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第三章:『挟撃のハルメン平原!! 聖魔王子VS二大魔獣!』

【16話】

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「リィナさん!!」
『グワル!!』
「ぐっ!!」
 ウルフリーダーがけしかけてきたウルフの群れを『茨の奇跡』で縛り上げ、『退魔の奇跡』の追撃で蒸発消滅させたローランはそのままウルフリーダーとの一騎打ちに突入。
 そんな中でゴブリンキングの咆哮と逆さ吊りにされたリィナに気づいたローランはすぐに『茨の奇跡』を遠隔解除。
 その隙を逃さず大口を開け、首を狙ってきたウルフリーダーの牙をバックジャンプでかわしたローランはその反動を活かして聖剣フェルティーレを上に振り抜く。

(くそっ、こいつ……強いぞ!!)
 大剣による渾身の不意打ちを紙一重でかわし、バックジャンプで距離を取ったウルフリーダーを前に次の手を考えるローラン。
 聖剣フェルティーレが神の祝福を受けたただの大剣ではない事はさておき、狂魔化で尋常ならざる動体視力と見切り力、さらには強化体幹も獲得した事で、爪と牙も併用した二足歩行での接近戦も可能となったウルフ相手に振り幅が大きくならざるのみならず構えも必須な武器は無用の長物。
『慈愛の奇跡』で敵の戦闘思考を大まかに読み取る事でどうにか同じ土俵に立ててはいるがそれでも一進一退でリィナさんを助けに行く余裕はない。
(ひとまず敵がよそ見しているにも関わらず攻撃意思が見られないと言う事はこいつも僕と同じく回復を要する程に疲労しているのは間違いない……だが、もし背を向けて走り出そうものなら襲ってくるだろう。どうすればいいんだ!?)
 ローランが逆さづりにされたリィナの無事を横目で確かめつつ眼前で呼吸を整える敵に警戒していたその時だった。
(ゲヘヘ、コイツ、メスダ!! オデトオナジダ!! ワカクテ、イキノイイ、メスダ!!)
「んんっ!?」
『ガウッ!?』
 ウルフリーダーの戦闘思考を先読みすべく、発動させ続けていた『慈愛の奇跡』に混じり込んだ奇妙なノイズ。
 場違いそのものなとんでもない事をのたまう何者かの思考に奇声をあげてしまうローラン。
 何の脈絡もなくすっとんきょうな声で猫おどししてきた敵に驚いた狼魔物は一瞬ビクッとしつつも敵の予測不能性を認識して瞬時に戦闘態勢に戻り、敵の出方を伺う。
(これは、別の魔物の思考か? 発生源は……そう遠くはなさそうだ)
 明らかに狂魔化した狼魔物の物ではない思考の発生源をローランは探る。
(くそっ、こいつ……私をどうするつもりだ? いずれにせよ下手に刺激しないようにしなくては)
(これはリィナさんの思考。そして彼女の近くにいる魔物と、言う事は……ゴブリンキング!!)
 高知能なゴブリンが狂魔化によりそっちの方面に進化(?)してしまったと言う事実はさておき、人間の女性であるリイナさんを同族と勘違いしハアハアブヒブヒしているのは色々な意味でヤバイ。
『神速の奇跡!!』
『ギャォォオ!!』
 リィナさんが殺されるよりも悲惨な事になりかねない事態に気づいてしまったローランは迷うことなく奇跡で超加速しウルフリーダーにわざとその後を追わせる。

『ゴブブブ、ゴブヒヒヒ……』
(よしっ、武器は無いが感覚は戻って来たし握力も緩くなってきた……そろそろ隙を見て)
「ひゃうん!!」
 そんな事を考えていた最中、上着の前部の留め金を壊されてしまったリイナ。
 胸に晒を巻いているのはさておき魔物に逆さ吊り拘束されたまま上半身裸にされ、野太い指でその素肌をぺたぺた触られると言う恐怖と気持ち悪さでぞわつくリィナ。
「そっ、そこは……触るなあああ。この変態やろ‥…ううう」
『ゴブブ、ゴブヒヒ……』
 ゴブリン族の雌(と勘違いされたリィナ)がゴブリンキングである自分に屈服して弱弱しく震える声で鳴く様に加虐心を刺激されたゴブリンキングは生臭いヤスリのような長い舌をべろぉんと出す。
「ひええええ……来るな、来るなぁ!! きゃああああ!!」
 無防備な皮膚をそんなものでなめまわされたらばっちいどころか大怪我になってしまう。
 リイナが迫りくるそれに腕に絡んでぶら下がっていた上着を押し当てて最後の抵抗していたその時、遠くから咆嘩が近づいてくる。

『神速の奇跡!!』
『ウォォォォン!!』
 作戦通り引き離してタイマンに持ち込んだはずの狂魔化狼魔物を引き連れてこちらに駆けてくるローラン。
『ゴブゥ!?』
「ローラン!! 来るな!!」
 相手の力量を見誤った自身のビンチは自業自得にしても依頼人を保護している相方まで危険にさらすわけには行かない。リィナはハッタリながらも気丈な声で叫ぶ。
『ゴブリイイイイィン!!』
「えっ?」
 そんな中リィナを地面に落として解放したゴブリンキングは予想外の行動に出る。

【第17話に続く】
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