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第32話

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「昔からそうだが……姉ちゃんはいつも人使いが荒いぜ。(まあそういうところも魅力なんだが!)」
 マヨイガ探索隊メンバーとして英里子に招集された須田丸はバイクを迷処山中腹の駐車場に停め、山頂へ向かうトレッキングロードを歩いていた。
「しかもスマホの動画モードをONにしてレンズが出るように胸ポケットに入れておけだなんて、何をするつもり何だろうか? ええと、これでいいんだよな?」
 須田丸はスマホを操作して胸ポケットに入れる。

「来てくれたのね、さぐる……雲隠先輩!!」
 山頂の大桜に到着した須田丸を出迎えたモノ。ベタなアオハルラブロマンスの如く葉桜ので愛の馴れ初めを演じる雲隠さんと壇条学院の制服を来た見知らぬ大柄な女、グラサンとサンバイザーにメガホン持ちで2人を監督する英里子、そして嫉妬丸出しで爪噛みする華咲さんだ。
(お疲れさまっす、華咲さん!)
(須田丸君、来てくれたのね! ごめんね急に呼び出して……)
(いや、それはいいんですけど……学園祭の出し物の練習でもしているんすか?)
(そうじゃないの、これはマヨイガを開くための重要儀式よ)
(このアオハルラブロマンスでマヨイガが開くんスか!? マジで!?)

「本当にありがとう、嬉しいよ!」
 戸惑う須田丸の前で一連の流れを終え、最後に美香のラブレターを開いた探。
 次の瞬間……木の根元から浴れ出した光の奔流が探と茜を押し流し、その他3人もその濁流に呑み込まれて意識を失う。

「須田丸君! 須田丸君!」
「うっ…… ううん、英里子姉ちゃん?」
 氾濫した三途の川の濁流に押し流された須田丸は目を開ける。
「うぎゃああ! 奪衣婆だあぁぁ!」
 腹の上にまたがって顔を見下ろしていた般若に須田丸は悲鳴を上げる。
「だれが奪衣婆やとコラア!」
 この前のヴォルトヤマアラシ戦で壊れてしまったスチームパンクヘルメットの代わりで試着していた頭防具『般若の面』で誤解された英里子は須田丸に叫び返す。
「英里子ちゃん、落ち着いて! 須田丸君も早く装備を選ばないと!」
「ここは……例のマヨイガなのか?」
 この前の発電機ブロックの壁とは違う白亜の大理石で造られた古代遺跡のような部屋。
 美香に促されるまま、須田丸は部屋の奥に置かれた大きな宝箱に向かう。

「雲隠さん、つまりあの女はアンタを追い回していたヤンデレストーカーだがこれまでの展開的にあいつを救出すれば5人チームで挑むマヨイガ探索隊メンバーが揃う可能性がある……そういう事なんだな?」
 火乃宮のセーフティルームに漂着したオカルト研究会マヨイガ探索隊の4人。
 簡易スクリーンカーテンの向こうで美香と英里子がマヨイガ探索装備に着替えている間、これまでの事情を聞いた須田丸は探が宝箱にストックしていたと言う全身を覆う重鎧・ダークメタルメイルを装着しつつ確認する。
「ああ、そういう事なんだ。あとは蓑田君が使えそうな武器が確かここら辺に……あった!」
 そう言いつつ探が取り出したのは巨大な鉄塊の如き籠手だ。
「これは『大籠手』って言う腕に装備する攻防一体型の打撃武器なんだけど……重過ぎて誰も使えなかったから放置せぎるを得なかったんだ」
 武器の心得はなく体術も我流喧嘩技と英里子に教わったプロレス技だと言う須田丸でも使えそうな装備をチョイスした探は試着を促す。
「おっ、おお……すごいフィット感! そして安定した重量感! まさに俺のためにある武器っすね、雲隠さん!」
 重鎧で全身を覆い大籠手を装備して重装甲戦車もののふと化した須田丸は気持ちよさのあまりシャドーイングし始める。
「おお、ええやないの須田丸君! 君が居れば千人力どころじゃないで!」
 全ダメージ軽減【中】効果を与える特殊装備効果『人魚族の祝福』が付与された紺色の晒型胴装備『マーメイドスピリッツ』だけを胸に巻いた上半身裸にホットパンツとブーツ。そして魔力消費減【大】効果を与える特殊装備効果『般若』が付与された頭装備『般若面』を頭に装備した英里子は須田丸を威勢よくヨイショする。
「むっむむ……ムネマキカワイイ、ヘソ……ウツクシスギル!」
 3年もの間チンピラヒャッハー野郎地獄に堕とされていた須田丸は、あまりにも魅惑的で刺激的すぎる英里子の美へそアピール半裸装備に語彙を失う。
「英里子部長、この前の装備が壊れたとはいえ……そんな薄着で大丈夫なのか?」
「雲隠さん、女の子がこういう露出度高い服チョイスした時は開口一番カワイイとかセクシーの一言でも言うべきや。美香ちゃんとの今後の為に覚えといた方がええよ。……この前の失敗を繰り返さんためにもウチのマヨイガエレメントで試してみたい事があるんや」
「それならいい。ただ以前にも増して防御力が落ちていると言う事実は忘れないでくれ」
「わかっとる。このほぼ裸装備チョイスも作戦の内やで、大丈夫や」
「よし、じゃあ皆……行くぞ」
「おうっ!」
 雲隠リーダーの言葉に3人は答える。

「……先輩、この展開ってまさか」
 命の気配が全くしない薄暗い火乃宮、その黒い岩壁を覆う白く乾ききった糸。
 あの時のトラウマが戻りつつある美香は思わず先輩の腕を掴む。
「こりゃクモの巣だな」
 須田丸は壁の糸を少し剥がし、調べてみる。
「つまりあいつが生きとるという事なんかのう? ほんで水乃宮の女王イカみたいな事やってもうたんじゃないやろな? 美香ちゃん、ウォーターエコーはどうや?」
「…… 1ケ所だけものすごい数の生体反応密集地帯があるわ。方向と距離的にはこの広間かしら?」
 英里子はステータス画面からダンジョンマップを開き、円形ドーム大広間の辺りを指し示す。
「僕のヒートエコーでも同じ反応が出ているな……とにかくそこに行こう!」
 目的地を共有した4人は警戒しつつ駆け出す。

「ひい、ふう、みい、よお……もののふ達も随分な大所帯になったものねぇ?」
 火乃宮の広間に鎮座する蜘蛛の下半身から黒いボンテージを巻いた若い人間の女上半身を生やした魔物、クイーンアラネイア。英里子覚醒時の岩棘で失った右目に眼帯をつけていた彼女は部下をフェロモンで操ってマヨイガ中に張り巡らさせておいた蜘蛛の巣センサーでオカルト研究会メンバーの動向を完全把握。
 ようやく訪れた復讐のカウントダウンに胸を躍らせる。
「うう一っ! あっ、あうっ! ああぅ!」
 そんな復讐者に囚われた御鐵院 茜。被服を全て引きちぎられた彼女は蜘蛛の糸で腕を縛られて天丼から吊るされており、冷たい金属製の開口機を取り付けられていた。
「あら、そんなにコレが欲しいの? おあずけが辛いだなんて……欲張りさんね!」
 茜を引き寄せたクイーンアラネィアはその美しく鍛えられた肉体を愛で回しつつ顎を持ち上げ、黒い透明なゼリー球がたっぶり詰まった白い泡塊で顔をペチペチする。
「んん一っ! う一っ! うう一っ!」
 茜は必死で首を横に振り、拒絶の意思をしめす。
「うふふ、そんなに喜んじゃって! 心身共に母性浴れる貴女ならまちがいなくいいママになれるわ……チュッ!」
「ううっ……ううう」
 魔物の冷たいキス、どうあがいても助からないであろう悲劇に茜は涙がこばれる。
「キキッ……キチチチ」
「ええ、分かっているわ……復讐の始まりよ」
 蜘蛛女は部下に人質を預け、戦闘態勢に入る。

【第33話に続く】
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