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【ミキちゃんちのインキュバス2!(第41話)】「ミキちゃん&リトル淫魔の水遊び!! 隣の芝生は青くない?」

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 都内S区某所にあるマンション508号室、土曜日の昼時。
「ミキさんにアラン様、わざわぎありがとうですわ!!」
 茶摘が会社のやむをえない仕事で週末休日出勤中、アラン様とミキさんにお貸しする予定の漫画本を持って飛んできたハ―フサキュバスのキアラ。
 アランが冷凍ご飯の処分で作りすぎたチャーハンをお昼で片付けたいからと守屋美希・通称ミキちゃんに誘われたキアラはアランの焼き豚チャーハンで満腹になったお腹をさすりつつ共に食卓を囲むアラン様とミキお姉さまに感謝する。
「いいのよ、キアラちゃん。いつも面白い漫画をありがとうね!!」
「おかわりあるからたくさん食べて!」
 夏本番となり傷みやすい食材の管理と調理に勤じむ主夫アランはにこやかに答える。
「そういえばミキさん、ここに来る途中のS区公園近くでこんな施設を見たんですけど……これって何なんですか?」
 キアラが見せて来た天界スマホの空撮写真には大きな建物の横にある爽やかなブルーー色の緩やかな楕円形の窪みの中、その縁に設けられたイルカとシャチ、オットセイの像が口から吐く冷たいシャワーを楽しむ水着姿の子供達が写っている。
「ああこれね……これは公園近くのタワーマンションの施設ね。夏限定で子供向け屋外水遊び場が一般向けに解放されているの」
「つまりこれは人間界の遊戯施設なんですね。 ミキさんはここを利用した事がありますか!?」
 いつも自身が利用するT区スポーツセンターの温水プールとは違う人間界の文化施設の発見……魔界人としてここを調査しない理由の無いキアラはチャーハンを食べ終え、キラキラした目でミキちゃんに問う。
「無いわ……そもそもここは親子で行く場所だから」
 私みたいな独身女性が行く場所じゃないのよ、と言う哀しい言葉をミキちゃんは言いかけてしまう。
「でもこのマンション以外の人でも利用できるんですよね? 大人だけじゃなくて子供が一緒なら誰でも利用OKなんですよね?」
「ええ、そうだけど……?」
 それでもなお食いつくキアラの言わんとする事が分からないミキちゃん。
「せっかくですのでアラン様もご一緒しませんか? 多分気持ちいいですよ?」
 チャーハンのお皿を台所のシンクに入れ、デザートに冷蔵庫のスイカを持ってきたアランにキアラは話を振る。
「ミキさん、アラン様。見ていてください……」
「??」
 ミキちゃんの前で立ち上がったアランとキアラ。
『変身!!』
 次の瞬間、成人男女サイズからみるみると縮小して若返りはじめるキアラは身長1メートルと少し辺りで縮小を止める。
「これで大丈夫ですよね、 ミキさん?」
 だぼだぼのTシャツに包れた褐色肌に金髪の可愛らしい幼子となったキアラと可愛らしい幼い男の子になったアランはにっこり笑う。

 ……翌日、S区某所のタワマン横にある屋外水遊び場。
「キャー、気持ちいい!!」
「うひゃあ!!」
 さんさんと照り付ける太陽の下、冷たい水を楽しむ子供達。
(うふふ、楽しそう……2人とも可愛いなぁ)
 そんな中に混じる褐色肌に三つ編み金髪、青い目でピンクの水着幼女に化けた女淫魔のキアラと青いトランクス水着の金髪碧眼な男の子に化けたアラン君をを見守るミキちゃん。
『日本に遊びに来た海外在住の親戚のお子さんの要望で一緒に来た保護者』と言う設定で同行し、白いつば広の帽子にサングラス、白ワンピースと日傘と言う完全日焼け防備でベンチに座る彼女は人間界の文化施設調査と言う事も忘れて楽しむ2人に目を細める。

(でもみんな若いなぁ……今年入った新卒ぐらいかしら?)
 それと同時に目に入る子供の手を取って歩く若い女の子達。
 音楽家の道は断念せざるをえなかったものの、一般企業の人事部にホワイトカラー就労。
 今はお料理が上手で優しいイケメン男淫魔と同居中の自分が不幸だとは思わないが彼女たちは自分が得られなかった幸せを獲得している……そんな思いで胸がシクシクし始めたその時、隣のベンチの親子の会話が耳に入って来た。
「マキちゃん、麦茶ちょうだい!!」
「ショウ君、どうぞ!!」
「ありがとう、マキちゃん……冷たくておいしい!!」
「マキ……?」
 聞き覚えのある声と名前に気づいたミキちゃんは気にもしていなかった隣のベンチの方を向く。
「……あれっ? その美スタイルに美巨乳はミキよね? 守屋の美希さんで間違いないですよね?」
 隣からの目線に気づいた同年代の女性は水着姿の小学校低学年ぐらいの男の子から受け取った麦茶の水筒を落としそうになりつつも、サングラスを上げて確認する。
「マキちゃん、どうしたの?」
「ミキさん、どうしましたの?」
「ミキさん……!?」
 そこに駆け寄ってくる幼児アラン君とキアラちゃん。
「その子たちは……外国人の子供? あなた独身じゃなかったの? いつ、そんな2人も子供を……?」
「まっ、マキ。落ち着いて!! いま説明するから……この子たちはね」
 明らかにされてはいけない誤解をされているミキちゃんは2人の子供達の肩にタオルをかけつつ弁解を始める。

「なるほどねぇ……海外の親戚のお子さんを預かってここに連れて来たのね。ごめんね、隠し子とかじゃないかと疑って」
 ミキちゃんの説明で誤解が解けた学生時代の友人・音楽家の和歌間 真紀(わかま まき)は安堵の息を吐く。
「まさかマキがこのタワマンに住んでいるとは思わなかったわ……息子さんも元気いっぱいで何よりだわ!!」
 仲良くなった幼子アラン君&キアラちゃんと共に水鉄砲の的当てを楽しむショウ君を見守るミキちゃんは手を振るアランに微笑む。
「やーねー、ミキったら。ショウ君はダーリンの連れ子よ!! 私とダーリンの子供は……まだ準備中なのよっ」
「えっ、そうなの!?」
 言われてみれば6つ年上の音楽家とマキが入籍したのは一年前。それより前に子供を授かっていたでもない限り辻褄が合わない。
「それでさ、聞いてよミキ!! 最近ダーリンのママさんがさぁ……」
(ああ、また始まったわ……これさえなければマキもなぁ)
 ミキちゃんはマキのマリッジブルーなお話を右から左へ聞き流しつつ、ショウ君とアラン君にキアラちゃんが3人で仲良く水遊びする様に癒されるのであった。

【完】
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