上 下
6 / 28

【ミキちゃんちのインキュバス!(第六話)】「怪奇! S区中央商店街・淫魔アランとおもちゃ屋オババ」

しおりを挟む
 都内のオフィスビル街、昼時。
 株式会社サウザンド社内に設けられたランチスペース。茶摘 卓男はスマホ片手にキッチンカー広場で買ってきた豚角煮丼を食べる。
(武道大会決闘モノは劇画アクションコミックとしては面白いけど……文章だけで表現するのは難しいよなぁ)
「茶摘さん、ここ大丈夫?」
 電子書籍サブスクリプションサービス漫画を読みつつ新作構想を練っていた茶摘に声をかけたのは人事部の上司である守屋 美希さん、通称ミキちゃんだ。
「あっ、はい どうぞ」
   お向かいに座ったミキさんは弟が持たせてくれたお弁当を開き、食べる前にスマホで写真を撮る。
「茶摘さん、この前のわんこそば大会楽しかったね」
「はい、おかげで貴重な体験ができました。それにS区の地域広報も分けていただきありがとうございます!」
 ミキさんと司会の源さんが握手する写真と共に地域広報紙に掲載された記事原本を自宅で立派な額縁に入れ、スキャンデータをスマホとタブレットの壁紙にしている茶摘は感謝の気持ちを伝える。
「それで特別商品のジョイステーション……エックスだったっけ? あれの件で相談したい事があるんだけどいいかしら?」
「私でよければなんなりと」
「あの後アランにあれをテレビに繋いでもらって起動させたはいいんだけど……ゲームソフトなるものが無くて何も出来ていないの。せっかくだからとネットでゲームソフトなるものを色々探してみたんだけどあまりにも多すぎて私もアランもお手上げで。もし茶摘さんが欲しいなら引き取ってくれないかしら?」
 思いがけぬ漁夫の利に茶摘は思わずYESと答えかける。
「ミキさん、申し出は嬉しいのですが……それは流石にダメです。もしよろしければ私が一緒にお選びしますので一緒にオババのおもちゃ屋とやらに行ってみませんか?」
「ああ、そうだわ! 確か商店街のクーポンも5000円ぐらいもらえたしそうしましょ! 今度の週末はどうかしら?」
「わかりました、ええと……日曜日の朝10:00とかどうですか?」
「よし、決まりね! ありがとう茶摘さん。ポチポチっと……」
 茶摘とミキちゃんはお弁当を食べつつスマホのカレンダーにスケジュール入力した。
 
 ……それから数日後、 日曜日。ミキさんの期待に応えられるよう事前にジョイステーションエックスの情報を徹底収集していた茶摘は地元の人で賑わうS区中央商店街の入り口でミキさんと淫魔アランを待っていた。
「茶摘さん、お待たせ!」
 鶯色のロングスカートとブラウス上にピンクの薄手コートと言う小春日和ファッションの私服ミキちゃんに茶摘は思わず見惚れてしまう。
「……いえいえ、こちらこそ。今日はよろしくお願いします!」
「茶摘さん、お久しぶりです。そして今日はわざわざ姉の為にすみません」
「気にしないでくれ、アランさん」
「うふふ、じゃあ行きましょうか。ええと……たしかこの前の会場から少しのはずよ」
 S区中央商店街の地図を取り出して歩き出したミキちゃんの後を茶摘とアランが追う。
 
「ここみたいね、やっているのかしら? ごめんくださぁい……」
 S区中央商店街にある小さなおもちゃ屋『おばばのおもちゃ』。狭い店内に入った3人を出迎えるのは壁の棚に手書きの値札付きで積まれたプラモデルにヒーローソフビ人形、車や電車の乗り物おもちゃ、そして新旧ごったまぜのキャラクターおもちゃ達だ。
「おや、誰かと思えば……あの時のわんこ娘と野郎二人じゃないか。久しぶりだねぇ」
「わっ、わんこ娘?」
 奥のレジでラジオと共に店番中の店主の大巴 番子(おおば ばんこ)、通称・おもちゃ屋オババの言葉に野郎二人はミキちゃんが着ぐるみ犬パジャマを着てわんこポーズアピールする様を連想してしまう。
「さて、鼻の下がのびのびの助平野郎共は何をお求めかね? ルーレットにコスプレ衣装、クラッカー、パーティーグッズならそこら辺を見な」
「あの、この前いただいた何とかエックスのゲームソフトってありますか?」
「ああ、ファミコンのカセットならここら辺だよ。あたしゃようわからんから好きに選んでおくれ」
 オババが指さした先には新旧ごったまぜのゲームソフトが大量に並んだキャビネットがある。
「茶摘さん、どれがいいかしら?」
「ううん、そうですねえ……」
 茶摘とミキちゃんはグームソフトの棚に向かう。
 
「あんたはいいのかい、アランとやら?」
「あっ、はい……僕は専門外なので」
 レジ上のトレーディングカードゲームを見ていたアランはびっくりしながらもオババに答える。
「そうかぇそうかぇ……しかしあんたのお姉さん、すごい食いっぷりだったねぇ。普段もあれぐらいなのかね?」
「そう言えばそうですね、 ミキさんはいつもあんな感じです」
「そうかのぅ、あたしやてっきりあんたが一服盛ったのかと思ってたよ」
「はい?」
「やっぱりねぇ……あの三人ともヒト非ざる何かを感じて何かおかしいなぁと感じてはいたが、まさかあんたがその元凶だったとはねぇ。これはオババの独り言じゃが……あの娘は間違いなくお前さんの影響を受けて浸食され始めておる。今はあの程度でもいずれ取り返しがつかない事態になるかもしれんよ、アランとやら」
「……大巴さん、貴女は魔界の者ですか?」
 魔界の者としてオババの言わんとする事を察したアランは平静を装いつつも戦闘態勢に入る。
「マカイ? そんなものあたしゃ知らんよ。あたしゃ見えちゃいけないモノがちょいと見えちまう程度のよぼよぼ婆さんさ。まあ自己責任で気を付ける事だねえ……アランさん」
「……」
 淫魔族のアランに言うべき事を言い終えたオババはやかんの麦茶を湯飲みに注ぎ足してゆっくりとすする。

「アラン君、お待たせ! 大巴さん、これお願いします。差額は現金で」
 茶摘オススメの落ち物パズルゲームソフトと個人的に気に入った大きな猫のぬいぐるみをレジに持ってきたミキちゃんはわんこそば大会の商品券を差し出す。
「ひい、ふう、みぃ、よお、ごお……毎度あり。差額は320円だよ、レシートはいるかね?」
「お願いします!」
 ミキちゃんは小銭をトレイに置き、レシートと商品を受けとる。
「ああ、そうそう……これはあたしからのわんこそば大会参加賞だよ。三人共持っていきな」
 そういいつつオババが差し出したのは小さな鈴が付いた紫色の巾着お守りだ。
 しかしそれには「学業御守」や「交通安全御守」のようなご利益がどこにも書いていない。
「この近くの神社で贈答品用にもらったんだがねぇ、お客が来ないから困ってたんだよ」
「ありがとうございます、大巴さん!」
 ミキちゃんはお守りを受けとり、アランと茶摘に一個ずつ渡す。
「さて、買い物も終わったから……すこし早いけど茶摘君も一緒に源さんの蕎麦屋でお昼どう?」
「ありがとうございます! 是非ともご一緒します」
「決まりね、皆で食べに行きましょう!」
「はい、ミキさん!」
 ミキさんと同居し始めて一カ月……ご機嫌で蕎麦屋に向かう人間二人とは裏腹に謎のオババとの遭遇と意味深な警告を受けた淫魔族アランは平静を装いつつも複雑な心境と共におもちゃ屋を後にするのであった。

【完】
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...