異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

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本編

496.出港

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「「しゅっぱーつ!」」

 わざわざ見送りに来てくれたクリスさん、イーサン殿、ディルさんに別れを告げ、僕達の乗った船がグラッドの街を出港した。

「「たんけんしたい!」」
「了解。でも、ゆっくり探険しないとすぐに見るところがなくなるからね」
「「わかってるよ~」」

 ベイリーの街までは、順調に進んで十日ほど掛かるようだ。
 パトリックさんが手配してくれた船は、立派な大型船だ。大きな船ほど船足は遅くなってしまうものらしいが、この船は最新型のためそこそこ速いもののようだ。
 レギルス帝国に来た時は、カイザーが一日も掛からずに連れてきてくれたので、いかにカイザーが凄いのかがわかるよな~。

「じゃあ、まずは船室からかな?」
「「おへや~」」
「では、案内しますね」

 パトリックさんが取ってくれた部屋の確認をしたので、実は僕達はまだ見ていないのだ。

「こちらになります。まずは登録ですね」

 パトリックさん達に案内してもらって部屋に到着すると、まずは扉のオートロック系の魔道具に魔力登録を行う。そして、部屋に入ったのだが……余りの豪華さに僕は言葉を失った。

「「おぉ~」」
「……え?」

 前回乗った船でも特等室に泊まったが、その時の部屋よりも遥かに豪華な部屋に見えたのだ。

「ちょっと待ってください! もしかして、この部屋って特等室ですか!?」

 たぶん、あの時の船よりも大きくさらに最新型だという関係で、等級に違いがあるんだと思うが、この部屋は間違いなくこの船で一番良い部屋だと思う!
 いや、払えない料金ではないとは思うんだが、問題は僕にその料金を払わせてもらえないことなのだ!

「言っておきますけど、支払いはこちら持ちです。タクミさんから金銭は一切受け取りませんからね」
「やっぱり! いや、でも、これは駄目ですよ。払わせてください!」
「私も上からの指示を受ける立場ですので、それはできませんね」
「えぇ~~~」

 パトリックさんが僕が言いそうだからと、先回りして支払いについて断ってきた。

「おかね、はらえないの?」
「おみやげ、ふやす?」
「っ!!」
「うむ、代金の支払いができないのであれば、代金に代わるものを渡すということか! 子らよ、それは良い考えだ!」
「「うん!」」

 子供達の提案は、とても良いものだった。
 僕はお土産として、貴石の迷宮の一階層で手に入れた枝を増量をすることに決めた。あ、どうせなら大粒真珠も混ぜておこうかな。……たくさん秘蔵されているしね。

「私達は四人部屋の部屋を借りていますが寝室のみになりますので、何か話し合いなどがある時はこの部屋をお借りするかもしれません」
「使ってください。というか、話し合いがなくても、ここで寛いでもらっていいですから!」

 たぶん、パトリックさん達の借りた部屋は、二段ベッドが二つだけがおいてある、完全に寝るためだけの部屋だろう。
 それに比べこの特等室は、ゆったりとした寝室とは別に、これまたゆったりと寛げるように広めのリビング、テラスに浴室、簡易キッチン付きの食事スペースまであるのだ。

「よろしいのですか?」
「もちろんですよ! あ、扉の登録も全員してあります?」
「いえ、私だけですね」
「じゃあ、すぐにでも全員の登録をしてください」
「ありがとうございます」

 部屋についてはもう借りているものだし、あとは利用し尽くすしかない。

「さて、部屋の確認も終わったし、どうする?」
「「たんけん、たんけん!」」
「というわけですので、僕達は船を少し回ってきますね」
「ええ、楽しんできてください」

 パトリックさん達も一旦自分の部屋に戻るということなので、部屋を出たところで別れて僕達は適当に足を進めた。

「「ここはー?」」
「えっと……遊戯室かな?」
「ゆうぎしつ?」
「なにそれ?」
「自由に遊ぶ部屋だね。ほら、椅子に座っている人は本を読んでいるし、こっちの人は体操かな? 身体を動かしているだろう」

 あとは食堂や船の生活で必要になりそうな日用雑貨の店があるだけだった。
 まあ、船の大半は客の船室か立ち入り禁止区域になるので、もともとそこまで見て回るような場所は少ないのだ。

「お、良い風だな~」
「「きもちいいね~」」
「うむ、このようにのんびり海を堪能するのは初めてだ」

 最後に甲板に出ると、気持ちの良い風が吹いていた。

「「……むむっ」」

 子供達が船首へ行き、手すりに登ると、海を覗き込んだ。
 すると、二人からとても不満そうな声が聞こえて来た。

「どうしたんだ?」
「「とおい~」」
「え?」
「「……うみが、とおく」」
「ああ、船が大きい分、海面から遠いのか」

 前に乗った船の甲板では、海面から飛ぶ水飛沫で遊んでいた。
 だが、今回の船ではそれができなかったようだ。

「ん~、下の側面の通路だったら水飛沫はあるかな?」
「「いってみよう!」」

 側面だったら下のほうにも開けた通路があることを伝えると、子供達はすぐさま移動を始める。

「「……むぅ~」」
「残念。水飛沫はないね」

 良い船だからか、水飛沫がかかるような設計はされていないようだ。

「いっその事、飛び込んでしまうか?」
「……カイザー、さすがにそれは止めて」

 カイザーの危険な提案は、即座に却下する。
 危ないのもあるが、船の運航の問題にもなり兼ねないからな。

「ほらほら、元気出して。甲板に戻って、おやつでも食べようか」
「「……たべるぅ~」」

 落ち込んでいてもおやつには反応する子供達は、早足で甲板に戻っていった。

「「おやつ~、おやつ~」」
「何にする?」

 甲板には好きに寛げるテーブルと椅子が置いてある区間がある。そこの空いている席に座る頃には、子供達はすっかり元気になっていた。

「「えっとね……」」
「我は、おにぎりが良い!」
「「……おやつじゃない」」
「む?」

 リクエストは子供達に聞いたのだが、我先にと答えたのはカイザーだった。
 しかも、子供達から思いっ切り突っ込まれていた。

「アレンとエレナのおやつと言えば、甘いものが普通かな」
「おにぎりでは駄目か?」
「「あまいのがいい!」」
「……まあ、同じものを食べないといけないわけじゃないから、カイザーはおにぎりでもいいよ。――で、アレンとエレナは何がいいか決まった?」

 カイザーにおにぎりを出してあげてから、もう一度子供達にリクエストを聞く。

「「アイス!」」
「了解。味はどうする? まだいろいろあるよ」

 アイスは作り置きをたっぷりした時期があったので、味の種類は豊富にある。

「アレン、チョコあじ!」
「エレナ、はちみつあじ!」
「それぞれの味? それとも盛り合わせにする?」
「「もりあわせ!」」
「我も!」
「「「……え?」」」

 おやつにはおにぎりをリクエストしたカイザーだがアイスクリームも食べるようで、子供達に倣うように手を挙げた。その行動に僕も子供達も無意識に声を上げてしまった。

「……だ、駄目か?」
「いや、まあ……いいけどさ~」

 間違いなくカイザーの食いしん坊度合が高くなっている出来事だった。





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