ゲームマスター・レディの有閑にして倒錯的な5つの狂遊戯

千両文士

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【第二十三話:ダウト・ヒューマンリィ】

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『最終ラウンドでは……カードを出すに何を出すかを宣言してもらうわ!!』
「えっ?」
「んっ?」
『そして両者合意の上で私がカードオープンし、勝敗が決まるのよ|!』
 バニーレディが一瞬何を言っているのかわからず、頭上に疑間符が浮く2人。
『ううん、どうもご理解いただけないようで困っちゃうわ……そうね、具体的に説明してもらいましょう。リチャードにアシュリーちゃん!!』
『かしこまりました、マドモアゼル』
 バニーレディの呼びかけに応じてカーテン裏から出て来た仮面メイドのアシュリーと仮面執事のリチャード。
 アンティークなテーブルとイス2つ、件の赤青ジャンケンカードを持ってきた2人はバニーレディと信濃さん&直樹の前にそれらをセッティングしカードゲームの体制に入る。
『アシュリーさんは何を出すかね?』
 仮面メイドに尋ねるリチャード執事。
『私は……チョキを出しますわ』
(あっ……)
 赤のパーを選びつつ返答する仮面メイドさんの嘘に気づいたものの、何も言えない信濃さん。
『ううむ、では私は負けたくないからグーを出そう』
(あれっ?)
 そう言いつつ青のチョキを選ぶリチャードに気づいた直樹。
 これはルール違反では? と言う思考に思い至れない程事態を注視していた彼は発言のタイミングとチャンスを完全に外してしまう。
『主様、カードオープンお願いいたします』
『私も大丈夫です、マドモアゼル』
 合意の上でカードを裏面にして場に出した2人は、バニーレディにめくるように頼む。
『OKよ……ではカードオープン!!』
「えっ!?」
「あれっ?」
 青のチョキに赤のグー。両者共に宣言していないカードを出していると言う事実に驚く直樹と信濃さん。

『勝者、アシュリーちゃん!! はい、ご褒美よ』
『ありがとうございます、主様!!』
 バニーレディの美巨乳に顔を押し込まれて愛情たっぷりのハグをされ、キッスマークを頬に付けてもらえた仮面メイドさんは幸せそうにゆるんだ口元で顔を赤らめつつもリチャードと共に片づけを開始。数分もかからずに完全撤収してしまう。
(宣言していないカードを出すと言う行為が容認された……そう言う方法を用いても勝てばいい。つまりこのゲームはそう言う代物だったのか!!)
 数分にも満たない寸劇で『どれを選ぼうと両者共に勝率1/2』の運ゲーから嘘とハッタリの『ライアーゲーム』となった最終ラウンドに事を理解した直樹。
(どうしよう、直樹君が……私に嘘をつくかもと言う事なの? でも、私そんなの見抜けないよ!? どうすればいいの……? わたし、彼のいう事を信じていいの?)
 直樹と同じく事実に気付き、戸惑うばかりの信濃さん。
 だが仮にここで勝って無事に自宅に戻れたとしても……若き外資系企業幹部候補生として出世ルート大爆走中の夫は24時間365日仕事漬けで数ケ月に一度しか帰って来ず、(自分は)子供は欲しいとは思っているが将来の家族計画を話し合う時間も無い。
 思春期をお兄さんの暴走で台無しにされ、就職に失敗して結婚したものの孤独で幸せとは言えない夫婦生活。
 そんな事を考える信濃さんの脳裏に浮かぶのは自分より先にこの狂ったゲームから脱落していった7人の犠牲者と、在りし日の兄の顔だ。
「信濃さん…… ?」
「ああ、ごめんね。ねぇ……直樹君は将来の夢みたいな物ってあるの?」
「えっ、いきなり何ですか?」
『面白いじゃない、せっかくだからお姉さん達に聞かせてよ!!』
 真面目な表情で問う信濃さんとワクワクな表情で期待するバニーレディ。
 とにかく何か答えねば……直樹はとっさに高校の進路相談三者面談で言った事を思い出す。
「とりあえずは新卒入社チケットを得るべく入れる大学に行き、卒業後は公務員でも会社員でもいいからある程度安定して稼げて社会的に問題が無いホワイトカラーの仕事に就く……と言ったところですかね」
 何も無かったとは言え教師はおろか親にまで自眼視された回答を持ちだしてしまった直樹。
「えっ、ええと夢が無くてすみません……ハハッ」
 無表情で見下してくる信濃さんとバニーレディを前に愛想笑いする。

「ううん、とんでもないわ!! それはとても素晴らしい夢だわ直樹君!!」
「しっ、信濃さん!?」
 突如立ち上がって手を握って来た美お姉さまの信濃さんにドキドキしてしまう思春期ボーイの直樹。
「私の兄さんは優秀でそれに見合うだけのプライドがあったわ……でもそれ故にたった一度のやり直しが効く失敗で挫折し、人生を勝手に終わらせてしまったの。
 直樹君、私がいうのもおかしいけど普通の人生を普通に生きるって言うのは本当に大変な事よ……でもあなたには若さとそれを選べる自由がある」
 覚悟を決めた表情でジャンケンカードを手に取った信濃さんは手札を1枚とり、赤のパーが描かれた面を見せる。
「バニーレディさん、私は赤のパーを出したわ……直樹君は自分の意思で決めてちょうだい」
 そう言いつつ赤のパーを裏にして場に置いた信濃さん。
 面白い展開になった、と言わんばかりにニヤニヤしながら横目で見守るバニーレディを前に直樹は青のジャンケンカードを手に取る。

【第二十四話:フィナーレ・オブ・エブリシングに続く】
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