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本編

492.遭遇

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 翌日、パトリックさん達は早速、船の空き状況を調べに出かけた。あ、さっくり領主のところにも挨拶に行ってしまうようだ。

「「ディルさんいるかな~?」」
「会えると良いね」

 状況によっては旅立ちが早くなる可能性もあるので、僕達も挨拶のために冒険者ギルドと迷宮管理本部へと向かうことにした。

「何と! そこにいるのは、タクミさんじゃないですかぁ~」
「「あっ!」」
「む? 誰だ?」
「……ヴィヴィアン」

 その道中、何故かヴィヴィアンと出会った。

「何でレギルス帝国にいるんだ?」

 いつも偶然、毎回出会う場所も違うが、ガディア国内以外でヴィヴィアンに会ったのは初めてだ。
 ヴィヴィアンはやはりメイド服を着ているが、色やデザインはいつもと違うようだ。

「おようふく」
「ちがうね」

 アレンとエレナもヴィヴィアンの服装の違いに気がついたようだ。
 まあ、服は着替えて違うのを着ていたって問題なんてないんだが、今までのヴィヴィアンはほぼ同じメイド服だったんだよな~。
 かく言う僕や子供達も、普段の服というか冒険者用の服はいつも同じだ。シルから貰ったもので、丈夫だし何枚もあるしな。

「おぉ~、よくぞ気づいてくれました! 今までは自前のものでしたが、これは潜入しているお邸での制服なのです!」
「「せんにゅうちゅうなの?」」
「はい、潜入中です!」
「……」

 ……現在潜入中の人間が、知り合いがいたからと気軽に声を掛けていいのかと問いたいが、あっけらかんとした答えしか貰えない気がしたので、突っ込むのは止めておいた。
 そして、簡単に話は終わらなさそうだと思い、行き先を変更して広場へと向かって歩き出すと、ヴィヴィアンは何も言わずについてくる。

「この制服、なかなか可愛いでしょう?」
「「可愛いね~」」
「じゃあ、着ます?」
「アレンも?」
「エレナはきたい!」

 ヴィヴィアンは制服を見せるようにくるりと回ると、アレンとエレナに変なことを尋ねだした。

「潜入先の制服だとさすが拙いのでこれとは別のですが、エレナちゃんには可愛いメイド服を! アレンくんには執事服を用意しておきました!」
「「おぉ~」」
「あ、アレンくんが着たいのであれば、メイド服もばっちり用意があります!」
「はぁ!?」
「大丈夫です。フリルなどは控えめなものです!」

 しかも、アレンにメイド服って! いや、まあ、まだ〝似合って可愛い〟っていう世代かもしれないが、勧めるのは止めてほしい。
 ……でも、男装も女装もするクリスさんと出会ったばかりだから……「着てみる」とか言い出したりしたらどうしよう。

「いやいやいや! そもそも何でアレンとエレナ用の服を用意しているんだよ!」
「それはタクミさんの料理で交換できそうなものをたっぷりと用意しているからですね! というわけで、ご飯をください!」
「……おい!」

 食べもの目当てかよ! ヴィヴィアンって、本当にブレないな~。

「この国のもですけど、ジャカル連合国にも行きましたので、そちらの薬などもちゃんと仕入れてありますから! あ~、でも、この国特有のものはタクミさんも買っちゃいましたかね~?」
「あ、そういえば、薬屋には行っていなかったな」
「「いってなーい」」

 必要な薬はなかったし、薬草を売りに行くこともなかったので、薬屋を覗くのを忘れていた。

「それは良かったです! あ、そうそう、ちゃんと青薔薇の滴も追加で作っておきましたからね。なので、タクミさん、遠慮なくたくさん使ってくださいね!」
「おい、ヴィヴィアン! あまり変なことを言うようなら、取引を今後一切しないことになるぞ!」
「わぁ~~~、ごめんなさい。訂正しますから! えっと、あれです! 取引などで使ってくださいってことですよ! タクミさん自身ではないです! なので、ご飯は取り上げないで~~~」

 ヴィヴィアンはすぐに調子に乗って変なことを言うので、本当に困る。青薔薇の滴――妊娠薬をたくさん使えだなんて、外聞が悪すぎる。

「タクミ、タクミ、この者は誰だ?」
「あ、ごめん、カイザー、除け者にしてたね。彼女はヴィヴィアン、腹ペコで行き倒れているところをベクトルが拾ってきたことが切っ掛けで、時々出会った時にご飯を強請られる……知り合い? だな」

 お調子者のヴィヴィアンとの対話に追われ、すっかり初対面のカイザーに紹介するのを忘れていた。
 ヴィヴィアンは……知人でいいよな?

「お初にお目にかかります! タクミさんの料理は美味しいので、すっかり虜になっている下僕のヴィヴィアンです! 最近はタクミさんの料理を手に入れるために、対価になりそうな珍しい薬などを用意することに命を賭けています!」

 下僕って! どんな自己紹介をするんだよ!
 思いっきり突っ込みたいが、話が深堀になるのも嫌なのでスルーしておこう。

「わかるぞ! タクミの料理は絶品だからな。手に入れるために、対価になりそうなものを集める気持ちはもの凄くわかるぞ!」
「わかってくれますか! ですよね、タクミさんの料理は病みつきになりますよね!」
「うむ、食べた料理はもう一度食べたくなるし、食べたことのない料理はまだまだあるし、我は大変困っておる!」
「ですです! 本当に困ってしまうんですよね~」

 ……カイザーとヴィヴィアンが何気に意気投合していた。

「おーい、ヴィヴィアン、僕達にも予定があるし、取引するならさくさくやるぞ。とはいっても、旅先だし迷宮に潜っていたばかりだからな。凝った料理はそこまでないから、簡単なものばかりなるぞ」
「タクミさんの料理は、簡単なスープでさえ美味しいので問題ありません!」
「……そうか」

 僕は早々に取引を終わらせてしまったほうが良いと感じ、僕は《無限収納》にあるヴィヴィアンに渡せる料理を模索する。
 簡単なスープだったらそこまで違いは出ないような気がするが、ヴィヴィアンがそれでも良いって言うのだからありがたく品数に勘定させてもらおう。

「これと、これと……」

 ヴィヴィアンも取引用の薬などを取り出し並べ始める。しかも、しっかりと小鍋や皿なども出して〝これに入れてください〟と言わんばかりの周到さである。

「冗談じゃなく、本当にあるのかよ!?」
「もちろんですよ~」

 さらには、ちゃっかりメイド服をアレンとエレナにそれぞれ渡していた。
 子供達も子供達で、素直に受け取っているしさ!

「こっちは執事服です。差をつけるのは良くないですからね。もちろん、こちらはエレナちゃんの分もありますよ~。可愛いめのでね。いや~、それにしても二人ともしばらく見ないうちに大きくなりましたね~。大きめなサイズで用意しておいて良かったです」

 サイズが小さくて着られないなら、それで話は終わったのにな。何で抜かりがないかな~。

「スープに白麦料理、肉、魚、甘いものと……今、渡せるのはこのくらいかな?」
「ありがとうございます! うわ~、どれも美味しそうです……むぐ」
「……早速食べるのかよ」

 ヴィヴィアンは、渡したばかりのおにぎりの一つをすぐに頬張っていた。

「ふわ~、やっぱり美味しいですね~……むぐ」
「そうか。それは良かったよ」

 一つでは終わらず、ヴィヴィアンは追加でもう一つのおにぎりにかぶりついていた。

「それでは! 私、仕事中でしたので、急いで戻ることにします! タクミさん、またいろいろ用意しておきますので、次は凝った料理もお願いしますね~」

 おにぎりを食べ終わったヴィヴィアンは、すぐさま走ってどこかへ行ってしまった。

「「いっちゃったね~」」
「落ち着いていられない人とか嵐のような人って、ヴィヴィアンのような人間に使う言葉だよな~」
「賑やかな者だったな。だが、見所のある人物だった」

 何気にカイザーのヴィヴィアンへの評価が高いのが少し気になるが、単に僕のヴィヴィアンへの評価が低すぎるせいなのかな? 情報収集や調薬技術を見る限りだと優秀なことがわかるのだが、言動でマイナス評価に振り切っているからな~。

「まあ、ヴィヴィアンについては、細かいことを気にしないほうがいいな。またどこかで突然声を掛けてくるだろう」
「「そうだね~」」

 ヴィヴィアンは、たまに遭遇する通り雨とか嵐のようなものだと思っておけばいいだろう。




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