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4巻

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 その日の夕食はヴァルト様とアイザックさんも加わり、とても賑やかなものになった。
 夕食の料理にはホタテはもちろんだが、見た目や名前が一緒のマテ貝や、サザエに似た形のヤール貝という貝のバターショーユ焼き、カレースパイスをかせた魚のムニエル、マヨネーズを添えた野菜スティックなどがあった。
 リスナーていの料理人であるリヤンさんが試行錯誤を繰り返し、徐々に料理の幅を広げているのがわかるメニューだ。
 その料理にヴァルト様とアイザックさんが、見たことも聞いたこともない料理だと驚いていた。
 セドリックさんが既に手紙で知らせたものと思っていたが、自慢込みで伝えたのはゼリーまでだったらしい。なぜかといえば、迷宮発見の報を受けたヴァルト様達は、王都と連絡を取り合い、素早くシーリンを出発したからだ。
 ということは、やはりセドリックさんはヴァルト様とアイザックさんがここに来ることを知っていたのだろう。

「うめぇー」
「とても美味しいですね」

 二人は初めての料理をたんのうしていた。
 そして、その後は大人達だけで一杯やろうという流れになった。

「おう、ちびどもは大丈夫だったかー?」
「まあ、何とか……。少しぐずりましたけどね」

 お酒を飲む場なので、ここにアレンとエレナはいない。二人には何とか納得してもらって、僕達が貸してもらっている部屋に寝かせてきたのだ。
 一応、ジュール達を呼び出してアレンとエレナのそばにいてもらっている。

「あいつらは基本、お前にべったりだからな~」
「育った環境が環境ですから、仕方ないでしょう。でも、こうやって少しの間だけでも離れられるようになったのですから、良かったですよね」

 アイザックさんの言う通りだ。アレンもエレナも、少しずつだがちゃんと成長していると思う。
 二人は奴隷として売られそうになっていたのだから、酷い環境にいたはずなのだ。なのに、あの子達はとても純粋で素直に育ってくれている。それはとても喜ばしいことだ。

「育った環境、ですか?」

 アイザックさんの言葉に、セドリックさんが不思議そうな表情をした。
 さすがにアレンとエレナの身の上までは、セドリックさんに伝わっていないんだな。

「アレンとエレナは、もとは孤児としてかなり酷い環境にいたようなんです」
「そうだったんですか……。では、タクミさんと血がつながっているわけではなかったのですね……」

 セドリックさんは、心底驚いた、という感じであった。
 この反応は、僕達が本当の家族に見えていたってことだろうか? それなら嬉しいな!
 すると、ヴァルト様が僕の思いを理解したかのように言う。

「血のつながりなんて関係ないって言えるぐらいに、タクミ達は家族っぽいがな!」
「ヴァルト様、ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
「そうかそうか! ほら、タクミ。普段はそんなに飲まないんだろ? 今日は飲め飲め!」
「そうですね。あ、そうだ。これ、飲んでみませんか?」

 僕は迷宮でんだブランデーを思い出し、瓶を数本取り出した。
 リスナーていに帰ってくる途中、通りすがりのお店でしゃた瓶を見つけたので、それを買ってブランデーをたるから移し替えておいたのだ。

「ん? それは何だ?」
「タクミさん、これは?」

 ヴァルト様もセドリックさんも、興味をかれたらしい。

「お酒です。たぶん、珍しいものだと思うんですが」
「何っ!? 珍しい酒か! 早速飲もうぜ」

 ヴァルト様は表情を輝かせ、すぐさま瓶を手に取ってグラスに注ぎだした。
 アイザックさんもセドリックさんも、ブランデーの入ったグラスをのぞき込む。

「綺麗な色ですね。色はエールに似ていますが……別物ですよね? 香りが違います」
「そうですね。いだことのない香りです」
「これはブランデーというお酒です」

 僕がそう言うと、リスナー兄弟は二人そろって不思議そうな顔をする。

「聞いたことのないお酒ですね」
「ええ」

 この反応を見る限り、やはりブランデーはこの世界で出回っているお酒ではないようだ。
 セドリックさん、アイザックさん、そして自分のグラスにもブランデーを注ぎ、早速、四人で飲んでみた。

「うめぇーな」
「そうですね、隊長」
「これは美味しいですね。それにかなり強めです」

 三人の口には合っていたようで、わりと好評だ。
 だけど、ブランデーはストレートだとやはりキツイ。氷を用意しておけばよかったか~。

「セドリックさんの言う通り、このままだと強いかもしれませんね。水で割ったり、氷を入れたりしてちびちび飲む感じのほうがいいかな?」

 初めてブランデーを飲むなら知らないかもしれないので、水割りやオンザロックの飲み方も伝えておく。

「俺はこのままでも充分だと思うが、それも美味うまそうだな」
「なるほど、氷で冷たくすると味わいが変わるのでしょうね」
「そうですね。今、氷を用意させます」

 そう言うと、セドリックさんはすぐに使用人を呼んで氷を頼んだ。
 氷って、簡単に用意できるのか。この世界には冷蔵庫や冷凍庫の魔道具があるみたいだけど、かなり高額だったはずだ。まあ、仮にも領主ていだしな。きっと置いてあるんだろう。
 あるいはむろがあるのかな? それか、氷魔法が使える人に作ってもらうとか?
 そうだな、僕も近いうちにジュールに氷を作ってもらって《無限収納インベントリ》に保管しておこう。……ん? いや、生活魔法の《フリーズ》で水を凍らせればいいのか。それなら自分でも作れるし。
 氷といえば、かき氷とかいいよな。あと、アイスクリームも作りたい。まだまだ暑いから、子供達のおやつにちょうどいいだろう。
 あ~でも、薄く氷を削る道具がないか~。ナイフで削るのは根気が必要そうだから……道具を作ってもらわないといけない。
 アイスクリームなら大丈夫かな? 卵黄に砂糖、ミルクかクリームを混ぜて一度熱を通し、あとは凍らせながら混ぜる作業を続ければできるはずだ。
 そう考えると、冷やすものじゃないけど、アイスと似た材料のプリンもいけそうだ。蒸す時間やミルクの量の調整は必要だと思うが、そこらへんは何回か試作すれば納得するものが作れるだろう。
 そんな風にあれこれ考えていると、ヴァルト様から声がかかる。

「タクミ、この酒はどこで手に入れたんだ?」
「ん? ああ、さざなみの迷宮内に湧いていたんです」

 別に隠す必要もないので、正直に答えると――

「「「はぁ?」」」

 三人の驚く声が重なって返ってきた。

「ちなみに、二十八階層ですね」
「「「はぁぁ!?」」」

 またも同時に驚きの声が上がる。三人とも息ぴったりだな~。

「ちょっと待て! 二十八階層だって? 確かあの迷宮は全部で三十階層だと聞いたが、もしかして……」
「ん? 攻略なら終わりましたよ? ボスはリトルクラーケンでした」
「「「はぁぁぁあー!?」」」

 うん、本当に息ぴったりだ。

「おいおいおい! 新しく見つけたばかりの迷宮をもう攻略し終えたって言うのかよ! しかも、リトルクラーケンだって? それを倒したってーのか!?」
「まあ、そうですね」

 ヴァルト様が呆れたような目で見てくる。

「はぁ……」
「タクミさん……」

 アイザックさんとセドリックさんは深く溜め息をついた。
 何だろうね、この反応は……。酷くない?

「ところで、タクミさん。このお酒はまだありますか?」
「ん? あ、はい。それなりの量をんできていますよ?」

 セドリックさん、どうしてそんなことを聞くんだろう。どこかで売り出すつもりかな?

「では、王都へ行ったら陛下に献上してもらってもいいですか?」
「えっ!? 献上? このお酒をですか?」
「ええ、充分な品だと思いますよ。今まで味わったことがない味ですしね。瓶は私が相応ふさわしいものを用意しておきます」

 それは構わないが……あれ? 今、セドリックさんは〝献上してもらう〟って言ったか?
 前にセドリックさんは、迷宮発見の一報は先に手紙を送っておいて、後日改めて領主である自分が王都へ行って詳細を伝えるって言っていたような覚えがあるんだが……。行かないことになったのかな?

「セドリックさんも王都に行く予定ではありませんでしたか?」
「ああ、それはアイザックがみょうだいで謁見することになりました」
「私も一応、リスナー家の者ですからね」
「一緒にタクミさんも謁見することになりますから、献上品はタクミさんからお渡ししたほうがいいでしょう」

 あ、そういうことになっていたのか。確かに、アイザックさんが王都に行くなら謁見を任せてしまえばいいよな~。

「そういうのは後でいいじゃねーか。今は飲もーぜ」
「まったく、隊長は……」
「まあ、アイザック。確かにルーウェン殿の言う通り、お酒の席で話すような話題ではないですし、謁見や献上の件は後日にしましょうか」
「……そうですね」
「ははは~」

 ヴァルト様らしい言い分によって今はお酒を楽しむことになり、打ち合わせ的なものは後日行うことになった。


 ◆ ◆ ◆


「じゃあ悪いけど、二人をお願いな」
《うん、わかったー》
《大丈夫。兄様、任せて~》
『ピィィ』
『がるっ』

 フェンリルのジュールと私は念話で、サンダーホークのボルトとスカーレットキングレオのベクトルは鳴き声で、部屋を出て行く兄様に返事をする。
 私はフィート。てんで、ジュールやボルト、ベクトルもみんな、タクミ兄様の契約獣。
 今は兄様達三人に与えられた寝室に呼ばれて、大きなベッドの中央で小さく丸くなり、くっついて眠るアレンちゃんとエレナちゃんを見守っている。


「「……うにゅ~」」
《……起きちゃった?》
《ううん、大丈夫みたい。ちゃんと寝ているよ》

 私の問いかけに、ジュールは念話で答えてくれた。
 兄様は、これからこのやしきの主とシーリンから来た騎士達とお酒を飲むんだって。
 でね、お酒は子供の体によくないし、時間も遅くなるだろうからって、アレンちゃんとエレナちゃんはお留守番することになったの。
 だけど、二人は兄様と離れるのは嫌だったみたいね。兄様にぴったり引っついて「一緒に行くー」と珍しく駄々をねていたわ。
 けれど、最終的には渋々了承して部屋に残ることになって、兄様に寝かしつけられたの。

『がる~』
「「うみゅ~」」

 アレンちゃんとエレナちゃんが、ベクトルの鳴き声に反応するように寝返りをうって仰向けになる。ふふっ、手を握り合ってお互いに離れまいとしている姿は微笑ましいわ~。

《ベクトル。静かにしないと、二人が起きちゃうわ》
『……がるっ』

 今やっと寝ついたところだから、まだ眠りが浅いみたいね。私達がここで騒いだら二人が起きちゃう可能性があるわ。気をつけないと。

《可愛いね》
《そうね。とっても可愛いわね》
『ピュル』
『がる~』

 本当に可愛い寝顔。泣いたせいで、ちょっとだけ目がれているのが痛々しいけどね。

《アレンもエレナも、ほんとお兄ちゃんが大好きだよね~。あ、もちろん、ボクもだけど~》
『ピュル』
『がる~』
《そうよね。みんな兄様のことが大好きよね》

 私達はみんな兄様のことを凄くしたっている。だって、兄様は私達のことを使い勝手のいい戦力じゃなくて、家族として扱ってくれるんだもの。したうしかないわよね?

「「んにゅ~」」

 あらあら、それぞれ仰向けになっていたアレンちゃんとエレナちゃんがまた寝返りをうって、お互いを見るような格好になった。やっぱりこっちの体勢のほうが落ち着くみたいね。

《あれー、ボク達、うるさかったかな?》
《ん~、大丈夫みたいだけど、おしゃべりはもうめておこうか》
《そうだね》
『ピュル』
『がる~』

 私達は寝ている二人を静かに見守ることにした。

「「……うにゅ~」」

 ふふっ、アレンちゃんもエレナちゃんも本当に可愛いわね。今夜は二人の寝顔をたんのうしましょう。


 ◆ ◆ ◆


「おはようございます」

 僕とアレン、エレナがリスナーていの食堂に入ると、既にヴァルト様が来ていた。

「おう、おはよう、タクミ。その様子だと、酔いは残ってなさそうだな」
「はい、大丈夫です」

 昨夜は結構飲んだが、僕は二日酔いにならなかった。お酒にはそこまで強くなかったはずなんだがな。シルがつくってくれた身体のおかげか、【身体異常耐性】スキルのおかげか……。
 まあ、何にせよ、今後はお酒で醜態を見せることはなさそうで、安心といえば安心だ。

「ヴァルト様も大丈夫みたいですね。あんなに飲んでいたのに……」
「あれの倍は軽くいけるな」

 ヴァルト様は、僕とは比べものにならないくらいの量を飲んでいた。なのに、二日酔いの気配は全くなく、けろっとしている。
 そこに、セドリックさんとアイザックさんがやって来た。

「おはようございます」
「おはようございます。タクミさん、隊長は底なしなので心配は無用ですよ」

 そうか。ヴァルト様は〝ザル〟なのか……。
 セドリックさんとアイザックさんも、ヴァルト様ほどではないけれど結構飲んでいたはずだ。なのに問題ない様子。こっちの二人もお酒はかなり強いんだな。
 いや、今ならもれなく僕もだけどね。ザルどころか〝ワク〟かもしれないし。

「ほら、二人とも椅子に座ろう」

 朝の挨拶が済んだところで、アレンとエレナに席につくよう促すが……。

「「むぅ~」」

 昨夜、一時的に僕と離ればなれになっていたアレンとエレナは、目を覚ました途端、僕に抱きついてきた。
 そして、現在も僕の足にぺたりとくっついている。それも、離れないぞとばかりにガッチリと。
 二人を寝かせてから寝室を出て、目を覚ます前に戻ったんだけどな~。それでも駄目だったみたいだ。まあ、寝る前に大分駄々をねていたしな。

「おや? その様子ですと、昨夜はやはり寂しかったのでしょうね」

 アイザックさんは予想済みだったのか、子供達の様子に納得の表情をしていた。
 すると、セドリックさんが少しかがんでアレンとエレナに微笑みかける。

「アレンくん、エレナさん。フレンチトーストを用意させましたから、機嫌を直してください」
「ん? フレンチトースト?」

 セドリックさんは、気をかせて朝食に二人の好物であるフレンチトーストを用意してくれたらしい。
 というか、フレンチトーストにアイザックさんのほうが興味を示しているけど……。

「ほら、アレン、エレナ。セドリックさんがフレンチトーストを用意してくれたって。食べないのかい?」
「「うぅ~。……たべる~」」
「じゃあ、椅子に座ろうか。フルーツゼリーも付けてあげる」

 アレンとエレナは、今度は渋々、僕の足から離れて椅子に座り、使用人さんが配膳してくれたフレンチトーストをゆっくりと頬張りだした。
 作ったのは料理長のリヤンさんか、他の人かはわからないが、フレンチトーストはとても美味しいらしく、アレンとエレナの顔にみるみる笑みが浮かんできた。
 二人の間に座る僕も何だか嬉しくなる。

「美味しいかい?」
「「うん! おいしー」」

 ちなみに、僕達大人の朝食は別メニューだったのだが、子供達がフレンチトーストを食べるのを見て、アイザックさんは使用人さんに追加でフレンチトーストを頼んだ。もちろん、ヴァルト様も便乗している。
 しばらくして食べ終わった二人は、フレンチトーストを気に入ったようだ。


 フレンチトーストに加えてフルーツゼリーも食べたアレンとエレナは、すっかり機嫌が戻った。
 その二人を連れて、僕はヴァルト様とアイザックさんとともに訓練場に向かう。
 朝食の最中にヴァルト様から今日の予定を聞かれ、僕が「特に予定はない」と答えたら、早速乗馬の練習をすることになったのだ。
 訓練場に行くと、僕は今後のためにヴァルト様とアイザックさんにジュール達を紹介しようと思い、契約獣のみんなを呼び出した。もちろん、ボルト以外は小さくなった姿である。

「お、それが噂のタクミの契約獣か?」

 すると、ヴァルト様はすぐに契約獣達に興味を示した。

「じゅーるとぼると!」
『きゃん』
『ピィ』

 アレンがジュールとボルトを紹介し――

「ふぃーととべくとるー」
『なぁ~』
『がるっ』

 エレナがフィートとベクトルをヴァルト様とアイザックさんに紹介する。
 名前を呼ばれた契約獣達は順番に元気良く鳴いて返事をした。

「確か……フェンリルにてん、スカーレットキングレオ、それにサンダーホークでしたよね。成体ではないとはいえ、高位ランクの魔物がこれほどそろうとは……」
「おう。めちゃくちゃ賢そうだし、随分と大人しいんだな。契約獣ってのは初めて見たが、全部こういう感じなのか?」
「まさか! 契約していても魔物には違いないのですから、契約者以外が近づけばかくしてきますよ。もしくは興味を示さずに無関心をつらぬきます。このように友好的な態度をとるほうが珍しいはずです」

 アイザックさんはジュール達を順番に眺めて、感心したように言った。

「うちの子達は賢いですから、紹介した人ならかくすることはないと思いますよ。まあ、悪戯いたずらした場合は別でしょうけどね」

 普段は温厚なうちの子達でも、見知らぬ人間が無遠慮に近づいてきたら、さすがにかくくらいはすると思う。
 それに悪戯いたずらとか、ちょっかいを出されたらね。かくどころか反撃する可能性もあることは否定できないな。

《みんな、赤髪のほうがヴァルト様で、銀髪のほうがアイザックさん。これから一緒に行動することもあるから覚えておいて》
《うん、わかったー》
《はーい。兄様、ボルトとベクトルも『わかったー』だって~》

 みんなに【念話】でヴァルト様とアイザックさんのことを覚えおくように言うと、【念話】の使えるジュールとフィートから返事があった。フィートはボルトとベクトルの言葉まで、わざわざ伝えてくれる。

「相手がこの子達に何か悪さをしたなら、反撃しても正当防衛になりますのでタクミさんが責任を負う必要はないのですが、それでもできれば相手は殺さないようにお願いします」
「わかりました。みんなもいいね?」
『きゃん』
『んなぁ~』
『ピィ』
『がるっ』

 前に行った盗賊討伐の時にも、なるべく人を殺さないように言いつけてあるので大丈夫だと思うが、一応ここでも念を押しておくと、四匹は了承するように鳴いた。

「……私達の言っていることを本当に理解しているみたいですね」
「ええ、ちゃんとわかっていますよ」

 アイザックさんは、まじまじとジュール達を観察し始めた。

「うおっ!」

 その時、ベクトルがちゃっかりヴァルト様の足に絡むようにじゃれ始め、驚いたヴァルト様は声を上げた。

「こっ! こら、ベクトル! こっちに戻って大人しくしていような」
『がる~』

 慌てて注意すると、ベクトルは心底残念そうな雰囲気を漂わせながらも大人しく戻ってきた。

「うお~、びっくりした~」
「すみません」
「いいや、構わん。それより、タクミ。そろそろ乗馬の訓練を始めるぞ」
「はい、お願いします」


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