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【ミキちゃんちのインキュバス2!(第53話)】「再来のマッドサイエンティスト!! 女淫魔キアラ、強制○○超倍化の危機!?」

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 午後7時、都内T区某所にあるタイガーマンマンション805号室。
「ただいまですわぁ……」
 イベント中のS区中央商店街で白昼堂々、ミキさんが未知の魔界人に唇を奪われかけると言う大事件を受けて守屋家で行われた緊急会議に朝からずっと参加したキアラはくたくたになって帰宅する。
「お昼は残り物で済ませよっか……」
 どこの馬の骨かもしらない下賤の者に(自身も狙っていた)ミキさんのファー〇トキ〇スを奪われかけて激昂するイザベラさんにそれをなだめるギンコさんとアラン様、一切の痕跡を残さずにドロンした件を受けて『今後は不審者の魔力解析を進めつつ警戒レベルを引き上げて守屋さんも護衛する』と言う実質打つ手なしな判断を下さぎるを得ないラビオ魔界刑事。
 やらなくてはならないだけでただ疲れるだけだった会議にキアラはぐったりする。
「アンジェラのお嬢様、こういう時はとりあえず温かいお茶ですよ…… どうぞ!!」
 そんなキアラの目の前に差し出される温かいお茶。
「あら、ありがと茶摘さ……んっ!?」
 あまりにもナイスタイミング過ぎる湯飲みを手に取りかけたものの、それが茶摘ではない事に気が付いたキアラ。
 目の前でにやつく黒無地Tシャツとジーンズ上に白衣を羽織り、くしゃくちゃにもつれた灰色髪で垂れ目な眼鏡な淫魔族。
 こいつが淫魔財閥魔道技術開発部門の大問題児マッドサイエンティスト、レイ・ビーストである事に気が付いたキアラは右手をビストル構えにして人差し指の先端に黒い魔力弾を生成し突きつける。
「何しに来たの!?」
「大気中の魔力がスッカスカなこの人間界でありながら自前の魔力だけで高密度の魔力弾を瞬時に生成できるとは……あの大使館事件で有名になったあの秘書殿にしてこのお嬢さんありとはこの事だ!! すごすぎるよ、アンタ!!」
 額に射出可能状態な魔力弾を突きつけられ、ホールドアップしつつもレイはじげしげと観察して分析する。
「…… さてはこの前の事件もアンタの仕業ね。」
「この前の事件? ああ、あの時は大変でしたよ。 あの怖いおじいちゃん刑事さんに何時間も拘束されて説教され、この手のアレで定番のカツ丼も無し……ボクは純粋な好奇心から実験協力を依頼しただけなのにねぇ」
 どうやらこいつは本当にあの事件には関わっていないようだ。
 思考盗聴にして噓発見器でもある特殊魔界暗器『脳髄ノ散策者(サイコメトラー)』を耳に入れていたキアラはそう確信する。
「それで今日来たのは魔界刑事(仮)でもあるアンジェラさんにミキさんへの接近禁止命令を解除して欲しいからなんです!! 魔潤体質の守屋さんじゃないと出来ないアレやコレやが溜まりに溜まって…… もう僕の知識欲が爆発寸前の限界なんです!!」
「そんな事知ったこっちゃないわ。とりあえず動かないで、その怖ぁいおじいちゃん魔界刑事を呼ぶから」
 右手指先の魔力弾エイムを保持したまま魔界スマホを取り出し、ラビオ刑事にコールし始めるキアラ。
「アンジェラさん!! お聞きしましたけど……貴女、とある殿方様のハニートラップ篭絡にてこずっているそうですよね? そんな貴女様にパープルなスイーツをお一つお持ちしましたのでどうぞ!!」
 そう言いつつレイが差し出したのは切子ガラス製のピンク色の小瓶だ。
「これはボクが調合したオリジナルの媚薬……魔力反応や薬物反応、副作用を一切残さないもので、巨像をも一瞬で発情させうるものなんですよ!!」
「はいはい、魔界警察関係者への贈賄及び人間界への違法物品の持ち込み……現行犯で罪状上乗せ確定ね。あら、ラビオさん出ないわね……充電中かしら?」
「そこを何とか、お願いしますぅ!!」
 キアラにカエルジャンプで飛び掛かり、抱き着いて泣き落とそうとしたレイ。
 しかしその指がうっかりと滑り、手に持った香水をプシュッとキアラに向けて散布。
 キアラは特濃な甘い香りのそれを避けれずにたっぶりと吸ってしまう。
「あっ、ああっ……ああん……はあ、はぁ……うぁん、ああん」
 指先から消える魔力弾と床に滑り落ちる天界スマホ……媚薬の効果で全身が火照りだし、顔を真っ赤にして息を荒くしたキアラは床に崩れ落ちるように座り込む。
「(こうなりゃ毒を喰らわば皿までだ!!)残念でしたねぇアンジェラ家のお嬢さん……もしこれをあの殿方に用いればねぇ」
「それだけはやめて、お願い……今すぐ解毒してよお、うぅっ……お願いよお」
 淫魔族の血が1/3混じった身とは言え、1/3を成す天使族の名誉にかけて越えられない一線上で必死にしがみつくキアラは辛さのあまり半泣きで懇願する。
「ええ、もちろんですよ!! ボクは世界の真理の追及者であり、チンピラではありませんから貴女の乱れた様を撮影して脅すような真似はしません!!
 その代わり……守屋さんの魔潤体質に関する研究を円滑に進めるために今後のご協力をお願いできますかねえ?」
「そっ、それは……出来ないわ!! それ以外ならサンクスでも何でもだすからあ…… ううっ、お願いよぉ」
 キアラは自由にさせるとどこを触り出すか分からない手を閉じた足で挟んで動きを封じつつ懇願する。
「そんなのノーサンクスですよ!! ボクは……」
「ただいま、キアラ……ええと、どちらさまですか?」
 帰宅するなり見知らぬ白衣の男とぺたん座りでハァハァするキアラに直面した茶摘。
「茶摘さん……逃げて、アラン様を……」
「キアラ!? おい、キアラをこんなにしたのはお前なのか?」
「ひえっ!!」
「その反応、そうなんだな……」
 憤怒の圧と共にスティック掃除機と傘を掴み、こちらに向かってくる人間の男。
「まっ、待ってください!! ボクは淫魔財閥の研究職でアラン様の……」
「人誅じゃあああ!!」
「いゃぁぁぁぁ!!」

「茶摘殿、この度は魔界警察にご協力ありがとうございました!!」
 レイを問答無用の二刀流でボコボコにした茶摘の通報を受け、すぐさま確保したラビオ刑事は頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ……アラン、キアラは大丈夫そうか?」
「ええ、もう魔力治療による毒抜きは完了したので一晩ほど安静にすれば大丈夫です……茶摘さん、本当に申し訳ございません!!」
 媚薬をキメられたキアラの魔力治療を終えたアランも茶摘に謝る。
「オヤジ、連絡がついたぜ。今すぐコイツを引っ立てて来いってさ、」
「イケメン刑事さん!! それだけはお許しください!! ボクはあんなところに入っている時間は……」
「やかましゃあ!! おら、魔界に戻るぞ!!」
「ぴええええん!!」
 ボロボロのレイをふん縛って抱えた魔界刑事コンビ&アランは月の輝く夜闇に飛び立つ。

「茶摘さん、ごめんなさい……夕飯が出来ていなくて」
 3人が去った後、いつもの歩ける寝袋ではなく茶摘のベッド上に寝かされたキアラは弱弱しい声で謝る。
「いいよいいよ、キアラも大変だったわけだし。おかゆは食べられそう?」
「それなら何とか……」
「じゃあレトルトパウチのを温めてくるよ。少し待ってて」
 そう言いつつ台所に向かい、電子レジジでお粥パウチを温める茶摘。
 おクスリではない本当の意味で胸キュンなキアラは茶摘の優しさに感謝しつつ、レトルトおかゆの香りを胸いっぱいに吸い込むのであった。

【FIN】
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