【完結】お人好し()騎士と偽カタブツ侍女

日比木 陽

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人目をはばかって少し離れた、口が堅いと評判の宿屋へ入る。
そこまでは冷静をとりつくろえてい二人だが、ドアに手をかけるところで途切れてしまった。


部屋へともつれるように入りながら、キスを交わす。


「ふ、ぁっ」

アメリーの声に煽られる様に、セドリックの手が彼女の身体を撫で上げていく。

彼の少しゴツゴツした手を身体に感じると、頭がぼうっとする。

「せ、ど、…さま…」

キスの合間に、アメリーは今までにないほど甘い声が出てしまう。
アメリーの強請る声色にうっとりとしながら、セドリックはわずかに残っていた筈の理性が戻ってこないことを知った。




ベッドが激しく軋むような律動を受けるアメリーは、堪らない快感を逃がせずに足が何度も戦慄く。

「あっあぁッ」

「うっあ…ッ」

セドリックが漏らす声に更に官能をあおられて、アメリーの奥は喜びに収縮する。

「あめりー、アメリー…ッ」

「せ、どさま、ください…ッほし…ッ」

アメリーの言葉を理解した途端、我慢していた射精が勢いよく起こる。

「ん、ああああああッ」

「く、あッ、は…」

腰を震わせて最奥に押し付けながらの長い射精を感じて、アメリーの膣も絞るように動いて達した。

…どうして、何も成さぬと分かっていながらも、これほどまでに満たされるのだろうか。

アメリーは自分の環境、そして仕事の滞りを防ぐために、排卵を抑える薬を飲んでいる。
(今はその事が、残念で仕方ないなんて…)


「は、アメリー嬢…、無茶を…してしまいました…、すみま」「謝らないでください…ッ」

自分が興奮のあまり、無体を働いたことを自覚しているセドリックが謝罪を口にしようとすると、思ったよりも悲しそうな顔でアメリーが遮った。

「…今だけは幸せな気持ちに浸りたいんです…」

その言葉の意味を感じて、セドリックは今の行為の実の結ばなさを理解する。

それでも確かに幸せだった。


「…アメリー嬢…お願いです。俺と…恋人に、なってください。…今は、それ以上望みませんから…」
「…ッ」

アメリーの可哀想なほど戸惑った顔に、セドリックは自分勝手だと分かっていながら言葉を続けた。

「どうか、今は俺のものだと思わせてほしい…。他の男に牽制する権利をください…」

アメリーだってそうだ。
これほど彼に愛された後で、すぐに彼の結婚の話や恋人の話を聞くのは辛いだろう。

セドリックから出たのは自分の願いでもある。

「ですが…」

「どうか、アメ…」

手に口づけ、額へと導かれたその懇願にアメリーは胸がいっぱいになってしまう。

愛しいと感じる、本能で惹かれている相手に求められて心が動かない筈がない。

それとともに、自分のささやかな希望すら我慢に我慢を重ねた今までの人生に疲れ始めていたアメリーに、この感情を押しのける力はもう残っていなかった。


「…貴方に婚約の打診が来たら、隠さず教えてくださいね…。きちんと仕舞いましょう。それまでは、私も、一緒にいたい…です。」


アメリーの返答にセドリックは切なそうに、でも幸せそうに笑った。


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