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第一章:『新たなる試練』

【第1話】

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 関東近郊某県にある地方都市の1つ、迷所(まよいが)町。
 かつてここを拠点とし大武神タメシヤノミコト様を一族代々擁する二大氏族、神職の雲隠家と武家の御鐵院家。

 その試練を乗り越え冥加を得た武人は戦場で矢を射れば百発百中、策を用いれば成功必須、そしてほぼ必ず敵の首級を上げてくると名高い武人ばかりであり、それに倣って冥加を得んと多くのもののふが『マヨイガの儀』に挑戦。

 大武神の命でその挑戦者をサポートする立場にあった雲隠家と御鐵院家はその加護を得た軍事力と莫大な財力により強大な力を有したものの……時代の変化と数々の戦乱により滅亡。

 かくして大武神タメシヤノミコト様とマヨイガの儀は人々の記憶から消え、歴史の闇に埋もれて顧みられる事は無く消えていった……のであった。

 そんな運命に抗うかのごとく20数年前、運命の悪戯と見えぎる神の手により数百年ぶりに蘇った五武神宮の1つ、氷のブロックで作られた地下迷宮・水乃宮。
「うふふ、今日はタケルと探さんが大好きなこんにゃく煮よ!!」
 ブルービキニ上下にサンダル、シースルーパレオ姿で魔導杖を背中に差し、買い物袋片手に上機嫌で歩く魅惑的なエレガントセクシー美女。
 20数年前に雲隠の血を継ぐ末裔、雲隠探とオカルト研究会メンバーと共にマヨイガの儀を完遂した水神紋のもののふ・雲隠 美香(くもがくれ みか)は買い物と人魚族への届け物ついでに水乃宮巡回と言う名の散歩を楽しんでいた。
「ウォーターエコーに危険な魔物の気配は無し……」
 知り合いである人魚族の保全管理に感謝しつつ歩いていた彼女は何か動くモノに気がつく。
『エレメントプラス・アイス!!』
「何者!? 出てきなさい」
 愛用の魔導杖・エターナルラバーを抜き、先端を氷で覆って槍にした美香はその切っ先を隠れた未知の敵に向けつつ叫ぶ。
「にゃあお?」
「猫……? どうしてこんな所に? ステータスオープン!」
 ダンジョンの曲がり角から顔を出した金色の瞳の黒猫に美香は目を疑うが、すぐに魔物やアイテムの情報を調べるためのアイテムスキャナーを起動させる。
「みぃ……」
「あっ、ちょっと待って!!」
 水乃宮に生息しないはずの猫の正体を探ろうと美香が迷宮の角を曲がって暗がりに入ったその時、目の前が真っ暗になる。
「あっ……うわあぁああ!!」
 突如現れた黒い粒子のようなものに全身を覆われた美香はそれに取り込まれるように縮小化して消失。
 
 そこに残されたのは青いビキニ上下とサンダルにシースルーパレオ、そして魔導杖エターナルラバーのみだ。
「にぃやぁおおおん……」
 それを見届けた黒猫は満足気に喉を鳴らすと水乃宮の暗闇に消えて行った。

 この怪事件から数日後……マヨイガ最深部にある管理者エリア、神ノ間。
 マヨイガ五武神の長たる巫女少女武神・タメシヤノミコト様により招集された白狩衣に烏帽子の五武神達とその眷族魔物&式神。

 火乃宮を司る翁の武神・ヒノミヤノミコトとその眷族式神の小鬼タタラ。

 水乃宮を司る黒髪ロングヘア美女の武神・ミズノミヤノミコトとその眷族魔物たる人魚族の戦士、マーマンウォーリアーのゼド。

 五武神のリーダーにして地乃宮を司る筋肉GUYの武神・チノミヤノミコト

 鳴神乃宮を司る少年武神・ナルカミノミヤノミコトとその眷族機械魔物のシルバーデストロイメン。

 風乃宮を司る細目イケメン武神・カゼノミヤノミコト……通称ゴブガミとその眷族式神姉妹のライ&フウ。

「タメシヤちゃんにみんな、ホンマこれどうなっとるんや? のう?」
 そんな大所帯を見回しつつメンチを切るのは元・壇条学院オカルト研究会部長にして地神紋を授かりしもののふ、呉井 英里子(くれい えりこ)。
 無手勝流、天上天下唯我独尊を絵にかいたような小柄な丸眼鏡の英里子はドスの効いた声で目の前で黙り込むタメシヤノミコト様と五武神達、その眷族魔物&式神達に問う。

「チノモノ英里子様、お気持ちは分かりますが……流石にモノには言い方が……あるっすよ」
「そうだぞ呉井、気持ちは分かるが落ち着け。タメシヤ様方を恫喝して済む問題ではなかろう」
 元・壇条学院オカルト研究会ヒラ部員にして風神紋を授かりしもののふ・御鐵院 茜(みてついん あかね)と若きマーメイドウォーリアーのツミレは神ノ間の会合に参加している雲隠家の双子、雲隠 武(くもがくれ たける)と雲隠 愛美(くもがくれ えみ)に付き添いつつ喧嘩っ早い英里子を止める。

「そうだな、雲隠のアニキ……いや、探さんとゴブガミさん。まずは情報共有から頼めるか」
「ああ、分かった」
 現在はミテツイングループの関連研究所に理系研究職として勤務する大柄な理系マッチョガイ。
 元・壇条学院オカルト研究会外部協力者で雷神紋を授かりしもののふ、蓑田 須田丸(みのた すだまる)の提案にマヨイガ探索隊リーダーの雲隠 探(くもがくれ さぐる)は立ち上がる。

「つまり、美香ちゃんは……スッポンポンになって煙みたいにドロンと消えてもうた。そういう事やな? リーダー?」
 現場に残された美香の被服と装備の話を探から聞いた英里子は頭を抱える。
「まさかマヨイガ限定とは言え半裸族の美香ちゃんが全裸族に進化したなんて事はないやろうし……戦闘の痕跡や残留魔力の類はどうなんや?」
「戦闘の痕跡は全くなかったし、本人やその他のモノの魔力反応もそこから数歩先以降の移動痕跡は無し。唯一あるとしたら……美香さんがアイテムスキャナーを起動させた痕跡があったんだ」
「アイテムスキャナー? どういう事や?」
「何か未知の物に遭遇した……と考えるのが自然であろう」
「未知のもん言われてもなぁ……」
『私をお呼びのようだね?』
「!?」
 暗闇の奥、どこからともなく聞こえる声にその場の全員が身構える。

【2話に続く】
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