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本編

491.帰還

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「「ただいま~」」
「おや、お帰りなさい」
「タクミさん、アレンくん、エレナちゃん、お帰りなさい」
「怪我はしていませんか?」
「「してなーい!」」
「それは良かったです」

 宿に戻ると、談話室にパトリックさんとユージンがいて、にこやかに出迎えてくれた。

「皆さん、お帰りなさい」
「お帰りなさい」

 部屋にいたらしいマシューさんとランサーさんも、僕達が帰ってきたのがわかったようで、談話室に来てくれた。
 そろそろ夕方っていう時間だったからか、四人とも宿にいたようだ。

「迷宮は順調に進めたのですか?」
「「あのね! 三十二かいそうまでいったよ!」」
「「「「えっ!?」」」」

 アレンとエレナが攻略した階層を素直に答え、四人は驚きの表情で固まっていた。

「あれ? ここの迷宮は上級でしたよね!? 中級でした? え?」
「上級で間違いない。ただ、中級だったとしたら……全攻略になるのか? どっちにしろ凄いことだな。そうか、上級で三十二階層か……」

 ユージンとランサーさんは戦闘職の人間だからか、余計に驚いている感じがした。

「まあ、考えてみてください。我々が派遣されるくらいです。タクミさん達が普通なわけがありません!」
「「「確かにそうですね」」」

 最初に正気に戻ったパトリックさんが、自分達が何故派遣されて来たのか……と強く伝えると、マシューさん、ランサーさん、ユージンが即座に納得したように頷いていた。

「……パトリックさん、その結論は酷い」

 僕達は普通じゃないかもしれないけど、そんなにはっきり言い切らないで欲しい!

「本当のことですしね」
「本当でもです!」
「良かったです。タクミさん、普通じゃない自覚があって」
「自覚したくはないですけどね!」

 というか、『貴石の迷宮』では、僕ではなくほぼ子供達の行動の結果だけどね!
 まあ、その行動について行けるわけだから、僕も普通じゃないよな。もう認めるさ!

「「ふつうじゃないの!」」
「アレンとエレナは、開き直りすぎかな?」
「「ダメ?」」
「ふむ、駄目ではないとは思うぞ」
「「うん!」」
「……も~」

 アレンとエレナは〝普通じゃない〟ことをかなり前から受け入れて、何なら自己紹介などで自慢げに言ったりする。さすがに自慢げにするようなことではないので、カイザーは煽らないで欲しい。

「あ~……とりあえず、ここの迷宮の攻略は終了ということにしました」
「そうなのですか? もしかして、我々がいることに気を遣って終了させるのではないですか?」
「いえいえ、そうではないです! この迷宮では既にいろいろ手に入れていますから、満足したという感じで終了です」
「「しゅうりょう~」」

 パトリックさんは、自分達がいるから攻略を切り上げたのではないかと思っているようだ。
 まあ、正直に言えば、少しはそれもあると思う。仕事だが休暇っぽいものだとは聞いているが、四人を長々引き留めるはやはり気が引ける。
 あとは、これ以上攻略を進めると悪目立ちしそうだからだ。この迷宮は有名っぽいしな。三十二階層でも問題が起こりそうなのに、それ以上となると……考えるのも嫌だ。
 なので、攻略階層がうやむやのまま現地を離れるつもりでいる。まあ、クリスさんやイーサン殿なら大丈夫だとは思うが、噂などはどこから出るかわからないしさ~。

「とはいっても、店に注文しているものの受け取りなどがありますから、もう数日は滞在するつもりではいますよ」
「おいしいものたべる~」
「おかいものもした~い」
「特産品やお土産探しなどはまだする予定です」
「そうですか。わかりました」

 パトリックさんは完全に納得したような感じではないが、ここでは僕の意見が最優先だからか了承してくれた。

「急に決めてしまってすみません。えっと、パトリックさん達が帰る前にしなくてはならないことと、帰りの手段って……どんな感じですかね?」

 ここに来た時、領主様に挨拶に行ったと言っていたから、帰る時も挨拶が必要とか。一緒に帰るのか。また、どういうルートで帰るのか……とかだな。

「お察しの通り、領主への帰国の挨拶は必要ですね。ですが、それは我々だけで済みます。帰国は航路でリスナー領へ向かう予定です。他に寄り道などの予定がないのであれば、タクミさん達も我々と一緒にどうですか?」
「「おふね、のるー!」」
「カイザーもそれでいい?」
「うむ、船は初めてだ」
「それじゃあ、一緒にお願いします」
「了解しました。船の出港日を調べてきますので、出立日は後日決めましょう」
「わかりました」

 ここまではカイザーに乗って海中旅だったが、帰りは船旅になった。
 いや、まあ、それが普通なんだけどね。

「「おにぃちゃん、またふってくるかな?」」
「ん? 何がだ?」
「「あれ! てんのしずく!」」
「「「「っ!?」」」」

 以前、船に乗った時に空から降ってきた金平糖――天の雫が、また降ってくるかもしれないと子供達はわくわくしていた。しかし、『天の雫』という言葉を聞いて、パトリックさん達は驚きの表情をしていた。

「ん? 子らよ、天の雫を拾ったことがあるのか?」
「「うん!」」
「ほぉ~、それは珍しいな」
「カイザーの言う通り、あれは珍しいことだからね。だから、今回は難しいんじゃないかな?」
「「えぇ~」」
「というか、あれは船の上に降るわけじゃないぞ?」
「「そうなの?」」

 前に居合わせた時が船だったからか、子供達は船の上にしか降らないと思っていたようだ。

「あれは地上でも降るみたいだよ。前がたまたま船の上だっただけで。でも、本当に稀にしか降らないんだよ」
「そうなんだ~」
「ざんね~ん」

 居合わせると幸運な天から降る甘露。うちの子達ならそのうちまた降っている時に居合わせることはありそうだけどな。

「……やはり普通じゃありませんね」
「……いやいや、あれは〝普通じゃない〟で済みませんよ。おかしいですよ」
「……同感です」
「……格というか、住む世界が違いますね」

 パトリックさん達が小声でいろいろと言い合っていたが、僕は全力で聞いていないふりをした。

「はいはい! じゃあ、船の件はパトリックさん達にお願いします! アレンとエレナ、カイザーは帰るまでにやりたいこと、買いたいものとかをよく考えておいてね!」

 ずっとひそひそされるのは嫌なので、強制的に話を終わらせた。
 帰国までの予定はもう決まったようなものだったしね。

「そろそろ晩ご飯の時間ですけど、パトリックさん達の食事は宿に注文済みですか? 僕達は突然帰って来たわけですから、これからどこかに食べに行こうと思っていますけど?」
「いえ、今日は宿には頼まずにどこかへ食べに行こうと話していました」
「それならちょうど良かったです。一緒に行きましょうか」
「「いっしょにいこう!」」

 時間も良い頃だったので、僕達は外で食べる予定だったというパトリックさん達を誘って食事に向かった。





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