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【ミキちゃんちのインキュバス2!(第56話)】「魔界警察捕物帳!! 死神夫妻と紐パンティー(下編)」

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「酷いわ!! そんなの一発アウト級のパワハラじゃない!!」
 人事採用担当者として看過できない割木さんの会話に割り込んでしまうミキちゃん。
「ありがとうございます、魔潤体質の女性さん……でも僕らの業界ではこれぐらい当たり前だったんです」
 ドクロをカタカタ言わせながら補足説明する死神リッパー族姿の鎌雄。
「そうだったわね、鎌雄さん……それでその後なんですけど」
 割木さんは回想シーンを再開する。

『どうしよう……』
 沈みゆく夕陽の中、ぺんぺん草も焼き尽くされた大地に立ち尽くす戦乙女。
 (もうあの兵士の魂はだめね……多分遠くに逃げてしまったわ)
「はぁぁぁぁ……」
 黒焦げの鉄くずと化した軍事車両の傍らに腰を下ろした戦乙女は大きなため息を吐く。
「……もうこの仕事辞めようかな」
『せっかく種族能力を活かせる仕事に就けたのになぁ』
「理想と現実、ってモノよね。本当に笑えちゃうわ」
『そうだよねぇ、本当に生きてくのは辛いよ……』
「給料の安い魔界スーパーのレジ打ちでもいいから……」
『パワハラ上司のいない仕事に転職したいよなぁ』
「そうよねえ、わかるわぁ……!?」
 自身の心の声ではない何かが近くに潜んでいる。
 それに気が付いた戦乙女はすぐに魔力槍を生成し、構える。
『お前は……』
「あの時の死神!!」
 大鎌を構えて軍事車両の後ろから出て来たリッパー族助手の男。
「我らのつわものの魂を出せ!!」
『お前こそどこに隠している!!』
 槍と大鎌を突きつけ合い威嚇する戦乙女とリッパー族。
「……嘘をつくのであれば我が神槍で貫く、すぐに差し出せ」
『……お前こそ、我が鎌で首を刎ねられたくなければ正直に渡せ』
 お互いに違和感を抱えつつも引くに引けないチキンゲームとなってしまった2人。
「お前……」『あんた……』
「『逃しちまったのか?』」
「ははははは、 はははは!! 」
「ひゃはははは、うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
 同種族うんぬんではないまさかのシンクロ率100%カブリ発言。
 目の前の商売敵が嘘をついていない事に気づいた2人はツボったあまり武器を手放して笑い転げてしまう。
『こりゃだめだ、もう俺クビだわ!!』
「私も始末書じゃすまないわ、リッパー族さん!!」
『そいつは災難だったな、ワルキューレ族さん!! まあ明日からハロワ仲間として一杯いかがですか?』
 そういいつつ黒ローブの懐に手を入れたリッパー族は缶ジュースを2つ取り出す。
「ありがとう、いただきますわ」
 色々な意味で吹っ切れた戦乙女は缶ジュースを受けとり、鉄くず塊の横にリッパー族と並んで座る。
「しかしリッパー族さんも大変なんですね……」
 そのまま月明りの下で語り合う2人
『いやぁ、ワルキューレ族さん程ではありませんよ。やはり転職先は上級魔界人のSPとかそう言うのですか?』
「まあそれが理想だけど……あれの応募倍率ってものすごいのよね。あとは魔界王立軍の兵士とかだけど、あれもハードワークの極みだつて百うし」
『私も仕事柄ワルキューレ族のSPさんは何回か見ましたけど、本当にお綺麗な種族ですよね。自分なんかは見た目がこの通リガイコツだから下手に出歩くと子供に泣かれて犬に吼えられて……』
「あら、私はそのリッパー族さんのお姿は死神族らしくて好きですよ? 私なんかはこの鎧を脱いだ私服だとエルフ族や妖精族と勘違いされちゃうんですよ。
 まあわからないでもないですけどね……」
 リッパー族にもらった缶ジュースを飲みつつ乾いた笑みを浮かべる戦乙女。
「じゃあ私はこれで……」
『あの、ワルキューレさん!!』
 ガイコツの手でワルキューレの手を掴むリッパー族男。
『どうせ僕も貴女もこのまま帰った所でクビ、そして魔界ハローワークのお世話になるしかありません!! どうせなら……私と一緒に、色々な世界を見てみませんか?』
「……リッパー族さん、それって、つまり」
 フードを目深にかぶったまま頷くリッパー族。
「そうですね、ここで会ったも何かの縁……これからよろしくお願いいたします」
 リッパー族の言わんとする事を察した戦乙女は顔を赤らめながら、首を縦に振るのであった……

「それでその後は人間に擬態し、青年海外協力隊のメンバーを偽ったり世界を放浪する若きバックパッカーを装って数年間人間界に滞在……今は日本に住まう日本人としてここにいる、と言うわけなんです」
 (うむ、嘘はついていないようじゃな……)
 不法滞在魔界人2人の過去を聞いたミキちゃん&魔界人達は考え込んでしまう。
「一応聞くが……お前ら、その能力でコロシはやってねえだろうな?」
「はっ、はいっ……もちろんです!! 」
 チンピラ魔界刑事・烏魔に問われた割木夫妻は正直に答える
「悪事を働く不法滞在魔界人や人間のマフィアとかヤクザみたいな連中に肩入れした事は?」
「それもありません!!」
「なぁオヤジ……毒を以て毒を制すじゃねえけどさ。コイツら利用できねぇかな?」
 思う所があってか、ラビオのオヤジに提案する烏魔刑事。
「ううむ……だが、ワシは……」
「ラビオさん、私からもお願いです!! この人達を見逃してもらえませんか?」
「ミキさん……ラビオさん、僕からもお願いできますでしょうか?」
 かつてミキさんと出会った時の自分と死神族夫妻の過去を重ね合わせていたアランはその優しさに改めて感動しつつラビオ刑事に頼む。
「ラビオさん、この人達を私の使用人として雇います」
「イザベラ殿!?……あっ!!」
 コードネームではない本名でうっかり呼んでしまったラビオ刑事は思わず口を押さえる。
「と、いう事だから……この雇用契約書にサインしてくれる? ギンコさんはこの2人の拘束を取ってあげて」
「えっ、はい?」
「使用人? 雇用契約」
 魔力で実弾クラスに強化済みのリボルバーモデルガンを床に置き、チャイナドレスの胸元から巻紙2枚と銀細工の万年筆2本を取り出したイザベラさんは拘束を解かれた2人の前に座る。
「戦乙女さんと死神さん……ワタクシの愛しい守屋さんのファーストキッスを奪い、パンティを盗もうとした件、不問にしてほしいですよね? 今後もよろしくお願いしますよ?」
 にっこりと笑い、サインをするように促すイザベラさんが放つ修羅の圧。
 サインしなかった場合、2人を待ち受けるのは魔界警察による逮捕ではなくこの魔界王族級のバケモノ魔力を持つヤバイ淫魔族さんによる存在事象消滅処置。
 そう察した2人は慌ててペンを取り、悪魔の契約にサインをするのであった。

【完】
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