異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉

文字の大きさ
表紙へ
51 / 326
4巻

4-3

しおりを挟む
 ベクトルが足元から離れると、ヴァルト様は、あしの馬を引いた男性――ていかな? ――を呼び寄せてづなを受け取った。

「練習にはこの馬を使う」
ひんですね? ヴァルト様、この子の名前は?」
「カテリーナと言うらしい。このやしきで一番大人しい馬だそうだ」

 僕はカテリーナの目をじっと見つめた。すると、カテリーナは軽く頭を下げる。
 何だか〝撫でろ〟と言われている気がしたので、僕はカテリーナに近づき、そっとひたい部分を撫でてみた。カテリーナは気持ち良さそうにそのままの姿勢でいたので、どうやら僕の直感は合っていたらしい。

《むぅ~。ずるい~。ボクも撫でてもらいた~い》
《いいな~》

 カテリーナを撫で続けていると、ジュールとフィートから羨ましそうな声で【念話】が届いた。

《後でいっぱい撫でてあげるから、今は我慢してな》
《本当っ!? 約束だよ!》
《わーい。兄様、絶対ね!》

 訓練に割って入られては困るので、みんなに〝後で〟と伝えると、嬉しそうな声が返ってくる。
 こんなに喜ばれるとは思わなかった。これは気合いを入れて撫でてやらないとな~。

「大人しい馬だと言ったが、こうもあっさりと気を許すとは……。これなら乗りこなすのもすぐかもな」
「本当ですか? それならいいんですけどね」

 僕はヴァルト様から差し出されたづなを受け取って、カテリーナの横に回る。

「ふふっ。気持ち良かったかい?」

 カテリーナは本当に人懐っこい馬で、横に並んだ僕にもっと撫でろとばかりに首筋を押しつけてきた。

「おし! じゃあ、タクミ、まずは乗ってみろ」
「……」

 いや、乗ってみろって言われても……その乗り方を知らないんだけどね……。

「隊長……普通はここで乗り方を説明するものですよ」

 ジュール達を観察していたアイザックさんは、僕達のやりとりを聞いていたらしく、呆れたようにヴァルト様を見ながら突っ込んでくれた。
 だよね。〝さあ、乗ってみろ〟で説明が終わりなはずがないよね。

「おお、そうだな。まあ、あれだ。あぶみに片足を掛けてぐわっと乗る感じだ!」
「「……」」

 僕とアイザックさんが黙って待つも、ヴァルト様から続きの言葉は出てこない。
 ええ? 以上? 今ので説明は終わり? それで乗れって無理じゃないか? 僕の理解力が足りないってわけじゃないよね?
 確認のつもりでアイザックさんに視線を向けると、アイザックさんは眉間にしわを寄せてひたいに手を当て、がっくりとうなれていた。やっぱり、ヴァルト様の説明は全然駄目っぽいね。
 うん、これはヴァルト様に教わるということ自体、失敗だったのかもしれないな。

「タクミさん、ここからは私が指導します」
「アイザックさん、お願いします」

 気を取り直したアイザックさんがそう申し出てくれたので、僕はありがたくお願いする。

「何っ!? 何でだ!?」
「みんなー、ヴァルト様が遊んでくれるって言うから、思いっきり相手してもらいなー」
「「はーい」」
『きゃん』
『んなぁ』
『ピィ』
『がるん♪』

 異議を唱えるヴァルト様を無視し、僕は少し離れた位置にいた子供達にそう言うと、みんな一斉にヴァルト様に突撃していった。

「うわっ! ちょ、ちょっと待てー!」

 僕の乗馬の練習を見ているだけじゃ子供達は暇だろうからね。

「これで子供達も時間を持て余さずに済みますね。ここで練習すると子供達の遊びの邪魔になりますから、少し移動しましょうか」
「そうですね」

 アイザックさんも〝良い判断です〟とばかりに頷いてくれたので、僕はカテリーナを促して少しだけ場所を変えた。
 それからはアイザックさんに指導してもらったんだが、とてもわかりやすかった。
 馬に乗る時はくらのここをつかめばいいとか、づなを引っ張らないように注意するとか、的確に指導してくれるのだ。おかげで僕は無事に【騎乗】スキルを習得できた。
 自分の前に子供を乗せて走らせてみることもしたが、一人なら問題なく相乗り成功。
 その様子を見たアイザックさんからは、もう何度か練習すれば、王都まで移動するくらいなら問題ないとお墨付きをいただいたので一安心だ。
 ということで、王都までは馬車ではなく馬に乗って移動することに決定したのだが、やはりアレンとエレナの二人を僕の馬に乗せるのは無理がある。何か対策を考えないといけないのだが……アイザックさんとなら一緒に乗ってくれるかな~?
 まあ、そのへんはおいおい考えることにして、乗馬の練習は午前中だけでひとまず終わった。
 長時間の練習で一度に詰め込むより、十数分ずつでも毎日やったほうがいいとアイザックさんに言われたのでね。
 そういえば、乗馬をするとうちまたやお尻がれて痛くなる、というのを耳にしたことがあるが、それは問題なかった。……もしかして【物理攻撃耐性】のおかげだったりするのかな? 攻撃というほどではないが、れるって現象は物理的なものに間違いないしね。
 まあ何にせよ、身体的に異常がないのは助かった。


 午後からは街に出て、まずは注文していた家具を受け取りに行った。
 調理台にも食事にも使えるようなテーブルと椅子、アレンとエレナが作業するときに使う踏み台、ベッドなどなど。思いつく限りの必要そうな家具を注文しておいたのだが、その全てがちゃんと仕上がっていた。どれもが満足のいく良い出来だったので代金を支払って、品物を受け取る。
 その後はフィジー商会に向かうことにした。

「これはこれは、タクミ様。ようこそいらっしゃいました」

 店に入ると、すぐさま支店長さんが奥から飛び出してきた。
 僕が店の扉を開けた直後、店員の一人が慌てて奥に駆けていったのが見えたので、あれはきっと支店長さんを呼びに行ったのだろう。

「こんにちは。支店長さんがわざわざご対応くださるなんて、ありがとうございます」
「いえいえ、タクミ様は当店にとって大事なお方です。私がお相手させていただくのは当然でございます。それで、本日はどのようなご用件ですか? もしかして、例のスパイスの件で何か不都合でもありましたでしょうか?」
「いいえ、スパイスに関してはセドリックさんにお任せしているので、僕のほうから特には……」

 自分が食べたいばかりに僕が調合したカレースパイスは、フィジー商会によって量産され、この世界で流通することになった。本当は商談や諸々の手続きを僕がしなければならないのだけど、セドリックさんが一手に引き受けてくれているのだ。
 そんなわけで、スパイスについて僕から言うことは何もない。
 今日は、別のお願いをしに来た。

「実は、また倉庫の品を見せてもらうことはできないかと思いまして。急にすみません」

 カヒィ豆のように、セルディークや他の国から輸入されたものがあれば、できるだけ手に入れたい。王都に同じ品があるとも限らないし、いつまたベイリーに来られるかもわからないからな。
 前にこの商会に来た時は他の用事がメインで、倉庫の一部しか見られなかったのだ。

「おお! もちろん構いませんよ」

 良かった。前はセドリックさんと一緒だったから、僕達だけだと駄目って言われる可能性もあるかなと思ったけど、案内してもらえるみたいだ。

「もしかしてタクミ様は、カヒィ豆のように輸入した品にご興味があるのではないですか?」
「ええ、その通りです。そういう品があれば見せていただけませんか?」
「わかりました。あとはそうですね……迷宮品の中でも、数が少なくあまり出回っていないものですかね?」

 支店長さんは、僕が欲しているものをしっかりと理解しているようだ。
 だけど、それにプラスして見せてもらいたいものがある。

「ええ、お願いします。それと、言葉は悪いですが……今のところ需要があまりないものも見せていただきたいです」
「需要がないもの、ですか?」

 支店長さんは不思議そうな表情をした。
 そんなものを見てどうするんだ、と言わんばかりだ。だけどさ――

「はい、少し前までのショーユみたいなものです」

 今はショーユを買い求める人が増えたようだが、以前はほとんど知られていない商品だった。
 つまり、この世界では人気がなくても、僕が欲しいと思う品があるかもしれないのだ。

「おお! そういえば、ショーユの使い道を示してくださったのはタクミ様でしたね! なるほど、なるほど。かしこまりました。私、カシムが責任をもってご紹介いたしましょう!」

 支店長さん――カシムさんは、ホタテのバターじょう焼きから発生したショーユブームの発信源が、僕だということを突き止めていたのか。
 しかもこれは、人気のない品の活用法が見つかるのではないかと期待している表情だな。

「まずはこちらです」

 早速、カシムさんは倉庫に案内してくれた。
 最初に見せてもらったのは、セルディークから運ばれてきた『ナナの実』という果実だ。ゆるやかに曲がった細長い実が数本、ふさになっている。
 ナナの実は黄色い未熟のうちに収穫し、皮が赤くなった頃を目安として、中の白い部分を食べるらしい。
 ここに置いてあるもののほとんどが、その中間のオレンジ色ばかりだが、カシムさんは赤く完熟したものを一本いて、僕達三人に試食させてくれた。

「これは……」
「「おいしー」」

 皮の色は違うが、形も味も、匂いまでもが僕の知っているバナナに間違いなかった。
 それも青臭さなんて全くなく、かなり糖度が高くて美味しい。

「甘く、食べやすいのでそこそこ人気があるのですが、なかなか取り扱いの難しい品なんですよね。気をつけていても、熟成期間を見誤ってしまうことがしばしばあって……」

 カシムさんの説明を聞く限り、特徴も僕の知っているバナナと似ている。
 アレンとエレナもナナの実を気に入ったっぽいし、これはぜひ購入しておきたい。

「カシムさん、ここに置いてあるナナの実はまだ完熟していませんが、さっきいただいたような熟している実はまだありますか?」
「え、ええ……熟したものは別の保管場所に置いてありますので、いくつかはございますよ?」

 なるほど、別の場所にあるんだ。それじゃあ――

「もしよかったら、その熟している実をあるだけ売ってもらえませんか?」

 すると、カシムさんは少し困ったような表情で言う。

「タクミ様、ここにある成熟途中のものでも五日から七日ほどで傷んでしまいます。完熟しているものは二、三日もちません。お買い求めいただけるのは大変喜ばしいのですが、あまり大量に購入なさるのはおすすめでき……――っ!!」

 カシムさんは、突然ハッとした表情で言葉を切り、僕の顔を凝視してきた。

「――《無限収納インベントリ》!」

 カシムさんは、僕が《無限収納インベントリ》を使えることを知っている。だから、完熟しているナナの実を購入しても、《無限収納インベントリ》に入れれば時間が止まり、腐る心配がないことに気がついたのだ。

「はい。ですので、どちらかといえば完熟しているもののほうがいいんです」
「あるだけ、と仰いましたよね?」

 カシムさんが期待するようにこちらを見る。

「腐っているものは困りますけどね」
「もちろん、タクミ様にそのようなものをお渡しするつもりはありません。ですが……今まさに食べ頃、というものも購入していただけると?」
「はい」
「あ、ありがとうございます! もちろん、お安くさせていただきます!」

 お、それは嬉しいな。
 まあ、売れなかったら、自分達で食べるか、廃棄するしかないもんな。少しでも売上になるのなら、値引きくらいどうってことはないのかもしれない。
 完熟したナナの実をすべて購入し、カシムさんに次の品を見せてもらう。

「次はこの木の実です。こちらは――」

 紹介されたのは、サッカーボールほどの大きさの、茶色くて固い『ココの実』という木の実だ。実の中には、ミルクのような白い液体が入っているらしい。
 だから僕は、これは前の世界で言うヤシの実で、中身はココナッツミルクだろうと判断した。
 でも、僕の記憶ではヤシの実に入っている液体は透明なココナッツジュースで、ココナッツミルクは実の一部を加工したものだったと思うが……まあ、いいか。
 ココの実はこういうものだと納得し、子供達が好きそうな食材なので購入することにした。
 他にも輸入品や迷宮産の品をいくつか手に入れ、なかなかの収穫。大満足だ。

「そういえば、タクミ様は商人ギルドに登録されていますか?」
「いいえ、していません」
「そうですか。それでは近いうちに登録をお願いできますか? カレースパイスの販売開始まではもう少し時間がかかりますが、開始されればタクミ様に支払う代金が出ます。そのお金は商人ギルドを通してお渡しすることになりますので」

 そういえば、セドリックさんにも商人ギルドで登録しておいてくださいと言われたな。
 登録しておけば、商人ギルドを通してどの国にいてもお金を受け取れるとか。あれだ、冒険者ギルドにもあった銀行みたいなやつだ。
 まあ、僕の場合は冒険者の登録に商人が追加登録される形になるので、口座は一つを共有するらしいけどね。

「わかりました。この後にでも登録しておきます」
「お願いいたします」

 登録だけならすぐに終わるだろうから、やしきに帰る前に済ませちゃおうか~。


 商人ギルドで無事に登録を終わらせてリスナーていに戻ると、僕達は厨房に向かった。
 昨日、迷宮土産みやげとしてワニ肉を提供したんだけど……調理もお願いしたいと、料理長のリヤンさんに頼まれたからだ。
 リヤンさんはワニ肉を扱ったことがないのでお手本を……と言っていたけど、僕も迷宮で二度調理しただけだから、経験値としては大して変わらない。
 あの時のリヤンさんの様子からすると、ワニ肉を扱う経験云々よりも、僕がどんな調理をするのか興味津々って感じだった。何せ、彼は僕に弟子入りを志願したほどだしね。
 まあ、食材だけを押しつけて〝後はよろしく〟というのも悪い気はする。だから、作るのはリスナー一家の分とヴァルト様と僕達の分だけ、という条件で了承した。リヤンさんや使用人達の分まで作るとなると、かなりの量になるからな。
 既に何回か使わせてもらったことのある厨房で、僕は早速調理を開始することにした。

「アレン、エレナ。じゃあ、作ろうか」
「「つくるー」」

 作業台の前に立つ僕の左側にはアレンとエレナがいて、今日、受け取ってきたばかりの新しい踏み台に乗って手伝う気満々で張り切っている。

「ではタクミ様、よろしくお願いします」
「……あ、はい」
「「……」」

 ただ、子供達の背後から、僕達の作業をのぞき見しようとするリヤンさんと、もう一人の料理人のトールさんがいるので、それがちょっと気になっているようだ。
 アレンとエレナは無言で振り返って、リヤンさん達をじっと見つめている。
 まあ、普通の人でも背後に人がいれば気になるのだから、気配に敏感なアレンとエレナならなおさらだろう。
 しかし、気にしていたのは最初だけだった。子供達も後ろにいる二人は害がない人物、と理解しているので、お手伝いに集中することにしたらしい。

「さいしょはー?」
「なーに?」
「そうだな~」

 さてと、何を作ろうかな?
 ん~、ワニ肉を使ったカレーなんてどうだろう? ヴァルト様とアイザックさんは、まだカレーを食べていないし。あ~、でも、それじゃあワニ肉がメインって感じじゃなくなるか……。
 そうだなぁ~……あっ! ワニ肉に粉をまぶして焼いて、それに甘酢ダレを絡めて。あとはマヨネーズに刻んだゆで卵とピクルスを混ぜたタルタルソースを作れば、チキンなんばんっぽくなるかな。

「よし。まずはタルタルソースを作ろう」
「「たるたるー?」」
「タ、タクミ様、ど、どんな料理を作るのですかー!?」

 子供達より、リヤンさん達のほうが落ち着きがないな……。

「ソースですよ。アレン、エレナ、マヨネーズを作るよー」
「アレン、まぜるー」
「エレナもまぜるー」

 最近、泡立て器で混ぜるものに関しては手慣れてきている二人に、マヨネーズ作りを手伝ってもらう。器に卵黄と調味料を少し入れ、まずはそれを混ぜて欲しいとお願いした。
 その間に、僕は別の食材の準備だ。

「タクミ様、それはミズウリですか?」
「ええ、ミズウリを酢漬けにしたものです」

「ミズウリ」とは、きゅうりに似た野菜。僕が取り出したのは、それをしおみして水分を出してから、酢や砂糖を合わせた汁に漬け込んでおいたものだ。

「「ま~ぜ~、ま~ぜ~」」

 アレンとエレナが混ぜているボウルに油を少しずつ入れた後、具材を刻んでいく。
 ゆで卵にミズウリのピクルス、あとは……タシねぎにパセリでいいかな?

「おにーちゃん」
「できたー」
「うん、上出来!」
「「やったー」」

 アレンとエレナは分離させることなく、マヨネーズを完成させた。
 二人の力作のマヨネーズに刻んだ具材を入れてよく混ぜ合わせ、塩コショウで味を整えればタルタルソースのでき上がり!

「おっし、完成!」
「「おぉー」」
「なるほど、マヨネーズに具材を加えて……」

 アレンとエレナの後ろでリヤンさんがぶつぶつ呟いていたが、僕はそれを放置してタルタルソースを一旦《無限収納インベントリ》にしまう。
 次はせっかくだからデザートでも作ろうかな。……何にしよう。どうせなら、まだ作ったことがないものがいいよな~。
 アイスクリーム! あ~、でも、アイスは今作ると騒ぎになりそうだな。……めておこう。
 そうだ! 小さなパンケーキを焼いて、それにあんを挟んでどら焼きを作ろうと思っていたんだったな。つぶあんならリスナーていの人達にも広まっているし、そこまで驚かれないだろう。
 和菓子だったら、ようかんもいいな。そっちのほうがデザートっぽいか?
 でも、ようかんには寒天が必要か……。寒天を作るのは、さすがに無理だ。やはりここはスライムゼリーをゼラチン代わりにして固めるのがいいだろう。そうすると、ようかんというよりみずようかん……いや、厳密にいえば赤豆ゼリーになるのかな?
 時間にはまだ余裕があるし、デザート用の赤豆ゼリーとおやつ用のどら焼き、両方作ろうか。

「「つぎはー?」」
「次はおやつを作ろう。アレンとエレナは、前に作ったパンケーキの作り方を覚えている?」
「「おぼえてるー」」
「よし! じゃあ、また混ぜるの頑張れる?」
「「やるー」」

 ということで、早速パンケーキを作ることにする。
 アレンとエレナはばっちりパンケーキの作り方を覚えていたようで、生地作りは難なく終わった。
 そして――

「「じゅ~」」

 僕が熱したフライパンでパンケーキの生地を焼き始めると、アレンとエレナは隣で焼き音の真似をし、ぴょこぴょこ跳ねながら眺めていた。

「ぷつぷつしたらー♪」
「くるっとしてー♪」
「……くくっ」

 アレンとエレナは、ひっくり返すタイミングもしっかりと覚えていた。
 ご機嫌な二人の可愛らしい様子に思わず頬が緩む。
 以前に焼いた時は、生地の表面のぷつぷつとした穴を指でつつこうとしたが、今回は最初から手を背中に隠して、ちゃんと我慢している。そんなちょっとした頑張りも微笑ましい。
 僕が子供達の声に合わせてひっくり返すと、綺麗なキツネ色の面が現れた。いい具合の焼き色だ。
 そのまま、もう片面も焼いて――

「ほら、焼き上がったぞー」
「「できた、できたー」」

 喜ぶアレンとエレナだが、今回はもう少し作業が続く。

「まだだぞー」
「「まだー?」」
「そうだよ。次はこれにあんを挟むんだ」

 二枚のパンケーキの間に作り置きしてあったつぶあんを挟んで、どら焼きのでき上がり、っと。
 うんうん、ちゃんとそれっぽいものができたな!

「今度こそでき上がりだよ」
「「わーい」」
「タ、タクミ様ー、これは、これはー?」

 目を見開いて、リヤンさんが僕に尋ねる。

「どら焼きと言うものです」
「「たべていいー?」」
「わ、私もよろしいでしょうかー?」
「お、俺も食べたいです」

 子供達に続き、リヤンさんにトールさんまでおやつを強請ねだってきた。

「……仕方がないな~。ご飯前だから、アレンとエレナは半分ずつだよ。リヤンさんもトールさんも、せっかくなので食べてみてください」
「「うん!」」
「「ありがとうございます!」」

 みんながどら焼きを食べている間に、僕は赤豆ゼリーを作り、それからいよいよワニ肉を調理。リヤンさんとトールさんの視線をビシバシと感じる中、ワニ南蛮を作り上げた。


しおりを挟む
表紙へ
感想 10,460

あなたにおすすめの小説

ボクは転生者!塩だけの世界で料理&領地開拓!

あんり
ファンタジー
20歳で事故に遭った下門快斗は、目を覚ますとなんと塩だけの世界に転生していた! そこで生まれたのは、前世の記憶を持ったカイト・ブラウン・マーシュ。 塩だけの世界に、少しずつ調味料を足して…沖縄風の料理を考えたり、仲間たちと領地を発展させたり、毎日が小さな冒険でいっぱい! でも、5歳の誕生日には王都でびっくりするような出来事が待っている。 300年前の“稀人”との出会い、王太子妃のちょっと怖い陰謀、森の魔獣たちとの出会い…ドキドキも、笑いも、ちょっぴり不思議な奇跡も、ぜんぶ一緒に味わえる異世界ローファンタジー! 家族や周りの人達に愛されながら育っていくカイト。そんなカイトの周りには、家族を中心に愛が溢れ、笑いあり、ほっこりあり、ちょっとワクワクする“グルメ&ファンタジーライフ”が今、始まる!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。