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本編

473.お買いもの

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 ガラス製の蝶を各色一個ずつとエメラルドとダイヤモンドの枝の売却を済ませると、僕達はパトリックさんと一緒に迷宮管理本部を後にした。ガラス製の蝶を使った装飾品を作るためだ。
 子供達はまだ貴石の迷宮攻略に満足していないため、レギルス帝国の滞在は続く。
 なので、今のうちに製作依頼を出しておけば、ガディア国に帰る時にはできあがった品を受け取ることができるだろうと思ってな。
 僕達の滞在続行、即ちパトリックさんの滞在続行になってしまうため、パトリックさんの奥様のお土産用の蝶を一緒に装飾品にしようと誘った。もちろん、レベッカさん達へのものも作るからと力説してね。

「そういえば、パトリックさんに同行者はいないんですか?」

 僕の後見としての仕事だとしても、レギルス帝国の王都から一人で……っていうわけではないと思い聞いてみた。

「同じ外交官の同僚が一名と、護衛の騎士二名が一緒に来ています。私以外の三名は今、領主のところに行っています」
「え、ちょっと待ってください。パトリックさんの護衛は?」

 護衛が一緒だと聞いて、パトリックさんにも護衛がいるはずだと思い至った。ところが、そんな人が見当たらなかった。

「一人に対して護衛一人ですね。もう一人のほうの行き先が領主のところでしたので、護衛はそちらのほうについて行ってもらいました。ちなみに、私のほうも迷宮管理本部までは護衛に送ってもらっていますよ」

 本来は四人揃って領主のところに行く予定だったのかな? だけどそこで、僕達が迷宮から戻ってくると情報が入り、急遽パトリックさんだけが迷宮管理本部に来たのかな?

「そして、迎えに来るまで本部から出ないように言われています」
「えっ!? ちょっと待ってください。本部から出ちゃってますよ!?」
「タクミさん達が一緒ですし、問題ないですよ」
「えぇ!?」

 迷宮管理本部内が安全な場所という認識で、パトリックさんは一人になっていたようだ。
 だけど、思いっ切り本部から出ちゃっているけどね!

「同行者が腕利きですからね。護衛は必要ないでしょう。ああ、本部に伝言も残してきましたので、大丈夫ですよ。あ、ちなみに、タクミさん達は、今夜からの宿は決まっていますか?」
「いえ、宿はこれから探すつもりですけど……」
「それは良かった。私達と同じ宿で確保してありますから、そのつもりでよろしくお願いしますね」
「え?」

 しっかりとパトリックさんを宿まで送らねば! と思っていたが、今夜の僕達の宿も決定していた。

「ああ、宿代についてもこちらで持ちますから、その辺も気にしないでくださいね」
「いやいやいや、自分達の宿代くらい支払いますから」
「大丈夫です。国持ちですよ」
「いやいやいや、国に支払ってもらう理由はないですよ!?」
「枝一本分の代金にもならないと言われております。私としましては、陛下の指示を遂行したいので、交渉は陛下にお願いしますね」

 にっこりと笑う笑顔が、有無を言わせないと語っていた。
 ……この表情はセドリックさんにもアイザックさんにもそっくりだった。
 しかも、枝の代金か~。トリスタン様には枝はお土産だと言い張ったのだが、駄目だったのかな? いやでも、まだ一種類しか送っていないのでその分が宿代として相殺されたとしても、残り三種の枝はお土産で通せばいいのかな? うん、そうしよう。

「パトリックさん、宿代については了解しました。トリスタン様に直接お返しする感じで頑張ります」
「ええ、そのようにお願いします」

 お土産をたっぷり! で決定だな。

「「おにぃちゃん、ここはー?」」
「うん、いいんじゃないかな。入ってみよう」
「「うん!」」
「カイザーは興味ないかもしれないけど、つき合ってな」
「うむ、問題ないぞ」

 そうこうしているうちに、アレンとエレナが宝飾品店を見つけてくれたので、お店に入ることにした。

「いらっしゃいませ」
「「こんにちは~」」
「こんにちは。すみません、こちらでは持ち込み制作依頼は受けてもらえますか?」
「ええ、金属や宝石などでしたら、お受けいたしていますよ」
「えっと、ガラスに分類される細工物なんですけど……それはどうでしょう?」
「組み合わせるものにもよりますが、問題ないと思います。持ち込みのお品を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、これです」
「これはっ!」

 ガラスの蝶を見せると、店員さんが目を見張った。まあ、クリスさんの反応を見る限り驚かれることは予想していたが、店員さんの驚きは控えめかな?

「たぶん、強度をつける加工とかもしなくてはならないと思いますが、ブローチか髪留めとかにしたいんですよね」
「こ、これは素晴らしい細工ですね。思わず魅入ってしまいました。そうですね、おっしゃる通り強度はつけたほうが良いかと思いますが、問題なくブローチや髪留めに加工できるかと」
「本当ですか。良かった~。――エレナ、できるって」
「わ~い」

 問題なく制作してもらえそうである。

「エレナ、ここではブローチと髪留めのどっちを作ってもらう?」
「どっちか?」
「ここではね。ガディア国に戻ってからもう一方をレベッカさん達と相談しながら作ろう?」
「わかった~。じゃあね~、ブローチにする!」
「了解。ブローチね」

 今回はブローチを作ってもらうことにする。

「パトリックさん、奥様へのお土産はブローチでいいですか?」
「ええ、ですが……本当に良いのですか?」

 パトリックさんはまだ少し遠慮しているようだ。

「もちろんですよ。みんなの分も作ってもらうつもりですしね。えっと……エレナとフィート、マイル、レベッカさん、ロザリーさん、アルメリアさん、オリヴィエさん、それにパトリックさんの奥様で……八個かな?」
「いいとおもう!」

 だが、僕からしたらパトリックさんの奥様以外にも作るのでついで感が出ていて申し訳ないと思う。
 あと、これは家族と後見家のお土産ってことで、王妃様達の分は数には入れないでおく。まあ、ガラスの蝶自体はお土産にすると思うけどな。

「色違いのパーツを使いつつ似たような雰囲気のものでお願いします」
「おにぃちゃん、おはなもつかおう~」
「ああ、そうだね」

 エレナはガラスの花も使いたいようだ。
 僕は《無限収納》から四色のガラスの花も取り出しておく。

「それぞれの色は決めたほうがいいかな。エレナは何色にする?」
「んとね~、あか?」
「赤は蝶だね。フィートとマイルはどうする?」
「フィートはみどりで、マイルは……とうめい?」

 家族の分を先に決めてから、お土産用と……とりあえず使う蝶の色だけを決め、必要分を《無限収納》から取り出す。合わせる花などの付属品は、本職の人に選んでもらったほうが間違いないだろうから、それらは適当に取り出す。

「おにぃちゃん、しんじゅは?」

 これまで流れを見守っていたアレンも使うパーツについて意見を言い始めた。

「あ~……駄目ではないな。貴族婦人方が使うものには、むしろ使ったほうがいいかな。ただ、エレナ達のものに使ったら、普段使いができなくなるかな?」
「じゃあ、おばあさまたちのだけにしよう~」
「タ、タクミさん、真珠と聞こえましたが……使うのですか?」
「小粒の良い真珠も手持ちにありますから、使ってもいいな~と思っています」
「いやいやいや、真珠は小粒でも高価な品ですよ!?」

 真珠と聞いてパトリックさんが少しばかり慌てだした。

「まあまあ、手持ちのものですから」

 エレナ、フィート、マイルのものにだけ使わないように指定し、小粒の真珠も取り出す。
 すると、この辺で店員さんの動きが止まってしまった。

「あの? 聞いていますか?」
「……タクミさん、落ち着くまで少し時間をあげたほうがよろしいかと」
「え? ……あぁ~」

 一つなら〝珍しい〟で済んでいた蝶が八個、さらには真珠が並べられて、店員さんは情報過多により固まっているようだ。

「アレン、エレナ、待っている間に、他に使えるものがないか考えていようか」
「「そうだね~……」」
「あ! すいしょうは?」
「それもいいね」
「あとね! ワニさんのほうせき!」
「ワニさん? ああ! 細波の迷宮にいたアリゲーターか。確かにいろいろな宝石を手に入れていたな!」

 子供達と他に良い素材がないか話していたら、カイザーとパトリックさんに呆れたような顔で見られているような気がしたが、全力で気づかないふりをした。





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