマヨイガ探索隊のリーダーとして茜さんをこれ以上危険にさらすわけにはいきません。
 オカルト研究会部室の神棚はとにかくとして、最低でもあの迷処山の大桜下には近づかないように茜さんに伝えてもらえませんか?」
「かしこまりました、雲隠様」
「宮守、勝手に話を進めるな」
 目を覚まして話を聞いていた茜はソファーから身を起こし、そのまま立ち上がってテーブルに座る。
「お嬢様! お目覚めだったのですか?」
「ええ、そうよ。それより宮守、お茶をいただけないかしら?」
「はいっ、直ちに!」
 宮守は紅茶を滝れ直しに台所へ向かう。

【第36話に続く】
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