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【第三章:エデン第一区画/旧動植物研究所ビオトープエリア】

【第23話】

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『なるほど、事情は分かった!! 要するにお前のボスの計画がうまくいきゃあ俺とサン博士、お前に8体。合計11体の大所帯になれるっちゅう事じゃねえか』
エデン第一区画、旧動植物研究所ビオトープエリアの獣道で上位管理者アンドロイド・リュートの部下、スパイダーメイド七人衆の蜘妹の糸による奇襲で地面に傑られたモンキーマン。
攫われる直前に博士が装着し終えていたキンコジュで新たな仲間となった人型戦闘用アンドロイド・カッパマンの油液散布で粘着力を無効化し、拘束から抜け出す事に成功したモンキーマンはさらわれたサン博士を救うべくカッパマンの案内で樹海の奥にある敵の拠点を目指して疾走する。
『ええ、ワタクシも主様とサン様の関係性を考えればそれが理想の最適解だと言う事は重々承知でございます。
ただこうしてサン様の配下となったワタクシが恐れているのは……それが上手く行かなかった場合のサブプランなのです』
モンキーマンと並行してニンジャダッシュするカッパマンは頭に巌められた金色のキンコジュをそろりと撫でつつ言う。
『サブプラン?』
『ええ、リュート様のお話によりますと……』

時を同じくして、エデン第一区画内。かつては迎賓館でもあった洋館。
『……どう、美味しい?』
部下の蜘妹アンドロイドメイドに命じてサン博士を閉じ込めた貴賓室に大皿に盛りつけたフィナンシェとマドレーヌ、クッキーと紅茶を運ばせてきたリュート。
「はい、とても美味しいです」
敵地潜入任務で囚われの身となった状況下で何を仕込まれているかわからないこのようなモノに手を付けるべきではないのだが、10年ぶりの人間の客人に自慢の菓子を振る舞えると言う喜びと期待でワクワクな表情の戦闘用アンドロイドを前に拒否しようものなら何をされるかわかったものではない。
セクシーランジェリー上にバスローブを羽織ったサン博士は至近距離でじっと見つめて来るリュートに気取られないようにゆっくり味わっている演技で慎重に毒味し、安全確認しながら懐かしの洋菓子をかじる。
『そうよね!! もう何年も焼き菓子なんて作っていなかったからきちんと出来ているか不安だったけどサンちゃんに喜んでもらえてよかったわ!!』
(私だってもう一度マリィさんのお菓子を食べられるなんて思っていなかったけど……そんな反応をされちゃうとどうすればいいのか……)
『紅茶に浸したマドレーヌの香り』ではないが、人類全体の命運と自身の幸せな記憶の狭間で揺れ動くサン博士。
目の前で優しく微笑むこの女性はかつてのマリィ店長ではなく今や戦闘用アンドロイドであり、任務のために完全破壊しなくてはならない6体の内の1体である。
気を抜けば毒見である事を忘れてしまいそうなほどに懐かしくて甘美なフィナンシェやマドレーヌを咀嚼しつつサン博士は電撃銃もナイフも無い生身の徒手空拳で上位管理者アンドロイド・リュートを破壊する手段が無いか思考する。

『人類の命運と私の気持ち……どっちを優先すればいいの?』
「!? げほっ、げほっ……げほぉん!!」
心を読まれたかのような言葉の不意打ちで咀嚼中のフィナンシェ塊をのどに詰まらせかけたサン博士はすぐにティーカップの紅茶を一気飲みする。
『まあ大変、そんな熱いのを一気飲みしたら喉を火傷しちゃうじゃない!!
ジェインちゃん、すぐにお冷を!!』
『かしこまりました』
すぐに大皿とティーセットを載せて来た横の台車の氷水のピッチャーを取り、切子のグラスに注いでサン博士に渡すジェイン。
「あっ、ありがとうございます……ジェインさん」
『どういたしまして、フトウ様』

長い金髪を後ろでエレガントに丸くまとめた蜘蛛メイドアンドロイド七人衆のリーダー。
SYK-72-01・ジェインは人型アンドロイド用特殊ゴム外皮で造られた顔で目を細くして微笑む。
『ありがとう、ジェインちゃん。
それで、フトウちゃんも私も幸せになれる方法を考えてみたんだけど……あれをお願いできるかしら?』
『了解しました、主様』
リュートに命じられたジェインはシャカシャカと部屋を出て行く。

【MMS 第24話に続く】
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