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「――!?」


「結婚の承諾どころか、申込もまだなのにごめん…。ずっと探してもらっていて…初めて好条件の話をもらったら、我慢できなくて…。」


セドリックの話のど真ん中の当事者であるはずのアメリーは初耳だ。


それどころか、つい先ほどまで別れたと思っていたのだから。


「…アメ、色々…話さなきゃいけないって分かってるんだけど…」


そう言ってセドリックはぐいぐいとアメリーをベッドへと連れていく。
それからアメリーを腕に抱いたまま、セドリックは横になった。
もぞもぞと身体を動かして、アメリーの胸元に顔を押し付けている。


「アメ…アメリー…」


自分の匂いを吸い込むような仕草をして、彼は動かなくなった。



「セド…!?」



慌てて両頬に手を伸ばし、顔を上げさせたが、どうやら眠っているだけのようだ。

よくよく見れば、酷いクマが出来ているし、精悍な頬が少しこけている。



痛々しい姿に、辛かったのは自分だけではないのではないだろうかと思い至る。

本当はどういう事なのだと問い質すべきところなのかもしれない。



この腕に愛しい人が安心しきって眠っている、その事実だけで…アメリーはもういいのではないかと思った。



セドリックの頭を抱きしめて、髪から香る彼の匂いを吸い込んだ。

目まぐるしい情報を整理するのは明日からにしようと、アメリーは久々に安心して眠りに落ちた。





◇◆◇◆





『持参金のない嫁なんて絶対に認めませんよ!』

『母上…』


アレクの悲しそうな顔が見えて、アメリーはひどく申し訳ない気持ちになった事を覚えている。


板挟みになって苦しそうなアレックスをアメリーは見ていられなかった。


『結婚、する気はないの。実家の事情もあるし…アレクは何も気にしないで。自分のしたいようにしてね。』




今思えば、物わかりのいいふりをして、アレックスから、彼の家から逃げた。

アレックスを苦しませたくない…そしてこれ以上惨めな気持ちを味わうのもアメリーはもう沢山だった。



…もっとあの時向き合っていれば、彼もあんな風に引きずる必要もなかったのかもしれない。



(贈り物を受け取ることは出来ないけれど、伝えることはできる。恨んでいない、逃げてごめんね、彼も今に向き合って、幸せになってほしいと……)





「アレク…ごめんね…」




途端にギュッと身体に何かが苦しいほど巻き付いた。

パニックになって手を動かすと、意識が浮上してきた。



「――ッ!!!」


目を開けると、不機嫌そうなセドリックの顔が覗き込んでいる。



「…ベッドで俺以外の男の名前を呼ばないで、アメ」



名前を呼んだ自覚がないアメリーは、目を白黒している。


「…?セド以外を呼んだ…?」



アメリーは「正直寝言まで管理できない」と思っているし、顔に出ている。

またしてもアメリーのドライさを目の当たりにして、セドリックは思わず笑んだ。

それでも拘束を緩める気は今のところないらしい。

突然巻き付いたのは、嫉妬したセドリックの腕と足だった。



「――アメ…、俺と結婚、してください」


セドリックの是以外を受け取らないかの様な表情もこの拘束も、プロポーズに相応しいとは全く思えない。

それがおかしくて笑いたいが、話題が話題だけにアメリーの顔も晴れない。

愛しい人からの申込が、嬉しくない筈もないのに…。




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