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16巻

16-3

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 ◇ ◇ ◇


 碧海宮に一晩泊まった翌日、僕達は碧海宮を後にして海中散策をしていた。

「「ていやー!」」

 アレンとエレナは魔物を発見すると、素早く泳いでいき、途中から上手く体勢を変えて流れる勢いのまま両足でりを繰り出す。

《むむ。やっぱり水中戦は難しいな~。上手く動きの切り替えができないや》
《アレンちゃんとエレナちゃんは、本当に上手に動くわよね~》
《ぼくの場合は頭、というかくちばしから突っ込んでいけばいいので体勢を変える必要はありませんが、ジュール達はさすがに頭から行くわけにはいきませんよね》
《くっ! オレはもう頭から行く!》
《わたしには水中戦は間違いなく無理なの! みんな、頑張れなの!》
《ラジアンもむり~。タクミおにーちゃん、あそぼ~》

 ジュール達は海に潜るのは今回で二度目か? 泳ぎはだいぶ上達しているようだが、残念ながら泳ぎながらの水中戦闘には慣れていないようだ。

「数をこなせば、そのうち慣れるさ!」

 そんな子供達を、カイザーがひたすら監督かんとくしていた。
 カイザーにとって水中戦は慣れたものだろうけど……それはリヴァイアサンの姿の時だ。人の姿の時は戦えるのだろうか?
 まあ、いざとなったら元の姿に戻ればいいのだから、特にできなくてもいいのかな?

「カイザー、子供達……主に戦っている子達の様子を見ていてくれる?」

 見ていてもしようがないので、僕達も動くことにした。

「うむ? それは構わんが、タクミはどこかに行くのか?」
「マイルとラジアンと一緒に採集でもしているよ。海中のものはなかなか採りに来られないから、いろいろ探してみる」
「なるほど。わかったぞ、こちらは任せくれて構わぬよ」
「うん、お願いね。――マイル、ラジアン、海底を見に行こうか」
《行くの!》
《あそぶ~》

 僕は少しだけひまそうにしていたマイルとラジアンを連れて、海底に向かう。
 とはいっても、それほど離れていないので、頭上で子供達が暴れているのはちゃんと見える距離だ。

「ラジアン、あまり離れるなよ~」
《わかった~》

 海底ではラジアンがまだぎこちなく泳いでいたので、離れないように注意する。海底にも魔物はいるからな。

《海藻がいっぱいなの!》
「お、昆布こんぶとワカメだな」
《なになに~? これ、とるの~?》
「そうだよ。ラジアンも手伝ってくれるか?」
《うん、てつだう!》

 マイルが早速、よく使う海藻を見つけてくれたので、僕はマイルとラジアンと一緒にたっぷりと採取していった。

《タクミ兄、タクミ兄、これを見てなの! この海藻、野菜っぽいの!》
「ん? あ、本当だな。えっと……ミズ菜?」

 海藻を採っていると、マイルが野菜っぽいものを見つけた。名称は『ミズ菜』。だが、僕が知っている水菜っぽい野菜は、こちらの世界ではアオ菜という名前だ。なので、違う植物なのだろう。

《食べられるの?》
「うん、大丈夫みたい」

 そして、このミズ菜という名前の植物は……モロヘイヤっぽいものらしい。
 ……海中に生えている時点で、僕の知っている野菜ではなさそうだけどな。

《とりあえず、回収しておくの!》
「そうだね。食べてみないと美味しいか美味しくないかはわからないもんな」

 でただけで、程よい塩味のするおひたしになったりするかもしれないので、採取できる分は採取しておこう。

《やったー! 大物が来た!》

 ミズ菜を採取していると、ベクトルの喜びの叫びが聞こえた。

《ベクトルがはしゃいでいるの!》
「大物って魔物だよな? 何が来たん……――っ!?」

 何があったのかとベクトルのほうを見てみると、ベクトルの視線の先からシーサーペントが向かってくるのが見えた。

《あれ、なーに?》
「あれはシーサーペント。えっと……ヘビ型の魔物かな?」
《つよい?》
「そうだな。そこそこ強いと思うよ」

 それこそ姿形はリヴァイアサンに似ているが、ドラゴンではない。まあ、海の魔物としてはなかなか強い部類だろうけどな。
 だが、それでもベクトルならそこまで苦労しないだろう。

「あ、でも、泳ぎの慣れ具合によっては苦労するのかな?」
《苦労はしても、負けはしないと思うの!》
「それはそうだな」
《ベクトルおにーちゃん、がんばれ~》

 倒すのに時間は掛かるかもしれないが、負けることは想像できない。

「お、真っ直ぐに突っ込んでいったな~」
《いつも通りなの!》

 ベクトルは向かってくるシーサーペントに直進していくと、そのまま正面しょうめん衝突しょうとつ

「うわ~、豪快ごうかいに行ったな~」
《ベクトルは本当に頑丈がんじょうなの! 普通ならあれは痛いの!》
「だよな~。――あ、次はみついたか」

 頭突きだけでは仕留めきれなかったようで、ベクトルは続いて動きの止まったシーサーペントの首に上手く噛みついた。
 そして、力任せにぶんぶんとシーサーペントを振り回した。

《あ、シーサーペントがぐったりしたの!》
「もう少し苦戦するかと思ったけど、意外とあっけなく倒したな~」
《ベクトルおにーちゃん、すごーい》

 ラジアンはベクトルの雄姿ゆうしを見て、少々興奮しながらベクトルのほうへ泳いで行った。それに僕達もついて行く。

「ラジアンにあの戦い方は真似まねしないように言わないとな」
《あれはベクトルだからできるの! 絶対に真似は駄目なの!》

 尊敬や憧れから、ラジアンがベクトルのような力任せの戦闘をしないように注意しておこう。

《兄ちゃん、見てくれた?》
「うん、見ていたよ。大物なのにあっさり仕留めて凄いな」
《えへへ~。仕留めたやつは早速マジックリングに入れておいたから、あとでまとめて兄ちゃんに渡すね》
「そうだな。ベクトルのやつは時間がゆっくりになるのが少しだけだからな」
《ジュールとの約束を守らないと没収されちゃうから、兄ちゃんもオレが忘れていそうだったら、ちゃんと教えてね!》
「ははは~、了解。さすがにここで渡されても困るから、陸地に行ったらすぐに受け取るよ」

 ジュールの脅しがしっかりと効いているようで、ベクトルはマジックリングを装備する条件を守ろうとしている。

《シーサーペントは美味しいかな? 食べるのが楽しみ~。――あ、サンドクラブを発見! 兄ちゃん、行ってくるね~》

 ベクトルは次の獲物を見つけると、すぐさま泳いで行った。

《ベクトルは慌ただしいの!》
「あれはあれでいいんじゃない? 確かにベクトルの行動には驚いたり呆れたりすることもあるけど、今さら礼儀正しくて大人しい子になったら……僕は調子がくるうような気がするな~」
《それはそうかもなの!》

 困ったこともあったりするが、ベクトルはやっぱり今のままのベクトルが一番落ち着くだろう。

「さて、そろそろ満足したかい?」
「「した~」」
「それじゃあ、日が暮れる前に陸地に行くよ」
「「は~い」」

 シーサーペントと遭遇してからもしばらくの間、魔物退治や海藻採取を続け、たっぷりと戦利品を手に入れた僕達は、日が暮れる前に陸地へと引き上げることにした。





 第二章 レギルス帝国へ行こう。


「さて、どこに行くかな~」
「「んにゅ?」」

 陸地に行くにしてもどこへ行こうか悩んでいると、アレンとエレナが不思議そうな顔をしていた。

「えっとな、今、僕達がいるところから一番近い海岸は、レギルス帝国っていう行ったことのない国なんだ。だから、その国に行くか、ガディア国へ戻るか悩んでいるんだよ」
「「あたらしいところ!」」
「レギルス帝国に行ってみる?」
「「いく!」」

 というわけで、行き先はアレンとエレナの言葉によって決定し、僕達はレギルス帝国へ行くことにした。
 再びカイザーの背に乗って、泳ぐこと数十分で僕達はレギルス帝国の海岸に上がった。
 カイザーに任せると、あっという間だったよ。

「「ここー?」」
「うん、ここがレギルス帝国だよ。一番近くの街は……グラッドの街だな。でもまあ、街には明日行こうか」
「「おとまりー?」」
「そうだね、今日はここで野営というか、家を出すところを探して泊まろうか」
「「わ~い。おとまり~」」

 せっかくなので、今日は野営にして浜焼きでもしようと思う。魚介がたっぷりと手に入ったことだしな。
 泊まる場所については、《無限収納インベントリ》にある持ち歩き用に作った家を出せばいいだけなので心配はない。まあ、開けた場所が必要になるんだけどな。

「晩ご飯は、海の食材をいろいろ焼くぞ~」
「「いっぱいたべる~」」
《兄ちゃん、兄ちゃん、シーサーペントも食べたい! あっ! 大変だ! オレ、戦利品を兄ちゃんに渡してない! 兄ちゃん、受け取って、受け取って~~~》

 ベクトルが慌てて、マジックリングの中身を全て出して積んでいく。

「うわ~。結構あるな~」
「おにぃちゃん、アレンのも~」
「エレナもおねがい~」
「えぇ!?」
《兄様、私の持っているものもお願い》
《兄上、ぼくのもお願いします》
「うわっ、ちょっと待って!」

 続いてアレンとエレナ、フィートとボルトもマジックバッグやマジックリングから海での戦利品を取り出していく。
 一人だけでも小山ができるほどの素材を複数人でまとめて出されると、辺りが凄いことになる。なので、僕は慌てて《無限収納インベントリ》に素材を入れていく。

「……結構な数の魔物を倒していたんだな~」
「「がんばった!」」

 あまり頑張らないで欲しい。だって、レベル差がさ……うん、もう諦めるのが一番だな。

「では、タクミ、我が集めたものも収めてくれ」
「え、何で!? カイザーのマジックリングは時間経過がかなりゆっくりで、容量もあるんだろう?」

 カイザーも何故か僕に素材を渡そうとしてくる。

「確かにそうではあるが、我が素材を持っていても使い道がない!」
「食材になるものだったら、持っていてもいいんじゃないか?」
「我の普段の食事は、生きたままの魔物だ! なので、仕留めたものはあまり好まん! あ、タクミの料理なら大歓迎だ!」
「……さすがに全部を料理して返すことはできないぞ」
「うむ、それはわかっておる。一部で良いので、帰る時に料理を持たせてくれると嬉しい」
「わかった。あと、食材じゃないものは売って、街で屋台の料理とかを買い込むかい?」
「おぉ! それも良いな!」

 カイザーの持っていた素材も預かることにし、売却は僕がする。カイザーはギルド員とかにはなれないしな。

「それで……何をやっていたんだっけ?」

 突発的な荷物整理が始まったため、その前は何をやっていたのか忘れてしまった。

《兄ちゃん! シーサーペント!》
「ああ! そうだったな」

 シーサーペントを食べたいという話をしていたんだったな。
 僕は《無限収納インベントリ》にしまったシーサーペントを取り出した。

「食べるにしても、解体しないといけないんだよな~」

 ところで……浜焼きって、採りたての魚介を浜辺で焼くことだよな? シーサーペントって蛇だけど、魚介に含めていいのだろうか? 海のものというくくりなら、いいのかな? となると、ブルードラゴンも含めてもいいのかな?
 なんてことを考えていると、アレンとエレナがバッと手を上げた。

「「かいたいやりたい!」」
「解体? 何の解体をやりたいって?」
「「シーサーペント!」」
「えぇー!?」

 アレンとエレナの突然の発言に、僕は思わず子供達の顔を二度見してしまった。

「いやいやいや、これは大きいし……たぶん固いよ?」
「「がんばる!」」
「……えぇ~」

 僕が困惑していると、カイザーが首を傾げる。

「子らはこの形状の魔物の解体ならできるのか?」
「ん? ああ、まあ……ヘビっぽいものは何度か解体しているのを見ているから、さばく順番とかは覚えていると思うな」
「おぼえてる~」
「べんきょうした~」

 子供達が実際に解体したものは、魔物の種類も数もそこまで多くはない。だが、誰かが解体していたらじっくりと覚えるように見つめていたし、本などでも勉強していたので、手順だけなら問題ないだろう。

「であれば我が力を貸そう。解体はやったことがないが、指示を出してくれれば我が動こう。それならば、子らにやらせても問題ないであろう?」
「「わ~い。カイザー、ありがとう!」」
「よいよい」

 何故だか、あっという間に子供達が解体する流れになっていた。

「いや、あのな……」
「シーサーペントは我らに任せて、タクミはブルードラゴンの解体をするといい」
「んん!?」
《おぉ、ドラゴンのお肉が食べられるんだね! 楽しみ!》
《兄様、頑張って!》
「……わかったよ」

 みんなからの期待の眼差まなざしに、僕は嫌とは言えなかった。正直、ブルードラゴンの肉は僕も食べてみたいしね。
 というわけで、ぶつ切りにしたブルードラゴンの一部を《無限収納インベントリ》から取り出す。
 すると、それを合図に、子供達はかばんからナイフを取り出し、カイザーを伴って意気揚々いきようようとシーサーペントへ向かっていく。

「とりあえず、こっちはぐるっと皮剥ぎからかな?」

 僕の目の前にあるブルードラゴンの部位は、胴体の真ん中あたりの輪切りである。
 なので、切り目を一本入れてから、そこからぐように皮を身から剥がしていく。すると、鱗付きの長方形の皮の出来上がりだ!
 あとは、適当に骨以外をブロック分けにしていく。

「よし、こんなものかな~」

 さらに焼いて食べやすい大きさへとカットして、ブルードラゴンは準備完了である。

「「おにぃちゃん!」」

 ちょうど同じ頃、子供達に叫ぶように呼ばれた。

「「こっちもおわった~」」
「え? 終わったの!?」

 子供達のほうは、シーサーペント丸々一体分の解体が終わったようだ。
 ブルードラゴンよりは小さいとはいえ、僕が捌いた部位よりは大きいのに?

「タクミ、とりあえず、丸っといた皮がこれだ」
「ああ、うん……ありがとう」

 三人の共同作業だったお蔭で、作業の効率が上がったのかな?
 僕は少し呆然ぼうぜんとしながら、カイザーから受け取った皮を《無限収納インベントリ》にしまう。

「おにぃちゃん、おにくもしまって~」
「おにぃちゃん、こっちのはたべるの~」

 アレンとエレナはブロック分けにした肉を渡してくる。しかも、しっかりと食べる分のお肉は、ステーキ状の大きさになっているではないか!

「アレンとエレナは、凄いな~」
「「すごい?」」
「うん、作業は手早いし、解体したものも綺麗だ。よくできたな~」
「「えへへ~」」

 いや~、この歳でここまでできるって、本当にまれだと思う。ここまであれこれできる子だと、逆にできないことを探したくなる。……そう思うのは、僕が悔しいと思っているからかな?

「じゃあ、片づけをしたらご飯にしようか」
「「うん!」」

 複雑な気分だが、これは美味しいものを食べて忘れてしまうに限るな。
 というわけで、さっくり浜焼きを始める。

「とりあえず、最初はコショウ塩だけにするから、タレとか他の味の塩が欲しい時は言ってね」
「「《《《《》》》》」」
「うむ」

 人数が多くなったので、手持ちのホットプレートだけでは焼ける量が心許こころもとなく感じるな~。
 もっと台数を増やすか大きいものを作ってもらったほうが良さそうだな。とりあえず今は、魔道具のコンロとフライパンセットも稼働させることにしよう。
 あとは……この世界に来て最初の頃のように、焚火たきびの周りに串刺くしざしにした肉を立てて、直火で焼くか~。

「もうやけた?」
「これ、もういい?」
「ん~、良さそうだな」
「「わ~い。いただきまーす!」」

 まずはシーサーペントの肉からだ。

「「おいしぃ~~~」」
「うん、美味しいね」

 シーサーペントは肉の分類なのか魚の分類なのかはわからないが、とろけるような脂身ながらあっさりとした味わいだった。

「こっちも良さそうだな」
「「たべる、たべる~」」

 続いて、ブルードラゴンの肉だ。

「「んん~~~」」
「うわぁ~~~。これは……」
《ドラゴン、美味しい!》
《美味しいわ~》
《美味しいです》
美味うまっ! これ、美味い!》
《美味しいの!》
《おいしい~》

 シーサーペントも美味しいと思ったが、ブルードラゴンはもっと美味しかった。
 とにかく〝美味しい〟としか言葉が出なかった。

「ふむ、焼くとこういう味になるのだな~。生も美味いが、これも美味い!」

 カイザーだけはドラゴンを食べ慣れているせいか、しっかりと味わい、以前食べたことがあるものと比較ひかくしていた。

「……しかし、下位のドラゴンでこの味か~」
「ほかのドラゴン!」
「もっとおいしい!?」

〝中位、上位のドラゴンはもっと美味しい?〟と僕が言葉に出さなくても、子供達は僕の言いたいことを理解し、目を輝かせていた。

「しかも、水属性以外のドラゴンもいるんだよな~」
「「はっ! そうだった!」」
《そうか! 上位種もだけど、他種のドラゴンもいるんだよね!》
《レッドドラゴンとかになると、また味わいが違うのかしら?》
《食べ比べてみたいですね~》
《絶対に狩る! 兄ちゃん、ドラゴンのいそうなところに行こう!》
《そのうち食べてみたいの!》
《ドラゴン、おいし~》

 確か、火、風、土、光、やみ属性と、六属性のドラゴンがいるんだよな~。

「ウォータードラゴンならそのうち手に入れてくると約束しよう。なので、水属性以外のドラゴンが手に入った時は、是非とも我にも食べさせてくれ!」
「「がんばる!」」
「いやいやいや! 確かに気になるけど、そこは頑張らなくていいよ!」
「「えぇ~~~」」
「不満そうな顔をしても、ドラゴンが生息していそうな場所には滅多めったなことでは行かないよ」

 このままでは秘境とかにでも突っ走っていきそうな勢いだ。さすがにそれは見過ごせないので、ここは〝止める〟の一択だ。
 僕ももの凄ーく気になるけどさ! やはり賛同はできない。


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