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「セドリックはおひとよしが過ぎるんじゃない…?…しんぱいになるわ…」
セドリックの胸でひとしきり泣いたアメリーは、憑き物が落ちたような、あどけない表情をしていた。
「…うそよ、――ありがとう、セド…」
彼女に自分がその表情をさせたという事実に、セドリックは胸を熱くさせる。
アメリーが背負っていたものは、他人とっての美談でも、当の本人にとってみれば理不尽極まりない責任だ、とセドリックは考えている。
セドリックがアメリーに惹かれ始めたのは、噂話混じりにカタブツ令嬢の話を聞いてからだった。
(噂ほどカタブツか…?)
そんな事情を背負っていても凛と勤勉に勤めあげ、部下を持つほどに信頼されたのは事実。
実家を恨む様なそぶりはないが諦めに似た感情を纏っている、感じているのは持参金を出せないという劣等感…。
休みの日に見つけた、可愛いらしい装い、やわらかな笑顔。
次第に独占欲まで持ってしまっている自分に、セドリックは呆然とした。…話したこともなかったというのに。
自分を抑えられなくなり、後輩の職務を交代して、彼女の部署へと足蹴く通った。
丁度、侍従長が幼馴染だったため、彼女の勤務に合わせて行動することが出来た。
”恋人”を作ることをやめ、それなりに息を抜く彼女を知っていたけれど、自分はその中の一人で満足する自身は到底なかった。
(アメリー嬢の中で、何よりも、誰よりも、一等特別な男に)
アメリーは度々、セドリックを「お人好しだ」と称するけれど、セドリックはそうは思っていない。
たまたま受取り手の役に立ったというだけで、彼は真実、自分の欲望に忠実に行動し続けているだけだった。
わざわざ訂正して回る気は全くないが。
自分の腕に体重を預けて呆けている世界で一番愛しい女を満足そうに覗き込む。
「アメリー、結婚の返事を」
セドリックの質問に似つかわしくない確信した声に、アメリーは可愛らしく笑いながら、顔を寄せる。
「…一生を誓い合えるなんて夢みたい、ありがとうセドリック…、お受け…します。」
また滲んだ涙を舐めとりながら、セドリックは喜びに笑みを浮かべる。
その表情にアメリーも、更に安心して笑った。
「――で、別れたって何?アメ」
セドリックは器用に笑顔のままで、逃げる事は許さないといった表情で問うた。
「あ…、それ、は」
完全に緩んでいたアメリ―は、咄嗟の上手い答えを出せずに狼狽えてしまった。
「アメリー?あの時の話覚えてる?俺の任務を理解して送り出してくれたんだと俺は思ってたんだけど?」
昨日の、街中でもそうだったが、温厚なセドリックの怒気に慣れていないアメリーはやはり彼の気持ちを最速で鎮める方法を知らない。
「セド…ごめんなさい。上層部の方からなら、事情は聞いてません。噂を鵜呑みにして、貴方に捨てられたと…勘違い、を…」
「…俺のそれまでの態度が、君を信じさせられなかった…?」
セドリックのその声を聞いてアメリーはハッとした。
セドリックの胸でひとしきり泣いたアメリーは、憑き物が落ちたような、あどけない表情をしていた。
「…うそよ、――ありがとう、セド…」
彼女に自分がその表情をさせたという事実に、セドリックは胸を熱くさせる。
アメリーが背負っていたものは、他人とっての美談でも、当の本人にとってみれば理不尽極まりない責任だ、とセドリックは考えている。
セドリックがアメリーに惹かれ始めたのは、噂話混じりにカタブツ令嬢の話を聞いてからだった。
(噂ほどカタブツか…?)
そんな事情を背負っていても凛と勤勉に勤めあげ、部下を持つほどに信頼されたのは事実。
実家を恨む様なそぶりはないが諦めに似た感情を纏っている、感じているのは持参金を出せないという劣等感…。
休みの日に見つけた、可愛いらしい装い、やわらかな笑顔。
次第に独占欲まで持ってしまっている自分に、セドリックは呆然とした。…話したこともなかったというのに。
自分を抑えられなくなり、後輩の職務を交代して、彼女の部署へと足蹴く通った。
丁度、侍従長が幼馴染だったため、彼女の勤務に合わせて行動することが出来た。
”恋人”を作ることをやめ、それなりに息を抜く彼女を知っていたけれど、自分はその中の一人で満足する自身は到底なかった。
(アメリー嬢の中で、何よりも、誰よりも、一等特別な男に)
アメリーは度々、セドリックを「お人好しだ」と称するけれど、セドリックはそうは思っていない。
たまたま受取り手の役に立ったというだけで、彼は真実、自分の欲望に忠実に行動し続けているだけだった。
わざわざ訂正して回る気は全くないが。
自分の腕に体重を預けて呆けている世界で一番愛しい女を満足そうに覗き込む。
「アメリー、結婚の返事を」
セドリックの質問に似つかわしくない確信した声に、アメリーは可愛らしく笑いながら、顔を寄せる。
「…一生を誓い合えるなんて夢みたい、ありがとうセドリック…、お受け…します。」
また滲んだ涙を舐めとりながら、セドリックは喜びに笑みを浮かべる。
その表情にアメリーも、更に安心して笑った。
「――で、別れたって何?アメ」
セドリックは器用に笑顔のままで、逃げる事は許さないといった表情で問うた。
「あ…、それ、は」
完全に緩んでいたアメリ―は、咄嗟の上手い答えを出せずに狼狽えてしまった。
「アメリー?あの時の話覚えてる?俺の任務を理解して送り出してくれたんだと俺は思ってたんだけど?」
昨日の、街中でもそうだったが、温厚なセドリックの怒気に慣れていないアメリーはやはり彼の気持ちを最速で鎮める方法を知らない。
「セド…ごめんなさい。上層部の方からなら、事情は聞いてません。噂を鵜呑みにして、貴方に捨てられたと…勘違い、を…」
「…俺のそれまでの態度が、君を信じさせられなかった…?」
セドリックのその声を聞いてアメリーはハッとした。
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