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しおりを挟む小高い丘に並んで座って、商店街を見下ろす。
(まさかいつ声をかけようか、迷ってらしたなんて…)
隣に座って嬉しそうな顔を隠さないセドリックを盗み見て、アメリーは笑いをこらえる。
空は高くて、流れる雲が穏やかで、隣に可愛い人。
アメリーは先ほどまでの憂鬱を吹き飛ばした人物に話しかける。
「セドリック様、偶然ですね?」
笑いながら言われて、セドリックはばつの悪そうな顔をして、アメリーを見やる。
「アメリー嬢は、分かってて仰ってるでしょう…」
「無理やり休日を取ったのですか?代わってもらえたんですね」
「今まで散々代わりに出勤してきたので、とくに文句も言われなかったですよ…」
想像通りのお人好しな一面を垣間見て、アメリーは目を伏せながらも顔が笑んでしまう。
(あぁ、いやだ。こんなに真っ当に恋愛をして、結婚して、幸せになるであろう人に惹かれる自分が。…あまりにも相応しくないと分かり切っているのに、止められない…私のものになど、ならないのよ)
「こうして私の休日を探れる、ということは私の過去についてもご存じなのではないですか?どうして私にお時間を割かれるのですか?」
何度もいうがアメリーは初心なわけではない。それなりに男性との付き合いの経験がある。こんな可愛げのない言い方をしては、好いた相手の機嫌を損ねるだろうということを分かっているのに、制御できないほどに不安や焦燥、恋慕が大きくなっていた。
「…噂を鵜呑みにするようなことは致しません…、が。どうしようもなく貴方を目で、耳で追ってしまう。会えたら近づかずにいられない。会えなければ会える様に追いかけたい。…諦めきれないから、です。」
…ここに座るふたりが、同じ気持ちであるということを互いが自覚する。
セドリックはアメリーの結婚できない事情を知り、諦めようとした。王宮に勤める騎士にとって婚姻は当然のことという風潮もある。既婚者にのみ許される仕事などもあるからだ。
アメリーもその事情を当然知っているので、この感情のままに進む事は失策であることを理解している。
それでも。
自然とふたりの手が重なり合った。
「今日の装い、本当に愛らしいですね。似合ってます…。」
「ふふ、そういえばよく分かりましたね、私だと」
「分かります。貴方なら、どこにいても。」
重なった手をゆるくほどいて、掌を合わせて繋ぎなおす。
だめだ、自分を律せねば。
――それは、どうして?
理性の届かぬところで、完全に惹かれあっている。
そうっと顔を寄せて、唇を優しく重ねた。
道理に反することを望んでいる訳ではない。
誰かを裏切っている訳でもない。
「…でも、セドリック様は触れてくれないんですよね?」
アメリーの、棘のあるような言葉の羅列はしかし、あまりにも切なく響く。
は、と息を吐いたセドリックは、感情を押し殺すことを諦めた。
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