ミキちゃんちのインキュバス 2 !!

千両文士

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【ミキちゃんちのインキュバス2!(第33話)】「マッドサイエンティスト現る!? 淫魔財閥魔道技術開発部門主任、レイ・ビースト!」

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 都内S区某所にあるマンション、508号室。平日夜。
「ただいま、アラン君……あっ、そうか。今日はいないんだったわ」
 一日の仕事を終え、真っ暗な部屋に帰宅した株式会社サウザンド人事部社員・守屋 美希、通称ミキちゃんは同居人の男淫魔アランが魔界警察との定期面談でラビオさんと共に一時帰省(?)していて留守な事を思い出す。
「まあいいや、夕飯を食べて……!?」
 ワンルームマンションの明かりをつけたミキちゃんは台所辺りに何者かの気配を察知。
 万が一の時にとアランから渡されていたミニイヤホン型護身用魔界暗器『舌ヲ抜ク嘘ツキ』を耳にねじ込み、ベッドの枕下に隠した威嚇用モデルガンを手に取る。

「やあどーもどーも、守屋ミカさんですね? うちの若様がお世話になっておりますぅ」
 ミキちゃんが台所に突入しようとしたその時、ひょっこり現れたのは横縞ボーダー半袖Tシャツとジーンズ上に白衣を羽織り、くしゃくちゃにもつれた灰色髪で垂れ目な眼鏡男。
 見た目からして不審な侵入者は食べかけのプリンとスプーンを持ったままホールドアップしつつヘラヘラと笑う。
「あなた、アラン君の変身ではないわね……新しいインマさんかしら?」
「そうです、そうです!! やっぱりわかるんですね、すごいなぁ!!
 はじめまして、ワタクシめは淫魔族の父と人狼族の母を持つ淫魔財閥魔道技術開発部門主任、レイ・ビーストと申します!! ほふぉふぉえふ、ふぉうふぉ!!(名刺です、どうぞ!!)」
 プリンホールドアップしたまま器用に白衣の胸ポケットを口で開け、そこから名刺を一枚咥えて取り出したエリスはふがふがいいながら差し出す。

「あの、とりあえずそのプリンとスプーンを置いていいので……きれいな名刺でもらえますか?」
 相手は嘘をついてはいないようだが、いざとなればパパやお兄ちゃんに教わった護身術で床に叩きつけて組み伏せよう。
 そう決めていたミキちゃんは威嚇用モデルガンを腰に差し、自身の名刺を取り出す。
「ふぉうふぇふか、あふぉふぁふぉうふぉふぁいまふ! ふぇふぁふぉふぉふぉふぁにふぁあえて!! (そうですか、ありがとうございます! ではお言葉に甘えて!!)」
 淫魔財閥関係者を名乗る変なヤツはプリンとスプーンをテーブルに置く。

「それで、レイさんは何の御用でしょうか? アラン君に関わる何かですか?」
 とりあえずスーツ上着を脱ぎ、2人分のお茶を淹れたミキちゃんは油断なくちゃぶ台を挟んだまま対峙する。
「そうじゃないんですよ、うちの若様とは無関係の件でミカさんにご協力願いたい事がありまして……こうして魔界から遠路はるばる壁ぬけして来たんです」
 そういいつつレイが脇に置いたオレンジ色の大判ビニール袋から取り出したのは見覚えのある茶色い柴犬デザインの尻尾付きロングフードパーカーだ。
「それは確か、アラン君が処分したイザベラさんの古着よね? どうしてあなたが持っているの……まさか」
「ええ、これは魔潤体質者たるミカさんがその素肌に羽織った事で偶発的に変異し、魔界暗器『犬(アニマルチェンジャー)』となってしまった人間界のパーカー。その事は覚えていらっしゃいますよね?」
「えっ、何のことかしら? あの時は……ええと?」
 浴室で犬パーカーを羽織った後の記憶が無く、目が覚めたら翌日でアラン君達が勢ぞろいであったと言う事実。
「まあそれはいいです、参考情報として必要だったから聞いただけですし。メモメモっと……」
 レイはサインペンを白衣胸ポケットから出し、手早く手の平にメモする。
「それでですね、ワタクシは魔道技術開発部門主任として感動したわけですよ!!
 通例なら技術開発と効果確認を経て市場に出すまで最低でも云百年はかかるような物を羽織るだけで作ってしまうなんて……もうありえないわけですよ!!」
「はぁ、そうですか……」
「と、いうわけで……今すぐハダカになって魔力サンプル塗布済みのこれらを着てみてください!!」
 そう言いつつレイがもう一つのオレンジ色の袋から取り出したのはパンダ、猫、恐竜、像、ワニと言った動物ロングフード付きパーカーの数々だ。

「ええと、流石にそれは嫌なので……お引き取り願えますか?」
 耳内の『舌を抜く嘘つき』の反応的にこの魔界人がアランの知り合いなのは間違いないが、見知らぬ魔界人を前に一糸まとわぬ裸体をさらすなんてのは危険すぎる。
 そう判断したミキちゃんは社会人的に穏便な回答で帰るように最終通告する。
「そうですよね、守屋ミカさん。あなただけに脱いでいただくのは無茶でしたね……でしたらワタクシも脱ぎます。これでイーブンですよね?」
 そう言いつつ白衣を脱いで床に落とし、ジーンズのベルトを外しつつボーダーTシャツをもぞもぞと脱ぎ始めるレイ。
そういう問題じゃないのよっ!! とミキちゃんが止めようとしたその時だった。

「ハィョー!!」
 ミキちゃんの後ろでベランダ窓が開く音と共に飛んでくる茶色い縄。
 その先端の輪で脱ぎかけのボーダーTシャツもろとも腕と上半身をがっちりと固定されてしまったレイは床にゴロンと倒れる。
「動くな、不届き者め!!」
 十八番のカウボーイロープ投郷で不審者を捕縛したラビオ刑事はそのまま馬乗りになり、余ったロープでぐるぐる巻きにして完全に動きを止める。
「ミキさん!!」
「アラン君!!」
 その後に続くアラン・インマにミキちゃんは駆け寄る。

「この人、アラン君の知り合いだって……本当なの?」
 安全確保されたミキちゃんは先刻もらった名刺を見せつつアランに確認する。
「ええ、お恥ずかしながら事実です。魔界王立学院時代の後輩で魔導技術開発者としてはとんでもなく優秀なんですけど好奇心が強すぎて問題行動も多い奴なんです……ごめんなさい」
 事情はよくわからないけど、そうでしょうね。
 ロープでぐるぐる巻きにされガムテープで口を塞がれてもなお持参したパーカーパジャマをビニール袋に詰め込んでいくラビオ刑事に抗議する様を見ていたミキちゃんは納得する。
「さて、これで全部のようじやな……アラン殿、わしはこやつを魔界警察に現行犯逮捕と言う事でぶち込んできますので後は頼みましたぞ」
「はい、お願いします」
 ロープで全身ぐるぐる巻きにされてもなおくねくね暴れて抵抗するレイを肩に担ぎ、所持品を全て回収したラビオ刑事は魔界にとんぼ返りすべく夜空に飛び立つ。

「とりあえず……夕飯にしましょうか、 ミキさん」
「そうね、アラン君!! 私スーツ脱いじゃうわ」
 嵐が去った508号室。ミキちゃんはスーツを脱いで部屋着を準備し、台所に入ったアランは冷蔵庫のタッパーおかずを取り出しはじめるのであった。

【完】
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