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そういうことなら言っておいてください
しおりを挟む今日は、今日だけは彼氏に会いたくない。
大丈夫、今日営業部の数人はクライアントとのパーティーだって言ってた。「パーティーー??」って彼氏に会えないことを可愛げなくしかめ面で拗ねていたけど、今日だけは感謝しますありがとうパリピ取引先(?)サマ。
下へ行くエレベーターを待っている間も、身体がジクジクと熱を持っている。
息を細く吐いて、落ち着いてくれるように願った。
だがその願いは叶わないことを経験で知っている。
ーー1年前、同じ様な状態に陥ったことがあった。
今日みたいな終業前に突然、今の状態……認め難いが、ムラムラが治らない状態になったのだ。
その時は丁度、彼氏とデートの約束だったから、半泣きになりながらも「助かった」という胸中だった。
乱れに乱れたセックスが終わるまでは。
『今日は…どうしたの?』
ベッドでぼんやりとしていた私に、彼氏の戸惑った声が落ちた。
ーー引かれた。
イヤ、引くだろう。治った後は私自身だって引いた。
『やだぁっ!やめちゃヤだッ』
『んんぅ…ソレつけないでよぉっ』
『もういっかいだけ…おねがい…!』
行為の最中に口走った言葉の数々が普段とかけ離れすぎている。
羞恥のあまり私はその場から逃げた。力の入らないヘロヘロの足で。
…でも彼は追いかけてくれて、無言のまま家まで送り届けてくれたから、逃亡できたとは言えないのだけれど。
翌日から避け始めてしまった私が主な原因で、少し気まずくなったけど、学生の時から4年の付き合いの彼は、私の理不尽に慣れているのか。また以前のように優しく接してくれるようになった。
…私はそれに甘えた。
だって、あんなイレギュラー過ぎる事態で、彼をなくしたくなんか無かった。
中々素直になれない私に、呆れることもなく微笑んでくれる優しい目とか、言いたいことを聞こうと待ってくれる大らかさとか。
存外触り心地のいい短く切り揃えられた髪とか、あのあったかい低い声とか、筋張ってて逞しい腕とか、太く長い指だとか…
ーーダメだ。
想像してしまって、更に足の付け根に血液が集中して考えたくない箇所が膨れてくる。ブラジャーに擦れる様に勃ってくる存在まで。
(うぅぅ…ほんとヤだ…)
自分で吐く荒い息に、煽られるようでもっと追い詰められていく。
(早く帰って…、自分でシて寝てしまおう)
普段は殆どしない自慰を決意して目の前の扉を見る。
ーーチン
と小気味いい音と共に目の前のエレベーターが開く。
どうしてそこに人が乗ってくると想像しなかったのか。
しかもそれが、今一番会いたくないひとだなんて。
「ーー秋君、なんで…」
「佳夜?」
そこに立っていたのは、普段より少しだけ気合の入ったスーツを着た背の高い男性…そう私の彼氏だった。
◆◇◆◇
本当は乗りたくなかった。
でもここで乗らない不自然さが誤魔化せそうもなくて、大人しくエレベーターでふたりきりになる。
(うぅ…秋君の匂い…すき…っ、だめ冷静に…)
荒くなりそうな息を隠すために、深めのため息を吐く。
「…今日、はパーティーだったんじゃないの?」
何とか平静な声が出ただろうか。
「……あぁ、行けないって言ってた先輩が出張から1日早く帰れたから代わってくれって。元々先輩が担当だったし。佳夜も行って欲しくなさそうだったから、丁度いいと思って迎えに来た。」
(あああああ~~今日じゃなかったら、めちゃくちゃ嬉しかったのに…!うぅぅ…)
ーーチン、
1階に着いて、拷問の間の扉がようやく開く。
(彼氏の匂いに発情が止まらないってどんな痴女だ。)
2人でホールへと歩き出しながら、なんと言って切り抜けようか回らない頭を必死に動かす。
(一緒に居たい。身体も熱いし縋りつきたい。ーーでもまたあんな風になったら、今度こそフラれるかも…それだけは…!)
玄関の守衛さんに挨拶をして玄関を出たところで、意を決する。
「そうなんだ。ただ私今日予定があって、迎えに来てくれたのに、ごめんね。また今度…」
「ーー予定?」
寄り掛かりたいのを我慢して、笑顔で足速に去ろうとしたその時、秋君に腕を掴まれて止められた。
彼にしては、少し強い力だったのが意外で、思わず顔を見上げる。
その目は、射抜くように強くて…、更に身体に熱を持たせた。下着は考えたくない有り様になっているだろう。
「…しゅう君…?」
そのまま彼は私の腰に手を回して、否を言わせない態度で歩き始めた。
就業時間付近の会社の前でなんて、いつもなら絶対にしないだろう。隠しているというほどでもないが、詮索されすぎることを好まない私たちなりの暗黙のルールだった筈なのに…。
そして会社の通りから外れた場所にあるホテルへと入っていく。
もうさっきから密着している彼の香りで、思考が鈍っているのに、行為ができる密室に入るなんて制御が困難になってくる。
(秋君、カモネギらないで…たべられますよ私に…!)
「秋君?ね、どうして…私、予定が…」
「……」
秋君は黙ったままパネルを押して、その部屋に向かっていく。
◆◇◆◇
ドアを閉めた途端に彼の唇で、抗議しようとした私の口も思考も閉じた。
チュッなどという可愛い擬音は始めだけで、今はジュルジュルと擦られ、吸われ、至福に浸る。
拒否を示す予定だった手は、彼のスーツに縋っている。
(ダメだめ…ちゃんとことわらないと…気持ちいいけど…やめてほしくないけど…でも秋君の唾ぁ…おいし…)
「あっ…ヤ…」
働かない頭で夢中になっていた口づけをやめられて、講義の声が出てしまう。
そこに低い声が厳しく制してくる。
「佳夜?こんなエロい状態でどこで誰と会う気だったんだ?」
顎を固定されてるから、顔を逸らしたいのに逸らせない。
滅多に感情の乱れない秋君の怒気を感じて、言い訳めいたその場凌ぎが口から出る。
「しゅう君がえっちなキス、するから…」
普段なら絶対口に出さないように気をつけている甘えた様な声が我慢できない。
「ーー違う。エレベーターで会った時から、もうソウイウ状態だった。」
「ッ!」
見透かされて恥ずかしいのと、甘えに応えてもらえなかったことに、平常心が奪われ涙が滲む。
…感情のコントロールがここまで難しいのは、あの夜以来だ。
「…怖い秋君、ヤダ。さわんないで」
余裕がなくなってみっともない口調になってしまったけど、思いの外目の前の秋君には効果があった様で。
「ッ!…いやだ触る。今日は誰とも会わせない。」
秋君まで、つられてなんだか口調が幼くなっている。
可愛い成分のない見た目の筈なのに。2歳年上の彼氏が可愛すぎて濡れる。
(誰とも会うわけない…あ、予定なんて言ったからか…)
「誰とも会わない…から、帰りたいの。」
思い至って、必死に言い募るが。
「何でそんな状態で意地悪言うんだよ。…なぁ、俺に可愛いとこ全部見せて…?」
(……いくら大らかな秋君でも、今日の痴女・佳夜は可愛いとは思えないと思う…今日さえやり過ごせたらもっとちゃんと…)
迷う心中は察しても、全く帰す気がないらしい彼の手が、腰の辺りを妖しくさする。ゾクゾクと背を走る快感が、正直堪らない。
「ふぅ…んッ」
更にさっきのキスが再開されて、脳が考えることを放棄しだす。
熱い舌が上唇をねっとりとなぶる。思わずその舌を追いかけて秋君の唾液を啜ってしまう。
「はっ…エロ…っ」
それに興奮したらしい秋君が、少し強引な手つきで私の服を剥ぎ取っていく。私も脱ぐのを手伝うかの動きになってしまっている。我慢できずに秋君のネクタイも外しにかかる。意図に気付いた秋君が、嬉しそうな顔で自分の服も取り払っていった。
(声…かっこい…秋君に直に触れたい…。)
軽いキスを何度も交わしながら、お互いに素肌を晒し合う。私の臀部を撫でている手も、首筋を這う舌も、私のほぼ残っていない理性を更に削る。
「はぁっ…!」
もう我慢できなくなって、秋君の肩や腕をなぞって逞しい身体を堪能する。お腹に当たる重力をものともしない存在に幸福感が溢れた。
(欲しいよぉ…秋君の…でも…)
頭では迷っているフリをしながらも、欲望は正直で足の付け根からは愛液が溢れて足を伝っていく。ついには我慢できなくて秋君の硬くなった場所へと指を滑らせた。
「はぁ…ッ佳夜…っ」
快感を知らせる声色に、嬉しくなる。
だが同時に普段の秋君が全ての主導権を持っている行為とは全く違う、あの夜の様な自分に不安が募っていく。
「しゅ…君、きらわないで…今日えっちで、ごめんなさい…。がまんできな…」
「?なんで嫌うんだよ?ーー可愛くて…ヤバい。あっちでもっと触らせて。」
そう言って秋君は私をベッドへ誘導して寝かせた。
その直後にガバリと膝を開かれて、異常に滴っている愛液を見られてしまう。
「ヤッ…!見たらヤだ!」
「こんなに…濡れてたの?しかもそれ隠したくて必死なの?マジで可愛いんだけど…死にそう。佳夜、いっぱい俺でイこうな?」
いつもより饒舌な秋君が、嬉しそうに太ももの内側にキスをふらす。
(秋君でいっぱいイく?うれしい嬉しい…今日の秋君…引いてないんだ…)
「うれし…だいすき…しゅ、くんんッ」
言い終わるより先に滴ってくる愛液を全て舐めとる様に秋君の口で陰部を覆われる。それから舌で下から上へと撫で上げられた。
ビクビクと跳ね上がる身体を抑える様に腕が乗ったと思ったら、更に上に伸びてきて赤く主張していた乳首をソッと撫でた。
「それッ同時…こわ…の、ひ、やだっいっぱいしないでっ…あぁぁあアッ」
絶頂の余韻が抜けきらないままの陰部にサラサラと何かが流れた。それが秋君にかかってしまった事に思い至り、申し訳なさでいっぱいになる。
「ん、ごめ、秋君、かかっちゃった、よね?ほんとに、ごめ、なさ…、」
「!佳夜、初めて潮吹いたよな?…めちゃくちゃ嬉しい…!」
「そこにキスしな、で…!?し、潮…?」
「うん、これは多分潮。はー…マジでかわいい…」
(潮ってAV(おとぎ)の世界の産物じゃなかったの…?もう今日はほんとなんなのぉ…)
半泣きの私とは対照的に秋君のテンションがものすごく高い。でもかけられたと嫌がられるよりは、…私も嬉しくて、熱くなった場所から余計にとろとろと溢れてくる。
「は、佳夜…、もう、挿れたい…ッ」
いつもは指で解してくれるのに、今日は秋君まで発情してるように性急だ。
もう多分会社にいる時点から準備段階にいて、今までの触れ合いで私のソコは完全に溶けてる。だから、全く構わない…。むしろ、
「ん…秋く、はやく…ッほし…」
私のはしたないおねだりへの返事の代わりに、秋君の熱いモノでぎっちりと埋まった。
待ち侘びていたものを与えられた私のナカは、自分でもはっきり分かるほどギュウギュウ喜んでいる。
「…ッあーー…すげ、吸い付いて、たまんね…ッ」
「うれし…うれしぃ…しゅうく、すきぃ…」
「はァ、溶けた顔めちゃくちゃかわいい…かや…おれも好き…」
その言葉を聞いた途端、足の先まで力が入り、背を逸らして達してしまった。
好きな人の興奮した声も、自分への想いも、快楽に抗いたがる理性をあっさりと吹き飛ばす。
自分の腰がくねり、彼の雄を誘う。
ベッドがギジリと音を立てた。
「ッ言葉でイッた上におねだり…とか!も、動く、ぞ」
「ん、ぅん、おねが…ッ!♡」
宣言の通り私の中を舐るような悩ましい動きで抽挿が始まり、自分の声が制御不能になってゆく。
「あ、ア、あぁぁッア〝ーーーッ♡♡」
「ハ、…ッンッ」
太くて硬い愛しい存在が、滴る愛液のせいでバチュバチュと音を立てながら抜き挿しされて、堪らない。
大きなカリが手前のお腹側も奥のトびそうになるところも擦っていく。
対位を変えられバックからの挿入時、何度目かの絶頂で足にバシャッと液体がかかる。
「あぁっやだぁっ」
「ハ、大丈、夫、潮だか、らッむしろもっと見たい…ッ」
秋君の言葉がゾクゾクと背を這い上がってくる。
「ッ♡♡♡」
「もっと見たいって言われて…イッちゃったね…?はぁッ…俺に恥ずかしいとこ、もっと見せたい…?」
「ンあぁぁアッ♡いじ、わるっ♡」
言い終わるや腰を掴んで、最奥をこねられて嬌声が勝手に喉から出ていってしまう。
あまりの快感に中の剛直を思いっきり締め付けてしまう。
「うあっ…ヤバっ…!イッくッ…」
壮絶に色っぽい秋君の声が聞こえて、胎の中で勢いよく跳ねる愛しい存在にうっとりして意識を手放した。
◆◇◆◇
ぱちゅっぱちゅっという音が聞こえる、体に打ち付けられる感覚と荒い呼気を感じて意識が浮上してくる。
「かや…っ起きた…ッ?は、も、またイく…ッ」
ぼんやりと滲んだ視界に前髪が垂れた壮絶に色っぽい秋君が映る。
その瞬間に、私の中で何かが跳ねているのを感じた。
「ふぇ?うそ…ッ!?」
秋君は普段、もう少し強引にしてくれてもいいんだよ?と、思う程丁寧に私を抱く。
意識を失った私に腰を打ち付けて勝手に爆ぜるなどという事は考えられない行為だった。
「しゅうく、なんで…?」
「ごめ、止まんなくて…ッはぁ、ナマでしたら、かやの愛液の催淫、効果、もろでクるんだな…ッ」
「さい、いん?…何それ…」
「ん、?…いつもより舐めたから?あ、潮にも入ってるのか…?」
ぶつぶつと秋君が言っている内容が、全く理解できない。
まだ息も荒かったのに、私が呆然とした顔をしているのを見止めて、動くのを辞め、私を抱き起こした。挿れたままだったけど。
「佳夜?どした?」
甘えさせる声に安心して、秋君の肩に頬をつけて見上げた。
「なんか、さいいんこうかとか言ってるから…しゅうくん、どうしたの?」
グ、と何故か喉がなった秋君が、フーッと息を吐いた。
何か分からないけれど、ツボにキたらしい。表面は冷静に見せてるけど、雄弁なモノが私の中で質量を増している。
でもそれを動かす気はないようで、秋君が答えた。
「淫魔の体液に催淫効果があるのは、分かってるだろう?繁殖期はより多くなるのかな?」
事も無げに、という表現がしっくりくる表情と声音が私に問う。
い、淫魔?秋君突然の中二病?オタっ気ゼロだったのに??
体液に催淫効果…そういうエロいの読んだの??
もしかして、笑うところ?
「へへ…」
全く面白いと思ってない故の乾いた笑いをものともせず、秋君の中二病が止まらない。
「佳夜、俺を試した?繁殖期始まったっぽいのに他の相手に会いに行くと思って焦ったんだぞ…。こんなフェロモン漏れた状態じゃ、襲われる。…”生涯の糧”は俺だろう?」
??何?ほとんど分からないままだけど、生涯だとか、何とか…
ずっと一緒に居てくれる様な言葉に心が真っ先に反応する。
「嬉しい…うれしい、秋く…ンっ」
胸いっぱいに喜ぶと私のナカまでも正直に、生涯一緒に居たいと願っている相手の愛しいモノを締め付けた。
「ンッ、は、去年、事情を聞いた時から、次の繁殖期は絶対逃さないって決めてた…もっと、しても、いい?」
事情…?なに…?
ゆす、と腰を前後に揺らして中をノックするそれに擦ってほしくて堪らない。
やだ…もっと…
「うん、うん…ッもっと…♡もっと、しゅ、くんッ♡」
再び理性の切れた私の願いを叶えるかのように、秋君の律動は激しいものへと加速していく。
「んあああああああッ♡」
「佳夜…、かわいい、ずっと、俺のだ」
「うんっうん、秋くんだけ…ッ」
◆◇◆◇
翌朝の自分の状況に、思わず絶句する。
あれだけしたのに、動けないどころか寧ろスッキリと好調な体調から始まって。
足の間からドロッと出てくる、秋くんの精液。
おへそのすぐ下にある、謎の光る模様…。
混乱して縋りつくように見た、秋君の満面の笑み。
「良かった。…うれしい、佳夜」
ひとり盛り上がって感涙してるらしい秋君に、説明を求めたのは言うまでもない。
去年のあの、私の大失態の日。
私が家から追い返してしまったあの日に、アパートのエントランスでうちの母と妹に会ったという。
『あら~秋君、こんにちは』
『あ、こんにちは…』
『どしたの~?お姉は?』
『いや…』
『あ~そろそろアレだから、ヤり疲れ?でもアレの後ってむしろ絶好調なんでしょ~?』
『あれ?』
『あら、そろそろ佳夜、繁殖期でしょう?』
『は、繁殖期?』
『そうなのよ~、淫魔の体が整った辺りから定期的に来るんだけどね、ま、もう佳夜は秋君がいるから、何も問題なく…、あら、秋君、あの子から淫魔だって聞いてない?』
『…いん、ま?』
キョトンとしてしまった秋君の状態を察して、エントランスに併設されてる個室の喫茶店で、事情を聞いたと。
「え…?………秋君は、納得したの?私が普通じゃない?らしいのに…」
「いや、びっくりしたけど。おかあさんが最後に、『大丈夫よ~、あの子の正体で引いたならそこで手を引いてくれて。貴方も、勿論あの子も、引く手あまた、これからだもの』って……」
ちょ、ちょっと、お母さん!?私の最愛の彼氏になんてことを…!?
でも…その話が、本当なのだとしたら、そこで躓くなら、将来なんて無いのも確かなんだろう。
じわり、と涙が滲んだのを目ざとく見つけて、秋君が優しい指で拭ってくれる。
「無理だよ。訳わかんない状況だったけど。…それを受け入れないってことは、もう一緒に居られないってことだろう?可愛くて意地っ張りで甘え下手の佳夜が俺の横にいないなんて耐えられない。その大きい目が潤んで見るのも、ちょっと甘えた声も、寝る時香る匂いも全部俺が独り占めしたいんだよ。佳夜の特別で居続けたいっていうのは、俺の中で動かない望みだったんだ。」
秋君の柔らかい声で届いた想いが、どれほど大きいのか。今日初めて自覚した気がした。
彼は優しいから、私を受け入れ続けてくれているんだろうと心のどこかで決めつけていた。
秋君も同じように、隣に私が居ることを願っていてくれたのだ。
思っていたよりもずっと、彼に愛されていたという幸せで胸がいっぱいになる。
せっかく拭ってくれたけれど、目尻から次から次へと雫が零れてしまう。
「不安なのは怖いからで、怖いのは分からないからだと思った。だから、実家へ何度かお邪魔して、淫魔の事を聞いたり、代々伝わる書物みたいなもので勉強した。」
…なんてことだ、なんてこと。
私は当時、自分の発情状態の失態に混乱して、何とか誤魔化して、秋君と現状通りやっていけることだけに注力してた。
片や、私との未来のために、恐怖を感じるようなことに挑んで学んで、真剣に向き合ってくれていた。
天と地の差に、己がとんでもなく恥ずかしい。
「佳夜の次の繁殖期、つまり昨日、無事に結べて良かった。時期を読み誤ってたから、順番が前後したけど。…結婚、しよう。佳夜」
彼の言葉が心臓に響いて、声にならない。
今日は、ううん昨日から、とんでもない幸せが何度もやってくる。
「生まれた子は淫魔協会の運営する病院で取り上げた記録を作ってもらって、戸籍に登録するらしいから、そちらも近々行こう。」
幸せの中にチラチラと未だ慣れぬ厨二病単語が飛び交う。
「…?私、妊娠したの?」
「妊娠した、というのかは分からないけど、俺達の子どもは生まれる筈だ。繭から。」
「ま、繭から…。」
ごくり、と喉が鳴る。
秋君の勇気ある行動には、本当に感謝しかない。
昨日のすれ違ってる会話から思うに、彼は私が、納得して繁殖期に挑んだと思っているようだ。
秋君と行為にふけるのも、いつか欲しいと思っていた秋君との赤ちゃんが今になったのも、正直全然かまわない。
―――――――ただね。
【そういうことなら、言っておいてください!!!!お母さん!!!!】
私の電話口の大声に母はおっとりとした声で宣う。
「言ってなかったかしら~?「あなた淫魔よ」って。」
「言ってない!!!!(泣)」
応援ありがとうございます!
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