ミキちゃんちのインキュバス 2 !!

千両文士

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【ミキちゃんちのインキュバス2!(第40話)】「凶暴大鳥・魔界シャモ現る!? アランと西瓜、シュールレアリスム」

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 S区中央商店街、平日午後。
「らっしゃい、らっしゃぁい!!」
「今日もいい物あるわよぉ!!」
 午後の買い物で訪れた近隣住民に売り込まんとする商店街の自営業者のおっちゃんにおばちゃん達は威勢よく声を出す。
(ひき肉、香辛料、 トウガラシ少量……あとはお豆腐とネギだな)
 そんな賑やかなS区中央商店街を歩く金髪にスタイリッシュなモデル体型の若いイケメン。
 夕食のマーボー豆腐の材料を確保すべく中央商店街にやって来たS区某所のマンションで商店街のローカルアイドル的存在の会社員女性・守屋 美希さんと同居中の男淫魔アランは買い物メモ片手に人混みをスイスイと避け歩く。
「八郎さん、こんにちは!!」
「おう、守屋さんとこの弟さん!! いらっしゃい!!」
「今日は何をお求めですか?」
 客が切れたタイミングで訪れたS区中央商店街のアイドル・守屋姉弟のハーフイケメン弟さん。
 その来訪に喜びの声を上げるのは『やさいの八郎』店主・酉矢 八郎(とりや はちろう)とその娘さんで家業手伝いの酉矢 韮美(とりや にらみ)。
「とりあえず万能ねぎとキュウリを数本……」
「かしこまりました!! 他にありますか!?」
 おっちゃんやおばちゃんとのよもやま話にいささか飽きていた韮美は爽やかイケメンのオーダーする野菜をノリノリでビックアップしてカゴに入れていく。
「あとは……んんっ!?」
 そんな韮美さんを見守りつつほかに必要な野菜が無かったか店内を見回すアランの目に飛び込んで来た黒い筋が入った緑の球体。
『スイカ1球 700円』と言う偽装表示されてはいるが……どこかで聞き覚えがあるのはさておきあの模様とサイズは間違いなく魔界最恐の鳥類として恐れられる狂暴怪鳥・魔界シャモの卵だ。
 一般の人間界の青鮮食品を扱う個人商店が何故このような貴重で危険な物を仕入れて販売出来ているのかはわからないが、確認が必要だ。
 そう確信したアランは一息入れて平静を装う。
「あの、八郎さんに韮美さん……あのスイカと言うのは何なんですか?」
「スイカ? スイカはスイカだよ」
「ああウォーターメロンは甘くて水分たっぷりで美味しいわよ?」
 アランの当り前すぎる奇妙な質問に言わんとする事がよくわからず、逆に首をかしげてしまう酉矢親子。
「……そうですよね、ごめんなさい。そのスイカも一つもらえますか?」
「毎度ありぃ! 韮美、甘いの選んでやりな!!」
「あいよっ!! ちょいと待ってくれ守屋さん」
 2人の元気いっぱいで威勢のいい声に、(当たり前であるが)魔界人ではない普通の人間であることを理解し、そして魔界の密猟者とは無関係で魔界シャモの危険性について何も知らないと確信したアランは安堵の息を吐く。

 ……それから数時間後、都内S区某所にあるマンション508号室。
「アラン君、ただいまぁ……」
「ミキさん、お帰りなさい!」
 日中の仕事を終え、夕方からの嫌な湿気の中くたくたになって帰宅した会社員女性・守屋美希、通称ミキちゃんは出迎えに来た同居人アランの爽やかなイケメンスマイルに思わず微笑む。
「アラン君、いつもありがとう!!」
 スーツ上着を脱いでハンガーに掛け、よく冷えた麦茶で満たされたプラスチック製ピッチャーとコップを取り出す。
「はああぁああ……冷たい麦茶が五臓六腑に染み渡るわぁあああ…… ????」
 麦茶の芳ばしさと気持ちいのどごしに歓喜の声を上げるミキちゃんの目に入ったモノ。
 台所の角、邪魔にならない場所に置かれた黒猫アラン大好きなマッスルGUYO剛襲来に備えて購入しておいた猫用ケージ。
 その内部に夏の風物詩が野ざらしで安置されていると言うシュールレアリスムな風景にミキちゃんは頭の中が疑間符まみれになる。
「アラン君、あれは……何かの現代アート作品なのかしら?」
「ミキさん、ごめんなさい。実は今日、中央商店街の八百屋さんで以前お話した魔界シャモの卵が『スイカ』と言う別の名称で売られていて……ひとまず魔界に鑑定依頼で送る前に万が一孵化してしまった時の安全措置としてそこに入れたんです。明日にはラビオさんと烏魔さんが……ミキさん?」
 アランの説明を聞き終える事無く猫ケージから魔界シャモの卵を取り出したミキちゃん。
 指先でコンコンして中の反響をたしかめたミキちゃんはそれを台所のまな板上に置いて包丁を取り出す。
「えっ、あの……」
 その意図が分からず戸惑うアランの前でミキちゃんは魔界シャモの卵を上から縦に一閃。
 真っ二つにされた魔界シャモの卵はその赤い中身を晒して左右に割れる。
「うわぁぁぁ……じゃない? 何だこれは?」
 鳥のバラバラ死体が出て来ると想像していたアランは中央に黒い粒粒が円形に配置された水分たっぷりの真っ赤な物に驚きつつもその甘い香りに顔を寄せてしまう。
「はいっ、アラン君。あ―ん」
 中身の赤いモノをスプーンでくりぬき、アランに差し出すミキちゃん。
 ミキちゃんの甘々な誘惑に耐え切れずそれが正体不明の何かである事も忘れてアランはぱくりと食いつく。
「甘くてシャクシャクおいしい!! これは。・・果物ですね!!」
 これが魔界シャモの卵ではなく、先日のキアラの七夕パーティーで出てきた人間界の果物だと気づいたアランはにこやかに見守るミキさんの前でシャクシャクの甘い果肉を楽しむ。
「そうよ、アラン君。これはスイカって言う果物なの……せっかくだから夕食のデザートにしましょ! 私先にシャワー浴びて来るわ。」
「はいっ!! ミキさん」
 台所を出てシャワーに向かったミキさんを見送ったアランはスイカを安全な場所に置き、フライパンの麻婆豆腐を温め直しつつホカホカのご飯をよそうのであった。

【完】
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