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【ミキちゃんちのインキュバス2!(第90話)】「パリ五輪2024開幕!! おもちゃ屋オババは巴里の夢を見るか?」
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平日午後のS区中央商店街。
「おばばさん、こんにちは……」
新旧様々なおもちゃが所狭しと積まれた『おばばのおもちゃ』店内。
そこを訪れたのはタ食の買い出しでS区中央商店街を訪れついでに先日の野球チームの件でお礼に来た金髪イケメン、守屋アランだ。
「おや、アランさん。ようこそだねえ……今日は何をお求めかね」
いつものラジオではなく新聞と雑誌を読んでいたおもちゃ屋オババこと大芭 万子(おおばばんこ)は新聞をガサガサと畳んでしまいながらアランに尋ねる。
「いえ、今日は先日の野球チームの件で……じゃあこれをーつ」
シュールからキモ可愛いまで様々な猫(?)キャラクターが登場する大人気トレーディングカードゲーム 『にゃんにゃんウォーズ』のカードパックを手に取ったアランはオババさんが見ていた変色した古旅行雑誌の数々に気づく。
「これは……フランス旅行特集号ですかね?」
それらの表紙を飾るエッフェル塔や凱旋門、セーヌ川の光景に共通点を見出したアラン。
「ああ、そうだよアランさん。
ほら、この前からフランスでオリンピックが始まっただろ? それでつい懐かしくなってね……若い頃に買っていた雑誌を店番読みで持って来たんだよ」
いつもの口調で気風よく話すオババの眼に一瞬、憂いが過る。
「アタシがまだうら若きキアラちゃん顔負けのぴちぴちがーるだった頃……アタシと一之輔さんは2人でどこかに旅行したいね、と十之助(じゅうのすけ)さんよく話していたんだ」
十之助さんと言うのはオババさんの婚約者だった人だな。
めずらしく自身の過去を話し始めたオババを前にアランは記憶を手繰り寄せて整理する。
「それで、結婚して新婚旅行に行ける事になったら絶対にパリに行こう!! と決めていてねえ……当時のアタシはその日を心待ちにしていたんだ。
だがある日十之助さんは帰らぬ人となり……こんなしわくちゃオババになってもなおその日は永遠に来ていないんだよ」
「……」
いつになく感傷的になるオババに言葉を失うアラン。
「おっと、お客さんにこんな事を話すべきじゃないね……失敬、失敬。
じゃあ150円ちょうどになるよ、レシートはいるかね?」
オババが差し出して来たレシートと 『にゃんにゃんウォーズ』のカードパックを受けとったアランは頭を下げて店を出る。
「さて、今日はもうお客さんは来ないだろうし……アタシは雑誌でも読むか」
アランが出て行った一人の店内で雑誌を手に取ろうとしたおもちゃ屋オババであったが、突如強烈な眠気に襲われる。
「あれっ、急に何だ……眠くて、たまら……ん」
オババは雑誌を胸の上に置いたまま寝息を立てだす。
(万子、万子……)
「その声は……十之助さん!? えっ!?」
聞き忘れようのない愛しい人の声に目を開けたおもちゃ屋オババ。
頭上に広がる雲一つない真っ青な空に緑溢れる華やかなョーロッパの街並み、そして遠くに見える鉄の針そのものなエッフェル塔……何故かベンチに座っていたオババはここが花の都パリだとすぐに気づく。
「気分は大丈夫かい? はい、お水」
そしてその傍らでコップに入れた水を差し出して来る丸眼鏡の旅装の好青年。
「あっ、ありがとう。十之助……さん?」
彼は間違いなくかつて自分の婚約者だった幡芭十之助(はんばじゅうのすけ)であり、ここはいつか2人で訪れる事を夢見ていた花の都パリのセーヌ川観光船上だ。
さらに言えばコップの水に映る鮮やかなトリコロールリボン付きの白い帽子を被る見目麗しい黒髪の乙女は間違いなく若き日の自分だ。
S区中央商店街の挨くさく薄暗いおもちゃ屋ではない場所に来てしまった大芭万子は少し混乱しつつも十之助さんが差し出してきた水を口に含む。
「クルーズ船で少し気分が悪そうだったから屋外のベンチで風に当たっていたんだけど……そのまま寝ちゃったから一緒にいたんだ。気分はどうだい? 万子さん」
「ええ、大丈夫です十之助さん。ありがとう」
十之助の笑顔に微笑み返す万子。
「じゃあそろそろ観光船も停まるし……次は車で凱旋門とエッフェル塔に行こうか」
「ええ、そうしましょう!!」
これが天国でも夢でも構わない、このチャンスを精一杯楽しもう。
船着き場に入っていく船上で先に立ち上がった十之助さんが差し出す手を前に、腰にトリコロールリボンを結んだ白ワンピース&ブーツ姿のヤング万子はその手を取って優雅に腰を上げる。
それから数時間(?)後、夜……
「十之助さん、楽しかったわね!!」
「ああ、万子さんと新婚旅行でパリに来れるなんて……本当によかったよ」
シャンゼリゼ通りに凱旋門、ノートルダム大聖堂、その地下に住まう怪人で有名なオペラ座、ルーブル美術館と観光名所をめいっぱい楽しんでホテルに十之助さんと共に戻ってきた万子。
夕食の前にシャワーを浴びようと上着を脱ぐ十之助とメイキング済みベッドに座った万子がブーツを脱ごうとしたその時だった。
『キーン……コーン……カーン……コーン……』
「あの音は……?」
「どうしたんだい、万子?」
パリの教会の鐘にしては聞き覚えがありすぎるメロディーに首をかしげるヤング万子。
『キーン……コーン……カーン……コーン……』
「やっぱりこのメロディーは……!!」
このままではまずい、と気づいたヤングおもちゃ屋オババはきょとんとする十之助に駆け寄り抱き着く。
「お願い、十之助さん……何も言わずに抱きしめて」
「うん……」
『ピンポンパンポォン……こちらS区中央商店街より6時をお知ら……』
ぎりぎりでサスペンダーズボンにYシャツ姿の最愛の人の胸に飛び込み、ぎゅっと抱き合っていたオババは一瞬の刹那をも愛おしみながら目をぎゅっと閉じる。
「おや、もうこんな時間になってたのかね……店じまいしないと。
あと、今度守屋さんの姉弟さんが来たら特別サービスするようにメモしておかないとねぇ……よっこらせっと」
S区中央商店街の挨くさく薄暗いおもちゃ屋『オババのおもちゃ』店内に一人でいつの間にか戻ってきていたおもちゃ屋オババは椅子を降りて店じまい準備を始めるのであった。
【FIN】
「おばばさん、こんにちは……」
新旧様々なおもちゃが所狭しと積まれた『おばばのおもちゃ』店内。
そこを訪れたのはタ食の買い出しでS区中央商店街を訪れついでに先日の野球チームの件でお礼に来た金髪イケメン、守屋アランだ。
「おや、アランさん。ようこそだねえ……今日は何をお求めかね」
いつものラジオではなく新聞と雑誌を読んでいたおもちゃ屋オババこと大芭 万子(おおばばんこ)は新聞をガサガサと畳んでしまいながらアランに尋ねる。
「いえ、今日は先日の野球チームの件で……じゃあこれをーつ」
シュールからキモ可愛いまで様々な猫(?)キャラクターが登場する大人気トレーディングカードゲーム 『にゃんにゃんウォーズ』のカードパックを手に取ったアランはオババさんが見ていた変色した古旅行雑誌の数々に気づく。
「これは……フランス旅行特集号ですかね?」
それらの表紙を飾るエッフェル塔や凱旋門、セーヌ川の光景に共通点を見出したアラン。
「ああ、そうだよアランさん。
ほら、この前からフランスでオリンピックが始まっただろ? それでつい懐かしくなってね……若い頃に買っていた雑誌を店番読みで持って来たんだよ」
いつもの口調で気風よく話すオババの眼に一瞬、憂いが過る。
「アタシがまだうら若きキアラちゃん顔負けのぴちぴちがーるだった頃……アタシと一之輔さんは2人でどこかに旅行したいね、と十之助(じゅうのすけ)さんよく話していたんだ」
十之助さんと言うのはオババさんの婚約者だった人だな。
めずらしく自身の過去を話し始めたオババを前にアランは記憶を手繰り寄せて整理する。
「それで、結婚して新婚旅行に行ける事になったら絶対にパリに行こう!! と決めていてねえ……当時のアタシはその日を心待ちにしていたんだ。
だがある日十之助さんは帰らぬ人となり……こんなしわくちゃオババになってもなおその日は永遠に来ていないんだよ」
「……」
いつになく感傷的になるオババに言葉を失うアラン。
「おっと、お客さんにこんな事を話すべきじゃないね……失敬、失敬。
じゃあ150円ちょうどになるよ、レシートはいるかね?」
オババが差し出して来たレシートと 『にゃんにゃんウォーズ』のカードパックを受けとったアランは頭を下げて店を出る。
「さて、今日はもうお客さんは来ないだろうし……アタシは雑誌でも読むか」
アランが出て行った一人の店内で雑誌を手に取ろうとしたおもちゃ屋オババであったが、突如強烈な眠気に襲われる。
「あれっ、急に何だ……眠くて、たまら……ん」
オババは雑誌を胸の上に置いたまま寝息を立てだす。
(万子、万子……)
「その声は……十之助さん!? えっ!?」
聞き忘れようのない愛しい人の声に目を開けたおもちゃ屋オババ。
頭上に広がる雲一つない真っ青な空に緑溢れる華やかなョーロッパの街並み、そして遠くに見える鉄の針そのものなエッフェル塔……何故かベンチに座っていたオババはここが花の都パリだとすぐに気づく。
「気分は大丈夫かい? はい、お水」
そしてその傍らでコップに入れた水を差し出して来る丸眼鏡の旅装の好青年。
「あっ、ありがとう。十之助……さん?」
彼は間違いなくかつて自分の婚約者だった幡芭十之助(はんばじゅうのすけ)であり、ここはいつか2人で訪れる事を夢見ていた花の都パリのセーヌ川観光船上だ。
さらに言えばコップの水に映る鮮やかなトリコロールリボン付きの白い帽子を被る見目麗しい黒髪の乙女は間違いなく若き日の自分だ。
S区中央商店街の挨くさく薄暗いおもちゃ屋ではない場所に来てしまった大芭万子は少し混乱しつつも十之助さんが差し出してきた水を口に含む。
「クルーズ船で少し気分が悪そうだったから屋外のベンチで風に当たっていたんだけど……そのまま寝ちゃったから一緒にいたんだ。気分はどうだい? 万子さん」
「ええ、大丈夫です十之助さん。ありがとう」
十之助の笑顔に微笑み返す万子。
「じゃあそろそろ観光船も停まるし……次は車で凱旋門とエッフェル塔に行こうか」
「ええ、そうしましょう!!」
これが天国でも夢でも構わない、このチャンスを精一杯楽しもう。
船着き場に入っていく船上で先に立ち上がった十之助さんが差し出す手を前に、腰にトリコロールリボンを結んだ白ワンピース&ブーツ姿のヤング万子はその手を取って優雅に腰を上げる。
それから数時間(?)後、夜……
「十之助さん、楽しかったわね!!」
「ああ、万子さんと新婚旅行でパリに来れるなんて……本当によかったよ」
シャンゼリゼ通りに凱旋門、ノートルダム大聖堂、その地下に住まう怪人で有名なオペラ座、ルーブル美術館と観光名所をめいっぱい楽しんでホテルに十之助さんと共に戻ってきた万子。
夕食の前にシャワーを浴びようと上着を脱ぐ十之助とメイキング済みベッドに座った万子がブーツを脱ごうとしたその時だった。
『キーン……コーン……カーン……コーン……』
「あの音は……?」
「どうしたんだい、万子?」
パリの教会の鐘にしては聞き覚えがありすぎるメロディーに首をかしげるヤング万子。
『キーン……コーン……カーン……コーン……』
「やっぱりこのメロディーは……!!」
このままではまずい、と気づいたヤングおもちゃ屋オババはきょとんとする十之助に駆け寄り抱き着く。
「お願い、十之助さん……何も言わずに抱きしめて」
「うん……」
『ピンポンパンポォン……こちらS区中央商店街より6時をお知ら……』
ぎりぎりでサスペンダーズボンにYシャツ姿の最愛の人の胸に飛び込み、ぎゅっと抱き合っていたオババは一瞬の刹那をも愛おしみながら目をぎゅっと閉じる。
「おや、もうこんな時間になってたのかね……店じまいしないと。
あと、今度守屋さんの姉弟さんが来たら特別サービスするようにメモしておかないとねぇ……よっこらせっと」
S区中央商店街の挨くさく薄暗いおもちゃ屋『オババのおもちゃ』店内に一人でいつの間にか戻ってきていたおもちゃ屋オババは椅子を降りて店じまい準備を始めるのであった。
【FIN】
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