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本編

466.またも貴石の迷宮3

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「「《ただいま~》」」

 しばらくしてから、ようやく子供達が小部屋から戻ってきた。

「お帰り。ラジアン、怪我はないね」
《ないよ~。でも、びっくりした~》
「そうだな、急に落ちたらびっくりするよな。今度からは周りにも気を遣おうな」
《は~い》

 ラジアンが落ちたのは事故だが、これを機に周囲への警戒も覚えて貰いたい。

「で、アレン、エレナ。罠があったら困るんだから、調べずに飛び込んだら駄目だぞ」

 そして、アレンとエレナには少しばかり説教だ!

「「ラジアン、ひとりになっちゃう」」
「それは確かに可哀想だけど、確認をしないでアレンとエレナに何かあったほうがラジアンは哀しむと思うぞ」
「「むむむっ」」

 アレンとエレナは僕が言った言葉について、眉間にしわを寄せながら真剣に考えている。

「もちろん、僕も哀しくなる」
「「……うにゅ~」」

 トドメ、とばかりに僕の気持ちも伝えると、二人はへにゃりと泣きそうな顔をする。

「「……きをつける」」

 説教というか泣き落としに近かったが、子供達の反省を促せられたようだ。

「それじゃあ、反省はここまで! ――ところで、下の部屋からすぐに戻ってこなかったのは、何でなんだ?」
「「うにゅ……たからばこ……」」
「え、宝箱があったのか? ちょっと待って、もしかして開けた!?」
「「みゅ!」」

 罠があったらどうするんだ! ともう一度怒る必要があるのか即座に確認する。

《あ、お兄ちゃん、罠がないかどうかはカイザーに確かめてもらったよ》
「うむ、問題なかったぞ」
「あ、そうか。カイザーは【鑑定】が使えたね」

 しっかり者のジュールとフィートが、ちゃんと確認してくれたようだ。
 説教まがいなことは続けてやりたくないので、助かったよ。

《アレンちゃん、エレナちゃん、兄様は心配しているだけで怒っているわけじゃないから、宝箱に何が入っていたか教えましょう》

 僕が驚いて大きい声を出したので、アレンとエレナは委縮していたようだ。それをフィートが宥めてくれている。
 ……微妙にヘコむ。やはり、僕は怒ることは苦手だな。

「大きい声を出してごめんな。それで、宝箱には何があったんだ? 教えてくれるか?」
「「あのね、あのね!」」

 アレンとエレナを撫でながら宥めると、何とか子供達の気持ちを浮上させることができたようだ。

「「おにぃちゃん! そうびへんこうのうでわがあったの!」」
「え!? 装備変更の腕輪が?」

 隠し部屋? 罠部屋? どちらのかわからないが、ラジアンが落ちた先にあった部屋には探していた魔道具があったようだ。

「え、凄い! 本当に?」
「うむ、間違いないな。この腕輪は、服装が二通り登録できるもののようだ。我の耳飾りよりも性能が良いものだ」
「あれ? カイザーのは一つしか登録できないものなのか?」
「うむ、タクミとお揃いの服を登録しておる」

 登録できる服装の数は一つと固定ではなく、いろいろ登録できるものもあるようだ。

「「カイザーだけずる~い」」
「アレンもおにぃちゃんとおそろいのきたーい!」
「エレナもおそろいしたーい!」

 アレンとエレナは服の登録数ではなく、服のお揃いのほうに食いついた。

「……今度、似たような服を作るか?」
「「つくる!」」

 とはいっても、僕の服はシルが用意してくれたものだから性能は良いが、形自体は普通のシャツに上着なんだけどな~。まあ、二人が喜ぶのなら作ることは問題ない。むしろ、いろいろな服を作って着せてみたいっていう気持ちのほうが大きい。

「欲しかった魔道具が早々に手に入ったのは幸運だったな」
《そうだね! でも、その魔道具は数が欲しいし、まだまだこれからだよ!》

 ジュールの言葉にフィート達も同意するように頷く。
 自分達が【人化】スキルを手に入れた時のために、準備万端にしておきたいようだ。

「じゃあ、この魔道具は誰が持っておく?」
《ん? お兄ちゃん、ボク達はまだ人化できないよ?》
「人化できた時、これがないと困るんだろう? カイザーが人化した時、裸で困ったみたいだしな」
「……うむ」

 場所にもよるが、人化した時に裸で彷徨うと、大変なことになりかねない。

「どんな姿に変化するかわからないから、とりあえず大きめなマントかコートあたりを登録しておいて、羽織れるようにしてしておけばいいかな?」

 裸にコートも変態を連想するが……まあ、他人に知られなければいいだろう。

《おぉ! それもそうだね! じゃあ、女の子が優先で、フィートかマイルがいいかな》
《ぼくもそれでいいと思います》
《残念だけど、そうだね。早くオレの分も貰えるように頑張ろう!》
《ラジアンも~》

 男の子契約獣達は、全員紳士だったようだ。良い子達だな~。

《わたしは後でいいの! だから、フィートが持っていてなの!》
《でも、いいのかしら? 私が無駄に持っているよりも、兄様達が活用したほうがいいんじゃない?》
「僕は普通に着替えれば事足りるから問題ないよ」
「アレンも!」
「エレナもだよ!」

 僕もアレンもエレナも、冒険者としての活動も休日も似たような格好だからな。急に着替えたりする場面はほとんどない。

《ありがとう。じゃあ、私が持っているわ。兄様、手間になるけど、街でマントをよろしくね》
「僕が選んで買ってもいいけど、せっかくだからフィート自身が好きな色のマントを選びなよ。街歩きの時に呼ぶからさ」
《わぁ、楽しみ~。兄様、ありがとう》
《羨ましいなの~》
「その時はマイルも一緒にマントを選んでおくか。次に装備変更の魔道具が手に入ったらマイルの番なんだしな」
《わーいなの!》

 街に戻ったらすぐにフィートとマイルを呼んで買いものさせてあげよう。

《あ、オレ、良いことを思いついた! 聞いて、聞いて!》
「……ベクトル、何を思いついたんだ?」

 買いものの予定が決まったところで、ベクトルが何か名案を思いついたようだ。……本当に名案かどうかは聞いてみないとわからないけどな。

《あのね、あのね! 森っぽい色のマントを登録しておいて、森でマントを被れば隠れられるよ! だから、人化できなくても使えるんじゃない?》
「……」
《わ~、ベクトルにしては凄い良い案を思いついたね~》
《ジュール! オレにしてはって酷い! オレだって良い案を出せるんだよ!》

 ベクトルにしては本当に良い案だと思う。

「フィートが持つ予定の魔道具は二通り登録できるみたいだし、二個目はベクトルの案を採用するか?」
《そうね。兄様、そうしましょう》

 とりあえず、一つ目の登録はフィート好みのマント、二つ目の登録は隠れ蓑用のマントにすることに決まった。

《じゃあ、お兄ちゃん、そろそろ先に進もうか! 何だかこの迷宮では欲しいものが手に入るようなきがするからどんどん進もうよ!》
「それもそうだな」

 ジュールの言う通り、欲しいと思っていた魔道具が十四階層で手に入ったのは幸先が良いよな。この調子でマジックリングが手に入るといいよな~

《よし! じゃあ、先に進むためにもまずは蟻蜜集めからだね!》
「「おー!」」
「ん?」

 話の流れ的にすぐに下の階層を目指すのかと思いきや、透明と白の蟻蜜集めは諦めないで決行するらしい。

「……まあ、いいんだけどね」

 使えるものなので、僕は子供達の好きにさせることにした。

「……集めたな」
「「がんばった!」」
《ラジアンもがんばったよ!》

 その結果、勤勉にソルジャーアント狩りをする子供達によって、大量の蟻蜜を手に入れた。





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