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第一章:『滅びし王国の平原』
【第8話】
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イノメ王国東方にあるイサ地方。
この地方で唯一の冒険者ギルド支部が設けられたハルメンの町へと繋がる街道。
「ナナシノゴンベエ、ありがとう」
数日前、万物士として医学の心得もある地方領主たるランベルド伯爵様に『半魔族覚醒時に人間だった頃の記憶を失っており、素性も不明であるものの、人となりは紳士的で信頼できる人物である』と言う紹介状を用意してもらったローランは伯爵の学生時代からの知り合いにして魔王の指輪について調べられるであろう半魔族万物士を探す足掛かりを得るべくイサの町を離れて最寄りの冒険者ギルド支部があるハルメンの町へ出立。
その道中を共にしてくれた馬のナナシノゴンベエに感謝する。
「ブルルルル・・・・・・」
「この程度朝飯前だ、気にするなだって? さあ町まであと少しだ頑張ろう!」
「ブヒヒィン!!」
賊に誘拐されたお嬢さんのついでとは言えあの恐ろしい魔物を倒して命を救ってくれたのみならず、使い捨て駄馬として格安処分されかけた所を引き取ってくれたローランにナナシノゴンベエは感謝しつつ、目前の塀に囲まれた町へと向かう。
「止まれ!! 何用だ!!」
ハルメンの町入り口で槍を持った衛兵に止められたローラン。
「僕は半魔族のローランと申します。ランベルド・ライド伯爵様のご紹介でこの町にある冒険者ギルド長に会いに来ました。……身分証代わりにと伯爵様よりいただいた紹介状です」
ナナシノゴンベエの背を降り、ランベルド伯爵様の紹介状を差し出したローランを前に3人組の衛兵の内2人は無言で槍をクロスさせて通せんぼを維持しつつ、それを受けとった1人が近くの衛兵小屋に向かう。
「アニキ、こいつ本当にギルド長から到着連絡ありだぜ!! どうすりゃいいんだ?」
「バカヤロー!! すぐにギルド長を呼んで来い、そう書いてあんだろうがよぉ!!」
「へっ、へい!! 直ちに行ってくるでやんす!!」
衛兵小屋から飛び出した兵士は慌てて町の中へ駆け込む。
「ローラン殿、お待ちしておりました!!」
ほどなくして衛兵と共に駆けて来たイノメ王国紋章入りの小さな帽子を頭に乗せ、絹のシャツ上に同紋章入リベストを羽織ってズボン姿の若い女性。
分厚い本を脇に抱え、眼鏡をかけた女性は息を切らせつつ挨拶する。
「私、冒険者ギルドハルメン支部長秘書リィナと申します、初めまして!! そして先日のご活躍の件、こちらでも伺っております!!」
「初めまして、ローランと申します。今日はご領主様より言伝とご依頼の件で参りました」
あれから数日でもうここまで伝わっているのか……人の口に戸は立てられぬ、と言う厳しい現実を思い知り、正体を隠しつつ世を忍ばざるをえない立場となったローランはリィナ女史に丁寧に挨拶する。
「はい、では冒険者ギルドヘご案内いたします。冒険者ギルドより身分確認できましたのでこの方をお通ししてもらえますか?」
リィナ女史の一声で衛兵はすぐに槍クロス通せんぼうを解除して左右に引く。
「ローラン様、衛兵との連絡不手際の件。まことに申し訳ございません」
「いえいえ、こちらこそ出迎えていただきありがとうございます。おかげで助かりました」
リィナ秘書の後ろでナナシノゴンベエと共に冒険者ギルドヘと至る往来を歩くローランは魔界では目にしたことも無い食べ物や商品を扱う屋台に活気のあふれる人々を楽しみつつ歩く。
「事前に届きましたランベルド伯爵様の書状によりますと、ローラン様は半魔族覚醒時に人間だった頃の記憶を失っていらっしゃるそうですが……何かこの町で面白い物はありそうですか?」
「いえ、何もかもが珍しくてほぼ全てと言ったところですね!!」
「そうですか、こんな田舎町ですがお気に召していただけたようで何よりです!! 」
多くの者がその討伐に向かって喰い殺された『滅びし王国の平原』に巣くう巨大魔物を倒し、賊に誘拐されたランベルド伯爵令嬢を救出するほどの力を持つ半魔族の青年だと事前に聞いていたリィナ秘書は実際に会ってみてその穏やかさと純粋なまでの好奇心旺盛さのギャップに驚きつつも営業スマイルで応える。
「失礼でしたら申し訳ございませんが……町の一般生活施設やマニィの使い方は覚えていらっしゃるでしょうか?」
「マニィ?」
「ああ、お気になさらないでください。後程ギルド長や私から説明いたしますので。
あの建物が冒険者ギルド・ハルメン支部となります。馬つなぎは裏にありますのでローラン様は正面よりどうぞお入りくださいませ」
腕の輪に描かれた剣と縄と松明。未開の地で活動する冒険者に欠かせぬ身を守る武器、万能ツールたる縄と灯火をモチーフにした紋章が下げられた石造りの建物の裏手にローランは向かう。
【第9話に続く】
この地方で唯一の冒険者ギルド支部が設けられたハルメンの町へと繋がる街道。
「ナナシノゴンベエ、ありがとう」
数日前、万物士として医学の心得もある地方領主たるランベルド伯爵様に『半魔族覚醒時に人間だった頃の記憶を失っており、素性も不明であるものの、人となりは紳士的で信頼できる人物である』と言う紹介状を用意してもらったローランは伯爵の学生時代からの知り合いにして魔王の指輪について調べられるであろう半魔族万物士を探す足掛かりを得るべくイサの町を離れて最寄りの冒険者ギルド支部があるハルメンの町へ出立。
その道中を共にしてくれた馬のナナシノゴンベエに感謝する。
「ブルルルル・・・・・・」
「この程度朝飯前だ、気にするなだって? さあ町まであと少しだ頑張ろう!」
「ブヒヒィン!!」
賊に誘拐されたお嬢さんのついでとは言えあの恐ろしい魔物を倒して命を救ってくれたのみならず、使い捨て駄馬として格安処分されかけた所を引き取ってくれたローランにナナシノゴンベエは感謝しつつ、目前の塀に囲まれた町へと向かう。
「止まれ!! 何用だ!!」
ハルメンの町入り口で槍を持った衛兵に止められたローラン。
「僕は半魔族のローランと申します。ランベルド・ライド伯爵様のご紹介でこの町にある冒険者ギルド長に会いに来ました。……身分証代わりにと伯爵様よりいただいた紹介状です」
ナナシノゴンベエの背を降り、ランベルド伯爵様の紹介状を差し出したローランを前に3人組の衛兵の内2人は無言で槍をクロスさせて通せんぼを維持しつつ、それを受けとった1人が近くの衛兵小屋に向かう。
「アニキ、こいつ本当にギルド長から到着連絡ありだぜ!! どうすりゃいいんだ?」
「バカヤロー!! すぐにギルド長を呼んで来い、そう書いてあんだろうがよぉ!!」
「へっ、へい!! 直ちに行ってくるでやんす!!」
衛兵小屋から飛び出した兵士は慌てて町の中へ駆け込む。
「ローラン殿、お待ちしておりました!!」
ほどなくして衛兵と共に駆けて来たイノメ王国紋章入りの小さな帽子を頭に乗せ、絹のシャツ上に同紋章入リベストを羽織ってズボン姿の若い女性。
分厚い本を脇に抱え、眼鏡をかけた女性は息を切らせつつ挨拶する。
「私、冒険者ギルドハルメン支部長秘書リィナと申します、初めまして!! そして先日のご活躍の件、こちらでも伺っております!!」
「初めまして、ローランと申します。今日はご領主様より言伝とご依頼の件で参りました」
あれから数日でもうここまで伝わっているのか……人の口に戸は立てられぬ、と言う厳しい現実を思い知り、正体を隠しつつ世を忍ばざるをえない立場となったローランはリィナ女史に丁寧に挨拶する。
「はい、では冒険者ギルドヘご案内いたします。冒険者ギルドより身分確認できましたのでこの方をお通ししてもらえますか?」
リィナ女史の一声で衛兵はすぐに槍クロス通せんぼうを解除して左右に引く。
「ローラン様、衛兵との連絡不手際の件。まことに申し訳ございません」
「いえいえ、こちらこそ出迎えていただきありがとうございます。おかげで助かりました」
リィナ秘書の後ろでナナシノゴンベエと共に冒険者ギルドヘと至る往来を歩くローランは魔界では目にしたことも無い食べ物や商品を扱う屋台に活気のあふれる人々を楽しみつつ歩く。
「事前に届きましたランベルド伯爵様の書状によりますと、ローラン様は半魔族覚醒時に人間だった頃の記憶を失っていらっしゃるそうですが……何かこの町で面白い物はありそうですか?」
「いえ、何もかもが珍しくてほぼ全てと言ったところですね!!」
「そうですか、こんな田舎町ですがお気に召していただけたようで何よりです!! 」
多くの者がその討伐に向かって喰い殺された『滅びし王国の平原』に巣くう巨大魔物を倒し、賊に誘拐されたランベルド伯爵令嬢を救出するほどの力を持つ半魔族の青年だと事前に聞いていたリィナ秘書は実際に会ってみてその穏やかさと純粋なまでの好奇心旺盛さのギャップに驚きつつも営業スマイルで応える。
「失礼でしたら申し訳ございませんが……町の一般生活施設やマニィの使い方は覚えていらっしゃるでしょうか?」
「マニィ?」
「ああ、お気になさらないでください。後程ギルド長や私から説明いたしますので。
あの建物が冒険者ギルド・ハルメン支部となります。馬つなぎは裏にありますのでローラン様は正面よりどうぞお入りくださいませ」
腕の輪に描かれた剣と縄と松明。未開の地で活動する冒険者に欠かせぬ身を守る武器、万能ツールたる縄と灯火をモチーフにした紋章が下げられた石造りの建物の裏手にローランは向かう。
【第9話に続く】
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