異世界転身聖魔王子、モンスターハンターになる！？ ～魔石と魔物と奇跡の巨剣～

第一章：『滅びし王国の平原』

【第１話】

　創生神クレア様の祝福を受けた豊穣の大地フェルティーレ。

　数百年前、そんな世界の理をあざわらうかのように異世界から襲来した大魔王ボロウ＝ヴェルネウスとその配下の異形の魔物は豊穣の大地に住まう全ての命を消し去り、不毛の地とせんと破壊と暴虐の限りを尽くした。
　
　この危機を救わんと立ち上がったのは創世神の加護を受け、人の身でありながら神となった聖女騎士ユディタ。
　
　彼女は神より授かりし光の聖剣とその力で強大な魔王を倒し、その繋がりを完全に切断したものの……二度と帰ってくることはなかった。

　それから数百年後……豊穣の大地フェルティーレからみた異世界・魔界。
(この向こうにおばあ様の故郷が…… ！！)
　かつてこの世界を恐怖支配した暴君ボロウ＝ヴェルネウスが部下に作らせ、フェルティーレ侵攻の際に用いたと言う異界への門。大魔王城遺跡地下に唯一残されていた当時のそれである門型の石積みを前に立つのは背中に身の丈程もある大きな剣を背負って軽鎧を装備し、白いフード付きマントを羽織った銀髪の凛々しい青年だ。
「ローラン、気を付けて行くのよ」
　その背中を見守る白い修道女服の美しき老女。
　かつて魔王を倒したもののこの世界に取り残された聖女騎士として数百年に及ぶ暴政と度重なる紛争で荒廃した魔界の再興に尽力。
　魔界の平和統治の礎を築いた聖女騎士ユディト様は異世界に旅立たんとする孫に穏やかに微笑む。
「神の加護があらん事を……」「あらん事を……」
　敬愛するおばあさまと共に見送りに来た祖父にして先代聖魔王と父母にして現聖魔王&王妃、そして兄弟姉妹。
「おばあ様、お父様にお母さまご安心ください。このローラン……レオルアン家の名誉にかけて必ずや使命を果たして参ります」
「ありがとう……あなたに女神様の加護があらん事を」
　そう言いつつ聖女騎士ユディタ様が袖から取り出したのは小さな指輪だ。
「……おばあ様、行って参ります！！」
　門型の石積みの前に立ったローランは指輪を指にはめ、その手で触れる。
『開門の奇跡！！』
　アレンジ復元された古の詠唱と共に石積み枠内が魔力で満たされ、波打つ水鏡となったそれはどこかの森と思しき風景をぼんやりと映し出す。
「今よ！！」
「うおおおおお！！」
　人間界との接続状態が安定するのは数秒……そう聞いていたローランは一気に水鏡に駆け込む。

　爽やかな青草と土の香り、白いふわふわな雲に爽やかな風……
「ここが……そうなのか？　青い空に白い雲……豊かな緑の大地。間違いない、ここは夢にまで見た豊穣の大地フェルティーレ！！　おばあ様の故郷だ！！」
　水鏡を突き破ってその向こうに滑り込んだ青年剣士ローランは恐る恐る身を起こし、初めて見る美しい自然の数々に目を輝かせる。
「もしここがかつておばあ様が異界入りの際に用いた門だとするなら……おそらくはこの方向に向かえばいいんだな！！」
　森の中でほぼ９９％自然の一部となりつつある石畳の円形広場中央の石積門を確かめたローランは腰の小袋から方位磁石と折りたたんだ地図を取り出して歩き出す。
(おばあ様の故郷、レオルアン王国……僕のひいお爺様はもう流石にご存命ではないだろうけどその子孫にあたる方々にお会いできるなんて！！)

　数百年前、聖女騎士によって倒された暴魔王の消滅により完全に機能停止した豊穣の大地フェルティーレと異世界を繋ぐ門。
　暴君を倒し、慈愛の心で多くの命を救った優しき聖女騎士様に郷里の土を踏ませてあげたいと言う全魔界人の願いを受けてその息子にあたる現魔界王『神聖魔王』は魔導技術の専門家にしてエキスパートたる王宮魔導士達に人間界へ繋がる『門』の修復を命令。
　かくしてその機能を取り戻した『門』であったが……あれから数百年たった人間界がどうなっているか分からない上に門が正常に動く保証も無い中いきなり老いた聖女様をお通しするのはいかがなものかと言う意見を受けて神聖魔王は先遣隊の派遣を検討。

　皆がしり込みする中、それに申し出たのが神聖魔王の長子・ローランだったのである。
「この地図が正しければそろそろ森を抜ける……そしたら眼下の平原に王都レオルアンが見えるはずだ！！」
　危険な魔獣も凶魔植物もいない平和な人間界の森。草木に覆われて獣道となりつつある石畳の街道を喜びのままに駆け抜けつつ、見たことも無い自身の血縁者にしておばあ様の子孫達に胸躍らせるローラン。

「あの光は出口だな！！」
　出口となる光を見つけたローランは一気に森を出る。
「よしっ、抜けたぞ！！… …ってあれ？」
　人間界に旅立つ前に聞いていた通りに森の坂道を抜け、盆地の草原を見下ろす丘の上にたったローラン。
　その眼下に鎮座する王城を中心に城壁で囲まれたレオルアン王都城郭都市は遠目でも分かるレベルで人気のない廃墟と化しており、城の権威たる2本の尖塔の1つは無残にも真ん中からぼっきりと折れてしまっている。
「何らかの大規模戦闘直後……にしては火の手も上がってないし、死臭もしない。それに壊れ方がキレイすぎるぞ？どういう事だ？ とにかく行ってみよう……」
　事情が全く分からないままローランはゆるやかな丘を滑り降り、廃墟へ向かう。

【第２話に続く】