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【ミキちゃんちのインキュバス2!(第35話)】「ヲタク茶摘VSチンピラ魔界刑事 娯楽の神様はエクゾシストなのか!?」

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 都内S区某所にあるマンション、408室。
「烏魔さん、いますか。アランですよ?」
 そのドアをノックしつつインターホンを鳴らすのは508号室に住む親戚のお姉さんと同居中の帰国子女にして大学浪人生(と言う事になっている)守屋アランである。
「あれっ……鍵が開いているぞ? 入っていいのかな?」

 2週間ほど前ミキちゃんをナンパしてロイヤルガストでゴチになろうとしたのがきっかけでの元上司のラビオ刑事と再会し、ミキちゃん&淫魔財閥御曹司姉弟の護衛として(強制)復職再登用された魔界刑事の烏魔 鞍之介(からすま くらのすけ)。
 キアラと共にその事務処理で魔界に行っているラビオ刑事に(金銭関係を伴わない)適度なコミュニケーションを取っておいてほしいと頼まれていたアランは持参したおすそ分けおかずのタッパー片手にドアを開ける。
「烏魔さ…… !?」
 生気のない虚ろな眼で床に丸くなってうずくまり、床に放り出されたラビオ刑事の捕縛兵器・カウボーイロープを指でツンツンしている烏魔刑事に気が付いたアランは慌てて駆け寄る。

「烏魔刑事、落ち着きましたか?」
「ああ、ありがとう……アランさん。美味しいよ」
 アランにカウボーイロープを没収され、タッパーで持参した染み旨こんにゃくの甘辛煮と大学いもを味わって落ち着く烏魔刑事。
「アランさん、聞いて欲しいんだが……親父との生活はひでえよ」
 復職の際、退任自衛官の黒野(ラビオ刑事)と同居する事になった失業中の甥っ子と言う設定を与えられた鞍之介はため息をつく。
「食事は薄味の質素なモンばかりで娯楽と言えば白黒のチャンバラ映画かガンマン映画。
 ウィークエンドシネマで刺激的なB級映画を録画しても1人の時しか見られない……その上行ってもいい場所はスーパーと中央商店街のみ、給料はまだ出ない。俺みたいなナウいヤングがこの生活のどこに楽しみを見出せと言うんだ!? アンタも思うだろ!? なぁ、そうだって言ってくれよぉ!!」
 愚痴を聞いてもらっている相手が淫魔財閥の御曹司である事も忘れてヤケになってしまう鞍之介。
「……こればっかりは僕がどうこうできる問題では」
「だいたい俺の心のオアシスにして目の滋養強壮剤な美グラマーレディのミキお姉さまはこのタイミングで出張に行っちまうし……俺は何を頼りに生きろと言うんだよぉ!! 娯楽が欲しいんだよぉ!!」
 ヤケグソのまま半泣きでテーブルに突っ伏してしまう鞍之介。
「ええと、そういう事なら……ちょっと待ってくださいね」
 そう言いつつスマホを取り出したアランはチャットアプリを起動させる。

 ……それからしばらくして。
「どうも初めまして……株式会社サウザンド人事部社員、茶摘卓雄と申します」
 アランからチャットアプリ着信を受け、必要であろう物をかき集めて駆け付けた茶摘。
「こちらこそ初めまして。私は烏天狗族の両親を持つ魔界人にして魔界刑事・烏魔鞍之介と申します」
 アランの知り合いでミキさんの職場の部下だと言う初対面の人間を前に緊張気味に社会人儀礼『名刺交換』を行う鞍之介。

 そんな2人を見守るアランは408号室のキッチンを借りて滝れたお茶を3つテーブルに置く。
「ええと、アランから聞いた話では烏魔さんは可愛い女の子に飢えていて遊べる物が足りないと……とりあえずいくつか持ってきたんですけど、まずは俺のおすすめから」
 そう言いつつ茶摘が取り出すのは携帯型ゲーム機のジョイステーションポータブルと専用ゲームソフト『ニャンティ・ザ・ベリイ 月の踊り子と太陽の鍵』
「うおおおおお!! 女の子だあ!! へそ出しベリーダンサーさんだぁぁぁ!!」
 褐色肌猫娘ベリーダンサーのニャンティが月明りの下で舞うパッケージイラストに大興奮の鞍之介。
「あっ、ああ……とりあえず喜んでもらえて何より」
 同居人のキアラに見せた時の蔑むような白い眼とは真逆の大興奮っぷりに少し引きつつもニャンティ沼に一瞬で引きずり込まれた鞍之介に茶摘は密かにほくそ笑む。
「キアラも俺もクリア済みだからお試しプレイ用に本体セットで貸すけど……お給料が入ったら作った人と地域へのお布施だと思っておばばさんのお店で同じ物を買ってくれないかな?」
「ああ、分かったぜ!!」
 ワクワクでゲームソフトの取り扱い説明書を読む鞍之介は即OKする。

「あといくつかあるんだけど……こう言うのはお好みかな?」
 次に茶摘が取り出したのは数冊の分厚い書籍……布教用に確保しておいた見目麗しきエリザベス女史のグラビア写真集だ。
「うひょひょひょぉい!! 綺麗なお姉さんだぁぁぁ!!」
 茶摘がテーブルに置いた写真集を手に取り、美しく華麗なドレスに身を包むエリザベス女史の写真をガン見する鞍之介。
(アラン、もしラビオさんがこれを見て激おこだったらこの人は男のお姉さんだと説得してくれないか? それでも駄目だと言うなら返却してもらってくれ)
(はい、わかりました)
 昨年のサイン会で色々あった経験を共有するアランは茶摘の耳打ちに答える。

「最後に、これはラビオ刑事向けでもあるけど……100円SHOPで買ってきた将棋、チェス、オセロのボードゲームにトランプと花札。2人で遊べるから好みでどうぞ」
「おお、ふぉぉぉぉ……茶摘さん、アナタと言うお方は……まさに遊びの神様だ!!
 こんな楽しい物をたくさん持ってきてくれるなんてオヤジも喜ぶに違いないぜ!!」
 テーブルに置かれた携帯ゲーム機、エリザベス女史のグラビア写真集、アナログゲームの数々。
 その光景に感動した鞍之介は感謝のあまり平身低頭になり崇めてしまう。
「茶摘様……いや、これからはアニキと呼ばせてください!! そしてこれからもよろしくお願いします!」
「あっ、ああ、こちらこそミキさんやアランをよろしく!!」
 少しオーバーリアクションかなと思うのはさておき、感謝されて嬉しい茶摘はにこやかに応える。

(キアラのみならず烏魔さんまで調伏して配下にしてしまうなんて……茶摘さんのヲタクカ、恐るべしだ!!)
 魔力を持たない普通の人間でありながらヲタクカだけで後輩サキュバスのキアラのみならず魔界刑事までもアランの目の前で調伏せじめてしまった茶摘。
 今ではその必要はないとは言え、人間を誘惑してサンクスを稼ぐ淫魔族の仇敵たるヲタク人種の脅威的な何かをアランは再認識するのであった。

【完】
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