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13巻
13-2
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食器工房を出た後は、手持ちが少なくなっていた小麦粉を買い足しつつ、街をぶらぶらしていた。
「さて、次はどうする?」
「「しんでんはー?」」
「神殿? そうだな~、しばらく王都に滞在することだし、挨拶しておこうか」
「「うん、あいさつしよう!」」
アレンとエレナの勧めもあって、僕達は神殿にやって来た。
(シル~)
(巧さん! 来てくれたんですね!)
声を出さずにシルに呼びかけると、すぐに嬉しそうな声が返ってきた。
(子供達が行こうって言ってくれたからね)
(良い子ですね!)
(そうだろう! 良い子なんだよ!)
(巧さんは立派に兄バカをしていますよね~)
(ははっ、そうかもな。でも、二人とも本当に良い子だぞ)
アレンとエレナは可愛いし、賢い。それは欲目ではなく、的確に評価していると思う。
だがまあ、それを抜きにしたとしても、僕は間違いなく兄バカである。
(ふふっ、本当に仲が良いですね~。羨ましいです)
(ん? そういえば、シル達はウィンデル様達とは兄弟になるのか?)
確か、シル達四神――風神であるシルと水神ウィンデル様、火神サラマンティール様、土神ノームードル様は、創造神マリアノーラ様が創った存在だといわれる神話があったはずだ。
(人から見たらそうですね。マリアノーラ様が親、僕達が子ということになるので、ウィンデル、サラマンティール、ノームードルと僕は兄弟ということになりますね。ただ、誰が長男とか、そういうのはないですけどね)
(なるほどな~)
いわゆる四つ子っていう感じの認識でいいだろう。
(じゃあ、アレンとエレナはシルの甥っ子姪っ子ってことだな)
(そういえば、そうですね! ……はっ! じゃ、じゃあ、巧さんも僕の甥っ子ってことですね!)
(いや、何でだよ)
(甥っ子と姪っ子の兄は、やっぱり甥っ子ですよね?)
(いや、そこは無理矢理関係づけなくてもいいんじゃないか? 僕はシルの眷属だよ)
(眷属より甥っ子のほうがいいです!)
(……そうか)
眷属は……部下か? まあ、部下と甥っ子なら、甥っ子のほうが関係性は近いかな?
でも、僕の身体はシルが創ったんだから、僕がシルの子供だと言えなくはないのか? まあ、そのことの指摘はないから、突っ込まないでおこうか。
とにかく、どちらが良いなんてことはわからないし、シルの好きに思わせておけばいいか~。
(で、羨ましそうにしていたけど、シル達は兄弟仲が悪いのか?)
(いいえ、悪いっていうわけではありませんよ。ただ、事務的なやりとりが多くて、そんなに交流がなかったっていう感じですかね)
(へぇ~、そうなんだ~)
(そうなんです。でも、最近は巧さんのお蔭で交流が増えましたね)
(はぁ?)
僕のお蔭? ……あっ!
(食べものか!)
(そうです。みんなでお茶をしたり、食事をしたりする機会が増えました)
(ははは~。えっと、良かったな……でいいんだよな?)
(はい。時には取り合いになったりしますが、楽しいひと時になっています。巧さん、ありがとうございます)
親交を深めることになったのなら、良かったかな?
いや、でも、取り合いってことは喧嘩をしているから駄目なような気がするが……それも含めて楽しんでいるのなら良いのか?
(まあ、切っ掛けになったのなら良かったよ。そういえば、次のリクエストはどうする? 今、聞くけど、決まっているか?)
(決まっていると言えば、決まっているのですが……)
シルには月に一回くらいなら食べたいもののリクエストを聞くと言ってある。
前にリクエストされたことがあるのは……ルイビアの街にいた頃に肉まんを頼まれた。その後はセルディーク国に行った時にパウンドケーキを送った。だが、これは特にリクエストだったわけではない。
こちらから聞かないと、いきなり材料が送られてきたりするので、せっかくなら直接聞こうと思ったんだけど、何故かシルは言い淀んでいた。
(何だ? どうした?)
(その……巧さんが作ったところをまだ見ていないんですけど……)
(まだ作ったことがないもの? 何だ? とりあえず、言ってみて。作れそうなら作るし、駄目なら駄目って断るから)
(マリアノーラ様が〝いちごだいふく〟っていうものが食べたいって言っているんですよね。巧さん、わかりますか?)
(……なるほど)
苺大福か。確かにまだ作ったことはないものだな。
というか、前から思っていたけど、創造神のマリアノーラ様は地球のものに詳しいよな~。
えっと、材料は……イーチの実に餡子、餅だな。あ、大福で使う餅はただの餅じゃなくて、甘みを加えるんだったかな? とはいえ、材料は問題ないな。
(作れなくはないかな)
(本当ですかっ!?)
(うん、形が多少歪になっても目を瞑ってくれるならな)
(全然問題ないです! 大丈夫ならお願いしたいです!)
(わかった。手が空いた時に作ってみるよ)
(ありがとうございます! 楽しみにしています!)
苺大福なら子供達も好きそうだし、時間があったらすぐに作ってみよう。
(じゃあ、そろそろ行くよ)
(はい、これから寒くなりますから、体調には気をつけてくださいね)
(いやいや、びっくりするくらい身体は丈夫だから、僕は風邪とかは引かない気がするよ!)
(あ、そういえば、そうでしたね。でも、甥っ子の体調を気に掛けてみたかったんです)
(そこに戻るんだな。まあでも、気をつけるよ)
(はい! じゃあ、また会いに来てくださいね)
(うん、わかったよ)
シルとの会話が終わると、それを察してか、椅子に座って待っていた子供達が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「「おわったー?」」
「うん、終わったよ。待ちくたびれた?」
「「だいじょうぶだよ!」」
「そうか。でも、待っていてくれてありがとう」
「「うん!」」
やっぱりうちの子達は良い子である。
「じゃあ、次はどこに行こうか」
「「ギルドいこう!」」
「ギルドって、冒険者ギルドか? そうだな、会えるかどうかわからないけど、アンディさんとケイミーさんに会いに行ってみるか?」
「「うん!」」
ギルドマスターであるアンディさんとその奥さんのケイミーさんに会うため、僕達は冒険者ギルドに向かうことにした。
だいたい半年振りかな? 久しぶりに王都の冒険者ギルドに来たので、受付でアンディさんへの面会を申し出た。
当然、ギルドマスターに会いたいと言ってすんなり会わせてもらえるわけではないけど……僕がAランクだったため、アンディさんに直接確認してもらえることになった。
「おい、おまえ!」
受付の人が確認しに行ってくれている間、僕達が依頼ボードを眺めて時間を潰していると、知らない男性に声をかけられた。
「ここは優男や子供が来るような場所じゃないぞ!」
「……」
相手は頬に大きな傷のある強面で体格の良い男性だ。鋭い目つきで睨みつけるようにして怒鳴ってくる。これは……絡まれているんだろうか?
「おい、あれって『刹那』じゃないか!?」
「ああ、そうだ! よりにもよって『刹那』に絡みに行くなんて、誰だよあいつ!」
「あいつは最近、王都に来た奴だよ。『刹那』が王都を離れていた間にな」
「おい、誰か止めろよ」
「嫌だよ。巻き込まれたくない!」
ぼそぼそと周囲にいる冒険者達の話し声が聞こえてくる。
遠目で見ているだけじゃなくて、止めてくれればいいんだけど……そのような気遣いはないようだ。
「おい! 聞いているのかよ!」
「えっと、依頼書を見るくらいなら、自由だと思うんですが……」
「危ないだろう!」
「……ん?」
「多くはないが、この時間でも酒が入っているやつもいるにはいるんだぞ! 子供を連れてくるような場所じゃないだろう!!」
あれ? 絡まれているわけじゃないようだ。
そういえば、アレンとエレナが警戒していないんだよな~。じゃあ、彼は本当に僕達のことを心配して声を掛けてきたのか? ただの親切な人?
「えっと……ご心配ありがとうございます。僕も子供達も一応、冒険者ですし、戦闘の心得くらいはありますので大丈夫ですよ」
「冒険者なのか?」
「はい、そうです」
「子供達も?」
「はい」
「戦えるのか?」
「ええ、僕も子供達も問題なく」
「そうか、それならいいんだ」
親切な彼が納得したように笑みを見せるが、強面のせいで笑みが怖い。
「おい、こら、ギゼル! おまえ、何やっているんだよ!」
そこに新たに三人の男性がやって来て、そのうちの一人が親切な彼――ギゼルさんの後頭部を叩いた。
「周りがざわついているぞ! 今度は何をやらかした!」
「い、いや、だってよぉ~。子供連れがいたから、危ないと思ってよぉ~」
「強面のおまえが子供に近づいたら、子供が泣くだろうが! また犯罪者扱いされたいのかっ!」
「今回は泣かせてない!」
「君、うちのメンバーが絡んですまなかった」
「本当にすまんな。こいつ、こんな顔だが子供好きでよ。悪気はないんだ」
「本当に悪い。許してくれると嬉しい」
ギゼルさんの仲間と思われる三人が、ギゼルさんが悪いものだと決めつけて一斉に謝罪してくる。
ギゼルさん……こんなに強面なのに子供好きなのか~。
ここまで見た目と性格や行動が一致しない人は初めてだ。
「いえ、彼は心配して声を掛けてくれただけで、何かされたわけではないので謝罪は結構ですよ」
「いや、だが、子供達が怯えただろう?」
「大丈夫です」
実際、うちの子達はまったく怯えてないのでな。
「えっ!! 本当かっ!? 近寄るだけで子供にギャン泣きされたり、迷子の子に声を掛けたら誘拐犯に間違われたりするギゼルに声を掛けられたのに平気だと!?」
「……」
うわ~、ギゼルさん過去の経験が凄い!!
僕も彼のことは強面だとは思うが、ギャン泣きに誘拐犯? 心が折れる経験過ぎないか!?
「アレン、エレナ、最初に声を掛けて来た人――ギゼルさんが肩車してくれるって。高いところに貼ってある依頼書を見せてもらいな」
「「いいの? わーい!」」
あまりにもギゼルさんが不憫過ぎたので、僕は逆に子供達をギゼルさんに絡みに行くように仕向ける。
「なっ! はぁ!?」
「「かた、のせて~」」
「お、おう……こうか?」
「「そう!」」
驚くギゼルさんだが、子供達の指示に従うように恐る恐る子供達を抱え上げ、肩に乗せるように座らせる。
肩車ではなく、両肩に一人ずつ、二人同時に肩に乗せた。体格が良いギゼルさんだからできる乗せ方だな。
「「おぉ~、たかーい!」」
「大丈夫か? 怖くないか?」
「「だいじょうぶ!」」
アレンとエレナはとても楽しそうである。ギゼルさんは僕よりも頭二つ分くらいは背が高いから、今までなかった視線の高さであろう。
ギゼルさんは落とさないか心配しているようで、ちょっとハラハラした様子だけど……うちの子達なら、落とされたとしてもしっかり着地するだろう。
「……怯えてない、だと!?」
「……それどころか喜んでいるぞ!?」
「……夢か? これは夢だな?」
ギゼルさんの仲間達は、子供達が喜ぶ姿を見て驚愕というか、呆然としていた。
……ギゼルさんはどれだけ子供に泣かれたのだろうか。
「「ねぇねぇ」」
「お、おう、どうした?」
「あっち、あっち!」
「いらいしょ、みよう!」
「お、おう」
アレンとエレナが依頼書の方向を見るように指示すると、ギゼルさんはゆっくりと慎重に動き出す。まるでスローモーションで見ているかのような動きである。
「……あれはヤバイ絵面だな」
「……ああ、あれは犯罪だ」
「……ギゼルのやつ、やっぱり捕まるんじゃないか?」
ギゼルさんの仲間達はまだ呆然としているが、呟いている内容がちょっと酷い。
「「おにぃちゃん、おにぃちゃん」」
「どうしたんだい?」
「このいらい」
「したい!」
アレンとエレナがある依頼書を指差しながら僕を呼んでくる。
「今日は依頼を受ける予定はないから、今度になるぞ」
「「えぇ~、きょうがいい~」」
「今からじゃ無理だよ。それで、何の依頼だ?」
「「これ~」」
今日は依頼を受けるつもりはないが、とりあえず内容だけは確認する。
「え、これ?」
「「うん、それ~」」
子供達が指差していたのは、ワイバーン討伐の依頼書だった。
「ドラゴンのおにく!」
「てにいれよう!」
「あ~……」
……子供達は、以前僕が冗談として言ったドラゴンの肉の入手を虎視眈々と狙っていたようだ。
確かにワイバーンも下位の飛竜に属する魔物だ。まあ、毒竜とも呼ばれる存在でもあるけどな。
「ちょ、ちょっと待て!? ワイバーン討伐に行くって、冗談だよな!?」
「じょうだんじゃないもん!」
「とうばついくもん!」
子供達は心配そうにするギゼルさんを余計に煽る。
「さ、さすがに行っちゃ駄目だぞ! ってか、ワイバーン討伐はAランクの、それもパーティ推奨の依頼なんだからな! そもそもおまえ達じゃ依頼は受けられないぞ!」
「「えぇ~、そうなの~?」」
「そうなんだよ! ――というか、兄貴のおまえが止めろよ。何でオレが必死に止めてんだよ!」
成り行きを見守っていたら、ギゼルさんに怒られてしまった。
「いや~……僕、子供達のこと止めるのが苦手なんですよ」
「そこは頑張って止めろよ! 駄目なものは駄目って教えるのが、おまえの役目だろうが!」
「悪いことならさすがに止めますよ。でも、それ以外で子供達がやりたいって言ったことはやらせてあげる方針なんですよね~」
「いやいやいや!! ワイバーンは駄目だろう!?」
「まあ、さすがにワイバーンはちょっと躊躇しますよね~」
「ちょっとか? ちょっとだけなのか!?」
うん、〝ちょっと〟だな。僕自身もワイバーンを見てみたいと思っちゃったりするのでな。
「「おにぃちゃん、だめー?」」
さて、この場合はどうしたらいいんだろうな~。
「……そもそも、ワイバーンの肉って美味しいのかな?」
「「おいしくないのー?」」
ワイバーンは毒竜と呼ばれる通り、毒を持つドラゴンだが、毒は尻尾にあるためお肉は問題なく食べることはできる。ただ、それは知っていても、さすがに美味しいかどうかまでは知らない。
「とても美味しいですよ」
僕の疑問に答えてくれたのは、いつの間にか近くに来ていたアンディさんだった。
「あ、アンディさん、お久しぶりです」
「「こんにちは~」」
「タクミくん、お久しぶりですね。アレンくんもエレナさんも、こんにちは。お元気そうでなによりです」
受付の人から僕達が来ていると聞いて、わざわざこちらに来てくれたのだろう。
「急に来てしまいましたが、お仕事は大丈夫ですか?」
「タクミくんが来てくださったというのに、仕事なんてしていられませんよ」
「いやいや、そこは仕事を優先してください」
「タクミくんがワイバーンの依頼を片付けてくれるなら、問題ありません!」
「まだ依頼を受けるなんて決めていませんから! そもそもランクが足りませんって!」
「私が許可を出せば、問題ありませんよ!」
「それは、職権濫用です!」
アンディさんはにこやかに、ワイバーンの依頼を僕達に受理させようとしてくる。
「滞っている依頼なので、片づけてくれたら嬉しいのですが……本当に駄目ですか?」
「「いく~」」
「本当ですか? ありがとうございます」
「こらこら、勝手に依頼を受けない! ――アンディさんも子供達の言葉を鵜呑みにしないで!」
「「「えぇ~」」」
子供達とアンディさんが揃って不満そうな声を上げる。
「アンディさん、うちの子と同じような反応をしないでください。子供ですかっ! というか、ギルドマスターとしての威厳がなくなりますよ」
ギルドマスターであるアンディさんの登場からこれまでのやりとりを、子供達を肩に乗せたまま聞いているギゼルさんがかなり狼狽えている。
いや、ギゼルさんだけじゃなく、僕達のやりとりが聞こえる範囲の人が呆然としていた。
「タクミさんの言う通りね!」
「うわっ!? ケ、ケイミー!?」
そんな空気の中、ケイミーさんが、アンディさんの後ろからそっと近づいて来ると、彼の耳を摘み上げた。
「痛っ! 痛いですよ、ケイミー」
「痛くしているもの、当然ね」
「酷いですよ」
「だって、仕事をサボっているんですもの」
「サボっていませんって! ワイバーンの討伐依頼を受けてもらえるように頼んでいました!」
「あら、そうなの?」
「そうなんです!」
アンディさんとケイミーさん夫婦は、相変わらず仲が良さそうである。
挨拶がまだだったので、ぺこりと頭を下げる。
「ケイミーさん、お久しぶりです」
「タクミさん、アレンくん、エレナちゃん、久しぶりね~。元気だったかしら?」
「「うん、げんきだよ」」
引き続き、ギゼルさんの肩の上から挨拶を返す子供達。下りる気はないようだ。
「タクミさんがワイバーンの討伐に行ってくれるの?」
「今のところ行く予定はありませんね」
僕がはっきりとそう答えると、アレンとエレナが不満そうに声を上げる。
「「えぇ~」」
「子供達は行きたいみたいよ?」
「大事な予定が控えていますからね。しばらくは大きな依頼は受けません」
「「むぅ~~~」」
何日かかるかわからないだけでなく、怪我する恐れまである依頼は、今は避けたい。
ヴァルト様の結婚式が終わるまでは、時間があっても近場での依頼しか受けない!
こればっかりは、子供達にどんなにお願いされても駄目だ。
「……粘っても駄目そうね」
「ええ、今回はさすがに」
「残念。でも、その予定とやらが終わったら、よろしくね」
「「わかった!」」
「……」
僕の決意を感じ取ったのか、ケイミーさんは引き下がってくれたけど、子供達から結婚式が終わった後に強請られたら……どうなるかな~?
正直、ワイバーンのお肉が気になるし、依頼を受けそうな気がする? まあ、依頼がその頃まで残っていたらね。
「それにしても、タクミくん達は『赤』のパーティとは知り合いだったんですか?」
「『赤』のパーティですか? ギゼルさん達のことなら、今日初めて会いましたよ」
「おや、そうなのですか? それにしては、子供達がとても懐いているようですね」
「ギゼルさんの人柄が良いからですね」
人見知りをしなくなってきたうちの子達は社交的なので、相手の人柄さえ良ければすぐに仲良くなる。その代わり、腹に一物を抱えている人物にはいっさい懐かないだろう。
「「おじちゃん、いいひと~」」
「アレン、エレナ、名前を呼ぼうか」
「「ギゼルさん?」」
「うん、そうだね」
アレンとエレナがつらっとギゼルさんのことを〝おじちゃん〟呼ばわりする。
ルイビアの街にいた頃に、三十代半ばより年嵩の冒険者達が、こぞって子供達に〝おじちゃん〟と呼ばせていたせいだな。
ギゼルさんは三十代……前半? 半ばかな? 本人の許可なくおじさん呼ばわりは失礼な年頃なので、僕は子供達に注意したが――
「さて、次はどうする?」
「「しんでんはー?」」
「神殿? そうだな~、しばらく王都に滞在することだし、挨拶しておこうか」
「「うん、あいさつしよう!」」
アレンとエレナの勧めもあって、僕達は神殿にやって来た。
(シル~)
(巧さん! 来てくれたんですね!)
声を出さずにシルに呼びかけると、すぐに嬉しそうな声が返ってきた。
(子供達が行こうって言ってくれたからね)
(良い子ですね!)
(そうだろう! 良い子なんだよ!)
(巧さんは立派に兄バカをしていますよね~)
(ははっ、そうかもな。でも、二人とも本当に良い子だぞ)
アレンとエレナは可愛いし、賢い。それは欲目ではなく、的確に評価していると思う。
だがまあ、それを抜きにしたとしても、僕は間違いなく兄バカである。
(ふふっ、本当に仲が良いですね~。羨ましいです)
(ん? そういえば、シル達はウィンデル様達とは兄弟になるのか?)
確か、シル達四神――風神であるシルと水神ウィンデル様、火神サラマンティール様、土神ノームードル様は、創造神マリアノーラ様が創った存在だといわれる神話があったはずだ。
(人から見たらそうですね。マリアノーラ様が親、僕達が子ということになるので、ウィンデル、サラマンティール、ノームードルと僕は兄弟ということになりますね。ただ、誰が長男とか、そういうのはないですけどね)
(なるほどな~)
いわゆる四つ子っていう感じの認識でいいだろう。
(じゃあ、アレンとエレナはシルの甥っ子姪っ子ってことだな)
(そういえば、そうですね! ……はっ! じゃ、じゃあ、巧さんも僕の甥っ子ってことですね!)
(いや、何でだよ)
(甥っ子と姪っ子の兄は、やっぱり甥っ子ですよね?)
(いや、そこは無理矢理関係づけなくてもいいんじゃないか? 僕はシルの眷属だよ)
(眷属より甥っ子のほうがいいです!)
(……そうか)
眷属は……部下か? まあ、部下と甥っ子なら、甥っ子のほうが関係性は近いかな?
でも、僕の身体はシルが創ったんだから、僕がシルの子供だと言えなくはないのか? まあ、そのことの指摘はないから、突っ込まないでおこうか。
とにかく、どちらが良いなんてことはわからないし、シルの好きに思わせておけばいいか~。
(で、羨ましそうにしていたけど、シル達は兄弟仲が悪いのか?)
(いいえ、悪いっていうわけではありませんよ。ただ、事務的なやりとりが多くて、そんなに交流がなかったっていう感じですかね)
(へぇ~、そうなんだ~)
(そうなんです。でも、最近は巧さんのお蔭で交流が増えましたね)
(はぁ?)
僕のお蔭? ……あっ!
(食べものか!)
(そうです。みんなでお茶をしたり、食事をしたりする機会が増えました)
(ははは~。えっと、良かったな……でいいんだよな?)
(はい。時には取り合いになったりしますが、楽しいひと時になっています。巧さん、ありがとうございます)
親交を深めることになったのなら、良かったかな?
いや、でも、取り合いってことは喧嘩をしているから駄目なような気がするが……それも含めて楽しんでいるのなら良いのか?
(まあ、切っ掛けになったのなら良かったよ。そういえば、次のリクエストはどうする? 今、聞くけど、決まっているか?)
(決まっていると言えば、決まっているのですが……)
シルには月に一回くらいなら食べたいもののリクエストを聞くと言ってある。
前にリクエストされたことがあるのは……ルイビアの街にいた頃に肉まんを頼まれた。その後はセルディーク国に行った時にパウンドケーキを送った。だが、これは特にリクエストだったわけではない。
こちらから聞かないと、いきなり材料が送られてきたりするので、せっかくなら直接聞こうと思ったんだけど、何故かシルは言い淀んでいた。
(何だ? どうした?)
(その……巧さんが作ったところをまだ見ていないんですけど……)
(まだ作ったことがないもの? 何だ? とりあえず、言ってみて。作れそうなら作るし、駄目なら駄目って断るから)
(マリアノーラ様が〝いちごだいふく〟っていうものが食べたいって言っているんですよね。巧さん、わかりますか?)
(……なるほど)
苺大福か。確かにまだ作ったことはないものだな。
というか、前から思っていたけど、創造神のマリアノーラ様は地球のものに詳しいよな~。
えっと、材料は……イーチの実に餡子、餅だな。あ、大福で使う餅はただの餅じゃなくて、甘みを加えるんだったかな? とはいえ、材料は問題ないな。
(作れなくはないかな)
(本当ですかっ!?)
(うん、形が多少歪になっても目を瞑ってくれるならな)
(全然問題ないです! 大丈夫ならお願いしたいです!)
(わかった。手が空いた時に作ってみるよ)
(ありがとうございます! 楽しみにしています!)
苺大福なら子供達も好きそうだし、時間があったらすぐに作ってみよう。
(じゃあ、そろそろ行くよ)
(はい、これから寒くなりますから、体調には気をつけてくださいね)
(いやいや、びっくりするくらい身体は丈夫だから、僕は風邪とかは引かない気がするよ!)
(あ、そういえば、そうでしたね。でも、甥っ子の体調を気に掛けてみたかったんです)
(そこに戻るんだな。まあでも、気をつけるよ)
(はい! じゃあ、また会いに来てくださいね)
(うん、わかったよ)
シルとの会話が終わると、それを察してか、椅子に座って待っていた子供達が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「「おわったー?」」
「うん、終わったよ。待ちくたびれた?」
「「だいじょうぶだよ!」」
「そうか。でも、待っていてくれてありがとう」
「「うん!」」
やっぱりうちの子達は良い子である。
「じゃあ、次はどこに行こうか」
「「ギルドいこう!」」
「ギルドって、冒険者ギルドか? そうだな、会えるかどうかわからないけど、アンディさんとケイミーさんに会いに行ってみるか?」
「「うん!」」
ギルドマスターであるアンディさんとその奥さんのケイミーさんに会うため、僕達は冒険者ギルドに向かうことにした。
だいたい半年振りかな? 久しぶりに王都の冒険者ギルドに来たので、受付でアンディさんへの面会を申し出た。
当然、ギルドマスターに会いたいと言ってすんなり会わせてもらえるわけではないけど……僕がAランクだったため、アンディさんに直接確認してもらえることになった。
「おい、おまえ!」
受付の人が確認しに行ってくれている間、僕達が依頼ボードを眺めて時間を潰していると、知らない男性に声をかけられた。
「ここは優男や子供が来るような場所じゃないぞ!」
「……」
相手は頬に大きな傷のある強面で体格の良い男性だ。鋭い目つきで睨みつけるようにして怒鳴ってくる。これは……絡まれているんだろうか?
「おい、あれって『刹那』じゃないか!?」
「ああ、そうだ! よりにもよって『刹那』に絡みに行くなんて、誰だよあいつ!」
「あいつは最近、王都に来た奴だよ。『刹那』が王都を離れていた間にな」
「おい、誰か止めろよ」
「嫌だよ。巻き込まれたくない!」
ぼそぼそと周囲にいる冒険者達の話し声が聞こえてくる。
遠目で見ているだけじゃなくて、止めてくれればいいんだけど……そのような気遣いはないようだ。
「おい! 聞いているのかよ!」
「えっと、依頼書を見るくらいなら、自由だと思うんですが……」
「危ないだろう!」
「……ん?」
「多くはないが、この時間でも酒が入っているやつもいるにはいるんだぞ! 子供を連れてくるような場所じゃないだろう!!」
あれ? 絡まれているわけじゃないようだ。
そういえば、アレンとエレナが警戒していないんだよな~。じゃあ、彼は本当に僕達のことを心配して声を掛けてきたのか? ただの親切な人?
「えっと……ご心配ありがとうございます。僕も子供達も一応、冒険者ですし、戦闘の心得くらいはありますので大丈夫ですよ」
「冒険者なのか?」
「はい、そうです」
「子供達も?」
「はい」
「戦えるのか?」
「ええ、僕も子供達も問題なく」
「そうか、それならいいんだ」
親切な彼が納得したように笑みを見せるが、強面のせいで笑みが怖い。
「おい、こら、ギゼル! おまえ、何やっているんだよ!」
そこに新たに三人の男性がやって来て、そのうちの一人が親切な彼――ギゼルさんの後頭部を叩いた。
「周りがざわついているぞ! 今度は何をやらかした!」
「い、いや、だってよぉ~。子供連れがいたから、危ないと思ってよぉ~」
「強面のおまえが子供に近づいたら、子供が泣くだろうが! また犯罪者扱いされたいのかっ!」
「今回は泣かせてない!」
「君、うちのメンバーが絡んですまなかった」
「本当にすまんな。こいつ、こんな顔だが子供好きでよ。悪気はないんだ」
「本当に悪い。許してくれると嬉しい」
ギゼルさんの仲間と思われる三人が、ギゼルさんが悪いものだと決めつけて一斉に謝罪してくる。
ギゼルさん……こんなに強面なのに子供好きなのか~。
ここまで見た目と性格や行動が一致しない人は初めてだ。
「いえ、彼は心配して声を掛けてくれただけで、何かされたわけではないので謝罪は結構ですよ」
「いや、だが、子供達が怯えただろう?」
「大丈夫です」
実際、うちの子達はまったく怯えてないのでな。
「えっ!! 本当かっ!? 近寄るだけで子供にギャン泣きされたり、迷子の子に声を掛けたら誘拐犯に間違われたりするギゼルに声を掛けられたのに平気だと!?」
「……」
うわ~、ギゼルさん過去の経験が凄い!!
僕も彼のことは強面だとは思うが、ギャン泣きに誘拐犯? 心が折れる経験過ぎないか!?
「アレン、エレナ、最初に声を掛けて来た人――ギゼルさんが肩車してくれるって。高いところに貼ってある依頼書を見せてもらいな」
「「いいの? わーい!」」
あまりにもギゼルさんが不憫過ぎたので、僕は逆に子供達をギゼルさんに絡みに行くように仕向ける。
「なっ! はぁ!?」
「「かた、のせて~」」
「お、おう……こうか?」
「「そう!」」
驚くギゼルさんだが、子供達の指示に従うように恐る恐る子供達を抱え上げ、肩に乗せるように座らせる。
肩車ではなく、両肩に一人ずつ、二人同時に肩に乗せた。体格が良いギゼルさんだからできる乗せ方だな。
「「おぉ~、たかーい!」」
「大丈夫か? 怖くないか?」
「「だいじょうぶ!」」
アレンとエレナはとても楽しそうである。ギゼルさんは僕よりも頭二つ分くらいは背が高いから、今までなかった視線の高さであろう。
ギゼルさんは落とさないか心配しているようで、ちょっとハラハラした様子だけど……うちの子達なら、落とされたとしてもしっかり着地するだろう。
「……怯えてない、だと!?」
「……それどころか喜んでいるぞ!?」
「……夢か? これは夢だな?」
ギゼルさんの仲間達は、子供達が喜ぶ姿を見て驚愕というか、呆然としていた。
……ギゼルさんはどれだけ子供に泣かれたのだろうか。
「「ねぇねぇ」」
「お、おう、どうした?」
「あっち、あっち!」
「いらいしょ、みよう!」
「お、おう」
アレンとエレナが依頼書の方向を見るように指示すると、ギゼルさんはゆっくりと慎重に動き出す。まるでスローモーションで見ているかのような動きである。
「……あれはヤバイ絵面だな」
「……ああ、あれは犯罪だ」
「……ギゼルのやつ、やっぱり捕まるんじゃないか?」
ギゼルさんの仲間達はまだ呆然としているが、呟いている内容がちょっと酷い。
「「おにぃちゃん、おにぃちゃん」」
「どうしたんだい?」
「このいらい」
「したい!」
アレンとエレナがある依頼書を指差しながら僕を呼んでくる。
「今日は依頼を受ける予定はないから、今度になるぞ」
「「えぇ~、きょうがいい~」」
「今からじゃ無理だよ。それで、何の依頼だ?」
「「これ~」」
今日は依頼を受けるつもりはないが、とりあえず内容だけは確認する。
「え、これ?」
「「うん、それ~」」
子供達が指差していたのは、ワイバーン討伐の依頼書だった。
「ドラゴンのおにく!」
「てにいれよう!」
「あ~……」
……子供達は、以前僕が冗談として言ったドラゴンの肉の入手を虎視眈々と狙っていたようだ。
確かにワイバーンも下位の飛竜に属する魔物だ。まあ、毒竜とも呼ばれる存在でもあるけどな。
「ちょ、ちょっと待て!? ワイバーン討伐に行くって、冗談だよな!?」
「じょうだんじゃないもん!」
「とうばついくもん!」
子供達は心配そうにするギゼルさんを余計に煽る。
「さ、さすがに行っちゃ駄目だぞ! ってか、ワイバーン討伐はAランクの、それもパーティ推奨の依頼なんだからな! そもそもおまえ達じゃ依頼は受けられないぞ!」
「「えぇ~、そうなの~?」」
「そうなんだよ! ――というか、兄貴のおまえが止めろよ。何でオレが必死に止めてんだよ!」
成り行きを見守っていたら、ギゼルさんに怒られてしまった。
「いや~……僕、子供達のこと止めるのが苦手なんですよ」
「そこは頑張って止めろよ! 駄目なものは駄目って教えるのが、おまえの役目だろうが!」
「悪いことならさすがに止めますよ。でも、それ以外で子供達がやりたいって言ったことはやらせてあげる方針なんですよね~」
「いやいやいや!! ワイバーンは駄目だろう!?」
「まあ、さすがにワイバーンはちょっと躊躇しますよね~」
「ちょっとか? ちょっとだけなのか!?」
うん、〝ちょっと〟だな。僕自身もワイバーンを見てみたいと思っちゃったりするのでな。
「「おにぃちゃん、だめー?」」
さて、この場合はどうしたらいいんだろうな~。
「……そもそも、ワイバーンの肉って美味しいのかな?」
「「おいしくないのー?」」
ワイバーンは毒竜と呼ばれる通り、毒を持つドラゴンだが、毒は尻尾にあるためお肉は問題なく食べることはできる。ただ、それは知っていても、さすがに美味しいかどうかまでは知らない。
「とても美味しいですよ」
僕の疑問に答えてくれたのは、いつの間にか近くに来ていたアンディさんだった。
「あ、アンディさん、お久しぶりです」
「「こんにちは~」」
「タクミくん、お久しぶりですね。アレンくんもエレナさんも、こんにちは。お元気そうでなによりです」
受付の人から僕達が来ていると聞いて、わざわざこちらに来てくれたのだろう。
「急に来てしまいましたが、お仕事は大丈夫ですか?」
「タクミくんが来てくださったというのに、仕事なんてしていられませんよ」
「いやいや、そこは仕事を優先してください」
「タクミくんがワイバーンの依頼を片付けてくれるなら、問題ありません!」
「まだ依頼を受けるなんて決めていませんから! そもそもランクが足りませんって!」
「私が許可を出せば、問題ありませんよ!」
「それは、職権濫用です!」
アンディさんはにこやかに、ワイバーンの依頼を僕達に受理させようとしてくる。
「滞っている依頼なので、片づけてくれたら嬉しいのですが……本当に駄目ですか?」
「「いく~」」
「本当ですか? ありがとうございます」
「こらこら、勝手に依頼を受けない! ――アンディさんも子供達の言葉を鵜呑みにしないで!」
「「「えぇ~」」」
子供達とアンディさんが揃って不満そうな声を上げる。
「アンディさん、うちの子と同じような反応をしないでください。子供ですかっ! というか、ギルドマスターとしての威厳がなくなりますよ」
ギルドマスターであるアンディさんの登場からこれまでのやりとりを、子供達を肩に乗せたまま聞いているギゼルさんがかなり狼狽えている。
いや、ギゼルさんだけじゃなく、僕達のやりとりが聞こえる範囲の人が呆然としていた。
「タクミさんの言う通りね!」
「うわっ!? ケ、ケイミー!?」
そんな空気の中、ケイミーさんが、アンディさんの後ろからそっと近づいて来ると、彼の耳を摘み上げた。
「痛っ! 痛いですよ、ケイミー」
「痛くしているもの、当然ね」
「酷いですよ」
「だって、仕事をサボっているんですもの」
「サボっていませんって! ワイバーンの討伐依頼を受けてもらえるように頼んでいました!」
「あら、そうなの?」
「そうなんです!」
アンディさんとケイミーさん夫婦は、相変わらず仲が良さそうである。
挨拶がまだだったので、ぺこりと頭を下げる。
「ケイミーさん、お久しぶりです」
「タクミさん、アレンくん、エレナちゃん、久しぶりね~。元気だったかしら?」
「「うん、げんきだよ」」
引き続き、ギゼルさんの肩の上から挨拶を返す子供達。下りる気はないようだ。
「タクミさんがワイバーンの討伐に行ってくれるの?」
「今のところ行く予定はありませんね」
僕がはっきりとそう答えると、アレンとエレナが不満そうに声を上げる。
「「えぇ~」」
「子供達は行きたいみたいよ?」
「大事な予定が控えていますからね。しばらくは大きな依頼は受けません」
「「むぅ~~~」」
何日かかるかわからないだけでなく、怪我する恐れまである依頼は、今は避けたい。
ヴァルト様の結婚式が終わるまでは、時間があっても近場での依頼しか受けない!
こればっかりは、子供達にどんなにお願いされても駄目だ。
「……粘っても駄目そうね」
「ええ、今回はさすがに」
「残念。でも、その予定とやらが終わったら、よろしくね」
「「わかった!」」
「……」
僕の決意を感じ取ったのか、ケイミーさんは引き下がってくれたけど、子供達から結婚式が終わった後に強請られたら……どうなるかな~?
正直、ワイバーンのお肉が気になるし、依頼を受けそうな気がする? まあ、依頼がその頃まで残っていたらね。
「それにしても、タクミくん達は『赤』のパーティとは知り合いだったんですか?」
「『赤』のパーティですか? ギゼルさん達のことなら、今日初めて会いましたよ」
「おや、そうなのですか? それにしては、子供達がとても懐いているようですね」
「ギゼルさんの人柄が良いからですね」
人見知りをしなくなってきたうちの子達は社交的なので、相手の人柄さえ良ければすぐに仲良くなる。その代わり、腹に一物を抱えている人物にはいっさい懐かないだろう。
「「おじちゃん、いいひと~」」
「アレン、エレナ、名前を呼ぼうか」
「「ギゼルさん?」」
「うん、そうだね」
アレンとエレナがつらっとギゼルさんのことを〝おじちゃん〟呼ばわりする。
ルイビアの街にいた頃に、三十代半ばより年嵩の冒険者達が、こぞって子供達に〝おじちゃん〟と呼ばせていたせいだな。
ギゼルさんは三十代……前半? 半ばかな? 本人の許可なくおじさん呼ばわりは失礼な年頃なので、僕は子供達に注意したが――
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