ゲームマスター・レディの有閑にして倒錯的な5つの狂遊戯

千両文士

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【第十九話:ノー・ウェイ・ホーム】

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『さて、今回のチャレンジャーはミョウガ者のようね……ここまで粘った子達は久しぶりだわ。アシュリーちゃん、空グラスの片づけを頼めるかしら?』
『かしこまりました』
 チャレンジャー5人&リチャード執事とマダムの順番で1ターン1杯ずつとは言え、10杯近く飲んだシャンペンで頬をほんのりと赤く染めたレディ。
 部屋中のミニテーブル上に置かれた空シャンペングラスの片づけを命じられた仮面メイドさんはお盆片手にすぐに動き出す。
(聖君、3人に伝えるなら今よ!!)
(ああ、こっそりと…… どうにか伝えないと)
 主催者チーム、挑戦者チーム共に犠牲者無しでここまで進んで来たものの、ここから先はそうは行かないだろう。
 それを分かっていた聖と信濃さんはメイドさんの動きに気を配りつつ目配せする。
『さて、ほろ酔い休みついでに……ゲームを盛り上げる余興の時間と行きましょうか。リチャード、例のモノを』
『かしこまりました、主様』
 そう言いつつリチャードがポケットから取り出したのは5本のビデオテープだ。
「ビデオテープ?」
『うふふ、これは私とのゲームに挑んでいる皆へのご家族からの応援ビデオメッセージ……見るも見ないも自由だけど、これを全部見終えたら毒入りを判別し、私達を負かすヒントをあげちゃうわよ。さあ、どれから見たい?』
 ミニテーブルに置かれたA・B・C・D・Eとラベリングされたビデオテープ。
「……どうする?」
「見るしかないであろうなぁ……」
「だとすればどれを?」
 ほぼ100%ロクな内容ではないだろうと察してはいたが自身の生存率を上げる情報を得るならやむを得ない。
 佐倉川、直樹、源太郎の3人は内容の分からないビデオテープを手に取って選ぶ。
「じゃあ……Bで行くぜ!!」
『了解した』
 佐倉川からBのビデオテープを受けとったリチャードは壁内の仕込みAV機器にセット。
 ポケットから取り出したリモコンで操作する。
『……もうあなたが失踪してから一ケ月なのね』
 壁鏡モニターに映し出された写真立てを前に手を合わせるおばあさん。
「八重子!!」
 それに叫ぶのは源太郎だ。
『警察の方と会社の方々はご心配なすっていたのよ……あの山田さんが定年退職当日に失踪するなんて、ありえないとね。そして私がかわいそうだ、かわいそうだと連呼していたのよ』
「八重子、済まぬ……済まぬ」
『でもね……あなたがいなくなってから家中にあった重苦しい緊張感が無くなって風通しが良くなったし、涼子と孫達も気軽に来てくれるようになったの』
 画面が暗転し、幼い子供を抱えた若い女性と八重子のツーショット写真が写る。
『何より数年間引きこもりでいつもイライラしていた正雄もあの日から私に優しくしてくれるようになって、本当にリラックスした表情で部屋から出てきてご飯を一緒に食べるようになってくれて……最近はアルバィトでもいいからお金を稼げるようになりたい! と言って自発的に働き始めて支援団体や精神科医の先生も驚いていたのよ。』
 どこかの倉庫で台車の荷物を運ぶ30代後半と思しき作業着の男性に画面が切り替わる。
『それに私も何十年来の体調不良が嘘のように治っちゃったのよ……流石にこれにはお医者様もびっくりしていたわ』
「……うっ、嘘であろう。お前のあのアレが、私がいなくなってから完治しただと? 結婚相手の件で猛反対し、私と喧嘩別れで出て行った涼子が戻って来て引きこもりの正雄も社会復帰したのか…… ?」
 24時間365日、寝ても覚めても仕事一筋の真面目で誠実な企業戦士として自身にも周りにも厳しい立派な社会人の鑑として生きて来た源太郎。
 それ故に全く家庭を顧みなかった自分自身が蒸発した事により全ての問題が一瞬で自己解決して好転している……数十年来見たことも無い奥さんの穏やかな微笑みを前に源太郎はふらぶらと室内の椅子に倒れ込む。
「源太郎さん、しっかりしろ! こんなもん本物のわけがない!! あれはそっくりさんだ、そうに決まっている!!」
 非情な現実を突きつけられて沈み込む源太郎を元気づけようとする佐倉川。
『史雄 (ふみお)がいなくなってから早数ヶ月……』
『警察も秘密裏に頑張ってくれているようですけどもうダメでしょうね……多分あの子はもう帰って来ませんよ』
「親父! お袋!」
 何番のビデオテープかはわからないが、どこかの部屋でスノッブオーラ全開で話す身なりのいい中高年男女に叫ぶ佐倉川。
『まあどの道あいつは我が一族の欠陥品にして箸にも棒にも掛からぬ落ちこばれだ、帰って来た所で……何も変わるまい。むしろ中途半端に帰って来られても面倒だ』
「そうね、あなた……」
 女性は優雅にお茶をすすりつつ、目を閉じる。

「うわぁぁぁあん、親父ぃ、御袋、それはないぃぃぃ!!」
 自分の味方だったはずの母に見捨てられた。
 その事実を見せつけられ床に身を投げ出し、大声で泣き叫ぶ佐倉川。
『うふふBとDのビデオは視聴完了ね。次はどれにする?』
 その他3本は間違いなくその他自分達だ、それを察した3人は思わず後ずさりする。
『じゃあ私が……どれにしようかしらねぇ。うふふ……』
「毒入りのは微かにピンク色なんだろ!! もうそのビデオを再生するな!!」
 無口で穏やかなはずの聖の叫びにその場の全員が目を丸くする。

【第二十話:ラスト・メッセージに続く】
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