上 下
194 / 308
13巻

13-2

しおりを挟む
 食器工房を出た後は、手持ちが少なくなっていた小麦粉を買い足しつつ、街をぶらぶらしていた。

「さて、次はどうする?」
「「しんでんはー?」」
「神殿? そうだな~、しばらく王都に滞在することだし、挨拶あいさつしておこうか」
「「うん、あいさつしよう!」」

 アレンとエレナの勧めもあって、僕達は神殿にやって来た。

(シル~)
(巧さん! 来てくれたんですね!)

 声を出さずにシルに呼びかけると、すぐに嬉しそうな声が返ってきた。

(子供達が行こうって言ってくれたからね)
(良い子ですね!)
(そうだろう! 良い子なんだよ!)
(巧さんは立派に兄バカをしていますよね~)
(ははっ、そうかもな。でも、二人とも本当に良い子だぞ)

 アレンとエレナは可愛いし、賢い。それは欲目ではなく、的確に評価していると思う。
 だがまあ、それを抜きにしたとしても、僕は間違いなく兄バカである。

(ふふっ、本当に仲が良いですね~。うらやましいです)
(ん? そういえば、シル達はウィンデル様達とは兄弟になるのか?)

 確か、シル達四神――風神であるシルと水神ウィンデル様、火神サラマンティール様、土神ノームードル様は、創造神マリアノーラ様が創った存在だといわれる神話があったはずだ。

(人から見たらそうですね。マリアノーラ様が親、僕達が子ということになるので、ウィンデル、サラマンティール、ノームードルと僕は兄弟ということになりますね。ただ、誰が長男とか、そういうのはないですけどね)
(なるほどな~)

 いわゆる四つ子っていう感じの認識でいいだろう。

(じゃあ、アレンとエレナはシルのおいっ子めいっ子ってことだな)
(そういえば、そうですね! ……はっ! じゃ、じゃあ、巧さんも僕の甥っ子ってことですね!)
(いや、何でだよ)
(甥っ子と姪っ子の兄は、やっぱり甥っ子ですよね?)
(いや、そこは無理矢理関係づけなくてもいいんじゃないか? 僕はシルの眷属だよ)
(眷属より甥っ子のほうがいいです!)
(……そうか)

 眷属は……部下か? まあ、部下と甥っ子なら、甥っ子のほうが関係性は近いかな?
 でも、僕の身体はシルが創ったんだから、僕がシルの子供だと言えなくはないのか? まあ、そのことの指摘してきはないから、突っ込まないでおこうか。
 とにかく、どちらが良いなんてことはわからないし、シルの好きに思わせておけばいいか~。

(で、羨ましそうにしていたけど、シル達は兄弟仲が悪いのか?)
(いいえ、悪いっていうわけではありませんよ。ただ、事務的なやりとりが多くて、そんなに交流がなかったっていう感じですかね)
(へぇ~、そうなんだ~)
(そうなんです。でも、最近は巧さんのおかげで交流が増えましたね)
(はぁ?)

 僕のお蔭? ……あっ!

(食べものか!)
(そうです。みんなでお茶をしたり、食事をしたりする機会が増えました)
(ははは~。えっと、良かったな……でいいんだよな?)
(はい。時には取り合いになったりしますが、楽しいひと時になっています。巧さん、ありがとうございます)

 親交を深めることになったのなら、良かったかな?
 いや、でも、取り合いってことは喧嘩けんかをしているから駄目だめなような気がするが……それも含めて楽しんでいるのなら良いのか?

(まあ、切っ掛けになったのなら良かったよ。そういえば、次のリクエストはどうする? 今、聞くけど、決まっているか?)
(決まっていると言えば、決まっているのですが……)

 シルには月に一回くらいなら食べたいもののリクエストを聞くと言ってある。
 前にリクエストされたことがあるのは……ルイビアの街にいた頃に肉まんを頼まれた。その後はセルディーク国に行った時にパウンドケーキを送った。だが、これは特にリクエストだったわけではない。
 こちらから聞かないと、いきなり材料が送られてきたりするので、せっかくなら直接聞こうと思ったんだけど、何故かシルは言いよどんでいた。

(何だ? どうした?)
(その……巧さんが作ったところをまだ見ていないんですけど……)
(まだ作ったことがないもの? 何だ? とりあえず、言ってみて。作れそうなら作るし、駄目なら駄目って断るから)
(マリアノーラ様が〝いちごだいふく〟っていうものが食べたいって言っているんですよね。巧さん、わかりますか?)
(……なるほど)

 いちご大福だいふくか。確かにまだ作ったことはないものだな。
 というか、前から思っていたけど、創造神のマリアノーラ様は地球のものに詳しいよな~。
 えっと、材料は……イーチの実に餡子あんこもちだな。あ、大福で使う餅はただの餅じゃなくて、甘みを加えるんだったかな? とはいえ、材料は問題ないな。

(作れなくはないかな)
(本当ですかっ!?)
(うん、形が多少いびつになっても目をつむってくれるならな)
(全然問題ないです! 大丈夫ならお願いしたいです!)
(わかった。手が空いた時に作ってみるよ)
(ありがとうございます! 楽しみにしています!)

 苺大福なら子供達も好きそうだし、時間があったらすぐに作ってみよう。

(じゃあ、そろそろ行くよ)
(はい、これから寒くなりますから、体調には気をつけてくださいね)
(いやいや、びっくりするくらい身体は丈夫だから、僕は風邪かぜとかは引かない気がするよ!)
(あ、そういえば、そうでしたね。でも、甥っ子の体調を気に掛けてみたかったんです)
(そこに戻るんだな。まあでも、気をつけるよ)
(はい! じゃあ、また会いに来てくださいね)
(うん、わかったよ)

 シルとの会話が終わると、それを察してか、椅子に座って待っていた子供達が嬉しそうに駆け寄ってくる。

「「おわったー?」」
「うん、終わったよ。待ちくたびれた?」
「「だいじょうぶだよ!」」
「そうか。でも、待っていてくれてありがとう」
「「うん!」」

 やっぱりうちの子達は良い子である。

「じゃあ、次はどこに行こうか」
「「ギルドいこう!」」
「ギルドって、冒険者ギルドか? そうだな、会えるかどうかわからないけど、アンディさんとケイミーさんに会いに行ってみるか?」
「「うん!」」

 ギルドマスターであるアンディさんとその奥さんのケイミーさんに会うため、僕達は冒険者ギルドに向かうことにした。


 だいたい半年振りかな? 久しぶりに王都の冒険者ギルドに来たので、受付でアンディさんへの面会を申し出た。
 当然、ギルドマスターに会いたいと言ってすんなり会わせてもらえるわけではないけど……僕がAランクだったため、アンディさんに直接確認してもらえることになった。

「おい、おまえ!」

 受付の人が確認しに行ってくれている間、僕達が依頼ボードを眺めて時間を潰していると、知らない男性に声をかけられた。

「ここは優男やさおとこや子供が来るような場所じゃないぞ!」
「……」

 相手はほおに大きな傷のある強面こわもてで体格の良い男性だ。鋭い目つきでにらみつけるようにして怒鳴どなってくる。これは……絡まれているんだろうか?

「おい、あれって『刹那せつな』じゃないか!?」
「ああ、そうだ! よりにもよって『刹那』に絡みに行くなんて、誰だよあいつ!」
「あいつは最近、王都に来た奴だよ。『刹那』が王都を離れていた間にな」
「おい、誰か止めろよ」
「嫌だよ。巻き込まれたくない!」

 ぼそぼそと周囲にいる冒険者達の話し声が聞こえてくる。
 遠目で見ているだけじゃなくて、止めてくれればいいんだけど……そのような気遣いはないようだ。

「おい! 聞いているのかよ!」
「えっと、依頼書を見るくらいなら、自由だと思うんですが……」
「危ないだろう!」
「……ん?」
「多くはないが、この時間でも酒が入っているやつもいるにはいるんだぞ! 子供を連れてくるような場所じゃないだろう!!」

 あれ? 絡まれているわけじゃないようだ。
 そういえば、アレンとエレナが警戒していないんだよな~。じゃあ、彼は本当に僕達のことを心配して声を掛けてきたのか? ただの親切な人?

「えっと……ご心配ありがとうございます。僕も子供達も一応、冒険者ですし、戦闘の心得くらいはありますので大丈夫ですよ」
「冒険者なのか?」
「はい、そうです」
「子供達も?」
「はい」
「戦えるのか?」
「ええ、僕も子供達も問題なく」
「そうか、それならいいんだ」

 親切な彼が納得したように笑みを見せるが、強面のせいで笑みが怖い。

「おい、こら、ギゼル! おまえ、何やっているんだよ!」

 そこに新たに三人の男性がやって来て、そのうちの一人が親切な彼――ギゼルさんの後頭部をたたいた。

「周りがざわついているぞ! 今度は何をやらかした!」
「い、いや、だってよぉ~。子供連れがいたから、危ないと思ってよぉ~」
「強面のおまえが子供に近づいたら、子供が泣くだろうが! また犯罪者扱いされたいのかっ!」
「今回は泣かせてない!」
「君、うちのメンバーが絡んですまなかった」
「本当にすまんな。こいつ、こんな顔だが子供好きでよ。悪気はないんだ」
「本当に悪い。許してくれると嬉しい」

 ギゼルさんの仲間と思われる三人が、ギゼルさんが悪いものだと決めつけて一斉に謝罪してくる。
 ギゼルさん……こんなに強面なのに子供好きなのか~。
 ここまで見た目と性格や行動が一致しない人は初めてだ。

「いえ、彼は心配して声を掛けてくれただけで、何かされたわけではないので謝罪は結構ですよ」
「いや、だが、子供達がおびえただろう?」
「大丈夫です」

 実際、うちの子達はまったく怯えてないのでな。

「えっ!! 本当かっ!? 近寄るだけで子供にギャン泣きされたり、迷子の子に声を掛けたら誘拐犯ゆうかいはんに間違われたりするギゼルに声を掛けられたのに平気だと!?」
「……」

 うわ~、ギゼルさん過去の経験が凄い!!
 僕も彼のことは強面だとは思うが、ギャン泣きに誘拐犯? 心が折れる経験過ぎないか!?

「アレン、エレナ、最初に声を掛けて来た人――ギゼルさんが肩車してくれるって。高いところにってある依頼書を見せてもらいな」
「「いいの? わーい!」」

 あまりにもギゼルさんが不憫ふびん過ぎたので、僕は逆に子供達をギゼルさんに絡みに行くように仕向ける。

「なっ! はぁ!?」
「「かた、のせて~」」
「お、おう……こうか?」
「「そう!」」

 驚くギゼルさんだが、子供達の指示に従うように恐る恐る子供達を抱え上げ、肩に乗せるように座らせる。
 肩車ではなく、両肩に一人ずつ、二人同時に肩に乗せた。体格が良いギゼルさんだからできる乗せ方だな。

「「おぉ~、たかーい!」」
「大丈夫か? 怖くないか?」
「「だいじょうぶ!」」

 アレンとエレナはとても楽しそうである。ギゼルさんは僕よりも頭二つ分くらいは背が高いから、今までなかった視線の高さであろう。
 ギゼルさんは落とさないか心配しているようで、ちょっとハラハラした様子だけど……うちの子達なら、落とされたとしてもしっかり着地するだろう。


「……怯えてない、だと!?」
「……それどころか喜んでいるぞ!?」
「……夢か? これは夢だな?」

 ギゼルさんの仲間達は、子供達が喜ぶ姿を見て驚愕きょうがくというか、呆然ぼうぜんとしていた。
 ……ギゼルさんはどれだけ子供に泣かれたのだろうか。

「「ねぇねぇ」」
「お、おう、どうした?」
「あっち、あっち!」
「いらいしょ、みよう!」
「お、おう」

 アレンとエレナが依頼書の方向を見るように指示すると、ギゼルさんはゆっくりと慎重に動き出す。まるでスローモーションで見ているかのような動きである。

「……あれはヤバイ絵面だな」
「……ああ、あれは犯罪だ」
「……ギゼルのやつ、やっぱり捕まるんじゃないか?」

 ギゼルさんの仲間達はまだ呆然としているが、つぶやいている内容がちょっと酷い。

「「おにぃちゃん、おにぃちゃん」」
「どうしたんだい?」
「このいらい」
「したい!」

 アレンとエレナがある依頼書を指差しながら僕を呼んでくる。

「今日は依頼を受ける予定はないから、今度になるぞ」
「「えぇ~、きょうがいい~」」
「今からじゃ無理だよ。それで、何の依頼だ?」
「「これ~」」

 今日は依頼を受けるつもりはないが、とりあえず内容だけは確認する。

「え、これ?」
「「うん、それ~」」

 子供達が指差していたのは、ワイバーン討伐とうばつの依頼書だった。

「ドラゴンのおにく!」
「てにいれよう!」
「あ~……」

 ……子供達は、以前僕が冗談として言ったドラゴンの肉の入手を虎視眈々こしたんたんと狙っていたようだ。
 確かにワイバーンも下位の飛竜に属する魔物だ。まあ、毒竜とも呼ばれる存在でもあるけどな。

「ちょ、ちょっと待て!? ワイバーン討伐に行くって、冗談だよな!?」
「じょうだんじゃないもん!」
「とうばついくもん!」

 子供達は心配そうにするギゼルさんを余計にあおる。

「さ、さすがに行っちゃ駄目だぞ! ってか、ワイバーン討伐はAランクの、それもパーティ推奨すいしょうの依頼なんだからな! そもそもおまえ達じゃ依頼は受けられないぞ!」
「「えぇ~、そうなの~?」」
「そうなんだよ! ――というか、兄貴のおまえが止めろよ。何でオレが必死に止めてんだよ!」

 成り行きを見守っていたら、ギゼルさんに怒られてしまった。

「いや~……僕、子供達のこと止めるのが苦手なんですよ」
「そこは頑張って止めろよ! 駄目なものは駄目って教えるのが、おまえの役目だろうが!」
「悪いことならさすがに止めますよ。でも、それ以外で子供達がやりたいって言ったことはやらせてあげる方針なんですよね~」
「いやいやいや!! ワイバーンは駄目だろう!?」
「まあ、さすがにワイバーンはちょっと躊躇ちゅうちょしますよね~」
「ちょっとか? ちょっとだけなのか!?」

 うん、〝ちょっと〟だな。僕自身もワイバーンを見てみたいと思っちゃったりするのでな。

「「おにぃちゃん、だめー?」」

 さて、この場合はどうしたらいいんだろうな~。

「……そもそも、ワイバーンの肉って美味しいのかな?」
「「おいしくないのー?」」

 ワイバーンは毒竜と呼ばれる通り、毒を持つドラゴンだが、毒は尻尾しっぽにあるためお肉は問題なく食べることはできる。ただ、それは知っていても、さすがに美味しいかどうかまでは知らない。

「とても美味しいですよ」

 僕の疑問に答えてくれたのは、いつの間にか近くに来ていたアンディさんだった。

「あ、アンディさん、お久しぶりです」
「「こんにちは~」」
「タクミくん、お久しぶりですね。アレンくんもエレナさんも、こんにちは。お元気そうでなによりです」

 受付の人から僕達が来ていると聞いて、わざわざこちらに来てくれたのだろう。

「急に来てしまいましたが、お仕事は大丈夫ですか?」
「タクミくんが来てくださったというのに、仕事なんてしていられませんよ」
「いやいや、そこは仕事を優先してください」
「タクミくんがワイバーンの依頼を片付けてくれるなら、問題ありません!」
「まだ依頼を受けるなんて決めていませんから! そもそもランクが足りませんって!」
「私が許可を出せば、問題ありませんよ!」
「それは、職権しょっけん濫用らんようです!」

 アンディさんはにこやかに、ワイバーンの依頼を僕達に受理させようとしてくる。

とどこおっている依頼なので、片づけてくれたら嬉しいのですが……本当に駄目ですか?」
「「いく~」」
「本当ですか? ありがとうございます」
「こらこら、勝手に依頼を受けない! ――アンディさんも子供達の言葉を鵜呑うのみにしないで!」
「「「えぇ~」」」

 子供達とアンディさんが揃って不満そうな声を上げる。

「アンディさん、うちの子と同じような反応をしないでください。子供ですかっ! というか、ギルドマスターとしての威厳いげんがなくなりますよ」

 ギルドマスターであるアンディさんの登場からこれまでのやりとりを、子供達を肩に乗せたまま聞いているギゼルさんがかなり狼狽うろたえている。
 いや、ギゼルさんだけじゃなく、僕達のやりとりが聞こえる範囲の人が呆然としていた。

「タクミさんの言う通りね!」
「うわっ!? ケ、ケイミー!?」

 そんな空気の中、ケイミーさんが、アンディさんの後ろからそっと近づいて来ると、彼の耳を摘み上げた。

「痛っ! 痛いですよ、ケイミー」
「痛くしているもの、当然ね」
「酷いですよ」
「だって、仕事をサボっているんですもの」
「サボっていませんって! ワイバーンの討伐依頼を受けてもらえるように頼んでいました!」
「あら、そうなの?」
「そうなんです!」

 アンディさんとケイミーさん夫婦は、相変わらず仲が良さそうである。
 挨拶がまだだったので、ぺこりと頭を下げる。

「ケイミーさん、お久しぶりです」
「タクミさん、アレンくん、エレナちゃん、久しぶりね~。元気だったかしら?」
「「うん、げんきだよ」」

 引き続き、ギゼルさんの肩の上から挨拶を返す子供達。下りる気はないようだ。

「タクミさんがワイバーンの討伐に行ってくれるの?」
「今のところ行く予定はありませんね」

 僕がはっきりとそう答えると、アレンとエレナが不満そうに声を上げる。

「「えぇ~」」
「子供達は行きたいみたいよ?」
「大事な予定がひかえていますからね。しばらくは大きな依頼は受けません」
「「むぅ~~~」」

 何日かかるかわからないだけでなく、怪我する恐れまである依頼は、今は避けたい。
 ヴァルト様の結婚式が終わるまでは、時間があっても近場での依頼しか受けない!
 こればっかりは、子供達にどんなにお願いされても駄目だ。

「……ねばっても駄目そうね」
「ええ、今回はさすがに」
「残念。でも、その予定とやらが終わったら、よろしくね」
「「わかった!」」
「……」

 僕の決意を感じ取ったのか、ケイミーさんは引き下がってくれたけど、子供達から結婚式が終わった後に強請ねだられたら……どうなるかな~?
 正直、ワイバーンのお肉が気になるし、依頼を受けそうな気がする? まあ、依頼がその頃まで残っていたらね。

「それにしても、タクミくん達は『あか』のパーティとは知り合いだったんですか?」
「『赤』のパーティですか? ギゼルさん達のことなら、今日初めて会いましたよ」
「おや、そうなのですか? それにしては、子供達がとても懐いているようですね」
「ギゼルさんの人柄が良いからですね」

 人見知りをしなくなってきたうちの子達は社交的なので、相手の人柄さえ良ければすぐに仲良くなる。その代わり、腹に一物いちもつを抱えている人物にはいっさい懐かないだろう。

「「おじちゃん、いいひと~」」
「アレン、エレナ、名前を呼ぼうか」
「「ギゼルさん?」」
「うん、そうだね」

 アレンとエレナがつらっとギゼルさんのことを〝おじちゃん〟呼ばわりする。
 ルイビアの街にいた頃に、三十代半ばより年嵩としかさの冒険者達が、こぞって子供達に〝おじちゃん〟と呼ばせていたせいだな。
 ギゼルさんは三十代……前半? 半ばかな? 本人の許可なくおじさん呼ばわりは失礼な年頃なので、僕は子供達に注意したが――


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。