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閑話 マリアノーラの観察録2

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 わたくしの孫――ウィンデルの子供達はシルフィリールの采配でタクミさんに預けられた。
 それからというものの、子供達は見違えるように元気になっていった。やせ細っていた身体がだいぶよくなり、あまり反応がなかった表情も徐々に子供らしいものになってきていた。
 シルフィリールの采配が良い方向に動いたってことね。
 そしてなにより――

「楽しそうですね」
「あら、あなたの目から見てもそう思う?」

 ルーチェの言うとおり、子供達がとても楽しそうなの。

「はい。タクミ殿は本当に子供達を可愛がっている感じがします」
「本当よね~」

 タクミさんはこちらの都合で勝手に押しつけられたにもかかわらず、子供達をとても大切に扱ってくれているの。本当の弟妹や子供のようにね。
 普通なら少しくらいおざなりになったりするものなのに、そんな様子は一切見受けられないのよ。
 全力で可愛がってくれている感じすら見受けられるの。
 力が暴走する可能性は変わっていないのだけど、自分の孫が辛い目にあっているよりは楽しく過ごしているほうがいいに決まっているわ。
 本当に良い方に恵まれたわ~。これなら安心ねぇ。


◇ ◇ ◇


 あら、とうとうエーテルディアにも菓子パンができたのね!
 ああ、クリームパンもあるわ!
 タクミさんが料理をできる人で本当に嬉しいわ!
 まあ! あんパンもできたのね!
 どうしましょう~。餡子ということは、和菓子に辿り着く可能性が出てきたわねぇ~。お饅頭にどら焼き、羊羹……。この辺りは見込めそうかしら?
 楽しみだわ~。タクミさん、頑張ってちょうだい!
 まあまあ! 今度はゼリーね。わたくしの世界にもついにスイーツといえるものが誕生したのね。
 スイーツよ、スイーツ! 何て素敵な響きなのかしらぁ~。
 どうしてわたくしの世界には、ぼそぼそとしたクッキーしかないのかしらねぇ。それで満足しちゃわないで、もっと探求心が欲しいわ~。
 それに比べてタクミさんは本当に凄いわ~。材料にスライムを使うだなんて~。とっても発想力が豊かなんですもの~。素晴らしいわ~。
 さあさあ! 温存していないで早くそれをわたくしの世界へ広めてくださいな。世界に定着しなければ、わたくしが食べられません!

「ああ~……」
「マリアノーラ様、どうなさいました!?」
「わたくしのゼリーが……」

 フルーツゼリーにミルクゼリー、紅茶ゼリー……大量に作られたゼリーが……。それらをタクミさんは《無限収納》にしまってしまいました。
 今現在、タクミさんが広めたクリームパンが切っ掛けで、面倒事に巻き込まれている最中。そんな中、新しく作ったゼリーを不用意に披露することはしなさそうね……。
 タクミさんの考えは理解できるのだけどぉ~~~。せっかく! せっかくわたくしの世界で誕生したスイーツが食べられないなんて……。そんなのってないわぁ~~~。
 そうねぇ~。こうなったら、こちらでも作るしかないわね!

「ねぇ、ルーチェ。タクミさんが作っていたゼリー、あれと同じものを創ってくれないかしらぁ?」
「えっ?」
「だってぇ~、世界に定着するまでなんて待てないわ~」
「いえ……ですが、創ることに関してはマリアノーラ様の領分ですので……」

 あら、そういえばそうだったわねぇ~。わたくしが創造神ですものね。

「じゃあ、久しぶりに頑張っちゃいましょうかねぇ」
「えっ! えぇ?! ま、まさか、お創りになるのですかっ!?」
「あら、ルーチェが自分で創れって言ったんじゃなの~」
「お、お待ちくださいぃぃぃー!!」
「なーに? ルーチェったら、そんな大声を出してどうしたのよ?」
「マリアノーラ様が下手にお力を使いますと、余剰分の力で火山が噴火し、津波が起き、地が割れ、竜巻が起きてしまいますぅ~。どうか! どうか、お待ちくださいぃ~~~」

 あらあら、ルーチェに泣きながら止められてしまったわ~。
 わたくしの力って、大陸を創ったり、海を広げたりと、大きなものを創るのに適しているのよねぇ。だから、小さなものを創ろうとすると、余った力がどうしても零れちゃうのよ~。
 それがちょこ~っと、地上に影響を及ぼしちゃうのよ~。でも、わたくしがちゃんと気を遣えば、ほんのちょっとの影響で済むはずなのだから、大丈夫だと思うんだけどねぇ~。
 ルーチェがそんなにお願いするなら、もう少しだけ我慢しましょうか……。


◇ ◇ ◇


 あら? あらあら? どうやら、子供達が魔法を覚えたようね。
 魔力をコントロールできるようになったのなら、これで力を暴走させる確率は大幅に減ったわね。
 うんうん、良かったわ~。とりあえず、大洪水で大陸が沈む心配はなくなったかしらぁ~? あ~、でもでも~。干ばつになる可能性はまだ残っているかしらぁ?
 ん~、今は安定しているから、大丈夫だと思うのだけどぉ~。 まあ、油断はできないけれど、そこまで警戒する必要がなくなったってところね~。
 それにしても……ふふふっ~。子供達、とっても楽しそうね~。それにすっかり本当の兄弟妹みたいだわ~。微笑ましいわ~。
 あっ、そうだわ!

「ねぇ、ルーチェ。今の眷属に子育てとか教育とか、担当している者はいたかしら~?」
「いいえ、いませんね。そのあたりの事柄は私達には縁遠いものですからね。なかなか適正のある者は現れません」
「タクミさんはどうかしら? とっても相性が良さそうでない?」
「タクミ殿、ですか……? 確かに相性は良さそうですが、彼はシルフィリール様の眷属ですよ?」
「あら。でも、わたくしが加護を与えている人物でもあるわよ~」

 とっても良い案だと思うのよねぇ~。うん、思い立ったら何とやらって言うものね。早速、タクミさんに任せちゃいましょうっと……。
 ――うん、これでよし!

「マ、マリアノーラ様!?」
「ふふふっ~『育成』と『教育』を任せちゃった。テヘ☆」
「シ、シルフィリール様にお知らせしないと~~~」

 ルーチェが慌ててシルフィリールのもとへと向かった。
 シルフィリールとタクミさんはどんな反応をするかしら~? ちょっと楽しみね~。


◇ ◇ ◇


「マリアノーラ様」
「あら、サラマンティールじゃないの? 今日はどうしたの?」

 わたくしの子の一人である、火神サラマンティールが訪ねてきた。

「マリアノーラ様は異世界から転生させたシルの眷属のことは知ってますよね?」

 何かと思えば、要件はタクミさんのことなのね?

「もちろんよ~。彼がどうかしたの?」
「あいつ、料理に関しての貢献が凄いから、今度褒美をやろうと思っているんだ」
「そうね~。タクミさん、いろいろな料理を広めてくれているものねぇ~。いいんじゃないかしら~?」
「マリアノーラ様、詳しいんですね」
「だって、わたくしが期待している方ですもの~」

 ジャムパンや干し果実や木の実のパンの定着はわりと早かったですし、最近やっとクリームパンが定着したところなのよねぇ~。
 限定商品だとやっぱり世界に広がるのは遅くなるのは仕方がないわねぇ~。それでも着実に広がっているから文句はないのだけど~。
 あんパンはもう少しってところね。
 ゼリーは日の目を見ていないから、残念ながらまだまだね。フレンチトーストなんかも広まってくれると嬉しいのだけど~。まあ、これからよね。
 タクミさんは他にも料理でいろいろとやってくれているみたいだから、サラマンティールがご褒美をあげたいっていうのは賛成だわ~。

「へぇ~、そうなんだ~。それでシルのやつがさー、今度その眷属から連絡来た時に話すから、それまで待てって言うんだよ」
「ふふっ、シルフィリールの言いたいこともわかるわねぇ~。突然贈り物をしたらタクミさんがびっくりするもの~」
「それはオレも理解したんだけど、連絡がついたらすぐに送りたいんだ。だから連絡が来たらすぐに知らせてもらえるように、マリアノーラ様から一言、言ってもらえないかなぁ~って」

 ふふふっ。サラマンティールが頼み事をしてくるのも珍しいけど、その内容がまた可愛らしいわね~。

「ダメかな?」
「そのくらいなら構わないわ~。サラマンティールの頼みですもの~。あとでシルフィリールの眷属にお願いしておくわ」
「ありがとう、マリアノーラ様」

 タクミさんにとって領分は関係ないから、どんどん活躍してくれるわね~。本当に頼もしい存在だわ~。
 わたくしもご褒美を用意しておいたほうがいいかしら? ちょっと考えておきましょうかね。



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