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【第二十話:ラスト・メッセージ】
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『ふぅん、それを知っていると言う事は……うふふ』
突如発せられた聖の言葉に満足そうに笑うゲームマスター・レディ。
「ああ、一体僕に何があったんだ? アンタの目的は何なんだ? そしてマルセ君とササキさんはどうなったんだ?」
拳銃の引き金に指をあてた発砲準備状態で主たるゲームマスター・レディを護衛するリチャードに構うことなく怒りの目を向ける聖。
これまで見て来た穏やかな立ち振る舞いからは想像も出来ないその全身から噴き出さんばかりの怒気に直樹と信濃さんの2人は訳も分からぬままどうしようもなく立ち尽くす。
『そうねぇ、せっかくだから話してあげてもいいんだけど……そこの殿方2人はほっといていいのかしら? ゲームの進行上は問題ないけどあなた方的にはあまりよろしくは見えないわよ?』
「えっ?」
レディーが指さす方向、いつの間にかシャンペングラスのタワーに向かっていた源太郎と佐倉川。
そんな2人が選び終え、手に取っていたのは……かすかにほんのりと桜色になったシャンペンだ。
「それをの…… うぐっ!!」
腰を抜かした直樹と信濃さんの前で瞬時に聖の背後を取り、ヘッドロックをかけた仮面メイドのアシュリーは右手に握ったアイスピックの尖った先端を聖の右眼球数センチ手前に固定。
『動かないでください』
興奮した聖の耳元で静かで低い小声で命じて黙らせる。
「聖さん、数日間だけどありがとう……暴力ふるってごめんな」
桜色のシャンペンを手に取り、その淡い色を愛でる佐倉川。
「源太郎さんも最期の乾杯がこんな男ですまない……どうせなら綺麗なお姉さんがよかったよな?」
「ふふふ、若いキミこそ末期の美酒がこんなジジィが相手で良かったのかね?」
全てを悟った虚無の目ながらも小粋なジョークを切り返す源太郎。
「いいんだよ、今から逝って頑張ればRINKOさんに追いつけるから……」
「そうかそうか、現世ではなくあの世で結ばれるとは実にめでたい!! 式にはわしも呼んでくれるであろうな?」
「もちろんだよ、源太郎さん……何ならスピーチも頼めるかい?」
「ふふ、任せておくがよい。泣き笑い待ったなしの逸文を用意してくれようぞ。では……最期のカンパィじや」
「みんな、ありがとう……俺、先に逝くよ」
毒が溶け込んだシャンペンを2人はくいっと飲み干す。
『はぁい、これで2人脱落……でもまだ君達にチャンスはあるからゲーム継続よ。アシュリーちゃん、片付けお願いできるかしら?』
『かしこまりました、マダム』
聖のヘッドロックを解き、床に倒れて動かなくなった2人を引きずってゲームルーム裏口から出て行く仮面メイドさん。
マネキン粗大ごみのように処分されていく2人……数分前までは生きていたとは思えないような扱いをする冷血女を前に、2人はどうにかこの状況から逃れる方法を必死で考える。
(こうなったら何が何でも毒を飲ませるのよ!!)
(それしかないですね!!)
グラスの正確な数はわからないが、純粋に頭数で言えば3対2。
子供の頃砂場でやった砂山に棒を立て、山を下から削って倒した方が負けのグームでは無いが1杯でもレディーかリチャードが飲まざるを得なくなる状況を作りこの狂ったゲームを終わらせて脱出する。
その根本にある固い意志『生きる』に突き動かされる信濃さんと直樹はこの狂ったゲームルールを逆利用すべく確実に安全なグラスを選ぶ。
「せ―のっ……えいっ!!」
お互いに手に持ったグラスがピンク色になっていないのを確かめた2人はくいっと飲み干す。
「セーフ……みたいね」
「はい、そうですね。あとは……」
そう言いつつ安全なシャンペングラスを1つ手に取った直樹。
「聖さん、これは安全なので……ちょびっとでもなめるだけでもお願いできますか?」
「……」
「聖さん、お願いです!! そうでないと……ゲームマスターの2人に順番が回らないんです!!」
「……ありがとう、唄子さん。でも自分で選ぶよ」
そう言いつつゆっくりと立ち上がり、直樹のシャンペングラスをそっと受け取った聖。
そのまま歩いて台車に向かい元あった場所に戻した彼はシャンペングラスを吟味しはじめる。
「よし、これだ」
そう言いつつ彼が選んだグラスは明らかに薄桜色に変色している。
「それはダメです!! ぐあっ!!」
「聖さ…… うっ!!」
聖に駆け寄ろうとした2人を止めたのは腕内のグーム専用スマートウォッチ経由で体内注入された麻痺毒。
贖罪と自己犠牲の大義名分の下、自死を選んだ仲間を止めようとした2人はその場で膝をついて倒れる。
「唄子さん、直樹君……最期までありがとう。僕自身も断片的な記憶すぎる上にグームマスターを目の前にして上手く言語化して説明できないんだが、これが今、僕自身や2人にとって最大の利益となる選択肢なんだ」
『うふふ、賢いボウヤね……まあキミに関してはそろそろ解放されてもいいでしょうね。
最期の美酒をカンパイしましょ』
そう言いつつ安全なシャンペングラスを手に取ったゲームマスター・レディはグラスを掲げ、カンパイの音頭を取る。
『カンパイ!』「かんばぁぁい! !」
悦びともヤケともとれる叫びと共に薄桜色のシャンペンを飲み干した聖は床に倒れる。
【第二十一話:リメンバー・ミーに続く】
突如発せられた聖の言葉に満足そうに笑うゲームマスター・レディ。
「ああ、一体僕に何があったんだ? アンタの目的は何なんだ? そしてマルセ君とササキさんはどうなったんだ?」
拳銃の引き金に指をあてた発砲準備状態で主たるゲームマスター・レディを護衛するリチャードに構うことなく怒りの目を向ける聖。
これまで見て来た穏やかな立ち振る舞いからは想像も出来ないその全身から噴き出さんばかりの怒気に直樹と信濃さんの2人は訳も分からぬままどうしようもなく立ち尽くす。
『そうねぇ、せっかくだから話してあげてもいいんだけど……そこの殿方2人はほっといていいのかしら? ゲームの進行上は問題ないけどあなた方的にはあまりよろしくは見えないわよ?』
「えっ?」
レディーが指さす方向、いつの間にかシャンペングラスのタワーに向かっていた源太郎と佐倉川。
そんな2人が選び終え、手に取っていたのは……かすかにほんのりと桜色になったシャンペンだ。
「それをの…… うぐっ!!」
腰を抜かした直樹と信濃さんの前で瞬時に聖の背後を取り、ヘッドロックをかけた仮面メイドのアシュリーは右手に握ったアイスピックの尖った先端を聖の右眼球数センチ手前に固定。
『動かないでください』
興奮した聖の耳元で静かで低い小声で命じて黙らせる。
「聖さん、数日間だけどありがとう……暴力ふるってごめんな」
桜色のシャンペンを手に取り、その淡い色を愛でる佐倉川。
「源太郎さんも最期の乾杯がこんな男ですまない……どうせなら綺麗なお姉さんがよかったよな?」
「ふふふ、若いキミこそ末期の美酒がこんなジジィが相手で良かったのかね?」
全てを悟った虚無の目ながらも小粋なジョークを切り返す源太郎。
「いいんだよ、今から逝って頑張ればRINKOさんに追いつけるから……」
「そうかそうか、現世ではなくあの世で結ばれるとは実にめでたい!! 式にはわしも呼んでくれるであろうな?」
「もちろんだよ、源太郎さん……何ならスピーチも頼めるかい?」
「ふふ、任せておくがよい。泣き笑い待ったなしの逸文を用意してくれようぞ。では……最期のカンパィじや」
「みんな、ありがとう……俺、先に逝くよ」
毒が溶け込んだシャンペンを2人はくいっと飲み干す。
『はぁい、これで2人脱落……でもまだ君達にチャンスはあるからゲーム継続よ。アシュリーちゃん、片付けお願いできるかしら?』
『かしこまりました、マダム』
聖のヘッドロックを解き、床に倒れて動かなくなった2人を引きずってゲームルーム裏口から出て行く仮面メイドさん。
マネキン粗大ごみのように処分されていく2人……数分前までは生きていたとは思えないような扱いをする冷血女を前に、2人はどうにかこの状況から逃れる方法を必死で考える。
(こうなったら何が何でも毒を飲ませるのよ!!)
(それしかないですね!!)
グラスの正確な数はわからないが、純粋に頭数で言えば3対2。
子供の頃砂場でやった砂山に棒を立て、山を下から削って倒した方が負けのグームでは無いが1杯でもレディーかリチャードが飲まざるを得なくなる状況を作りこの狂ったゲームを終わらせて脱出する。
その根本にある固い意志『生きる』に突き動かされる信濃さんと直樹はこの狂ったゲームルールを逆利用すべく確実に安全なグラスを選ぶ。
「せ―のっ……えいっ!!」
お互いに手に持ったグラスがピンク色になっていないのを確かめた2人はくいっと飲み干す。
「セーフ……みたいね」
「はい、そうですね。あとは……」
そう言いつつ安全なシャンペングラスを1つ手に取った直樹。
「聖さん、これは安全なので……ちょびっとでもなめるだけでもお願いできますか?」
「……」
「聖さん、お願いです!! そうでないと……ゲームマスターの2人に順番が回らないんです!!」
「……ありがとう、唄子さん。でも自分で選ぶよ」
そう言いつつゆっくりと立ち上がり、直樹のシャンペングラスをそっと受け取った聖。
そのまま歩いて台車に向かい元あった場所に戻した彼はシャンペングラスを吟味しはじめる。
「よし、これだ」
そう言いつつ彼が選んだグラスは明らかに薄桜色に変色している。
「それはダメです!! ぐあっ!!」
「聖さ…… うっ!!」
聖に駆け寄ろうとした2人を止めたのは腕内のグーム専用スマートウォッチ経由で体内注入された麻痺毒。
贖罪と自己犠牲の大義名分の下、自死を選んだ仲間を止めようとした2人はその場で膝をついて倒れる。
「唄子さん、直樹君……最期までありがとう。僕自身も断片的な記憶すぎる上にグームマスターを目の前にして上手く言語化して説明できないんだが、これが今、僕自身や2人にとって最大の利益となる選択肢なんだ」
『うふふ、賢いボウヤね……まあキミに関してはそろそろ解放されてもいいでしょうね。
最期の美酒をカンパイしましょ』
そう言いつつ安全なシャンペングラスを手に取ったゲームマスター・レディはグラスを掲げ、カンパイの音頭を取る。
『カンパイ!』「かんばぁぁい! !」
悦びともヤケともとれる叫びと共に薄桜色のシャンペンを飲み干した聖は床に倒れる。
【第二十一話:リメンバー・ミーに続く】
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