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第一章:『滅びし王国の平原』

【第7話】

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『帰還の奇跡!!』
 かつて魔王が人間界侵攻の際、万が一の保険として部下に与えていたどこからでも緊急帰還できる魔法をローランは発動させようとする。
「……あれっ? 『帰還の奇跡!!』 『帰還の奇跡!!』」
 ローランは詠唱のミスが無いか頭の中で復唱しつつ何度も試すが発動しない。
「……どうなっているんだ? 『覗き窓の奇跡』」
 ローランが指輪の表面をそろりとなぞった瞬間、その顔前に出現した宙に浮く透明なガラス板。
 万物士として色々な物を見て来た経験知をもってしても計り知れぬ現象と物体を前にランベルド伯爵は思わず凝視してしまう。
「ええと……ああ、なるほど。なんて事だ!! 人間界の自然魔力が僕の故郷に比べてあまりにも薄すぎるんだ。あの巨大魔物と戦った時は内蔵魔力だけでギリギリ間に合ったけど……自然回復速度が低すぎてエネルギー不足に陥っておりほとんどの魔力技や奇跡が使えなくなっている!! だがある程度の基礎魔力があるとは、どういう事だ? んっ……見覚えの無い奇跡があるぞ? 『茨の奇跡』だって?」
 ローランは森羅万象を研究対象とする万物士の本能に逆らえず、後ろから覗き見してしまう伯爵に構うことなく『覗き窓の奇跡』で表示情報を切り替えて自身の魔力・コンデイションを確認していく。
「『吸血植物魔物ブラッディラフレシアの力を使役し、茨を召喚。束縛攻撃する』……どうやらあの巨大魔物の力たる物のようだが。まさか、あの時この指輪は魔石の力を取り込んでいたのか? この魔王の指輪にそんな能力があったとは……原理が不明なのはさておきそれが出来るのだとしたら……すごい事だぞ!」
「あっ、あの……ローラン殿。私にはさっばりなのだですが。一体どういうことなのですか?」
「あっ、ごめんなさい。順に説明しますね」
 全く話についていけない伯爵に説明すべく、ローランは腰を下ろす。
「まず、この魔王の指輪ですけど……これはかつてこの世界を侵略しようとした暴魔王が用いていた魔導装備の一つです。全てが解明されているわけでは無いですが暴魔王はかつてこれを侵攻兵として送り込んだ部下に携行させ、通信や指令はもちろん様々な意味で戦闘を有利に進めるための補助機材にしていたそうです」
「ふぅむ……では今、君が出した氷の板のような物もそうだと言うのかね?」
「ええ、そうです。今お見せした『覗き窓の奇跡』は自身の魔力残量、体力、使える能力等の戦カコンディションを数値化して確認するのみならず、敵として現れた者の能力値計測とデータ収集を行うための物だったそうですけど……おばあ様と聖魔王家に仕える魔導研究者が部分的に再現して僕のそれらを確認できるようにしてくれたんです」
「……」
 数百年前の時点でこんな便利ツールを持つ魔王軍が侵攻してきた時代に生まれていなくてよかった。
 そして彼のおばあ様に当たる聖女騎士ユディタ様がいなければこの世界はどうなっていた事か……伯爵は思わず身震いする。
「それで『茨の奇跡』と言うのは……おそらく僕も憶測でしかないんですけど、あの巨大植物魔物を倒してその心臓部たる魔石に触れた事で魔力回復すると共にその固有能力を取り込んで使えるようになったのかもしれません」
「ふぅむ……私の友人で幼少期に半魔族覚醒し、万物士として研究の日々を共にした者がいるのだがそいつも同じような事を言っていたような気がするぞ。
 魔力の基本属性概念と吸収効果による戦闘への応用ナントカ……だったような。私は半魔族のように魔力感知は出来ないが、たぶんあの男ならその原理がわかるかもしれないぞ」
「そうなんですか!!」
 断片的な情報ではあるが、正体を明かすわけにも行かず頼れる者もいない状況となったローランは伯爵の言葉に喜びの声を上げる。
「あやつは万物士としてすごく優秀ではあったんだが、スタンブリッジ学院生時代から性格と素行に問題がありすぎてなぁ……酒に博打、女とアレコレ。色々やりすぎて学院を追い出されてしまったんだ。
 今では各地の冒険者ギルドを転々として日銭を稼ぎつつ流浪の日々を送っているらしい」
「冒険者ギルド?」
「うむ冒険者と言うのは世界の各地に点在する古代遺跡や魔物を生み出す神出鬼没の迷宮、その他未開の地を探索してそこから得た金目の物で生計を立てる者達の総称だ。
 だが探索可能な未開の地や古代遺跡は限られているし、迷宮だっていつも安定して存在する物ばかりではない。
冒険者ギルドと言うのはそのような者達に魔物討伐にその素材集め、個人や行商隊の護衛等の依頼を仲介しつつ実力と身分を証明する『冒険者ギルドカード』を与えるこの大陸全体のネットワークを持つ一大組織なのだよ。
 私も自ら研究素材採取に向かう程の力のない万物士としてよくお世話になっていたよ……」
 一通りの説明を終えた伯爵はテーブル上の飲み物で喉を潤す。

「話を戻しますけど、その方なら何かお分かりになる可能性がある……そういう事ですね?」
「うむ、そうなのだが。あの根無し草がどこにいるのか私でも皆目見当がつかぬし、冒険者ギルドの方でも迷惑なトラブルメーカーとして毛嫌いされておるようだしなぁ……。
 だが腕は確かで口は堅いのは間違いないし、私の知り合いでローラン殿の事を相談できるのはヤツぐらいしかいないのも事実だ……そうだな、ここで旧友としてお灸をすえてやるのもありかもしれぬ」
 1人でブツブツ言いながら室内を歩いていた伯爵は何か思いついたらしくほくそ笑む。
「ローラン殿、私から1つご提案とお願いなのですが……お聞きいただけますでしょうか?」
「もちろんです!! なんなりと」
 ローランはランベルト伯爵に快諾する。

【第8話に続く】
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