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第12話
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「とりあえずこれで……先輩、もういいですよ!」
水乃宮内、セーフティルーム。デーモングッソーから逃げる途中で上半身トップレスになってしまった人魚族の少女エレミイにアイテムBOXから取り出した服を着せ、怪我の治療を終えた美香と英里子はお着換えスクリーンを撤去しつつ探を呼ぶ。
「ありがとうございます……水のもののふ様に土のもののふ様」
「美香でいいわよ、エレミィさん」
「ウチは英里子や、よろしゅうなデカパイ人魚さん」
かつて異世界から試練で来訪していたと言う人間の『もののふ』。
祖父が祖父のそのまた祖父から聞いたと言う野蛮で粗野な男共とは全く違う清楚でお淑やかなお嬢様に口は悪くてガサツだが気風のいい女の子。
「エレミィさん初めまして、僕は火のマヨイガエレメント使いの雲隠探です」
「雲隠さま、助けていただき本当にありがとうございます!」
そして女性と見間違えるような端正な顔立ちのイケメンにドキドキしつつもエレミィは礼儀正しく対応する。
「もののふ様という事は……我らが主たるマヨイガ五武神様に挑むためにこの宮に参ったのでしょうか?」
「ああ、僕達はマヨイガの儀に挑んでいて……五武神を倒すためにここに来たんだ」
「そうだったんですね、雲隠様。申し上げにくいのですが……今は無理かと思います」
「なっ、なんやて……それどういう意味や?」
エレミィの言葉に英里子は思わず突っ込む。
「私達は五武神様の命でこの水乃宮に集落を作り、マヨイガの儀に挑むもののふ方の手助けを行って参りました。ですが……しばらく前にこの宮に原生するマザーグッソーとそれが産むデーモングッソーが原因不明の流行病で狂暴化と巨体化。五武神様の間に強引に押し入って占拠し人魚族の武人でも討伐不可能な程に大量繁殖してしまったのです」
「デーモングッソーってさっき貴女を追いかけて逆さにしていたあいつ?」
「はい、そうです……おそらくアレは私を捕えて血抜きをし、新鮮なうちにマザーゲッソーに食料として献上するつもりだったんでしょうね。だからすぐに……頭を噛み千切らなかった、のかもしれません」
死の恐怖を思い出してガタガタ震えだすエレミィを美香は落ち着かせる。
「もののふ様! どうか私達を助けてください! このまま食われて死ぬのを待つなんて……もう耐えられません! ううっ……」
「雲隠リーダー……乗り掛かった舟や。殺られるか殺るかと言われたら殺るしかないやろ?」
「そうですね、どのみち私達も先に進まなくてはいけないわけですし……」
「ああ、わかっている。まずはこのマヨイガに住むエレミィさんを人魚族の集落まで送り届けないと……そこまでどれくらいあるんだ?」
「ええと……私がハイドロジェットを使って最短ルートで一気に駆け抜ければ数時間で着きます。ですが……デーモングッソーやその他の魔物との戦闘を極力回避しつつの陸路となると何日かは見積もった方がいいかもしれません」
「……そんなに長期間ここに居続けていいのか?」
「そうですよね……私達には学生の本分もあるから、数時間単位でここを探索していたわけですし」
「魔物が入れんセーフティルームをベースキャンプにしてもエレミィちゃんとウチら3人分の飯を用意せんとならんしなあ……」
『新着メッセージあり:1件、ゴブカミより』
3人は新着メッセージのお知らせ吹き出しを触る。
『ゴブカミ先生のマヨイガ探索tip vol.02
良い子の諸君! マヨイガの世界と人間世界はリアルタイム連動していないんだ! つまり時と○神の間みたいに何日居続けても大丈夫…… しかもステータス画面から人間界の時間確認とアラーム設定まで可能なんだ! 子供は風の子、心ゆくまで探索したまえ!』
「先輩、この伏字が入った時とナントカの間ってわかります?」
「ううん……知らないなぁ」
「はぁ、この俗物っぷり……あの人ほんまに神様なんやろか? まあええわ。ウチらはここらの地理に明るくないからエレミィちゃん道案内頼むで」
「お任せください、もののふ様!」
心優しきもののふの言葉にエレミィは歓喜の涙を流しつつ、平身低頭感謝するのであった。
「ははは、これはこれは……面白い展開になりそうだね!」
薄暗い板張りの間。燭台上の和ろうそくを囲みつつ大きな鏡で水乃宮のセーフテイルームの様子を見ていた白狩衣に烏帽子と仮面の3人。
「何が可笑しい!」
楽しそうにグラゲラ笑う若者に黒髪ロングヘアの若い女性がヒステリックに叫ぶ、
「おかしいも何もないよ。キミの管理する水乃宮がこんな事になっていたなんてさぁ……職務怠慢、管理責任放棄にも程があるよ!」
「口を慎め青二才! ミズノミヤの責を問うのは後だ! だがこれは……まさにもののふらの勇と儀を試す試練に相応しい。我としてはこの件をもののふ達に任せるのが適任だと思うが異はあるか?」
「異議あらず」「異議あらず」
「……ではこの件、もののふ3人に任せてみよう」
マヨイガ五武神会議の司会進行役のマッスル白狩衣は和ろうそくを吹き消す。
【第13話に続く】
水乃宮内、セーフティルーム。デーモングッソーから逃げる途中で上半身トップレスになってしまった人魚族の少女エレミイにアイテムBOXから取り出した服を着せ、怪我の治療を終えた美香と英里子はお着換えスクリーンを撤去しつつ探を呼ぶ。
「ありがとうございます……水のもののふ様に土のもののふ様」
「美香でいいわよ、エレミィさん」
「ウチは英里子や、よろしゅうなデカパイ人魚さん」
かつて異世界から試練で来訪していたと言う人間の『もののふ』。
祖父が祖父のそのまた祖父から聞いたと言う野蛮で粗野な男共とは全く違う清楚でお淑やかなお嬢様に口は悪くてガサツだが気風のいい女の子。
「エレミィさん初めまして、僕は火のマヨイガエレメント使いの雲隠探です」
「雲隠さま、助けていただき本当にありがとうございます!」
そして女性と見間違えるような端正な顔立ちのイケメンにドキドキしつつもエレミィは礼儀正しく対応する。
「もののふ様という事は……我らが主たるマヨイガ五武神様に挑むためにこの宮に参ったのでしょうか?」
「ああ、僕達はマヨイガの儀に挑んでいて……五武神を倒すためにここに来たんだ」
「そうだったんですね、雲隠様。申し上げにくいのですが……今は無理かと思います」
「なっ、なんやて……それどういう意味や?」
エレミィの言葉に英里子は思わず突っ込む。
「私達は五武神様の命でこの水乃宮に集落を作り、マヨイガの儀に挑むもののふ方の手助けを行って参りました。ですが……しばらく前にこの宮に原生するマザーグッソーとそれが産むデーモングッソーが原因不明の流行病で狂暴化と巨体化。五武神様の間に強引に押し入って占拠し人魚族の武人でも討伐不可能な程に大量繁殖してしまったのです」
「デーモングッソーってさっき貴女を追いかけて逆さにしていたあいつ?」
「はい、そうです……おそらくアレは私を捕えて血抜きをし、新鮮なうちにマザーゲッソーに食料として献上するつもりだったんでしょうね。だからすぐに……頭を噛み千切らなかった、のかもしれません」
死の恐怖を思い出してガタガタ震えだすエレミィを美香は落ち着かせる。
「もののふ様! どうか私達を助けてください! このまま食われて死ぬのを待つなんて……もう耐えられません! ううっ……」
「雲隠リーダー……乗り掛かった舟や。殺られるか殺るかと言われたら殺るしかないやろ?」
「そうですね、どのみち私達も先に進まなくてはいけないわけですし……」
「ああ、わかっている。まずはこのマヨイガに住むエレミィさんを人魚族の集落まで送り届けないと……そこまでどれくらいあるんだ?」
「ええと……私がハイドロジェットを使って最短ルートで一気に駆け抜ければ数時間で着きます。ですが……デーモングッソーやその他の魔物との戦闘を極力回避しつつの陸路となると何日かは見積もった方がいいかもしれません」
「……そんなに長期間ここに居続けていいのか?」
「そうですよね……私達には学生の本分もあるから、数時間単位でここを探索していたわけですし」
「魔物が入れんセーフティルームをベースキャンプにしてもエレミィちゃんとウチら3人分の飯を用意せんとならんしなあ……」
『新着メッセージあり:1件、ゴブカミより』
3人は新着メッセージのお知らせ吹き出しを触る。
『ゴブカミ先生のマヨイガ探索tip vol.02
良い子の諸君! マヨイガの世界と人間世界はリアルタイム連動していないんだ! つまり時と○神の間みたいに何日居続けても大丈夫…… しかもステータス画面から人間界の時間確認とアラーム設定まで可能なんだ! 子供は風の子、心ゆくまで探索したまえ!』
「先輩、この伏字が入った時とナントカの間ってわかります?」
「ううん……知らないなぁ」
「はぁ、この俗物っぷり……あの人ほんまに神様なんやろか? まあええわ。ウチらはここらの地理に明るくないからエレミィちゃん道案内頼むで」
「お任せください、もののふ様!」
心優しきもののふの言葉にエレミィは歓喜の涙を流しつつ、平身低頭感謝するのであった。
「ははは、これはこれは……面白い展開になりそうだね!」
薄暗い板張りの間。燭台上の和ろうそくを囲みつつ大きな鏡で水乃宮のセーフテイルームの様子を見ていた白狩衣に烏帽子と仮面の3人。
「何が可笑しい!」
楽しそうにグラゲラ笑う若者に黒髪ロングヘアの若い女性がヒステリックに叫ぶ、
「おかしいも何もないよ。キミの管理する水乃宮がこんな事になっていたなんてさぁ……職務怠慢、管理責任放棄にも程があるよ!」
「口を慎め青二才! ミズノミヤの責を問うのは後だ! だがこれは……まさにもののふらの勇と儀を試す試練に相応しい。我としてはこの件をもののふ達に任せるのが適任だと思うが異はあるか?」
「異議あらず」「異議あらず」
「……ではこの件、もののふ3人に任せてみよう」
マヨイガ五武神会議の司会進行役のマッスル白狩衣は和ろうそくを吹き消す。
【第13話に続く】
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